コットンボーイ
コットンボーイ

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1 プロローグ 2 初舞台だぜ! 3 涙と笑顔 4 速攻ゲット 5 ルームメイト 6 告白
7 訪問者 8 再会 9 2番目同士 10 涙のわけはいつも 11ホスト 12 復活 1エピローグ

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12 復活

 結局、佳織の言っていたように、チェンジはホントにギャラをクラブ側
からもらっていた。
リーダーがおれらのギャラと、オレらから巻き上げていた場所代を全部自
分のモノにしていただけだと発覚してしまい、チェンジはすぐに解散して
しまった。
 他のチームからの誘いがあったけれど、練習をまじめに出席できそうも
ないので断ってしまった。
最初はダンスで有名になりたくて、上京してきたのに、こんな事で挫折し
たくはなかったけれど、正直もうダンスなんてどうでもいいくらいに、日
々の生活に追われているって感じだ。
 結婚した頃も、もしかしたらただそれだけだったのかもしれない。
結婚してしまったからダンスが出来なかったんじゃなく、仕事や日々生活
するのがいっぱいいっぱいだったから結局出来なかったと、今なら思う。
 そんなオレを優子は知っていたのかな?
だから、ケンカばかりしてしまったんだろう。
どちらもまだ幼すぎたんだ。
優子だって自由な時間なんてなくて、家事と育児でイライラしていただろ
うし、オレだってそうだった。
 二人とも、親の庇護の元で気ままに暮らしていた他人同士が一緒に生活
するって意味を理解していなかったのかもしれない。


「本気でやめちゃうの?」
月末になって、そろそろルージュを辞めると言い出さなきゃならいと思い、
佳織に言うと、彼女は少し驚いて、そして、
なぜだか少し淋しそうな顔をしている。
「ああ、決めたんだ。今就職活動してる所」
「………そう。で、いいところ見つかった?」
「コレが全然ダメ!
なんか片っ端から落ちてるんだよ、オレってそんな仕事できなさそうなの
かな?」
あれから何度もハローワークに通ってるのに、一度も採用通知が届いたこ
とがない。
 このままじゃ、フリーターになってしまう。
ちゃんと就職して、保険もかけて、財形もって色々考えていたのに、まだ
仕事が見つからないんじゃ話にならない。
「直樹、いい所狙いすぎなんじゃないの?
中小企業とかって、お金が欲しくて、募集してますってアピルために公募
してる会社も多いんだよね。だからよっぽどの人材じゃない限り採用しな
いくせに、載せてあるから………」
「????」
「いや、だからさ、本気で採用する気ないくせに、募集かけてる会社もた
くさんあるって事。その方が援助か節税かなるらしくて、中小企業はわざ
とハローワークとか求人誌に名前を載せてるわけよ」
なっっにぃぃぃぃ?
こんな所でも、裏があるのかよ?
「最っ低だな。信じたオレがバカだった。
なんか違う方法で職探しした方がよさそうだな」
「違うって!ハローワークにしても求人誌にしても、ほとんどはちゃんと
募集してるよ。ただ、直樹が狙った就職先ってそういう所が多そうだなぁ
って思ったの。
なんとなく、そういうの見抜けなさそうって感じだし、現に知らなかった
わけでしょ?」
………どうやって見分けるんだ?
「どこの会社だって求人内容は同じだし、わかんねぇ」
佳織は首をかしげながら、少し考えて「例えば面接の時の対応とか、かな。
テキトーにあしらってるっぽい会社は多分無理だね」
わ、からなねぇ。
「きっと、わかんないよっっ」
どこに面接に行っても同じようにしか感じないし………。
「ま、数打ってればそのうち当たるって!
頑張って気長に探した方がいいよ。
やりたい仕事とかあるなら、そこが募集するまで待つのもいいし」
  そ、そんなぁ。
今までの努力って一体何?
「そんな落ち込まないの!
直樹ならすぐに見つかるよ、真面目に働く気があるんだから、あせらずゆ
っくり、ね」
佳織はガックリとうなだれてしまったオレを励ますように肩をポンポンと
叩いた。
  あぁあ、田舎に帰ろうかな?
こんなにゴチャゴチャしてるなんて、マジへこみそう………。
「オレ、なんか人間不信になりそう」
何を信じていればいいのか、さっぱりわかんねぇや。
「ダメじゃん、素直に人を信じられる所が直樹のいい所なんだから、そん
な悲しいこと言わないでよ」
「オレの、いい所?」
佳織は大きくうなずいた
「うん!直樹のそういうまっすぐに人を見つめる所に私は救われたんだも
ん」





 結局、仕事も見つからないまま月末を過ぎて、とりあえず居酒屋でバイ
トを始めた。
佳織も引越してしまったので、家賃も苦しくなるだろうと思い、オレも
すぐ後に引越をした。
 それでも、オレと佳織の仲は順調だった。
仕事がオフの日は佳織の部屋で待っていたり、佳織の仕事が終わってから
オレの部屋に泊まりに来たり、俺達はまるで普通のカップルのように楽し
い時間を過ごしていた。

  ホントに何もなく、ただ楽しいだけの日々。
だけど、そこには矛盾があった。
ケンカにならないつき合い。
ただ、笑い合うだけで、他人行儀な佳織。
2番目という微妙な立場同士、どうしても最後の一歩を踏み込めない関
係だからだろうか?
ほとんど、感情的になることはなかった。

  そんなある日、おれは偶然町中で美希ちゃんと再会した。
「………っっ」
驚いた表情の美希ちゃん。
アレ依頼、店に来ることもないいまま、オレはルージュを辞めた。
「久しぶり」
「………その格好は?」
オレは居酒屋のエプロン姿でタバコの買い出しに出てきた所、美希ちゃん
は今から仕事なんだろうか?
バッチリと化粧をしていてる。
「ああ、オレホスト辞めたんだ」
「………直樹も落ちたもんだね。いい男と思ってたのに、なぁんだ」
……………?
落ちたって、落ちたって、どういう意味ですか?
明らかに落胆して、落ち込んでいる美希ちゃん。
落ちたのはオレの方じゃないのか?
「なんで美希ちゃんがガックリするの?」
「だって、仮にも一時期はまってたホストが居酒屋でバイトなんて、すっ
げぇダサイじゃん。あぁあ、マジ私って男見る目ナッシング」
…………………。
あの、今、何気に酷いこと言われてない、オレ?
「ホッント最低、私の過去から直樹に惚れてた事実を抹消したい………」
そう言いながら、彼女は喧騒の中へと戻っていった。
 きっと、そのまま出勤したんだろう。
で、でも、そこまで言われたオレって、そんなにやばいのか?
元ホストが居酒屋でバイトしちゃ悪いのかよっ?!
  う〜〜ん、理解に苦しむぞ。
なんでホストを上がったら、滅茶苦茶言われなきゃならねぇんだよっっ!
普通、いい事なんじゃねぇの?
水商売上がったって事は??

 しかもオチタとか言われてるし!!!

な、なんだかすっごい理不尽なことを言われてる気がしてならないのは気
のせいか?
  落ち込んだまま、部屋に戻って、メールを打った。
どうせ佳織がこのメールを見るのは仕事が終わってからだろうけど、それ
でも何だか淋しくて打たずにはいられなかった。

 自分でも理由がわからないくらいに、美希ちゃんの言葉に傷ついていた。
ホストって職業に未練があるわけじゃないのに、そんなにも女の子からす
ればかっこいい職業だったのだろうか?
佳織も、そうなんだろうか?
 ふと頭に嫌な言葉が浮かんだ。

『お前がモテるんじゃなくて、ホストって仕事をしてると女が群がってく
るんだ』

 まだホストを始めたばかりの頃、京介に言われた言葉が今、リアルにな
ってしまった。
 ホストに通ってるような、着飾った女の子からしてみれば、男もまたア
クセサリーの一つみたいなものなのだろうか?
 オレが辞めた所できっと、オレの客だった人たちはすぐに違うホ
ストを指名して楽しんでいるのだろう。
 彼女たちにとって、ホストなんていくらでも代わりのいるレンタルボー
イみたいなモノなのか?
 お金で買われていたんだなぁって、実感してしまう。
 一時的な疑似恋愛をまるでゲームのように楽しんでいる。
マジ、恐いよ。
オレが住んでいた町にだってホストクラブみたいな店が何軒かあったけど、
みんなそこまでクールな対応じゃなかった。
客と店員だけど、こんなに心の距離が離れてるようには見えなかった……
…。
 なんか、淋しいな。
人混みの中にいるのに、まるで一人になった気分だ。
 佳織、早くメールの返事くれないかな?
仕事用の携帯とオフの携帯2つ持ってるから、仕事終わるまで見ないか…
……。
 ドンドンと孤独感が増してくる。
あふれかえる程たくさん人がいるのに、窓から下をのぞけばネオンライト
がキラキラしていて明るいのに、なんだか一人取り残されたようで、すご
く淋しい。
 結局、みんな上辺だけのつき合いをしているのは、こんな寂しい思いを
しないためなのか?
どこにもホントの信頼関係なんかないのか?
考えれば考える程、淋しくて虚しくて、チェンジのメンバーに電話をしよ
うかと思っても、ソレすらもなんだか虚しい気がしてできない。
拓人や、健児も、同じ思いをしたのだろうか?
 ホームシックみたいな感情なのか?
わからないけれど、すごく人恋しい。

 やけ酒を飲みながら、佳織の仕事が終わるのを待ってると、かなり酔っ
てしまった。
佳織からの仕事終わったメールが届いた頃には、かなり錯乱状態。


「直樹、どうしたの?」
部屋に入るなり、驚く佳織をおれは抱きしめた。
「佳織、結婚しよう」
ずっと一緒にいたい。
家族という、確かなつながりが欲しい。
「は?酔ってプロポーズって………、何かあった?」
心配そうに見つめる佳織にキスをしながら、オレは、そのまま眠ってしま
った。




 チュンチュンとかわいらしい声で鳥が鳴いている中、目が覚めた。
 
 つっっ。
頭痛い。
二日酔いだな………。

 隣を見ると、佳織が気持ちよさそうに眠っている。
そんな寝息を聞いていると、夜のことを思い出してしまった………。
酔った勢いといえど、オレ、佳織にめちゃくちゃ言ったよな?
 はぁ、なんだかドンドンと自己嫌悪の闇に飲み込まれていく自分をはっ
きりとわかる。
酔った時の行動って、マジ意味不明。
いや、そりゃ佳織を好きだけど、結婚って飛躍しすぎだって!
冷静になれば、自分でも戸惑ってしまうようなことをよく平気で言えたよ
な。
酒の力ってマジすげぇよ。

 昼過ぎ頃に、やっと佳織は目を覚まして、昼飯を作ってくれたので、二
人で食べながら、オレは昨夜のことをひたすら謝った。
「そんなにショックだったんだ?
落ちたって言われたことが」
クスクスと楽しそうに笑いながら、大きくパクリと卵焼きを頬張る佳織。
「いや、そりゃそうだろ?
オレを好きだった過去を抹消したいって言われたんだよ?」
「あはは!
ま、言いたいやつには言わせておけばいいじゃん。
私はまっとうになったと思うよ。
水の世界なんて、入らない方がいんだからさ」
たいしたことなさそうに、豪快に笑い飛ばしてくれる佳織を見て、オレは
少し癒された気分になった。
「そうだよな!」
「いや、そんなに喜ばれてもちょっと複雑。
現役ホステスだし………」
「どっちなんだよ?」
「………」
な、なぜそこで沈黙?
もしかして、考えたくないけどもしかして、佳織もやっぱりホストのオレ
の方がよかったとか思ってるのか?
 そういえば、ルージュだけじゃなく、EDENにも行ってるし、他の店
にも顔出してるみたいだったから、ホストが嫌いってわけじゃないんだよ
な………。
「ま、落ち込むな!ってことだよん」
にっこりと笑顔で、これ以上この会話をしたくないかのように、強制終了
をされてしまった。
やっぱり、ホストしてた方がよかったのか?
 佳織があんなに激しく隆史を思っているのはホストだから、なのか?
もし、隆史がホストじゃなくなっても、佳織は隆史を好きなんだよな?
それくらいの思いなんだよな?

問いかけたいことはたくさんあるのに、オレは返事を聞くのが怖くて、全
部の言葉を飲み込んだ。 
「今日、同伴入ってるからもう出かけるね」
露出度の少し高いチラリズムをあおるようなスーツをきて、佳織は出かけ
た。
 その後ろ姿を見送りながら、オレはやっぱり不安になってしまった。

 佳織もやっぱり、他の女と一緒でホストってだけで、男を判断するんだ
ろうか?
そりゃ、稼ぎだって単発的に考えればいいし、ルックスだって悪くは思わ
ない。

 アクセサリー感覚で男を選ばれたんじゃ、たまらないよっっ。

 だけど、隆史を好きって時点で少なくてもメンクイってのは確かだよな
………。
やっぱり、そうなんだろうか?
クッソ!
ホスト復活するべき?
 そうだよなぁ。
今思えば、居酒屋の給料よりも働いた分だけもらえるホストの方がいい気
がするし、時間だって、佳織に合ってるし………。

 あぁあ、何を考えているんだオレは!!
お天道様の下を汗を流して働こうと思ってやめたのに、逆戻りしたら何の
意味もねぇじゃんかっっっ。

 で、で、で、でも、ちょっと未練あるよなぁ………。
何気に楽しかったんだよな、ルージュで働くのって………。



 結局、意志の弱いオレはルージュに復活してしまった。
 佳織は、笑いながらも復活祝いにボトルをおろしてくれたし、やっぱり
ホストが好きなんだろうと思ってしまう。
京介も、あきれつつも受け入れてくれた。

 そして、離れていた客もオレを指名してくれるけれど、オレはもう、客
に対して心から優しくできるような気分じゃなかった。
どうせ、こいつらみんなホストのオレが好きなだけであって、オレ自身を
好きなわけじゃないんだと思うと、むなしいけれど、それでもいい。
 女なんてそんなモノかもしれない。
男だってそんなモノだから………。

 別に深い意味なんてないんだ。
ただ、その日、そのときが楽しければいいから飲みに来る客を接客するだ
け。
そう、それだけでいいんだから………。





2004-2005©白雪姫-hime-