コットンボーイ
コットンボーイ

:: MENU ::  
1 プロローグ 2 初舞台だぜ! 3 涙と笑顔 4 速攻ゲット 5 ルームメイト 6 告白
7 訪問者 8 再会 9 2番目同士 10 涙のわけはいつも 11ホスト 12 復活 1エピローグ

●●●
2 初舞台だぜ!

「よう!久しぶり」
「おう、元気にしてた?」

オレは半ば逃げるように無一文で上京して来た。
地元のツレだった健児を頼りに。
「で、チームの方には説明してるけど、とりあえず住む所見つかるまでは
オレんトコでもいればいいじゃん」
「サンキュウ!助かる」
ダンスで食っていくのが、オレの夢だった。
途中で挫折してしまったけど、再びこの夢を追いかける事ができるなんて、
少しは神様にも感謝しなきゃだよな。
「で、どうする?
今日の練習から参加するか?」
健児はずっと夢を実現させるために、がんばっていた。
オレよりも2年も前から上京していて、ダンスチーム「チェンジ」に所属
している。
そこに、オレも紹介してもらう事になっていた。
「ああ、できれば早くなじみたい」
「大丈夫だよ、お前ほどの実力があれば、メンバーも喜ぶって!」
 健児の言う通り、チェンジはまだ未開発なチームで、オレよりダンスが
上手いヤツは数える程しかいないようだった。
「直樹すげぇな。2年のブランクがあると思えない」
一応、面接の意味も込めて、オレはみんなの前で踊って見せた。
音楽に合わせて身体が動く。
もう、自然にリズムが頭にまで響く、そして直に脳みそから神経へと伝達
される。
「新メンバー直樹の歓迎会しようぜ!!」
リーダーだろうか?
少し太り気味なめがねをかけた男が、みんなに集合をかける。
「直樹のお披露目も兼ねて、クラブで踊らせてもらえるように、掛け合っ
てみるから、今日はとりあえず歓迎会でもしよう」

みんなで居酒屋に到着して乾杯を終えると、それぞれに飲み始めた。
チェンジのメンバーは全員で18人。
そのほとんどが、オレや健児みたいに田舎から出てきたヤツばかりだった。
リーダーは、踊りはできないけれど、唯一の地元民でそのコネを使ってマ
ネージャー業をしてくれてるらしかった。
「手っ取り早く稼げる仕事ってないかな?
しかも寮とかあれば、最高なんだけど」
リーダーは、オレの顔をジッと見てから、大きくうなずいた。
「直樹の顔なら、ホストとかどう?」
「ホストっすか?
別に金になるなら、なんでもいいし。
どこか店あったら紹介して下さいね」
「ああ、わかった」
リーダーは快くうなずいた。



 それから一週間後くらいに、リーダーはクラブで踊れるように取りはか
らってくれた。
ただし、場所代として、一人千円づつの合計1万8千円の支払いが必要だ
ったけど、それでも、俺たちはみんなよろこんだ。
上京してから毎日練習をした。
その成果をちゃんとした所で発表できるのが、嬉しかった。

薄暗い照明の中、色とりどりのライトがクルクルと動く。
派手なリズムの音楽が、身体と共鳴している。
気持ちがいい!
音楽との一体感。
手足がしなやかに動く。
ジャンプのリズムも悪くない。
かなり、気分も乗っている!
超、最高!!

踊り終わった後、オレは拍手を待っていた。
なのに、返って来たのはなぜか笑いだった。
なんでだ?
それでも、チームのみんなは嬉しそうにニコニコしている。
なぜ、笑われているんだ?
「楽しかったよな!」
口々に、メンバーは感想を言っている。
「……なんで、笑われてるんだ?」
オレの素朴な疑問に、健児は口に人差し指をあてた。
「シッ!オレらのダンスって、あまりにも下手すぎて、コミックダンスにな
ってしまうんだ。
より転んだり、しくじった方が客はよろこんでくれるんだ。情けないけど、
コレが真実」
「そんな!!」
「みんなわかってるんだよ。でも、悲しいから言わないだけなんだ。だか
らお前もこの事は口にするな」
……そんな。
人の失敗を笑いモノにするなんて、どんな性格をしているんだ?
このクラブに通ってる客は?
オレは、もう何もなかったかのように、それぞれが音に合わせて踊ったり、
飲んだりしているフロアを見渡した。
 その時、一人の女と目が合った。
セミロングの髪を綺麗に巻いて、片手にビールを持っている。
なんだか、とても印象的な目だった。
彼女もオレに気がついたのか、ニコリと微笑んだ。
「あ!!今日も来てる」
オレの隣で健児がフロアを指しながら、叫ぶように言った。
「誰?」
「ほら、あそこの二人組。
右の方がめっちゃオレの好みなんだ。」
健児が指したのは、さっき目があった女のツレだった。
右の方?
ショートカットの茶髪に、目つきの鋭い女だった。
「お前昔からヤンキー好きだったもんな。」
「ええ、そうか?
どっちかって言うと左の方が元ヤンっぽくない?」
「…右だろ」
「いや、左だろ?」
右や左って、ちゃんと名前があるだろうに、俺たちはそんな会話で盛り上
がってしまった。
十分に、オレも失礼な人間だ。




帰り際リーダに呼び出しされて、おれは「ルージュ」と言う、ホストクラ
ブを紹介してもらった。
面接は簡単なモノで、明日からソコで働けるようになった。
これで、田舎に金を送る事ができる。
ホッとしながら、健児の部屋に帰ろうとした時、道路を挟んで向かい側で、
泣いてる女を発見した。
さすが都会。
街中で、号泣している。
チラリと視線をやると、それはさっきの二人組だった。
「………」
左にいた方が泣いている。
そんな彼女の肩を優しく抱き寄せながら、なだめてるだろう女は右にいた女。
大きな目から、おしげもなくこぼれていく涙の粒。
肩を揺らしながら、泣いている。
信号を渡り、オレは彼女たちの横をすれ違った。
「…会いたい…」
泣きながら、そう繰り返す彼女。
まるで、ドラマでも見ているような感覚で、オレは彼女達を見送った。




「健児、明日からオレ寮に入る事になった。
今まで悪かったな、居候させてもらって」
健児はテレビを見ながらビール片手に、飲んでいた。
「あ、そうなんだ?
それよりさぁ………」
テレビのスイッチを切って、健児は横になっていた身体を起こした。
真面目なトーク?
少し言いにくそうに、ビールを一気に煽る健児。
 コイツの言いたい事はわかっている。
なぜ、オレが一人で東京にいるのかって聞きたいのだろう…。
「千尋ちゃん、元気にしてるのか?」
千尋はまだ2歳の女の子の名前。
オレの子供。
「…元気にしてたよ」
「そっか」
「うん」
オレは18の時、出来ちゃった婚をした。
ホントは健児みたいに早く上京して、本格的にダンスがしたかったけれど、
妻と子供を養うのに精一杯で、毎日クタクタになるまで働いた。でも、
生活するにはギリギリしか稼げなくて、そのうち夫婦間でケンカが絶えな
くなってしまった。
それでも、我慢していたんだあの時までは…。
「あいつ、千尋の為にって預けてた学資保険に手を出したんだ。しかも、
自分のバッグを買う為にだぜ?信じられないだろ?」
「だから、離婚したのか?」
「…ああ」
親権も監護権もアイツが持っている。
でもそれでいいと思う。
千尋のためには、父親がいるより母親がいた方がいいだろうし、淋しい思
いもあんまりさせたくない。
 アイツは最後に約束をしてくれた。
千尋に淋しい思いをさせない事を。
千尋に惨めな思いをさせない事を。
その条件で、オレは月に5万円の養育費を払う約束をした。
とりあえず、5万は何があっても稼ぎ出さないといけない。千尋のために。




「おはようございます」
昨日言われた通りに開店の2時間前にオレは入店した。
「おはよう。昨日も言ったけど、寮は3人の相部屋だよ?克(すぐる)に
案内してもらってくれる?
それと、スーツもレンタルできるように寮の隣が衣装部屋になってるから、
適当に着替えて。
レンタル料は一日1000円だ」
マスターは伝票整理だろうか?電卓をたたきながら、オレを見もせずに説
明した。
……喋る時は人の目を見てって、習わなかったのだろうか?
「えっと、名前は?本名でいい?」
多分、オレより年下だろう、克(すぐる)と呼ばれるホストが、遠慮がち
にオレに聞いてきた。
芸名でも作れってのかよ?
「直樹でいいです」
20歳で、ホストデビューってのは、遅いのか?それとも平均なのか?
「じゃあ、一応オレが先輩になるから、直樹って呼ばせてもらうけど、平
気?」
「ああ」
一日でも、一時間でも先に働いてる人間の方が先輩になる。
それはどうしようもない事だと思う。
別に克が悪いとか、そんなんじゃなくて。
克に案内されて寮に入った。
かなり男臭い部屋を想像していたのに、結構さっぱり掃除をされた部屋だ
った。
「部屋が汚いと身だしなみも乱れるってマスターがうるさいんだ」
克は店から外に出ると本来の表情になったのか、緊張が解けたのか、少年
らしい笑顔で話しかけてくる。
「そうなんだ。もしかして、克も新人だったりする?」
「ああ、1週間前から。
スーツだけど、自分で選ぶ?
なんだったらオレが選ぶよ、これでも一応スタイリスト志望なんだ」
克の人なつっこいしゃべり方と態度に、オレは地元の後輩たちといる時の
ような懐かしい錯覚を覚えた。
「じゃあ、お願いしよう。
オレがかっこよく見える服をお願いします」
克は嬉しそうに隣の部屋に行くと、数分で、ダークブルーのスーツを持っ
てきた。
淡い黄色のシャツに派手なガラの青いネクタイ。
うーん、こんなスーツ成人式の時でも着ないよな。
地元のヤンキーはもっと派手な、ど・紫のスーツとかを着ていたけど、ホ
ストともなると、さすがにセンスもいい。
「完璧」
コーディネイトされた一式に着替えて、克に聞いてみた。
克はうれしそうに何度もうなずく
「うん!超かっけぇ」
かっけぇって、そんな言葉を使われても、意味わかんないんすけど??
更衣を終えて、二人で再び店に戻ると数人のホストも出勤していた。
「おはようございます!」
店に入ると克は再び新人ホストの顔に戻って、緊張しまくっている。
なんか、かわいいぞ、コイツ。
「おはよう、克。で、隣にいるのは新入り?」
挨拶したのは、少しキツい目をした男前だった。
イケメンって言うのか?
よくわかんねぇけど、今時の男前って感じだ。
「初めまして、直樹です。
今日からなので、よろしくお願いします」
「プッ…」
人が真面目に挨拶をしているのに、コイツは小さく鼻で笑い飛ばした。
「何が面白いんですか?」
早速新人いびりかよ?
臨戦態勢で、望むぞ!!
「いや、悪かったな。
面白かったっていうか、新鮮だったんだよ。
そんなまともに挨拶できる人間に会うのって。
直樹って、地方出身だろ?」
………訛りが出たのだろうか?
なぜ、バレてる。
「あはは、なんでって顔してるよ。
そんなに考えてる事を露骨に表してたらホストなんて勤まらないぜ」
「京介!新人相手にしてないで、サッサと同伴に行け!待たせてるんだろ?」
マスターに怒鳴られて、肩を軽くあげながら、ヤレヤレと彼は店を出た。
京介って言うんだ。
覚えておかなきゃな、これから一緒に働くメンバーの名前くらい。
「直樹、水割りは作れるのか?」
「あ、はい」
「じゃあ、克と一緒にキャッチに行って来い!
後で、オレも行くからな!」
「はい」
で、キャッチってどうやってするんだろう?克はかなり不機嫌なのか、外
に出るエレベーターの中でぼやいた。
「オレ、キャッチって苦手。
ナンパの方がかなり楽だよな…」
ナンパより難しいのかよ?
かなり、過酷だぞ、ソレ。
はぁぁぁぁぁぁぁぁ。
どんな仕事にしても、楽して稼げるとは思っちゃいないけど、想像していた
よりも大変そうだ。
「あの二人組に行こう!」
ため息をつくオレの隣で、獲物を見つけた克はドンドンと歩いている女に近
づいた。
オレも遅れながら、克の後に続く。
「彼女たち、これからの予定とかあるの?」
「………」
女の子達は、克の呼びかけにまったくの無反応。
「数打ちゃ、当たるよな?」
そうつぶやくように言い捨てると、また獲物を探し出した。
今度は、ギャルチックな二人組。
でも、さっきと同じように完全シカト。
「ノリが良さそうな、女を狙った方がよくない?」
「ノリが良さそう?」
やみくもに声をかけるより、ハシが転んだだけでも笑い出しそうなノリで喋
りながら歩いてるバカっぽい女を発見!
「ほら、アレ行ってみようぜ!!」
オレは克の腕を掴みながら、ターゲットの前まで行った。
「これから一緒に遊ばない?」
「………ホスト?」
とりあえずは、歩くのを止めてくれた。
よし!
胸の中で思わずガッツポーズをしてしまった。
「え、ホストじゃだめ?」
克の一言に、ギャル達は大きくうなずいた。
「だって、私らお金もってないもん」
………ノリがいいだけじゃ、無理か。
確かに、飲み代くらいは持っていなきゃ困るよな。
マジ、難しい!
「今度はノリが良くて、金持ってそうな女探す?」
克も、同じ事を考えていたのか、再びターゲットを物色し始めている。
何組かに声をかけた。
やっと、話くらいは聞いてもらえるようになったけど、店には来てくれない。
「よう、頑張ってるか?」
どれだけの時間が過ぎたのか、マスターがオレらの側に来た。
キャッチしていい場所といけない場所があって、たくさんあるホストの店
同士の暗黙の不可侵境界線がある。
オレは克から道々、そんな事を聞きながらキャッチしていた。
「全然ダメっす」
克が拗ねたように言うと、マスターはため息混じりに一言。
「克はキャッチ成功した事ないんじゃないか?
今日はもういいから、店戻っていいよ、お前の営業を待ってる客がいるから」
注意を促してから、優しく微笑むマスター。
完璧なアメとムチ攻撃。
素直に喜ぶ克を見ながら、オレはやっぱりなつかしい気持ちになった。
上京してから1週間くらい過ぎただろうか?
健児以外の人間にたくさん出会ったけれど、どいつもこいつも、適当に人
の話を聞いたり、サラリとかわしたり、人間としての温かさってのを感じ
る事が少なかった。
けれど克の素直さは、とても人間味があってうれしい。
「直樹も店に戻っていいよ。やっと客も入り出したし」






2004-2005©白雪姫-hime-