コットンボーイ
コットンボーイ

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1 プロローグ 2 初舞台だぜ! 3 涙と笑顔 4 速攻ゲット 5 ルームメイト 6 告白
7 訪問者 8 再会 9 2番目同士 10 涙のわけはいつも 11ホスト 12 復活 1エピローグ

●●●
8 再会

 「どういう意味よ?!」
大きなヒステリックな声で優子はわめいた。
 いや、きっと優子じゃなくても叫んでしまうとオレは思う。
佳織ちゃんは、離婚成立前から今度再婚する相手とつき合いがあったん
じゃないのかと尋ねたんだ。
 そりゃ、身持ちが堅い女だったわけじゃないけれど、一応母親になった
女がそんな不埒な事を言われれば、優子みたいな反応するだろう。
「どういう意味って聞かれても、言葉のままよ。あなたは結婚成立してい
る段階から浮気をしていたから、法律で決まってる半年過ぎるとすぐに再
婚へと踏み切った。
 状況から見れば、そう考える人間がいても不思議はないんじゃないの?」
「ちょっと、失礼ねっっっ
直樹と別れてからのつき合いに決まってるじゃない!!」
感情的になる優子と比べて、冷静なままの佳織ちゃんは鼻で笑い飛ばすよ
うに一言
「証拠は?」
と言った。
その言葉で、優子はドンドンと顔を赤くさせて、怒ってるのがわかる。
オレも、優子が浮気をしていたとは思わない。
確かに俺たち夫婦は不仲だったけれど、アイツは千尋のためにきちんと母
親になろうと努力していたんだ。
 そりゃ、学資保険に手をつけたのは許せなかったけれど、だけど優子だっ
て千尋を思う気持ちは本物だ。
なのに、浮気してたと言われれば、そりゃ怒るに決まっている。
「もし、親権を直樹に戻す裁判をしたとしたら、同じような質問されるで
しょうね。
耐えられる?
 直樹はもちろんそんな強行手段に出ないと思うよ。だって、すごく千尋
ちゃんを愛しているみたいだから。裁判なんて公になれば、すぐに子ども
の耳にも入ってしまう。自分の母親が、嘘かホントかわからなくても、浮
気していた疑惑があったなんて、子どもにとってはそれだけで、凄いショ
ックだからね」
脅しているのかと思ったけれど、どうも違う。
佳織ちゃんは強硬手段に出ないと言っている。
どんなつもりなんだろうか?
「何が言いたいの?」
「簡単じゃない、こちらの言い分は最初から変わらずに千尋ちゃんに直樹
を会わせるって事だけよ。
 こんなに子どもを思っているんだから、一度くらい会わせてあげてもい
いんじゃないの?元々二人の子どもなんだから」
 感情的になっている優子と、対照的にあくまで冷静な佳織ちゃん。
いつも感情を押し殺して、笑顔でいようとしている佳織ちゃんが、すごく
冷たくみえる。
コレが本来の彼女の姿なのかもしれない。
 人とのコミュニュケーションを仕事としている彼女だから、優子の些細
な反応ですぐに対応できるんだろう。
コレはどう転んでも、優子が丸め込まれてしまいそうだ。
 そなれば、オレは千尋に会える!
夢にまで見た、千尋。
世界中の誰よりも、愛している人間に会える!
 だけど……………。
「いいわ。一度だけなら、会わせても………」
ついに優子は根負けしたの
か、佳織ちゃんに言いくるめられて、納得した。
でも、ホントに会ってもいいのだろうか?
優子がココまで頑なに会わせたがらなかったのは、ホントに千尋がオレよ
りも新しいお父さんになついているからかもしれない。
「そう、じゃあ日時はまた後日連絡するって事でいいかしら?
飛行機の時間があるんでしょ?」
 くやしそうに、苦虫を潰したような顔つきで優子はうなずいて、部屋を
出た。
 そんな優子が出るのを見送りながら、オレは考えていた。
 ホントに千尋と会ってもいいのだろうか?
オレはすごく会いたいけれど、千尋にとって、オレと会うことは混乱する
だけかもしれない。
 どうすればいいのだろう?
「とにかく会わせてくれるってさ、どうするかは直樹次第だよ、ちゃんと
考えて結論出しなよね」
佳織ちゃんは後かたづけをして、手際よく出勤準備を始めた。

 どうすればいいんだろう?
すごく会いたい!
ホントに会いたい!!

でも………。


 千尋にとってはやっぱり会わない方がいいのだろうか?
オレの気持ちより、何より千尋を優先して考えなきゃならない!
千尋の将来を、千尋の気持ちを!!
「………佳織ちゃんはどう思う?」
オレの問いかけに、彼女は凄く呆れたように大きな溜息をついた。
「はぁ、あのね直樹、私に聞いても仕方ないんだよ、問題は子ども!
彼女がどう思っているか、そこが問題なの!
会ったこともないのに、千尋ちゃんの性格も何も知らない私に答えをもと
めるのは間違ってるよ」
…………。
ズバリと痛い所を突かれた。
ホントは、会ってもいいと誰かに言ってもらいたかったんだ。
だけど、佳織ちゃんはあさっりと拒否した。
確かに、自分で考えるべき問題。
 誰よりも千尋のことだけを、考えなくちゃならない。
オレの意志なんて、後回しにして………。
………………。
………………。
………………。
「遠くから、見るだけにしておくよ」
会わない方がいいだろう。
千尋だって、オレを見たら新しいお父さんにせっかく馴染んでいるのに、
戸惑ってしまう。
だから、遠目に姿を見るだけにしよう。
そして、いつか、千尋が成長して、自分の意志でオレに会いたいと言った
ら、その時は会わせてもらおう。

「そんな急いで答え出さなくてもいいと思うけど…、とりあえず仕事の時
間だから先に出るね!」
慌ただしく、彼女は部屋を出た。
オレもいい加減、時間だ。
シャワーを浴びて、スーツに着替えながら、やっぱり千尋のことを考えて
しまう。
 なんでこんなに感情の切り替えができないのだろうか?
 店に出勤しても、頭から千尋が消えない。
なんか、父親ってよりも、人間失格な気がしてきた。
仕事に私情を挟むなと、何度も京介さんに指摘されてきたのに、このざま
だ!
 開いたグラスに波波とブランデーを注いでしまい、客を怒らせてしまっ
た。
「ちょっと直樹、なんで私がこんなの飲まなくちゃならないのよ?」
「すみません」
うわぁ、最悪だ。
どうしようか?
怒ってる客は先輩ホストを指名している。
そのヘルプについて失敗だなんて、やばいよな………。
「うわっ、直樹すごいじゃん、今日はやる気なんだ?」
オレが作ったストレートグラスを手に取りながら、京介さんがテーブルに
ついた。
京介さんは凄く人気があるから、ヘルプ周りなんてしているわけがないの
に、なぜ?
「では、恒例の一気大会といきますか?」
わざとおどけてみせながら、京介さんはオレにフッた。
「いただきます」
ゴクゴクと喉を45度のアルコールが流れ落ちる。
一気をするだけで、客は怒りを笑いに変えてくれる。
 まるでお酒の味なんてわからない。
ただ、ただ流すだけの行為なのに、救われる。
「ごちそうさまでした!」
勢いよくグラスをコースターの上に置いて、新しいグラスで客のために、
きちんとした水割りを作った。
「じゃあ私もがんばっちゃおうかな」
乗り気になった客は、薄い水割りをがぶ飲み。
オレがさっき飲んだモノとは比べモノにならないような度数。
だけど、機嫌はよくなっている。
 ああ、そうか、京介さんが助けてくれたんだ。
客が苛立っているのを見て、自分の席があるにもかかわらず、オレを助け
てくれた。
 後でお礼言わなきゃな…。
ほっんと、自分で自分がイヤになるよ。
なんでこんなんなんだろうか、すべてが中途半端だ。


「マスター、オレ今日早上がりさせて下さい」
こんな気持ちのまま接客なんてできない。
「………」
マスターの川上はジッとオレの顔を見てしばらくしてから、小さくうなず
いた。
「明日は、全力で働けよ」
心ここにあらずなまま、働かれても、店にとっても迷惑なんだろうな。
 引越したおかげで、部屋が近くなったからゆっくりと歩いて帰りながら
頭を冷やした。
 千尋に会いたい気持ちは凄く大きいけれど、やっぱりこんな状態で会う
べきじゃないのかもしれない。
今のオレに、千尋に会う資格なんてないような気がする。
もっとちゃんと大人な人間になって、父親だと胸を張って言えるようにな
ってからでも遅くはないだろう。
アイツが成長していく中で、いつかオレに会いたいと思ってくれる時に、
会いたいと言ってもらえるように、今回は会うのはやめておこう。
 悪戯に千尋を戸惑わせてもいけない。
オレが我慢するのが一番いいんだろう。

 部屋に戻ると、もう灯りがついていた。
「ただいま」
「今日は早上がり?」
佳織ちゃんは帰宅してすぐにお風呂に入ったのか、ラフな格好でスッピ
ンだった。
「ああ、千尋のことばっかり考えて仕事にならないから帰ってきた」
「あはっ」
にっこりと微笑んで彼女はビールを取りながら、オレにも1本取っ
てくれた。
「何で笑顔なの?」
ゴクリとビールで喉を潤して、凄く機嫌よさそうなままの佳織ちゃん。
「だって、素直だなって思ったの。
で、悩みは解決したの?」
素直、って言われたのは、何年ぶりだろうか?
なんだかくすぐったいよな。
「ああ、今回は千尋に会わないよ」
「…………そう、よく決心ついたね」
子どもをあやすように、頭を撫でてくれる細く温かい手のひらは、やっぱ
りオレを安らぎへと誘ってくれる。
「ああ」
彼女はわかってくれる。
オレがどんな思いで千尋に会わないと決めたかを知っている。
だからこそ、こうやって優しく癒してくれるんだ。
人の気持ちに敏感になれるのは、自分の気持ちをよく知ってるからなのか?
オレは地方で生活していたからか、周りにいる人間はみんな表情や仕草で
感情を表現していた。
 悲しみや怒りを隠す必要なんてなかったから。
だけど、この街に来てホストとして働きだしてみんなが感情を殺して、表
に出さないようにしている。
出来る限り押し隠して、偽りの笑顔。
だけど、その笑顔の奥に隠された感情を読みとらないと、ちゃんと相手を
知ることなんてできない。
「直樹は会いたいって自分の気持ちよりも子どもの感情を優先させたんだ
よ、立派な父親だね」
どこか、淋しそうに少しだけ低いトーンの声に聞こえる。
「立派じゃないよ、ほんと情けない。
こんな状態になるまで煮え切らなかったんだし、そもそも最初から優子
は会うなと言っていたのに、会いたいと言い出してしまった時点で、かっ
こ悪いよ」
 仕事も手につかず、千尋のことばかり考えてしまうオレ。
だけど、どれだけ情けなくてもそれがオレなんだから仕方がない。
「かっこいいとか悪いなんて価値観の問題だって。私はちゃんと泣ける直
樹がかっこいいと思うよ」
 泣けるオレがかっこいい?
「男のくせに泣くのがかっこいいのか?」
「そう。人前で泣くのって凄く勇気がいると思うもん。私は泣きたくても
我慢しちゃうし、誰かに弱みを握られるみたいですっごいイヤなんだけど、
直樹はいつも真っ直ぐに人と向かい合っているよ。ホントすごいなぁって」
すごくなんかない。
佳織ちゃんはそう言ってくれるけれど、心を隠して生きる方が大人だとオ
レは思う。
もちろんこれから先、そうやって生きていこうとは思えないけれど……
…。
オレはこれからも隠すことなく正直で居続けたい。
「じゃあ、佳織ちゃんも正直になって、隆史と向かい合ってみれば?」
きっと、誰も心を開かなければ信頼関係なんて築けやしない。
何よりも誰よりも愛している相手と、きちんと寄り添うためにも、彼女
はもう少しだけ心をさらけ出すべきなんじゃ?
「………そういう問題じゃないんだ、私は隆史と信頼関係で結ばれたいわ
けじゃない。
もしね、隆史に今回の直樹みたいに子どもがいたとするでしょ?
私は迷わず会うなと思う。それは子どものためとかじゃなく、隆史の心に
例え我が子といえど、私以外の誰かが存在する事実が許せないの。
 毎日思う、私だけのものになればいい!
私だけを愛してくれればいい!って」
激しい程の独占欲。
 今のオレには刺激が強すぎるほどギラギラと獲物を狙う目つきで向こう
を見据えている佳織ちゃんに、やっぱりドキドキとトキメキを感じてしまう。
 やばいよな、オレ。
千尋がダメだからって、佳織ちゃんに再びよろめくなんて…………。
 しかも違う男を激しく思っている彼女に強くひかれてしまうなんて、ほ
んとマゾ体質かよ?!
 強い意志を感じるその瞳の先には、隆史を思い描いているんだろうな。
うらやましくもある。
そんなに誰かに恋愛できる彼女が。
そして、そんなに深く愛されている隆史が。


 あれ以来、オレは真面目に働くようになった。
千尋に会える日がいずれ来ることを願って、父親として恥ずかしくないよ
うに、少しでも千尋のために貯金できるように、本当に真面目に働いた。
 佳織ちゃんは、結局見つかったマンションに引越せずにオレと同居した
まま。
時折、無性に彼女にドキドキしてしまい、何度か体を重ねる関係になって
いた。
彼女に言わせればヤリ友関係らしい。
 おれは真面目につき合いたいと言っているのに、佳織ちゃんは頑なにイ
エスの返事をくれない。
やっぱり、隆史を好きなままオレとつき合えないって事だろうか?
それとも、千尋がいるから無理なんだろうか?
どうあがいても、オレの心から千尋を消すことなんかできない。
彼女が以前言っていたように、オレの心に佳織ちゃん以外の誰かがいるの
は、許せないのだろうか?
 オレは彼女の心に隆史がいてもいいとすら思っている。
いつも笑顔で隠している悲しみをオレが受け止めてあげたい。
2番目でもいい。
なんか、愛人思考の女みたいだけど、でもホントにそう思っている。
少しでも彼女の傷を癒せるなら、それでいいと。
 何度か肌を重ねていて、気が付いた事があった。
彼女はピアスもネックレスもリングですら外すのに、腕時計だけはいつも
肌から離れない。
一緒にシャワーを浴びた時ですら、付けたままだった。
もちろん、防水加工された時計だから、機能は大丈夫なんだろうけれど、
不思議に思っていた。
 その理由はわからないけれど、佳織ちゃんにとって、その時計がとても
大切なんだろう。
隆史とペアなのかもしれない。
 忘れたいといいつつ、大事にしているのは、やっぱり忘れたくないから
なのか?



 「佳織ちゃん、そろそろ起きないと遅刻しちゃうんじゃないのか?」
まだ3時過ぎだけど、女の子は美容院に行ってからの出勤だからかなり準
備に時間がかかる。
 彼女の部屋のドアをノックして、目覚まし変わりに声をかけてみた。
「………はぁい」
あどけない無防備な声で返事をしている。
今、佳織ちゃんはどんな表情で眠りと戦っているのだろう?
 幼さ残るその姿は、一緒に生活するまで知らなかった。
とてもかわいらしくて、抱きしめたくなってしまう仕草もある。
 目をこすりながら、部屋から出てきた彼女は、ゆっくりとイスに腰かけ
ながら、オレが淹れた紅茶を手にした。
「おはよう、直樹」
「おはよう。オレ、今日は2件同伴入ってるから、もう出るよ。戸締まり
よろしくな」
  もう少し、寝起きの彼女を見つめていたかったけれど、そんな時間もな
さそうなので、家を出た。

 同伴の約束をしているのはかなりの上客。
やっとつかんだところだから、初めての同伴くらいきちんとしなきゃなら
ない。
とりあえず、店近くのイタメシを予約した。
その後、店に来店して、すぐにもう一人約束した客と会う。
彼女とはダイニングバーに行くつもりだけど、2回もご飯を食べ
なきゃならない。
 太りそうだよなぁ。
ま、それが仕事だから仕方ないんだけど。
ダブル同伴のおかげで滑り出しは上場。
かなりの満腹にもかかわらず、笑顔でお酒を飲み続ける。
同伴したからなのか、客の機嫌もよくドンドンとお酒が進む。
 楽しい時の酒って、結構進むんだよなぁ。
オレまでペースアップしている。
「最近がんばってんじゃん」
トイレに行った時に、すれ違いぎわに京介さんに褒められてしまった。
 おお、なんか認められたって感じで気持ちがいいぞ。
なんだか有頂天だよな。
売り上げも右肩上がりだし、このまま順調に進むといいな。
 上機嫌のまま仕事を続けていくうちに、アルコールの摂取量が許容範囲
を超えてしまい、最後には何が何だか分からない状態で接客を続けていた。

「おい、大丈夫か?」
客もすべて帰り、ミーティングに出席すらせずに、スタッフルームで酔い
つぶれていたオレに、声をかけてきたのは京介さんだった。
「………大丈夫じゃない」
天井がグルグル回って、目を開けるだけで気分が悪い。
 一体どれだけ飲んだのだろうか?
「とりあえず、店閉まるから帰るぞ!
家は近くなんだろ?」
 京介さんの肩を借りながら、なんとかタクシーに乗って、マンションに
到着。
「結構いい所住んでるじゃん。
オレもココに引越しようかな?」
「………」
まだ足下がフラフラしていて一人で歩けない。
こんな状態で帰ったら、佳織ちゃんに呆れられてしまわないだろうか?
でも、とにかく早く帰ってベッドで眠りたい。
 オレのカバンからカギを取り出して、ドアを開ける京介さんよりも、佳
織ちゃんが中から出迎えてくれる方が一瞬早く、ドアが開いた。
「京介??」
「何、直樹と同棲してたんだ?
今日、コイツちょっと頑張りすぎたから介抱してやってな」
オレが部屋の中に入るのを確認してから、京介さんはそのまま帰った。

「ああ、ホント凄い泥酔だね、とにかく寝た方がいいよ」
佳織ちゃんに導かれるままベッドへ寝転がると、そのまますぐに意識を失
った。



 すごい気持ちが悪いまま、目覚めるともう優しい赤い光が窓辺から差し
込んでいて夕暮れを教えてくれた。
頭はガンガンするし、胃はムカムカと痛みを訴えている。
  テーブルの上には佳織ちゃんからの手紙が一枚。
『仕事に行くけど、ふつかよいが酷いようなら、直樹は休んだ方がいいよ』
 本音を言うと、かなり休みたい。
このままもう一度眠りに戻りたいけれど、せっかく順調に伸びている成績。
今月の売り上げで順位が上がるなら、一日でも休まれない。
手紙の上に置かれてあった胃薬と肝臓栄養ドリンクをゴクゴクと飲み干し
て、とりあえずシャワーを浴びた。

 沈みかけの太陽でさえ、なんだか煩わしいほどのふつかよいのまま、出
勤すると、京介さんが笑顔で近づいてきた。
「根性あるじゃん、てっきり今日は休みだと思った」
………この人って、言葉使いは悪いけど、ホントはいい人なのかもしれな
い。
昨日だって、放っておけばいいのに家まで送り届けてくれた。
「昨日はすみませんでした」
「………別にんなのいいけど、いつから付き合ってるんだよ?」
えっと、やっぱり佳織ちゃんとオレのことだよな?
「付き合ってないですよ」
つき合いたいけれど、彼女はイエスの返事をくれない。
「付き合ってないのに、同棲してるのか?」
「えっと、彼女に言わせると同棲じゃなく同居らしいから」
京介さんは眉間にシワを寄せて、目つきも鋭く険しい顔になった。
「………お前はどうなんだよ?
好きなんだろ?だったら付き合うべきだ。
半端な関係なんてお互いに良くないって」
なぜだか、このセリフで最初京介さんに抱いていた感情を思い出した。
 やっぱり、京介さんは佳織ちゃんを意識している。
以前に好きなのかと聞いた時は凄くイヤな顔をして否定していたけれど、
意識しているのは確かだ。
「無理です。彼女は忘れられない男がいるから、オレとは付き合えないっ
てはっきり断られたから」
「………忘れられない男………か」
ブツブツと小さくオレの言葉を復唱しながら、京介さんは考え込んだのか、
俯いたきり、口を開かなくなってしまった。

 オレたちの半端な関係は進展しないまま、
売り上げだけは順調に伸びた。
次第にコツもわかってきて、それなりにナンバー入りできる月もあるくら
いにはホストとして成長した。
 千尋の将来のための貯金額も少しずつだけど、増えている。
恋愛以外は、順風満帆だった。





2004-2005©白雪姫-hime-