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ダブルボーイ
ダブルボーイ

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1 プロローグ 2 失恋気分 3 オプション込み 4 新しい香り 強すぎる恋 6 祝福できない
7温度差 8 嘘と裏切り 9 プロポーズ 10以心伝心 11 早すぎる出会い 12 エピローグ

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3 オプション込み


 川上の指定した日がやって来た。
とりあえず、近くのシティホテルを予約したものの、行く気になれない。

 どんな顔して会えるというの?

臆病にも、勇哉くんにこれ以上嫌われるのが怖い。
一ヶ月指名した相手が私だと知れば、勇哉くんは嫌がるだろう………。
だけど、キャンセルするわけにもいかない。
出張ホストは影での仕事な分、需要と供給のバランスが成り立っていなく
て、ホストの数が少ない。
だから、すぐに新しい客が入るに決まっている。
  川上に無理言って、一ヶ月予約させてもらったのに、キャンセルなんて
できない。
でも、会うのが怖い。
どうしよう?!

恋を知らない少女みたいに、ビビっている自分がなんともなく、ばかばか
らしくも愛おしくも感じてしまう。
久しぶりだな。
こんな気持ち。
誰かに嫌われるのが怖いなんて………。
 仕方ないか。
指名したのは私だし、勇哉くんがどれだけ嫌がっても、行かなきゃいけな
いよね。
もう既に嫌われてるのに、何を怖がってるんだろう。
どれだけ嫌がられても、勇哉くんに出張ホストなんてさせたくないなら、
行くしかない。
いい加減、覚悟を決めよう。
約束の時間はもう迫っているんだから。


 覚悟を決めたものの、ホテルの部屋に一人でいると、心臓がドキドキと
早くなって行くのがわかる。
 ベッドとドレッサー、クローゼットにテレビがあるだけの普通のホテル
の部屋なのに、まるでラブホテルに初めて入った少女のように落ち着かず
に、ウロウロとしてしまう。用もないのに、バスルームに入ったり、冷蔵
庫を開けたり、動きが止まらない。
 ダメだな。
緊張している。
顔を見るのが怖い。
イヤな顔されるのも、拒まれるのも、予想できるから、とってもドキドキ
してしまう。
なんだか死刑執行されるような気分だ。
 落ち着こうと冷蔵庫からミニブランデーを出して、ゴクリと飲み込んだ
時、「コンコン」とドアをノックする音が聞こえた。

 ドキリと、心臓が口から飛び出しそうだ!
ど、どうしよう………。
ああ、どんな態度でドアを開ければいいのだろうか?
………。
ドアの前に立つまで、数秒しかないのに、私の頭はフル回転していた。
「どうぞ」
カギをあけて、ドアから離れた。
自分で招き入れる勇気が出ない。
「失礼します」
声と同時にドアが開いて、背中に勇哉くんの存在を感じるのに、振り向け
ない。
さっきよりも、心臓の動きが早い。あまりに早すぎて、呼吸困難になりそ
うなくらいに。

 背中を向けたまま、窓際までゆっくりと足を進める。
ダメだ。
逃げちゃダメ。
わかっているのに、顔を合わせるのが怖い。
「あの、指名してくれたんですよね?」
………。
………。
………。
久しぶりに聞く勇哉くんの声。
怖いドキドキに、恋する気持ちのトキメキが微かに混じってしまう。
 やっぱり、勇哉くんが好きだ。
「………ん」
「………」
重い沈黙だけが、二人の間に通っている。
逃げずにきちんと向き合わなきゃいけない。
どれだけ罵倒されても、勇哉くんに売春なんてさせないためにも。
そう決めたのに、わかってるのに、足先から震えが止まらない。
 どうしてこんなに臆病なんだろうか?
他の事なら、平気で突っ走れるのに、恋愛だけはどうしても腰がひけてし
まう。
情けない、よ。
沈黙に耐えられなくなったのか、勇哉くんが一歩づつ私に近づく音がする。

もう、ほんとに覚悟しなきゃ!
目をつむって、手に力を入れて私は振り返った。
「っ………」
勇哉くんが息を飲んだのがわかる。
「ごめん、指名したの私なんだ」
勇気を出して目を開くと、驚いているのか、戸惑っているのか、固まって
動かない勇哉くんが視界に飛び込んで来た。
「………佳織……」
か細い声で、まだ動きのにぶい口から名前を呼ばれた。
「………」
何を喋ればいいのだろうか?
罵倒されるのをわかっていても、指名せずにはいられなかった。
彼の口から、自分の名前を呼ばれた途端に、私の気持ちははっきりと恋愛
するトキメキに変わってしまった。
 彼を汚したくない。
売春なんてさせたくない。
そんなのどれもコレも言い訳だった。
ただ、私が勇哉くんに会いたかっただけなんだ。
彼の姿を見たい。
彼の声が聞きたい。
彼の瞳に映りたい。
彼の耳に、私の声を届けたい。
だけど、無情にも勇哉くんはやっぱり私を受け入れてはくれないみたい。
「オレだと、知ってて指名したのか?」
そう言う彼の表情ははっきりと怒りと憎しみが見てとれる。
「知ってた」
「………全部、知ってるのか?」
「………ん」
うなずくしかできない。
情けない程、ドキドキしている。
きっと、産まれて初めて告白する女の子もこんなにドキドキしないだろう。
「へぇ、オレは知らなかったや。
佳織って、ホストとは寝ないとか言いながら、ちゃっかり出張ホストを呼
びつけてたなんて」
まだ、若い少年さの残る勇哉くんの顔が、とても意地悪に荒んで、私を憎
んでいる言葉を吐き出した。
 何を言われても、平気。
覚悟してたから………。
ギュッと、拳を握りしめて、彼の次の言葉を待っていたのに、彼は何も言
わずにシャツを脱ぎだした。
「え?」
「早く佳織も脱いでくれない?サッサと終わらせようぜ」
………………。
………………。
………………。
 どんな責めの言葉も受け入れるつもりだった。
なのに、勇哉くんの私に対する憎しみはそんな生易しいモノじゃなかった。
 自分の服を脱ぐと、私の服を乱暴に脱がせて、ベッドへと強引に押し倒
した。
  何度も色々な男と寝て来た。
だけど、こんなに乱暴に抱かれたことはない。
まるで強姦されるような勢いで、急いでいる勇哉くんには愛情のカケラも
ない。
ただ、仕事として私を抱こうとしている彼を感じて、堪えていた涙がこぼ
れそうになる。
 わかっていた。
勇哉くんからしてみれば、私は彼を弄んで捨てた事になっているんだろう。
だから、嫌われてるのも、憎まれてるのも、覚悟していた。
だけど、やっぱり好きな人にこんな風に扱われるのは悲しいよ………。
優しくしてもらいたかったわけじゃない。
もちろん、抱かれたかったわけでもない。
何をされても、文句なんて言えない。
 組み敷かれた体から、心だけが抜け出してしまいそうだ。
悲しくて、苦しくて、とりとめもない後悔だけが、こみ上げてくる。
こんなに私は勇哉くんを傷つけてしまっていたの?
 「なんだよ、自分で買ったくせに、もっと感じろよ」
指先で私の体をなぞりながら、勇哉くんは顔もあげずに、攻め続ける。
 気持ちよくなんてない。
感じるわけなんてない。
悲しみの方が優先して、彼の動きを楽しむ余裕なんて私にはないんだもん。
「………」
「ヤル気ある?」
不意に、胸元から勇哉くんが顔を上げた。
泣きそうな私の目に、涙で霞むなつかしい顔。
会いたかった。
顔が見たかった。
声が聞きたかった。
だけど、こんな形で再会したいなんて思ってなかった!
 そう思うと、ポロポロ涙がこぼれそうになる。
だけど、泣いちゃいけない。
私には泣く権利すらないんだから。
必死で涙を堪えた。
瞳いっぱい、溜まった涙をこぼさないように………。
「なんでそんな顔してんだよ?」
体を上に動かして、顔を近づけてくる勇哉くんの手は、私の両肩近くにあ
る。
腕立て伏せをすうような態勢で、私を睨み付けている。 
 心配してるんじゃなく、憎しみをぶつけるような鋭い視線。
 こんな目を知っている。
男の子が戦いを挑む時、敵に乗り込む時にする目つきに似ている。
 彼にとって、私は敵なんだろうか?
「………ごめん、なさい」
謝ることしか、もうできない。
他にどんな手段があるというの?
ここまで嫌われているのに、何もできない。
「何が?」
感情の伴っていない乾いた声。
とても勇哉くんの唇からこぼれたとは思えない程、冷たい響きに満ちてい
て、さらに私を苦しめる。
 どれだけ嫌われてるのか、わかる。
「悪いけど、前金で払ってんだろ?
今さらキャンセルされても困るんだけど」
…………。
…………。
…………。
「もう、帰って。もちろんキャンセルしない。
私が悪いから………」
これから1ヶ月、私はこんな思いをするのだろうか?
彼を指名する限り、ずっとずっと………。
 会いたいけれど、つらい。
顔が見たいけれど、怖い。
「そう、じゃあ指名ありがとう」
彼は衣服を着て、サッサと部屋を出てしまった。
 一度も振り返る事もなく。
もう2度と、勇哉くんの笑顔を見ることはできないんだ。
 彼は私を許してくれやしない。
最初にしていた覚悟なんて粉々に砕いてしまう程、嫌われていた。
どんな仕打ちも我慢しなくちゃいけない。
 だけど、だけどもう、泣いてもいいよね?
狭く感じられたホテルの部屋が、今は広く見える。
なのに、勇哉くんがいたのはベッドだけ。
会話するでもなく、ただ、エッチするためだけに来たんだ。
 仕事、するためだけに…。
もう、いやだ!!
虚しい。
私はお金で勇哉くんを買った。
そして、その金額だけ彼は仕事をしようとしただけ。
 何も変じゃない。
変じゃないけど、その行為には感情なんてちっとも入っていない。
 誰か、助けて!
苦しくて、悲しくて、一人じゃいられない。
ねぇ、お願い。
もう、たえられない。
誰でもいい。
誰でもいいから、私を抱きしめて欲しい。
優しく、愛を注いで欲しい。
 ねぇ、隆史に会いたい。
こんな悲しい思いはしたくない。
隆史の顔が見たい!
隆史に優しくされれば、私は元気になれる。
 いつもなら、隆史のアドレスを開いても躊躇して押せない発信ボタンも、
こんな時になら簡単に押せる。
 数回耳にコール音が鳴った後、隆史の優しい声が聞こえた。
『久しぶりだな、元気してた?』
「………隆史、会いたいよ」
数ヶ月ぶりに聞く声なのに、ちっとも時間を感じさせない隆史のテノール
は心の傷を消すかのように染みこんでくる。
『どこにいる?』
「ホテル」
『……すぐに行くから待ってろよ』
電話を切って、隆史を待ってる間、私はずっと小さな携帯電話を握りしめ
ていた。
さっきまで、隆史の声が聞こえていた機械が、まるで隆史の身代わりのよ
うに思えて、手放すことができなかった。
 一人じゃ淋しすぎる。
早く、一秒でも早く来て!
もう、一人でいたくないから………。
 

 20分くらいしてから、部屋のチャイムが鳴った。
隆史だ!
ドアを開けると、いつ見ても惚れ惚れする隆史の姿があった。
「会いたかった!」
耐えられない寂しさと、久しぶりに隆史に会えたうれしさで、思わず抱き
つく私を隆史は抱きしめ返してくれた。
「中に入れてよ」
抱き合ったまま、隆史はドアのカギを閉めて、中に入って来る。
 私は後ろ歩きしながらでも、隆史から離れたくなかった。
 ギュウっと力一杯抱きしめられると、それだけで心が満たされる。
「どうしたんだよ?何があった?」
「え?」
隆史はいつもの意地悪な三白眼を優しく細めて、腕の中にいる私を見つめ
ている。
 その目を見ているだけで、ドンドンと冷静になって行って、やっと自分
のした事に気付いた。
 何をやってるんだろ、私。
勇哉くんに嫌われてるのが悲しくて、隆史を頼るなんて、最悪。
 また、恋愛から逃げようとしている。
「ごめん、何でもない………」
隆史を忘れようと決めてた。
勇哉くんを好きだと自覚したのに、傷つくと隆史になぐさめられようだな
んて、最低。
「何でも無いわけないじゃん、いつも遠慮してオレに甘えない佳織からオ
レに会いたいなんて珍しいよ。ソレに、泣いてたろ?
 目が腫れてる」
細い指先がソッと瞼に触れた。
 グラグラと隆史へと傾いてしまう気持ち。
だけど、ダメだよ。
私、隆史に甘えちゃいけない。
甘えられない………。
「ホント、ごめん。何でもないの。
こんな時間にごめんね、忙しいのに…」
「オレに言いたくない?」
少し悲しそうにうつむき加減で隆史は私を見つめた。
 その視線にすら、ドキドキしちゃう情けない私。
「違うよ……、隆史に甘えちゃいけないから」
「甘えていいんだよ、佳織はもっとオレに甘えたらいいんだ。今日だって、
オレはうれしかった。佳織から泣き声で電話もらって、頼られてるって思
うと、何があってもオレが助けてやる!って」
「ダメ、優しくしないで」
隆史は目の前にいるだけでも、ドキドキと私をときめかしてしまうのに、
優しくされたらもう、歯止めが効かなくなってしまうから。
 私は隆史に優しくしてもらえる価値なんてないから………。
 なのに、隆史の手は優しく私の頭を撫でてくれる。
ダメ!
「やめて!
さっきまでココで勇哉くんと一緒だったんだよ、私。
だから、隆史は優しくしちゃいけないんだ」
 私はいつも隆史から逃げてた。今度は勇哉くんから隆史に逃げようとし
ている。
 ダメ。
いつまでも逃げないって決めたのに、速攻隆史にときめいてしまう。
「………勇哉、と?」
隆史は撫でていた手を止めて、痛い程鋭い視線で私を見つめた。
 何かを確かめるように、ジッと。
悪い事をしていたかのように、罪悪感が膨らんでくる。
 勇哉くんがダメだから隆史だなんて、そんないい加減な自分が許せない。
「最低、でしょ」
真っ直ぐに私を見つめる隆史の視線に、私は答えることができない。
 目を合わせるのが、辛すぎて。
「………でも、佳織泣いてたんだろ。
やっぱりお前には勇哉じゃダメなんだよ、オレにしとけ」
目を泳がせている私の頭を自分の胸に引き寄せて、隆史は力いっぱい抱き
しめてくれた。
ホントに力一杯で、回された腕が痛いくらいに。
締め付ける程、ドンドンと力を増す腕に、呼吸が苦しくなっていく。
「隆史………っ」
まるであえぎ声みたいにか細い声になってしまう。
ホントに苦しい。
このまま、窒息してしまいそうだ。
「オレ、すっごい嫉妬してる。
佳織を泣かせたのがオレじゃないって事に、お前の心に少しでもオレ以外
の男が存在してるって事に!」
 隆史が、嫉妬?
ホントに?
「………隆史はすごくいい男で、誰にも負けたりしないのに……」
それでも嫉妬したりするの?
「………負けないよ、オレは。
勇哉にも、他の誰にも負けないくらいに佳織を愛してるんだ」
 隆史の言葉は、傷ついた心に染みる消毒のようだ。
刺激が強すぎて、何もかも忘れそうになる。
さっきまで勇哉くんを好きだった思いも、彼に嫌われていた事実も、忘れ
そうなくらいに、ときめきに酔わされていく。
「………隆史はやっぱり優しいね」
涙で腫れた瞼にキスをくれながら、そのままベッドへ優しく押し倒す隆史。
 このまま、抱かれてもいいかな…。
隆史に酔ってしまえば、何もかも幸せになれるかもしれない…。
このまま隆史の腕の中で、私はゆったりと過ごせるだろう。
  優しく触れる指も、口づけるその吐息も、すべて包み込んでくれるよう
な気分になって、体から力が抜けていく。
「佳織、愛してる」
ステキなささやきに甘やかなムードが私を酔わすのに、ついさっきに味わ
った感情のない勇哉くんの愛撫がプレイバックしてしまう。
まったく違う指先なのに、触れられた部分から、えぐられるように鮮やか
に蘇る。
「………ダメ!隆史っ!」
このまま隆史に引き戻されても、私は勇哉くんを忘れたりなんてできない。
 心に勇哉くんを宿したまま、隆史の元へは戻れない。
 グッと隆史の引き締まった胸板を押し上げて、抵抗する私を隆史は睨み
付けた。
「ダメじゃねぇよ!
佳織のこの白い肌に、誰かが触れたかと思うと許せない。オレの跡だけつ
けてればいい!
オレだけの佳織でいろよっ」
乱暴な言葉と裏腹に、優しく口づける隆史。
隆史は拒めばいつでも、すぐにやめてくれていた。
別に欲求不満だったわけでもないし、隆史にしてみりゃ、嫌がる女を抱い
たりする必要がなかったんだと思う。
なのに、今はこんなにも私を求めてくれる。
 皮肉だなぁ。
彼女として隆史の近くにいる時は、不安ばかりでわからないのに、こんな
時にだけ、はっきりとわかる。
私は隆史に求められている。
ホストの営業とかじゃなく、今の隆史は私をちゃんと女として見てくれて
いる。
 だけど………。
「ダメっ!
私は勇哉くんを夜の世界に引き込んだ責任があるの………。
 このまま、彼を放っておけない………」
隆史へと傾く心を抱いたまま、勇哉くんとつき合えなかったように、勇哉
くんを思いながら、隆史へと流れることもできない。
「………どんな責任だよ?
本人の意志でホストになったんだろ?
だったら佳織には関係ないはずだ」
「そうだけど………」
勇哉くんは今、多額の未収を抱えている。
ホストだけじゃなく、さらに裏にまで回ってしまえば、彼の人生に大きく
影響してしまう。
社会勉強というには、知らなくてもいい世界だってあるんだ。
 ルージュは川上が経営する店。
川上のバックにはやくざがいる。
そんな店に借金するのは、どんな取り立てが待っているか、安易に想像が
つく。
 どんなことしても、勇哉くんは未収をたてかえなきゃならない。
 だけど、私は勇哉くんにそこまで夜の世界に入ってもらいたくない……
…。

 私は隆史に説明した。
今勇哉くんが置かれている立場、そして、私が彼を救いたいと思っている
事も。

「未収が解決したら、戻って来いよオレの隣に」
切なく目を細めて、青白くなった肌に濃くまつげの影を落としている隆史
の姿は何年も見てきた私ですらびっくりする程、鮮やかすぎて、心臓をえ
ぐられそうな強烈だった。
戻れるのだろうか?
 勇哉くんを好きだと言っている私に戻って来いと隆史は言う。
彼は、知ってるのかもしれない。
私の心の底にくすぶり続ける思いを。
 だけどそんな思いを抱え続ける苦しさまで知らない。
もう、何度も隆史を忘れようと思った!
忘れたいと願った!
いっそ、出会わなければ良かった!
そしたらこんな苦しくならずにすんだのに………。と、後悔すらした私に、
今さら隆史の元へ戻る資格なんてない。
「………」
返事に詰まる私に、たたみかけるように隆史は続けた。
「うんって言えよ、オレがどんな思いで我慢してるのかわかってる?
ホントは佳織を閉じこめて、誰の目にも触れさせたくないんだぞ!
 だけど、お前が責任って言うから………。
戻るって言わなきゃ、今ココで強引にでもオレのモノにするよ」
ステキなセリフ。
言ってる事は強引でも、語調も優しく、ドキドキしてしまう。
 そうしてくれればいいのに!
このままココから連れ去ってくれれば、私は何も悩まないで、苦しまない
でいいのかもしれない。
 だけど、隆史はそうしない。
いつもそう。
言葉は強引なのに、行動はいつも紳士的。
イヤになる位、優しすぎる。
 私の意志なんて関係なく、ホントに隆史のモノにしてくれればいいのに
………。
 そんな隆史だから、私はつらい。
そして、その優しさは一歩ひいてるからなのかもしれな。
私にちゃんと向き合ってるんじゃなく、少し離れた位置から喋ってるんだ。
恋だけに、のめり込まない大人な考えの隆史。

激しく私を殺してしまいそうな勢いで求めてくれれば、少しは安心できる
のに、いつも冷静で、ソレがどれだけ苦しかったか!
大人の男なんだから、時には恋愛よりも仕事が大切なのもわかるのに、あ
んまりにも仕事熱心な隆史に、嫉妬してしまう自分が情けなくて、虚しく
て。
  自分で自分が分裂しそうになるのがわかった。
嫉妬で狂いそうな私と、大人な考えを持つ私。
 どちらも私だけど、隆史を愛しすぎて折り合いをつけるなんてできなか
った。
 でも、もう嘘はつかない。
「隆史に恋するのは嫌なの」
 もう、隆史に恋したくない。
鎮火していない恋心は甘い世界に私を酔わせてくれるけど、その恋にはま
ればもっと深い闇が待っている。
 誰よりも激しく隆史を愛してしまうから、自分自身よりも、大切で、だ
けど苦しいくらいに独占したくて、私が壊れてしまう。
そんな恋はもう2度としない。
 今度こそ、新しい恋をするんだ!
そう自分に言い聞かすように私は再びを口を開いた。
「幸せな恋をするの!」




2004-2005©白雪姫-hime-





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