ダブルボーイ
ダブルボーイ

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1 プロローグ 2 失恋気分 3 オプション込み 4 新しい香り 強すぎる恋 6 祝福できない
7温度差 8 嘘と裏切り 9 プロポーズ 10以心伝心 11 早すぎる出会い 12 エピローグ

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4新しい香り

 1週間なんて早いもので、すぐに2度目の出張ホスト指名した日が来た。
正直、気が重い。
チェックインしたものの、勇哉くんが来なければいいのに!と願わずにい
られない。
先週、彼は私を客としてしか見なかった。
ホストを買った欲求不満の女としてしか…。
 そして、悲しみのあまり私は隆史に甘えてしまった。
 ホテルの部屋なんて、どこも大差がなく、部屋番が違うのに、同じ部屋
みたいに感じてしまって、先週の記憶が蘇る。
 私は隆史に別れを告げた。
もう、戻れない。
恋にすべてを捧げられる年齢は過ぎてしまった。
だけど、すべてを捧げても欲しいと、手に入れたいと思った男。
どんな恋愛よりも激しく、のめり込めた。
その分、苦しみも大きかった。
いい加減、けりをつけなきゃいけなかったんだ。
いつまでも、振り返ってばかりじゃ生きていけないから………。
 とりあえず、私は勇哉くんの未収分だけでも返さないと次に進めない。
 今度こそ、覚悟を決めよう。
例え、客だと思われてもいい。
これ以上軽蔑されてもいい。
 私は勇哉くんを買った女。
それなら、それでいい。

 シャワーを浴びよう。
そして、男を買う女になるんだ!
本来の自分のままじゃ、とても勇哉くんと対峙できないから。

 シャワールームにチャイムが聞こえ、勇哉くんが来たのがわかった。

よし!私は勇哉くんを買った女。

ローブを羽織って、高飛車な態度で彼を出迎えた。
「待ってたの」
ホントは加速を増す心拍数に、冷静なフリをするのすら苦しいけれど、が
んばろう。
「………」
勇哉くんは軽蔑するように、心の底を見ようともしないで、儀礼的な微笑
みを見せた。
「へぇ、そんなに欲しかったんだ?」
「………」
そうじゃない!
でも、やっぱりどんな形でも勇哉くんに会いたかったのかもしれない。
いくら、指名してると言っても、もう支払いは済んでいるんだから、バック
レても、良かったのに、私はわざわざココにいる。 
「せっかく準備万端で悪いけど、オレ帰りたいんだけど?
どうせ、オレの後違うホストが来るんだろ?
」
「ダメよ、あなたを指名したんだもん。
お金もちゃんと払ってるんだから、仕事してよね」
こんなセリフが言いたいわけじゃなかった。
  だけど、考えるよりも先に言葉が口をついて出てしまった。
「………もう、茶番はやめよう佳織。
オレは佳織を抱きたくないし、佳織だってオレに抱かれたいわけじゃない」
私を抱きたくない。
 すごいなぁ、男に抱きたくないなんて言われたの初めてだ。
そんなに嫌いなのかな?
ショックだよな……、でも、それならそれでいい。
どうせなら、思い切り嫌ってくれればいい。
他の誰も考えられないくらいに、私を憎んでくれればいい!
 愛と憎しみは表裏一体だから………。
「あなたに意志なんてないの。
私に買われた男なんだから仕事だけしてればいい」
………。
もっと、私を嫌いになればいい!
もっと、もっと私を憎めばいい!
そんな感情以外に、勇哉くんの心に私は入り込めないんだから。
「………いいかげんにしてくれよっ!
オレにどんな恨みがあるんだ?
オレは佳織が好きだったんだ!なのに、なんで客として抱かなきゃならな
い?
なんでこんなむごいことができるんだ!
そんなに男が欲しいなら、他のヤツを呼べよ。
別にオレじゃなくてもいいんだろ?
頼むからこれ以上、佳織を軽蔑させないでくれっっっ」
勇哉くんは、声を荒げて目をギュッと閉じた。
苦痛に顔を歪めて、手の握り拳は震えていた。
 そう、軽蔑してくれればいい。
どんな感情でも、勇哉くんの心に私が存在できるなら、それだけでいいか
ら………。
「他の男じゃ無理。私のクセを知ってる勇哉くんがいいの」
「嘘つくな!
オレじゃ満足できないから、隆史を呼んだんだろ?」
 頭の中が真っ白になってしまった。
「な、なんで………」
先週、隆史が来た事を知っているの?
ああ、ダメだ。
何も考えられない。
 私にとって、隆史は良くも悪くも起爆剤。
どうしてそうなったのかわからないけれど、もう条件反射のように、隆史
の名前を聞くだけで何も考えられなくなってしまう。
「………先週、戻って来たんだ。
 だけどオレが見たのは、すごくうれしそうに佳織が隆史に抱きつく姿。
そして、隆史も佳織を抱きしめていた。
 オレを追い返して、二人っきりだったんだろ?
もう、これ以上オレを惨めにしないでくれよ、頼むよ、佳織………」
 見られていた?
そう。
私は隆史に甘えた。
でも、違う!!
隆史の優しさを求めてしまったけれど、ちゃんと別れた。
今度こそ、もう戻れない二人になってしまった。
運命なんて、非現実な関係じゃなく………、私の意志で
「誤解しないで!
隆史に抱きついたけど、何もなかった!
あの日、隆史と私は寝ていない」
「………そんなのどうでもいい。
ただ、佳織はオレよりアイツを選ぶんだ、いつも、どんな時も!!!」
勇哉くんは、きつく目を閉じて叫ぶと部屋を出ようと一歩進めた。
 もう、2度と会えない!
このまま帰したら、ホントに2度と会えない!
「待って!違う」
思わず後ろ姿の勇哉くんの腰に抱きついて、彼を引き留めた。
「お願い、信じて。
隆史とさよならしたの」
 抱きしめている体がビクリ震えたのがわかった。
だけど、勇哉くんの口から発せられた言葉は
「さよならしても、またすぐくっつくよ。
それに、あんなに人目も気にせずに包容しあっていて二人がどうやって別
れ話になるってんだよ」
「勇哉くんが私を嫌ってるのがわかって、悲しくて、辛くてつい隆史を呼
んでしまった。
でも、私は隆史より勇哉くんを選んだの!
例え嫌われていても、勇哉くんを選んだの!じゃなきゃ、今日、私はココ
にいない!」
 どうすれば、わかってもらえるだろう?
ああ、お願い!
コッチを向いて!
ちゃんと目を見て話をすればわかってもらえるかもしれないから………。
 願いが通じたのか、私の腕の中で、勇哉くんは態勢を変えた。
「………今回はオレを選んだとしても、次はアイツを選ぶんだろ?
繰り返すだけじゃないか、オレだってそれ位わかってる。佳織はアイツを
忘れられやしないんだから」
 そう言われても仕方がない。
それだけ私は隆史を忘れきれないから………。
 でもそれでもいい。
例え嫌われても、私は勇哉くんの未収を返すって決めたんだから。
「かもしれない。
でも、あの日はホントに隆史とさよならした。
もう隆史に恋しないって言ったの!」
泣かない!
絶対に泣かない!
そう思うのに、涙がこぼれそうになる。
どんな思いで隆史を吹っ切ったか………。
あんなに大好きで、優しい男より私は勇哉くんを選んだんだ。
「この1週間、私は隆史のことを考えるのが苦しかった。
彼のくれた指輪、合い鍵、そのどれもがいくつもの思い出を含んで、ステ
キな過去のトキメキを感じずにいられなかった。
けれど、もう隆史には戻れない。
 いくら適当に男と付き合っても忘れられなかった。
でも勇哉くんだけが、本気になれた。
心に住む隆史を追い出しそうな勢いで、私を浸透していった。
 いい時期なんだと思う。
私が隆史を忘れるのは、今しかない。
例え、勇哉くんと上手くいかなくても私はもう隆史を思い出さなくてもい
いように、さよならしたの」
 すべてを吐き出すように喋る私に、勇哉くんは小さな溜息をついた。
「はぁ。酷い女だな、佳織って」
「え?」
「だって、オレと上手くいかないかもしれない。でも今ならアイツを吹っ
切れるって思ったんだろ?
 何か、オレを選んだってより、オレを利用したって感じがする」
……………。
……………。
……………。
「そう、かもしれない」
勇哉くんの言う通りかもしれない。
「ま、いいや。
わかった、佳織がアイツと別れたのは。
で、次の質問してもいい?」
さっきまでの勇哉くんと違って、以前の優しい表情で私の目を見て話して
くれている。
何が、彼の態度を変えたかわからないけれど、うれしい。
ちゃんと、話そうとしてくれる勇哉くんが。
「聞いてくれれば、何でも答えるよ」
「じゃあ、佳織はなぜ出張ホストになったオレを指名した?」
 私が引き込んだ世界で、負わなくてもいい問題を抱えてしまったから、
救いたいと思った。
そして、他の女に指名させたくなかったという女としての気持ちもあった。
 どっちも本音。
「わかんない。責任もあった、勇哉くんの未収って私のせいだし………。
それに、勇哉くんが他の女を抱くのが我慢できないって思ったのもホント。
女を抱いてお金を返すなら、私を抱いて返してけばいいとも思ったの」
 自分でもわかんない。
きっと、私はどうしようもないくらい独占欲の強い女なんだと思う。
だから、勇哉くんが彼氏じゃなくても、他の女に触れるなんてすごくイヤ
だった。
彼の意志でなら我慢もできるけれど、不特定多数で、相手を選べない状態
なんて、とてもイヤだった。
「正直だなぁ。ソレにオレの未収は佳織のセイじゃないよ。オレが調子に
乗ってしまった結果なんだから」
勇哉くんはベッドに腰を下ろして、落ち着いて喋り出した。
とても180万もの借金があるようには見えない程、冷静だ。
取り乱したりしていない?
「でも、ホストになったのは私のせいでしょ?
きっかけはそうなんだから、これ以上こんな世界に深く関わっちゃダメだ
よ。
大学だって合格したんでしょ?
だったら尚更、早く昼の世界に戻った方がいいよ」
大学卒業したら、勇哉くんはきちんとした会社に入って、社会人になるは
ずなんだ。
  その時に、ホストのバイトしていたなんてバレたら、それだけで面接
に落ちてしまう。
「そうかもな。なんか今回の事でオレも限界かなぁって思った。
だから、借金を返したらもうバイトやめようって考えてるんだ」
ちっとも自暴自棄になってるわけじゃない。
勇哉くんは、ちゃんと考えてる。
「そっか………」
自分の将来だよね。
 やっぱり男の子はちゃんと未来を見据えて成長するんだ。
 かっこいいなぁ。
私だけが、いつまでもお子様なのかな。
ちっとも人間として成長していないような気がする。
「だからさ、けじめもあるし、ホント自分で何とかするから、もう佳織は
心配しなくていいよ」
「………でも、川上に払っちゃったし、それに、やっぱり勇哉くんに
裏に回って欲しくない。こうやって出張なんかしてもらいたくないよ」
どう言えばわかってもらえるだろうか?
「でも、手っ取り早いじゃん。もうさっさと終わらせたいんだ」
………………。
「その手っ取り早いがヤバイんだって!
短期間で高額稼ぐってのは、それだけリスクがあるんだよ、もちろん今回
は法律違反だってのもあるけど、それだけじゃない。
 そんなバイトをすると、イヤでも人間の汚い部分をマザマザと見せつけ
られるよ、男をお金で買う女だって、私を軽蔑してたんでしょ?
 私だけじゃなくて、そのうち女全体を軽蔑するようになってしまうんだ
よ、わかってる?」
 もう私は失うモノは全部失ってしまった。
職歴も純粋さも、知らなくてもいいような男の性も………。
最初は世間体なんて気にしていなかった。
もちろん今だって、私は平気だけど、将来子どもが産まれたら、ママの仕
事だよって胸を張って言えるか自信がない。
「………そんなの平気だよ。
だって、さっきまで軽蔑してたはずなのに、今はこんなに佳織をかわいい
と思ってしまってるんだもん、オレ」
え?
えっと?
今、かわいいと言いましたか?
「すごくうれしい」
もう、嫌われていると思っていた。
軽蔑されたままでもいいって。
だけど、こうやってかわいいとか言われると、すごく胸がドキドキしてし
まう。
「オレさ、出張ホストの初指名が佳織だとわかった時、すごい驚いて、次
に安心したんだ。
やっぱりさ、どんな女だろ?すっげぇデブなババアとかだったらヤだなぁ
って心配しながらホテルまで来たから、佳織で良かったって思ったんだけ
ど、好きな女が男を買ってるって知って、ショックだった。
 ホストとは寝ないって言ってたくせに、何だよソレ?って感じで、もう、
佳織をメチャクチャにしてやりたいくらい、むかついた。
でもさ、佳織泣いてたじゃん?
 最初はむかついてたけど、部屋を飛び出て、冷静になるとすっげぇ心配
で、戻って来たんだ。
そしたら隆史と抱き合ってる姿を目撃だろ?
ああ、佳織はオレなんかどうでもいいんだって思って、悲しかったよ」
 ゆっくりと喋る勇哉くんに、私は隣に座って顔を傾けた。
彼の目を見て、ちゃんと話が聞きたかったから。
「うん」
「すっげぇ情けないけど、オレやっぱり佳織が好きだ。
だからさ………、だから」
………、勇哉くんはまだ私を思ってくれていた?
憎んでいるでも、軽蔑しているでもなく?
「私も、勇哉くんが好き。
だけど、やっぱりまだ隆史を忘れていないの………」
 最低だけど、そんなすぐに忘れられるなら苦労なんてしない。
もう、嘘も隠し事もしたくない。
「佳織、オレらが別れる時、オレは隆史を好きでもいいと思いながらより
を戻そうって言ったんだ。
今でもその気持ちは変わらない。
オレと、もう一度付き合ってくれないか、佳織」
………………。
………………。
私も勇哉くんを好きだ。
でも、このまま付き合うのはいけない。
「ダメだよ。私は直樹と一度つき合って彼を傷つけた。さっき勇哉
くんが言ったみたいに直樹を利用しただけなの。
もう、同じことは繰り返したくない………だから、もっとちゃんと勇哉く
んを好きになるまでつき合えない」
勇哉くんは隣に座る私の顔を自分の肩に引き寄せてうなずいた。
「好きになってくれるの?」
もう、この腕から離れたくない。
そう思えるほどに好きだけど、まだ隆史を思い出にできない。
「がんばるよ」
私の返事を聞いて、勇哉くんの抱きしめる腕に力が入った。
より体が近くなって、彼の匂いが私を包み込む。
 勇哉くん、香水変えたのかな?
ブルガリのプールオムの匂いがする。
付き合っていた頃と違う香りが、少し淋しいけれど、これから、この香り
に馴染んでいければいいな。
「じゃあ、オレももっと佳織を好きになる」
 もう逃げない。
今度こそ、この恋愛から逃げ出したりしないから。
「じゃあ、そばにいてね」
もっとたくさんの勇哉くんを知って、ドンドン好きなるから………。
「そばにいたいんだけど、ベッドの上で密着してると、ヤバイ気持ちにな
って来るんすけど?」
苦笑いをしながら、勇哉くんは少し私と距離を置くために離れた。
「………私はいいよ。ちゃんと勇哉くんに抱かれたいよ」
心だけじゃなく、体でも確認したい。
ふれあった分だけ、好きになるから。
だけど、勇哉くんは少し考え込んで、首を左右に振った。
「ダメだよ、今ココで抱いたら。
佳織はマスターに金を払ってるんだろ?」
 …………。
そうだ。
彼は出張ホストとしてココに来た。
そして私はお客。
「ねぇ、これからどうするつもり?
このまま出張ホストを続けて、180万返して行くの?」
そんなのイヤだ!
 勇哉くんが他の女を抱いて稼ぐなんて、すごくイヤ。
想像しただけで吐きそうになる………。
 心配そうに見つめる私を、まるで大人が子どもをあやすように髪を撫で
ながら、勇哉くんは微笑んだ。
「マスターにやめるって言うよ、なんとかして返すから、大丈夫。そんな
顔するなよ、なんかすっごいかわいくて、マジ理性限界なんだってば!」
 年下だと、子どもだと思っていた勇哉くんなのに、知らない間に大人の
男になっている。 たった数ヶ月会わないだけで、すごいスピードで男の
子は大人になるんだ。
 追いつけないよなぁ。
ほんと、すごくかわいい年下の男の子だと思っていたのに、少ししっかり
した感じ。
「別に私は平気だけど、勇哉くんはイヤなんだよね?
じゃあ、今日は我慢しよう。せっかく仲直りできたのにあんまり欲張っち
ゃ罰が当たりそうだね」
 幸せになればいつでも、不幸が待っている。
だから、あんまり幸せを求めてもいけないんだ。
神様は、ちゃんと平等にみんなに不幸を与えているから、今の幸せに満足
しなくちゃもったいない。
「なんかすっげぇもったいないけど、仕方ないよな。
金抜きな関係じゃなきゃ」
 ちっとも気にしないのに………。
私だって、勇哉くんじゃなきゃ、出張ホストなんて呼んだりしない。
それでも、そうやってちゃんとけじめをつけようとしているなら、私は勇
哉くんに従う。
「じゃあ、今からデートしよっか。
せっかくだしさ」
爽やかに真っ白な歯を見せて笑いかけてくれる勇哉くん。
 こんな日が再び来るなんて、思ってもいなかった。
「うん!」
勇哉くんと二人で笑い会える日。
 見つめ合う瞳も優しい。
ホントに幸せだ。
好き。
激しい情熱はないけれど、落ち着いた恋愛。
 春の陽気のような気持ち。
もう、灼熱の太陽にさらされたような、心の痛みも感じない。
 このまま穏やかな恋愛を勇哉くんと一緒にしていこう。
 過去の恋愛にいつまでもしがみついていないで、未来へと進むために…
……。

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2004-2005©白雪姫-hime-