ダブルボーイ
ダブルボーイ

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1 プロローグ 2 失恋気分 3 オプション込み 4 新しい香り 強すぎる恋 6 祝福できない
7温度差 8 嘘と裏切り 9 プロポーズ 10以心伝心 11 早すぎる出会い 12 エピローグ

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8 嘘と裏切り
 決して広いとは言えないセレクトショップで、泣き出してしまった私と、
見るからにホストとわかるいでたちの京介のツーショットは、あまりにも
景色として不自然で、人の視線が集中する中、和美が買い終えたプレゼン
トの袋を持って現れた。
「何やってんのよ、お互いの客やライバルだっているかもしれないんだよ?
さ、佳織、行くよ」
 呆然と、ただ泣くしかできない私の腕を強引に引っ張り、京介に「今日、
店行くから!」とだけ残して………。

 「待って!」
ちょっと待ってよ
「ダメ、待たない。
早く行くよっっ」
和美は私の声を無視して、ドンドンと店までの道を走るように歩いた。
 「おはようございます!」
勢いよく挨拶だけして、すぐに更衣室に入ると、やっと和美は私の腕を放
してくれた。

 「とりあえず、すぐ仕事だけど大丈夫?
ココで落ち着くまで籠もってる?
ママには言っておくよ」
心配そうに、鏡の前に座らせた私の顔をのぞき込むためにしゃがみこんで
いる和美。

 何が何だかわからない。
でも、何も考えちゃいけない。
ううん、何も考えたくない。
だから今は現実から逃げるために……。
「働くよ、用意してフロアに出る」
「そっか、じゃあその泣きはらした目をなんとかしなきゃね」
私のバッグをロッカーにしまいこんで、代わりにメイクボックスを机の上
にポンと置いてくれた。
 だから、私は当たり前のように、いつもしてる化粧を直して、髪型の崩
れをなおして、笑顔を作ってからフロアに出たの。
「おはようございまぁす」
開店と同時にお客様が来る。
 そのまま席について水割りを作り、相づちを打ちながら微笑む。
 スラスラと止まることなく会話が進んでいく………。
 変な感覚。
会話が頭の中を素通りしていくのに、きちんと返事しているんだもん。
めまぐるしくお客様の言葉や他のホステスさんたちの言葉が脳を駆けめぐ
っていく。


 仕事って不思議だ。
元々はバイト感覚で、テキトーに時間が過ぎて給料もらえればいいやって
思ってたのに、今じゃあそれなりにコツも覚えてきたし、毎日出勤してい
る。
もちろんレギュラーだし、当たり前なんだけど、仕事するのが苦痛じゃな
くなっていた。
楽しいとまでは行かないけど、やりがいは感じる。
 だけど、今はやりがいとかそんなのより、なによりも有り難い。
働いてる間は、仕事の事意外何も考えないで済む。
次から次へと来るお客様たちが、私を悩みから一時的に解放してくれる。
 こうやって、いつも私は助けてもらってるのかもしれない。
知らず知らずの間に、お客様に救われていたのだろう。
これからはもっと大切にしなきゃね。
 せっかく丁寧に接客しているのに、閉店時間になるとお客様は全員帰っ
てしまった。
「はぁぁぁ」
もう、逃げられない。
 大きくため息をつきながら、更衣室に入ると和美はすぐに私の隣に座っ
た。
鏡を見つめながら、もう一つため息。
「今からperfume 行く?
京介と一体何を話してたのよ、佳織が泣くなんてめずらしい」
………いえ、めずらしくないんです最近。
なんだか隆史と再会してからずっと涙腺弱くって、ポロポロと泣きまくり。
 京介から聞いた話を言うと、和美はすごく驚いて黙り込んでしまった。
「隆史は一体どういうつもりでお金を返済したんだろう……。」
 『隆史』って単語がまるできついアルコールのように、酔わせてしまう。
名前を言うだけで、聞くだけで、私の頭は真っ白になってしまう。
「…それは本人に聞くしかないんじゃない?
京介にも行くって言ったし、perfume に行こう」
 和美の言ってることはわかる。
本人に聞くしか、真実はわからない。
でも、私は行けない………。
「勇哉くんと約束したもん、もうホストには行かないって」
 隆史に会っちゃダメだ。
名前を聞いただけで泣いちゃうのに、本人に会ってしまったらもうどうし
ようもなくなってしまいそうで恐い。
 ううん、既に私は隆史にドキドキしてしまっている。
ホントは会いたくて、会いたくて仕方がない。
 そう思ってしまうだけでも勇哉くんを裏切ってしまっているのに、ホン
トに会ったりしたら、もう引き返せなくなってしまう。
勇哉くんに会わせる顔がなくなっちゃう。
「そうも言ってられないよ。
 約束も大事だけど、勇哉くんのためにもちゃんと真実を知っておくべき
じゃない?
もしホントに隆史が返済したとしたら、そんな事勇哉くんの耳に入ったら
彼はすごく傷つくよ」
 勇哉くんんが傷つく?
………ああ、そうか。
 自分の借金を隆史が返したなんて、そりゃ傷つくよね。
「でも隆史はわざわざ勇哉くんに言ったりしないよ」
 そんな男じゃない。
私にすら言わなかったくらだ。
京介から聞かない限り、知らなかったと思う。
「わかってるよ、でも最近飲みにも行ってないし、ホストクラブなんて所
詮狭い世界だから、どこまで噂が回ってるかわかんないでしょ?
 とりあえず、本人に確かめなきゃ、何もできないし………。
 勇哉くんとの約束もわかるけど、行くべきだよ!」
………。
何度も説得されて、私はついにperfume へと足を向けた。
 ルージュともEDENとも違う、初めて入る店。
派手な看板とかなく、隆史の写真をポスターみたいに大きく貼ってある。
 薄いピンクを基調にしたかわいらしいお店。
まだオープンの時にもらっただろう胡蝶蘭がたくさん飾られてあるのを見
て、少し安心した。
私の一鉢くらいなくても、ちっとも見劣りしないくらい、豪華なオープン
だったんだろうな………。
 少し悲しいけど、後悔が軽くなった。
「いらっしゃいませ、ご指名はありますか?」
薄暗い店内に入ると、ボーイがニコニコと笑顔。
「隆史と京介指名でお願いします」
和美がそう言うと、ボーイは少し困った顔をして答えた。
「すみません、隆史は指名できないんです」
え?
 指名できないって、そんなに指名が入ってるって事?
人気ホストはテーブルがたくさん有りすぎて、時間内に裁ききれない程の
客数に達すると、客が帰るまでもう指名できなくなることがあるって聞い
た。
「あっ、京介さん!」
客の送り出しでもしていたのか、京介が後ろから帰って来た。
 そして私たち二人を見ると、営業スマイルをした。
「指名はオレでいいの?
それとも隆史?」
 ホント2重人格だ!
仕事前には笑顔のかけらも見せなかったくせに!!
「隆史は指名できないらしいから、京介でいいよ」
「……そう。
じゃあ、早速席に案内します」
 丁寧に慣れた仕草で案内する京介の後ろを付いて歩きながらも、私の目
はしっかりと隆史を捜していた………。
 薄暗がりじゃ、よく顔も見えないのに、だけど、私はすぐに隆史を見つ
けることができる。
 周りの空気が違うの、隆史がいるだけで特別な空間になってしまう。
ううん、私がそう思うだけかもしれない。
でも、どっちにしても隆史を見た瞬間から、私は何も考えられなくなって
しまった。
 今まで見たどんな姿よりも、かっこいい。
自分の店をオープンさせたからなのか、自信がみなぎっているよ。
 元々、男前だけど、仕事してる時が一番生き生きとしているんだね。
 つき合ってる頃は嫉妬ばかりして、ちゃんとわからなかったけど、接客
してる隆史はホントにステキだ。

「佳織、いつまで立ってるのよ」
隆史に見ほれていた私は、和美の言葉で我に返った。
 そうだ、隆史を見つめちゃいけないのに………。
「とりあえず、何飲む?」
 他の席に背を向けるように、私たちに向かい合って座った京介は、さっ
きまでの営業スマイルをスーッと消している。
「………」
その豹変ぶりに絶句している私の横で和美が淡々と答えた。
「………お祝いも兼ねてピンドンでも卸といて、後カミュもお願い」
ああ、そうだ。
私、お祝いしてあげれなかったんだ。
 隆史に、おめでとうの言葉すらまだ言ってない。
 何だか胸が締め付けられる。
同じ室内にいるのに、二人の距離はすごく遠い。
 ボーイに運ばれながら、数名のホストたちとピンク色したボトルが席に
到着した。
 他のホストクラブと違って、派手はボトルコールはないけれど、それぞ
れの席からホストたちが会釈しているのがわかる。
 席を囲むようにいる数人のホストたちと一緒にドンペリを開け、乾杯を
した時に、隆史が挨拶に来た。。。
「いらっしゃい、佳織、和美ちゃんも」
にこりと優しく微笑みながら、私の隣に座る隆史。
 いつもと同じエゴイストプラチナムの匂いが私を安心させる。
「開店おめでとう。
でも、忙しいんでしょ?
ココはいいから、他のお客相手しておいでよ」
 そしていつもと同じ和美の刺々しい物言い………。
 だけど隆史はさらりと聞き流して微笑んでいる。
「別に忙しくないし、オレがココにいたいからいるよ」
 隆史の目がとても優しく私を見てるのがわかる。
 なんだか機嫌がいい?
「あら、指名できないくらい忙しいんじゃないの?」
和美の質問に、隆史はにこりと微笑んだだけだった。
 あんまりにも鮮やかなその笑顔に、和美ですら、一瞬、黙ってしまった
くらい。
「perfume では隆史は指名できないんだ。
オーナーだから、一線から退く準備でもしてんじゃねぇの?」
代わりに答えた京介の声に、私は再び隆史を見た。
 そうなの?
そう聞きたかったけど、言葉にならなかったから………。
 そんな事聞いても、私には関係ないんだもん。

 だけど、隆史は小さくうなずいてくれた。
まるで、私の質問がわかっていたかのように。。。
「店が終わってからも計算とか色々と仕事があるし、同伴もアフターもで
きないホストを指名しても、お客さんもかわいそうだからだよ」
 それでも、あなたに会いたいお客さんはたくさんいるだろう。。。
「違うだろ?
お前が指名とったら、店の客の半分以上が自分の客になるからだろ」
ケラケラと笑いながら、京介はリアルな冗談を言った。
 うん、確かに隆史ならそれくらい有りかもしれない。
「そんな事ないって。
それより、今日はホントありがとう。
佳織にperfume で会えるなんて思ってなかったからすごいうれしい」
  話題をはぐらかすように隆史は私を見つめている。
 こんな近くに隆史を感じている。
それだけで、私の心臓はさっきからもう爆発しそうなくらいに、ドキドキ
としている。
 鼓動の音が飛び出して、隣にいる隆史にまで届いてしまいそうな勢いだ。
「遅くなって、ごめんね。
開店、おめでとう」
上手く言葉になっただろうか?
あまりにも胸の音が激しくて、自分の声が聞こえない。
 伝えたい思いはたくさんある。
気持ちだけはあふれ出してくるのに、どれもこれも言葉にならない。
「うわ、やべ。
オレ、かなり感動した!
マジ、やばいって」
隆史は子供みたいにはにかみながら、淡いピンク色したシャンパンの入っ
たグラスに手をかけた。
 そして、一口隆史が飲むとすぐにボーイが隆史を呼びに来た。
 ホントに一瞬だけの逢瀬って感じ。
わかっていた。
perfume は隆史の店。
 どのお客さんにも挨拶しなきゃいけない。
EDENにいた頃よりも遙かに忙しいはず………。
「お仕事頑張ってね、他の席に行かなきゃいけないんでしょ?」
言わなくてもいいのに、自分からテーブル周りを促してしまう。
 もう、何年も前から身に染みついた習性なんだろうか?
隆史から言われるよりも先に、自分から言う方が悲しみが少なくてすむか
ら、いつもそうしていた。
「ごめん、挨拶したらまた来るから……」
申し訳なさそうな顔をしていても、他の客の前ではニッコリと笑顔になっ
てる彼の背中を見送りながら、私は何度、泣きそうになっただろうか?
 頑張って押さえていた嫉妬と、寂しさを紛らわすのが難しかった。
ねぇ、隆史。
今、私を見て!
他の席で接客をしてる後ろ姿にテレパシーを送ってみても、宇宙人でもな
んでもないんだから伝わるわけがない…。
 そんなことわかってるのに、願わずにはいられない。
 隆史、こっちを見て。
私だけを見ていて。
その瞳に他の誰も写さないで!
その耳に、誰の声も届かないで!
 どれだけ深く思っていても、伝わらない。
どれだけたくさん願っても、叶わない。
世の中に神様がいるのなら、私はたった一つしか願わない。
 人類の平和なんていらない。
世界の平和なんていらない。
何もかもいらないから、隆史が欲しい。
隆史のすべて、一秒たりとも他の誰にも譲りたくないの!!

「わかっただろ?
隆史がたった一人からの祝福を願ってた事が…」
京介は、水割りを作りながら私に話しかけた。
だけど、私は隆史を見つめるしかできない。
 わかんないよ。
隆史の気持ちなんてちっともわからない。
彼の言葉はいつもキレイで、優しくて私をよろこばせてくれるけど、どこ
まで営業トークなのか、区別がつかない。
 誰にでも言ってるのかもしれないと思うと、むなしさがこみ上げてしま
う。
「で、その隆史の話なんだけどさ」
いつまでも隆史ばかりを見て、話そうとしない私にイライラしたのか、和
美が口を開いた。
 さすがに京介も私も次の言葉を簡単に予想できた。
 『勇哉くんの未収を払ったのはホントなの?』
いくらみんな仲がいいと言ってもココは隆史の職場。
 大きな声で喋る内容じゃない。
「みんな、知ってたりするの?」
ホストの世界は狭い。
 噂は雪だるま式に大きくなって広まってしまう。
「噂にはまだなってねぇよ。
知ってるのはオレと本人と川上さんだけ。
もちろん、オレは喋るつもりないから、佳織ちゃんが黙ってさえいれば、
勇哉本人は知らないままだろうな」
そんなに限られた人間しか知らない内容なら、噂にもならないだろう。
「良かったぁ」
勇哉くんが知ったら、どれだけ傷つくかわからない。
「……佳織ちゃんてさ、何でそんなに勇哉を守ってやろうとしてんの?」
ホントに疑問に思ったのだろう営業スマイルでもなく、険しい顔つきでも
ない京介の言葉に、私はちょっと笑ってしまった。
「何よ、守るって?
別に守ってなんかないよ、私なんかが勇哉くんを守れるわけないじゃん」
いきなり何を言い出すかと思ったら。
「…いや、守ってる。
元々未収だって本人の問題なのに、佳織ちゃんが助けようとしたんだろ?
じゃなきゃ、隆史があんな事するわけないし。
 それに、今日だって噂になってるか知るためにココに来たんだろ?
ホントは開店祝いなんて、名目で」
  どうしてこの人はいつも、こんなに心をえぐるんだろうか?
 違うと言えば、勇哉くんを裏切ってしまうことになる。
でも、そうだと言い切れない私がいるのも、事実だ。
悲しいくらいに、隆史に会いたかった。
 和美が説得してくれて、無理矢理に言い訳を探してでも、会いたかった
んだ。
私は隆史に会いたくて、会いたくて、必死で我慢していた。
ちゃんと、開店祝いを伝えたかった。
  どんな返事をしても、私は嘘をつくことになってしまう。
ううん、わかってる。
片方は嘘で、もう片方は裏切り。
 多分、私はココで「うん」と言うべきなんだ。
 だけど、言えない………。
 うつむいた私の目に、キレイに磨かれた革靴が入った。
顔を上げると、まぶしいほどの隆史がいる。
「もう酔った?」
 忘れる事もできない、残酷な男。
一目見ただけで、胸が苦しくて、泣きたくなっちゃうような存在。

 やっぱり来るべきじゃなかった。
隆史は、私の視界にいるだけで、恋心を思い出させてしまう。
 会っちゃいけなかった。
もう、思うだけでも裏切りになるのに、こんなにときめいてしまった私は
どれだけ勇哉くんを裏切ってるのだろう?
「何で。。。
どうして隆史が払ったりしたのよ?!」
 隆史が未収を立て替えたりしなければ、私はperfume に来ることはなか
った。
勇哉くんを裏切らないで済んだのに………。
「………お喋りだな、京介は」
小さくため息をつきながら、再び私の隣に座って、隆史は足を組んだ。
「オレのせいだから、だよ。
あの客は元々オレの客で、勇哉を潰そうと最初からそのつもりでルージュ
へ行ってたから」
…………。
 確かに客はそのつもりだっただろう。
でもそんなのこの業界じゃ、よくある話だ。
「たまたまソレが隆史の客だったってだけじゃない」
それなのに………。
「違うよ、オレが彼女に言ったんだ『今ライバルだと思ってるのはルージ
ュの勇哉だな』って。だから、だよ」
そうだとしても、いちいち隆史がお金を払っていたら、いくら稼いでも意
味がないよ。
ホントに日常茶飯事だもん。
「じゃあ、もしそれが勇哉くんじゃなくても払ったりした?」
隆史はグラスに口をつけて、目を伏せた。
「そりゃ同じようなことは他にもあった。
 口では適当に言ってても、オレにとってライバルなんて一人もいない。
そう思ってたから良かったんだ。
でも、今回は違う。
オレははっきりとアイツをライバル視していた。
ホストとしてじゃなく、男として………。
その気持ちが客にも伝わってしまって、今回の事になっただろうから、オ
レの責任だよ。
  それに、ルージュから京介を引き抜いてしまったから、挨拶の意味も込
めて払ったんだ。佳織が気にすることじゃないよ」
「………でも」
 もう京介も和美も私たち二人を見ようとしない。
 多分、話は聞いているだろうけど、他の話題で楽しんでる様子を装って
いる。

 ダメだよ。
私、泣いてしまいそう。
もう、限界かもしれない。
隆史が好きだ。
私は隆史を忘れるなんてできない!
 多分、私が他の男と寝るよりも、隆史と一瞬会った方がより酷い裏切り
になる。
それをわかっていて、私はperfume に来てしまった。
その時点で、もう………。
「んな不安そうな顔するなって!
この場で抱きしめたくなるだろ」
唇だけをわずかに上げて微笑んでいるのに、そう言う隆史の目はすごく切
なさが滲んでいた。
 三白眼って、いつもは冷たい印象を与えるのに、こういう時はまったく
違うんだね。
白い部分が涙に見えて、より一層悲しい表情に見える。
「………ホントに開店おめでとう。
隆史の夢が叶ってよかったね」

  私にはその言葉が精一杯だった。
他に言葉を並べても、どんな行動をとったとしても、涙が溢れてしまいそ
うで………。

勇哉くんを裏切っていると自覚していても、惹かれてしまう残酷な男。
 ただ、見つめるだけで、
その近くにいるだけで、私はこんなにも鼓動を高鳴らせて、ときめいてい
しまう。

 忘れたい!
いっそ、出会わなければ良かった!

そう願ってしまうほど、私の心は隆史に占領されている。
小さな隙間もないんだ。
 勇哉くんを好きだと思った。
今度こそ、新しい恋をしようと決めた。
でも、無理。。。。

隆史がこの世に存在する限り、私は忘れるなんてできやしないんだ。
  恋から逃げていた。
幸せになりたかった。
それだけなのに、今更わかった。
デートしても、あんまり楽しめなかった理由が………。

隆史じゃないから。
 隆史の声じゃない。
隆史の目じゃない。

たったそれだけの理由。

私はまた間違えてしまった。
もう、これ以上勇哉くんを裏切れない。
ちゃんと、言わなきゃいけない-----。




アンケート

誤字・脱字:





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