デンジャーボーイ
デンジャーボーイ

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1 プロローグ 2 ナンパな出会い 3 二人きり 4 香水 5 いじめ 6 ついにブチ切れ?!
7 優しい彼氏 8 疑惑の香り 9 お金持ち 10 結婚 11 再び登場 12 エピローグ

●●●
10 結婚
 「佳織!いいじゃんその指輪。」
和美は挨拶もなく、真っ先に私の指を見た。
「……昨日、買ってもらったんだけど…聞いてくれる?」
「ノロケ話だったら、聞かない」
「イヤ、違う。ノロケならうれしいけど、かなり重症なのよ、彼」

全部話終わると、和美はケラケラと豪快に笑った。
「強者だな。今時10万で売れる女子高生って少ないんじゃない?
それを逆援助で、そこまで稼ぐなんて!!」
「………真剣なんだけど?」
「ああ、ごめんごめん。
でも、本人に悪い事って自覚がないんじゃどうしようもないじゃん。
それに浮気より、援助の方が佳織的にも、気持ちが楽なんじゃないの?」
この際、私の気持ちなんてどうだっていい。
「犯罪だって、わかってもらいたいのよ。
下手したら、捕まるんだよ?
そのリスクがあるからこその報酬なんだから……」
「それくらいは、わかってるって!
バカじゃないんだから。でも次から次へと、問題のある男だね、お疲れ様!」
………。
何の解決にもなっていない。
「いいんじゃないの?
ウリできるのも若い間だけなんだし、いずれ辞めるって。それに、その指
輪だって、一応アイツなりに稼いだお金で買ったんだから、ちゃんと喜ん
であげた方がいいよ」
………。
喜んだわよ!
そりゃあもう、かなりうれしかった!!
でもその分、事実を知った反動も凄かったのよ。
ああ、マジ胃が痛い。
隆史の思考回路がまったくわからない。
私とは、全然違うのは確かだけど。
「一応、辞めてって言ってみるわ。
それで無理そうなら、諦める」
昼休みに、私は隆史に話しを切り出した。

「援助って、辞めた方がいいと思うの」
「なんで?」
透き通るような目で、覗き込む隆史。
そんな綺麗な目をしてるのに…。
「だって、犯罪だし」
「バレなきゃ平気だろ」
「……でも。彼氏がエンコーなんて、ちょっと悲しい」
隆史は、大きくため息をついた。
「はぁぁぁ、じゃあ、ちゃんと仕事としてなら平気なの?」
「仕事?」
「そう、出張ホストとかって、結局は同じだろ?」
援助をしてる高校生が、自分たちがソープのお姉さんと同じだと言うのと
発想が一緒だ。
「そうだねちゃんと仕事ならいいけど、出張ホスト自体、違反だよ」
「じゃあ、普通にホストとかなら、いいわけ?」
「……違う、そうじゃないけど。
でも、その方がマシかもしれない…」
どうしてそう、楽に稼ごうと思うのかな。
「マシって何だよ?
佳織だって、お水のバイトしてるじゃん。
オレ、ソレに文句言った事ないだろ?
だったら、佳織だって文句言うなよっ」
………。
胃がキリキリする。
なんで、わかってくれないんだろうか?
異物が胸につかえてる。
「そうだよね…」
「でも、そんなにエンコーがイヤならちゃんと働くよ。その代わりあんま
り逢えなくなるよ?」
「うん」
働くって、本気でホストをするつもりなのかしら?
ダメだ、ホントに吐きそう。
深く考えたら、クラクラする。
「じゃあこの話は終わりな!」
「うん」
お互いの教室に戻る前に、私は女子トイレに駆け込んだ。
「………。」
朝から胃が痛くて、ほとんど食事をしてなかったから、吐くモノなんてあ
まりないのに、吐き気がおさまらない。
そのうち、黄色い胃液を吐いてしまった。
 かなり、胃が参ってるのかな?
ちょっとお酒、控えた方がいいかもしれない。

「和美!私早退するわ。
なんか、かなり胃が痛いから」
教室に戻って和美に伝えると、和美は眉根を寄せて怪訝そうな顔をした。
「……また吐いたの?」
「うん」
「…ホントに胃?」
かなり神妙な顔して、和美は自分のお腹を指した。
「え?お腹?痛くないよ」
「アホ★
赤ちゃんだよ、赤ちゃん!
どうせゴム付けないで、ヤッてるんでしょ?」
……………赤ちゃん?!
「え、だって、ゴム一枚で全然感じ違うし、それに、
ちゃんと触れあっていたいから……って言うより、私、妊娠してるの??」
「私が聞きたいよ、ホントに胃が痛いの?
つわりなんじゃない?」
…………。
赤ちゃん。
赤ちゃん。
そう言えば最後に生理来たの、いつだったっけ?
  どうしよう。
「検査薬、一人で買える?
買って来てあげようか?」
「……」
和美の声もほとんど届かない。
どうしよう、赤ちゃん出来てるのかしら?
「とりあえず早退して、家で待ってなよ。
私もすぐに行くからね」
「うん」
どうしよう、出来てたら……。
職員室に早退届けを出してトボトボと歩きながら、私の頭には赤ちゃんが出
来ているかもしれないって不安でいっぱいだった。
どうしよう。
もう、その言葉しか浮かばない。
家に着いて、おばあちゃんには体調が悪いから帰って来たと言った。
これ以上、心配なんてかけられない。
しばらくして、和美がコンビニで判定薬を買って来てくれた。
……。
トイレに行って、使用する。
結果が出るまで数分あるけど私はトイレから出れなかった、怖くて。
お願い!出来てませんように。
祈るような気持ちで、そのバーを見つめた。
白い円になっている部分に、赤いラインが出れば陽性。
つまり、妊娠してるって事になってしまう。
………………。
………………。
………………。
「…………はぁ」
うっすらと、赤いモノが見える。
次第に、はっきりとラインになった。
「どうだった?」
トイレから戻ると、心配そうな和美の顔。
「……出来てるみたい」
「100%じゃないから、ちゃんと病院に行った方がいいよ」
「………うん」
でも、産むか産まないかを決めてからじゃないと、病院には行きたくない。
「隆史くんに来てもらう?電話してあげるよ」
「いい。ちゃんと自分の意見が決まってから話す」
私のお腹の中に、赤ちゃんがいるの?
なんか、まだ信じられない。
隆史と、私の子供。
隆史の子供。
………。
産めるものなら、産んであげたい。
隆史の子供だもん。
大好きな大好きな隆史の子供。
産んだ後、どうやって生活できる?
週末だけのバイトを、毎日に変ればそれなりに生活はできるだろう。
でも、妊婦がお酒なんて…。
出産するにしても、お金がかかる。
順調に出産できるかもわからない。
何度もハッパしてたし、隆史だってシンナーとかあるかもしれない。
それでも、産みたい。
どんな理由をつけてみても、やっぱり欲しい。
隆史の子供。
「…私、産みたい」
「そう。じゃあ隆史くんとちゃんと話し合うべきだよ。
彼だって、いきなりじゃ驚くだろうけど」
……。
驚くだけならいいけど、堕ろせと言われたらどうしよう。
それでも、産みたい。
 でも、かなり怖い。
ちゃんと話さなきゃダメだよね。
私一人の子供じゃないんだし…。
「学校終わったら電話する」
「………私は学校戻るね」
「うん」


和美が帰ってから、数十分で隆史から電話が掛かってきた。
『今から家に行っていい?』
「…………うん」
隆史は近くから電話をくれたのか、すぐに家に来た。
「和美から聞いたの?」
走って来たのだろうか、額にうっすらと汗を浮かべている。
「佳織が体調悪くて早退したってだけ。
でも何か深刻そうだったけど、どうした?」
乱れた前髪がうっとうしのか、しきりにかきあげる隆史。
「………赤ちゃんできたの」
動きを止めて、隆史は私をジッと三白眼で見つめた。
その力強い視線が、私には怖い。
………。
………。
「結婚しようか」
沈黙の後、隆史はニッコリとうなずいた。
それは、産んでもいいって事?
「産んでくれる?オレと佳織の子供」
もう一度、念を押すように隆史は優しく私のお腹を撫でる。
「……産んでもいいの?」
目頭が熱くなってくる。
すごく、うれしい。
「当たり前だろ?
結婚して、いい家庭を作ろうな」
堕ろせと言われる覚悟もあったけど、こんなにあっさりと認めてくれると
は、うれしい!
しかも、隆史と一緒に育てることができるなんて!!

 でも、本当の問題はコレからだった。
私の学校や、隆史の仕事。
それに、未成年の結婚には親の同意も必要。
 とにかく、諸事情よりも病院に行く事にした。
隆史は、ずっと手をつないでくれている。
お腹の大きな幸せそうな妊婦。
私と隆史は、かなり若いだろう。
それに男性が少ないせいもあって、場違いな気がする。
それでも隆史はずっと、私の隣にいてくれる。
「杉山さん」
看護婦さんに呼ばれて、病室に入った。
「尿検査は終わったよね、じゃあそのイスに座っててね」
産婦人科のイスは、足が開くような形になっていて、私の顔が見えないよう
にカーテンをひいてくれる。
 私は普通に座るだけで、下着も脱いでいなかった。
「エコーしようか」
少し、スカートをずらされて、ゼリー状の何かをたっぷりと塗られた。
ひんやりと冷たい。
「この画面見てて」
年配のお医者さんが、機械をゼリーの上にすべらすように動かすと、
画面には、白黒の映像が映る。
「この小さいの、見えるかな?」
画面に、小さく丸い陰が見える。
微妙に動いている。
「これが赤ちゃんだよ。
妊娠3週目くらいかな、つわりとか始まってる?」
「はい」
うわぁ、赤ちゃん。
もう、動いているんだ!!
「どうするの?
産まないなら早く手術しないと、危ないよ。時間がないから、ちゃんと考え
ないとね」
「え?」
お医者さんは、私の年齢から堕ろすと思ったのだろうか、そんなに堕胎って
多いのかしら?
でも、私は産む。
隆史がついていてくれるし。
「産みたいんです」
「……学生だよね?
私立?それとも公立?」
「公立ですけど…」
「じゃあ、校則も少しは大丈夫かな…。
保健の先生と相談して、ちゃんとコレからの事考えて行こうな」
「はい」
ホント、色々と大変そうだ。
赤ちゃんを産むのって…。
「大丈夫だった?」
診察室を出ると、心配そうに目を細めている隆史の顔。
「うん、3週目だって♪」
「そっか、良かった」
隆史みたいに綺麗な顔の男の子が生まれたらいいのにな。
そしたら、もう溺愛しちゃう!!
かわいがってかわいがって、甘やかしちゃう!
「佳織のつわりが治まったら、親に挨拶に行くよ。それまでは内緒にでき
る?
バレたら……もしかしたらオレらの意志とか無関係に堕ろせって話になった
りするかもしれないし……。
もう手術できない段階になってから、話した方がいいと思うんだ」
「うん、わかった」
親に挨拶か…。
どうしようもない男好きで、隆史を一目見れば、口説いてしまうかもしれな
いような母親に、会わせるのは、すごくイヤだな…。
「……おばあちゃんじゃ、ダメなのかな?」
私自身会いたくなかったのもあって、自然と、言葉が出ていた。
「母親と、何かあるの?
一緒に住んでないみたいだし……」
隆史は、冷ややかな目をさらに悲しい色で彩りながら、私に聞いている。
だけど、それはまるで自分の事のように切ない声だった。
「何もないんだけど、私があの人を嫌いなだけ」
母親だなんて思いたくもない、存在。
それなのに、隆史は私を軽く睨んだ。
「自分の親をあの人なんて呼ぶなよ。
どんな人間でも、佳織をこの世に産んでくれたんだから、感謝だろ?」
「……そうだね。
隆史の親にはかなり感謝!こんな男前に生まれたんだもんね!」
「…オレの親は、無理。
父親には会った事もないし、母親はオレを捨てたくらいだぜ?
一応、責任って形で毎月家賃と生活費として10万送ってくるけど、
もう何年も会っていないよ。
まだ幼稚園くらいの頃に、おばあちゃんにオレを預けて、それから中学に上
がるまではずっと放置状態。
あげくに、「もう中学生なんだからいつまでも、おばあちゃん
に迷惑かけるな」って強制的にあのアパートに引っ越し。
……母親ってより、人間失格なんだ。
酒と男に溺れてるらしいよ」
………。
私の親だって酷いけど、隆史の母親ってもっと酷いかも。
壮絶。
普通、中学生を一人暮らしなんてさせないだろ?
それに、音信不通だなんて…。
うちの親はまだ一応ご飯も作ってくれたし、それなりに親らしいことはして
いた。
ただ、男関係が乱れているだけで…。
お互いに、親や家の話題に触れる事がなかったのは、納得できた。
必要以上に話したいとは思わないもん。
でも、二人で家庭を持つ以上、それまでの生い立ちも含めて、色々と話す必
要があるのかもしれない。
「じゃあ、隆史の親は結婚を認めてくれないかもしれないの……?」
隆史は、悔しいまでに切ない表情で笑った。
その笑顔がいつになくはかなく見えて、私の胸に届く。
「大丈夫だよ。あんなの捺印と署名だけだろ?誰かに代わりにしてもらうか
ら」
「……私が、いっぱい愛してるよ」
隆史の母親の分まで、隆史を愛してる。
守ってあげる、これからは。
「ああ、オレも愛してるよ」
今なら少しはわかる。
彼が必要以上に愛してるって言葉を使うのも、そして、その意味があまりに
も軽く感じられてしまうのも。
彼は、母親の愛情を受けずに育った。
それは、私が想像するよりももっと、彼を愛を知らない人間にしてしまった
のかもしれない。
だから彼は愛されたいと願いながら、愛する事を知らない。
いつも、淋しくて誰か側に居てくれないと、どうしようもない位不安になる
のだろう。
愛情に飢えている。
言葉にすれば、すごく陳腐だけど、ホントにそうなのかもしれない………。
いつも、どこか冷たく感じるその目。
私が、たくさん愛するよ。
あなたの子供と3人で、幸せな家庭を築こう!

 そう決心して、私は今まで相談にのってもらっていて、和美に報告をこめ
て、電話をした。
「おめでとう!って言ってあげたいけど、あなた達は結婚できないよ」
「なんで?!」
いつもいつも、幸せに水を差してくれる和美だけど、今回はどこにも付けい
る隙なんてないはず!!
「なんでって、法律で男は18歳まで結婚できないって決まってるじゃん。
だから、彼が18歳になるまでは婚約って形になるんじゃないの?」
……………忘れていた。
ああ、私ってかなりのおバカさん。
私は16歳だから、大丈夫だけど、確かに彼は後2年無理だ…。
「まぁ、ヤツが言ってるみたいに、中絶できない時期になるまでは、
黙ってる方がいいと思うよ。
佳織の学校も、別に急いで辞める必要もないんだし」
あんまりにも古典的なオチで、参ってしまった。
ホント、私ってバカ。


 結局、産むって事は絶対に譲れない事だし、つわりも治まるまで、
誰にもバレないようにほとんどの時間を隆史の部屋で過ごしていた。
吐きそうになっても、隆史は背中をさすってくれたり、意外と料理もできる
みたいで、さっぱりとしたモノを作ってくれる事もあった。
 学校は、朝、激しいつわりじゃない限り出席していた。
もうすぐ辞めると思うと、少しでも多くの時間を隆史と一緒に通学したかっ
たし、色々あったけど、クラスメートとかにも、もう逢えないと思うと、悲
しい気持ちになった。






2004-2005©白雪姫-hime-