デンジャーボーイ
デンジャーボーイ

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1 プロローグ 2 ナンパな出会い 3 二人きり 4 香水 5 いじめ 6 ついにブチ切れ?!
7 優しい彼氏 8 疑惑の香り 9 お金持ち 10 結婚 11再び登場?? 12 エピローグ

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11 再び登場??
「杉山って、マジ愛されてない?
なんかお前らカップル見てると、オレら虚しくなる」
この前の席替えで隣から斜め前の遠さになってしまった、黒井はからかう
ように、毎登下校を教室まで一緒にいる私と隆史を不思議そうに言い出した。
「なんでよ?」
「だって笹岡ってかなりモテるし、チャラ男っぽいだろ?それにお前だっ
てかなりギャルってるじゃん。
そんな二人が、ラブラブって…。
ホントは他に男いるだろ?それか、笹岡に女がいるとか?」
……失礼なっ。
「隆史にはいるかもしれないけど、私にはいないわよっ!
ギャルって言われてもそんなつもりもないし、だいたい見た目で人を判断
しちゃいけないんだよ?
私はかなり一途で、純情なのよ♪」
黒井は、笑いながら話してる。
「…なんか嘘くさいな。
しかも、彼には女がいるかもしれないって、信用してやれよあんなに一生
懸命じゃん。不気味なくらい」
「不気味って、ソレは隆史に失礼じゃん。
そんなんだから、女出来ないんだよ!」
「うるさい!
よく、笹岡もこんな女で我慢してるよなぁ。
アイツレベルなら、いくらでもいい女いるだろうに……」
コイツ、マジむかつく!!
でも、こういうやり取りも後数日で終わりかと思うと、何を言われても許
せてしまう。
楽しいよね、何か。
さすがに隆史も同じ気持ちなのか、休み時間のたびに、私の教室に来る事
はなくなった。
昼休みと放課後くらいで、後はお互い最後の学生生活を満喫しようとして
いた。



「今日、私お店に行って来るね」
放課後、手をつないで帰り道、思い出したように私は言った。
「ああ、ちゃんと言えるか?」
「うん。」
妊婦がホステスってのは、かなり辛いので、バイトを辞める事にした。
そりゃ、いずれは復活するかもしれないけど、今はあんな身体に負担をか
けるようの事できない。
空気も悪いし朝夕逆転しちゃうし、お酒もあまり飲めない。
急に休むと言っても迷惑をかけるので、週末前にきちんとしておきたかっ
た。



 「そっか、じゃあ産休を取るって事にしませんか?
ママもあなたと和美さんにはかなりの期待を寄せてるみたいだし、出産後
の生活とかもあるでしょ?
もちろん託児所も、ちゃんと用意しておきますから」
黒服の服部さんは私の話を聞いて、とりあえず、私にも条件のいい方向で
話を進めてくれる。
隆史の学校もあるし、就職と言ってもすぐに見つかるわけじゃない。
まだまだ何も解決していない状態に、おいしい条件だった。
「でも、すぐに働けるかどうかわからないですよ。それでもいいんですか?」
「もちろん。正社員じゃないから、ちゃんとした契約って形じゃなくて、
私と佳織さんの口約束って感じだと思ってもらえれば、いいと思います」
服部さんは、いつも無口で私たちが働き安いように、素早く対応してくれ
ている。
ほとんど笑顔を見た事もないけど、その対応に優しさを感じていた。
きっと、彼は誠実な人なんだろうな。
「……じゃあ、それでお願いします。
それで、すごく申し訳ないんですが、今週末から、もうお休みしてもいい
ですか?」
「そうですね、妊婦にはちょっと厳しいですね。じゃあ、今月分のお給料
を用意しますので、明日以降に取りに来てもらえますか?」
「はい。ありがとうございます」
「じゃあ、ママにもそのように伝えておきますから」
私は、最後に頭を下げた。
それから店を出ようとドアの取っ手に手をかけた時、服部さんにしては珍
しく、少し大きめな声で、私を呼び止めた。
「佳織さん!
頑張って元気な赤ちゃんを産んで下さいね」
「…はいっ」
とりあえず、一つ解決。
私のつわりもだいぶん落ち着いて来たし、後はおばあちゃんの説得だけか
な?
はぁ。
一番の問題だ。
でも、説得してちゃんと認めてもらわなくちゃ…。
何から話そうかな、まずは2年間結婚できない事から?
子供を自分で育てるって事から?
考え事をしながら歩いていたせいか、それとも人混みだったからか、私は
その時、悪意に満ちた私への視線を感じる事ができなかった。
駅に続く階段を上っている時、不意に名前を呼ばれた。
「杉山…さん」
下から聞こえる声に振り向こうとした途端、私の腕を誰かに思い切り引っ
張られた。
姿勢を崩した私は、そのまま階段を転げるように墜ちた。
「きゃぁあああああっ」
かなりの激痛がお腹に走る。
「……赤、ちゃん…」
階段の上にまだいるだろう、私の腕を引っ張った相手をうつろな目で捜し
た。
 ニヤリと意地悪そうに笑う、田所の顔。
ヤラレタ!
「誰か!救急車を!!」
通りすがりの人が、私の頭上で叫んでいる。
「君、大丈夫か?」
「………」
私より、赤ちゃんを!
お願い、赤ちゃんを助けて!
隆史の赤ちゃんなの!!
 私の意識があったのは、ココまでだった。





 目覚めると、真っ白い天井が目に入った。
ココ、どこ?
「佳織、気がついたの?」
ばあちゃんの声が耳に入った。
ああ、そうか。
私、階段で転んだんだ…。
あっ!
「赤ちゃんは?ねぇ、お腹の赤ちゃんは?!」
「医師(せんせい)に来てもらおうね、佳織」
ばあちゃんは、私の質問に答えない。
「そんな事より、赤ちゃんは?!」
「……ちょっと落ち着こう。鎮静剤を打つよ」
慌てて到着した医師は、寝ている私の腕を取り出した。
「私は落ち着いてるわよ!!
それよりも、赤ちゃんは?
医師、赤ちゃんは大丈夫なの??」
「………運ばれた時には、もう手遅れだったんだ。妊娠初期は、微妙な事
でもすぐに流れてしまう。だから、仕方がなかったんだ」
抑揚のない乾いた声が、説明している。
何を言ってるの?
私には分からない。
分からないよ……。
ねぇ、赤ちゃん返して!
私のお腹に赤ちゃんを返してよ!!




薬が廻ってるのか、私は再び意識を失ってしまった。
次に目覚めた時には、和美が来ていた。
「おばあちゃんから聞いた。
階段で転んだって?
ドジなんだから……」
悲しそうに、笑いかけてくる。
煩わしい。
もう、誰も私に話しかけないで。
何も喋りたくない。
「…佳織、おばあちゃんすごく心配してるよ。
隆史くんも来てたんだけど、追い返えされちゃった」
隆史…………。
「あやまらなくちゃ……」
隆史の子供、産んであげられない。
「隆史にあやまらなきゃ」
「佳織?」
まるで夢遊病に冒されているかのように、私はベッドから起きあがろうと
した。
フラリと身体が揺れる。
でも、隆史に謝らなくちゃ。
「佳織!まだ動けないって!!」
和美が私の身体を抱きしめるように、動きを止める。
「離して!隆史に会わなくちゃ!!」
「佳織!ダメだよっ」
「離して!!」
ふりほどこうとするのに、身体に力が入らない。
ねぇ、隆史に会わせてよ。
頭の中で何かが壊れる音がした。
でも、それに気づかないくらい、私は狂いかけていた。
「隆史に会いたいの、どうしても会って言わなくちゃ…」
「わかった!
今度会わせるから、絶対会わせるから。とりあえず今日は安静にしてよう
よ、ね、佳織」
「……許さない」
「何を?何を許さないの?」
「田所を捜して!
殺してやる!私が殺してやる!!」
もう、すべて無茶苦茶にしてやる!
赤ちゃんが帰って来ないなら、もう何もいらない。
田所を殺してやる!!
「…田所に、階段から落とされたの?」
「………」
もう、何も考えたくない。
ソッとしておいて、欲しい。
誰も、何も私に構わないで!!


私はまた鎮静剤を打たれて、寝てしまった。
次に目が覚めた時は夜中なのだろうか?

 

 誰もいなくなった病室。
たった一人、お腹に赤ちゃんもいない。
照明も落ちていて、暗い。
………何もない。
跡形もない、隆史と私の赤ちゃん。
あなたは今、どこにいるの?
一人じゃ、淋しいよね?
私も、あなたのいる所へ行ってあげる。
待っててね、すぐに行くから・・・。

私は、ほとんど無意識にナースセンターに向かった。
そこで、引き出しにしまわれているカッターをパクッた。
「杉山さん?ちょっと何をしてるの?」
看護婦たちが、話しかける。
ウザイ!
私の事はかまわないで!!
止める誰も関係ない!
無我夢中で、自分の手首にカッターを押し当てた。

待っててね、赤ちゃん。
力一杯、カッターを引く。
もうすぐ、逢えるよ……赤ちゃん。

手首から、ドクドクと血が流れる。

もうすぐだよ、早く逢いたいね、赤ちゃん。
私と、隆史の赤ちゃん。

脈の動きに会わせて、流血していく。

「早く止血を!!」
もう、誰の声も聞こえない。
このままもっといっぱい血を流せば逝けるよね?
私の望む、あなたのいる世界へ……。









 「佳織………?」
おばあちゃんの、声が聞こえた。
………。
………。
………。
私、逝けなかったのね……。
もう、哀しみも感じない。
神経が麻痺してしまったのかしら?
「もう、心配かけないで…、お願いだから」
おばあちゃんが、泣いている。
でも、何も感じない。
「……。」
「あんたの、お母さんも心配して来てるよ」
「佳織!あなたって娘は、どうしてこう、心配ばっかりかけるの?
お母さんが何をしたって言うの?
そんなにお母さんを苦しめたいの?」
ヒステリックに、叫んでいるこの女。
ウザイ。
ウルサイ。
どうして、静かにしてくれないの?
何も考えたくないのに…。
私、何で生きてるのだろ。
誰が何を話しかけても、私の耳には届かなかった。
出される食事にも手をつけないで、無理に口まで運ばれると、えずいてし
まう始末。
仕方なく、医師は私に点滴を施した。
「和美ちゃんが来てくれたよ」
「……」
「隆史くんも一緒にいるよ、下で待ってるけど、動ける?」
「……」
無反応な私を、和美は車いすに無理矢理座らせ、隆史のいるロビーまで連
れて行った。

「佳織っ!」
私の姿を見つけると、隆史は立ち上がり、近くまで小走りに駆け寄って来
た。
近くまで来ると、車いすに座る私を両腕にしっかりと抱きしめた。
「佳織……佳織」
暖かい腕と、いつものプラチナムの匂いが私を包み込む。
「…ごめん、なさい」
私、隆史の子供、見殺しにした…。
私だけ生きてるの……ごめんなさい。
「謝るなよっ!
お前が悪いんじゃないっ」
さらに一層力強く、隆史に抱きしめられた私の中で、何かが切れる感じが
した。
「隆史………」
今まで忘れていた涙が堰を切ったように、一斉にあふれ出した。
「っ…赤ちゃ、っく、ん欲しかった、の…」
「うん」
「でも………もう、い、ない…の」
「うん」
「………わ、た…し、産ん、で…あげた、かった…の」
「もういいよ、佳織、分かってるよ・・・」
隆史は、ギュッと抱きしめる腕に力を入れた。
「佳織、もういいから……」
私の涙は止まらない。
隆史は、ずっと抱きしめてくる。
その暖かさが、凍りついて止まっていた私の心を溶かす。
「産んであげたかった!!」
「うん、わかってるよ。
佳織、もう大丈夫だよ」
「…隆史っ!!」
背中に回された腕が、背中を優しくさすってくれている。
ずっと、ずっと……。
私が泣きやむまで、優しく。
「こんな事、もうしちゃダメだぞ」
少し落ち着いた私の左手首に巻かれた分厚い包帯を、隆史は痛々しそうに
撫でた。
「…うん。
でも、ちゃんと覚えていないの、その時の事」
「……。
佳織、オレをちゃんと見て」
震える指先で、優しく頬に触れられた。
私を上向かせるように、サポートしてくれている。
「……隆史」
久しぶりに見る、意地悪そうなつり上がった三白眼に、情けない顔をした
私が写っている。
「オレは、佳織が生きていてうれしいよ」
優しく細めれられた目薄い唇から漏れる言葉は、まるで呪文のように、私
の乾いた心に染みこんだ。
「…うん」
少しずつ穏やかな気持ちになっていくのがわかる。
「佳織、大好きだよ」
隆史は優しくニッコリと微笑むと、私の唇に軽いキスをくれた。
いつも、別れ際にくれる、早業。
「あなた達、一体何をしてるの?!」
いつから見ていたのか、うるさい母親が大きな声で、叫ぶ。
「アンタの声の方が目立ってるよ」
「……佳織?喋れるのね??」
お母さんの声は、震えていた。
これでも、心配してくれていたのだろう、私の事を……。
「あなたが、佳織を妊娠させたの?」
軽蔑の対象だった母親を思い直そうとした矢先に、この女は小さいとは言
えない声で、発言をした。
「…お母さんこそ、ここをどこだと思ってるの?往来の場で…もうちょっ
と考えて喋ってくれる?」
「あ……そうね」
慌てて、周りをキョロキョロと見渡している。
もう、遅いっての。

隆史は、どれだけ母親とばあちゃんに文句を言われても、謝り続けていた。
私が止めても、それを振り切って謝ってばかり。
「もう、いい加減にしてよ!
隆史だけが悪いんじゃないって、さっきから言ってるでしょ?
文句ばかり言うなら、出て行ってよっ!」


 私はすぐに体力を回復して、3日後には退院をしていた。





2004-2005©白雪姫-hime-