…………寝不足だ。
かなり、眠い目をこすりながら、遅刻ギリギリに登校した。
昨日、和美と別れた後もずっと、私はメールチェックばかりしてい
て、ほとんど眠れなかった。
結局、隆史くんからのメールは届かなかったけど……。
そりゃそうだよね。
彼の携帯メモリってかなりの数登録されてそうだし、A LOT OF
の一人にすぎないんだろうし…。
「おっはよ!」
「おはよ……」
クラスメイトの爽やかな挨拶をうざく感じながら教室に入ると、なぜか
女子の数が少ない。
「何かあったの?」
いつも賑やかな朝の教室が、ほとんど男子ばかりだから、かなり静か。
隣の席で、週間漫画を読んでいる男子生徒に聞くと、彼はいやぁな顔を
しながら答えてくれた。
「知らないよ、なんか5組の笹岡がどうのって騒いでたけど?」
隆史くんが?
一体何?
うわ、気になる!
凄く気になる!!
何なんだろ?
でも、何かミーハーだと思われるのもイヤだしなぁ…。
幸か不幸か遅刻ギリギリだったおかげで?
チャイムが鳴って、クラスにチラホラと女生徒が戻って来た。
「信じられないよね!」
「ホント!一体、何を考えてるんだろう」
「私だったら絶対隆史くんを振ったりしないけどなぁ」
「私も!!」
「でも、なんかかわいそうだったよね。
目の下にクマなんかあったし……」
別にびっくりした訳でもないけど、耳を大きくさせて、ジッと女子の話
を聞いていると、どうやら、隆史くんが振られたニュースが彼の登校と
同時に流れて、打ちひしがれている美少年を一目見ようとか、なぐさめ
てあげようって感じで5組に集まってしまったらしい。
………。
マジっすか?
いや、人気があったのは知ってるけど、こんなに凄い人気だったと
は……。
そりゃ恐れ多くて、メールくれ!なんて言えないし。
それに、昨日はあまりのうれしさにテンパってたけど、私ってば思い切
りTHEホステスだったのよね。
彼にだけはバレたくなかったんだけど…。
ま、私だとバレなきゃいい訳なんだけど、
でも、バレないって事は、どんな厚化粧なんだ私って?
かなりナチュラルに近いケバメイクなんだけど(どんなメイクだろう
か……)な。
でも寝不足って、あれからどうしてたんだろ?
どうせ、ほかの女ナンパして、テイクアウトだったんだろうけ
ど……。
「おはよ……」
かなり眠気満開で、和美が朝のSTが終わってから余裕で遅刻をかまし
て来た。
「おはよ。昨日寝てないの?」
「うん……。後でね」
そう言うと、スタスタと自分の席に座り、パタリと机に俯せてしまった。
おい!
堂々と遅刻してきて、爆睡態勢かよ?
あなどれない、女生徒・和美?
「ああ、まだ寝足りない!!」
と、ほんのりメイクした目を軽くこすりながら、休み時間に和美は私の
席まで来た。
「昨日あの後、一樹くんから電話がしつこくってさ!
結局地元に帰って、麻雀してたんだって。それで隆史くんにボロ負けだ
ったらしくて、グダグダと何回もかけてくるのよ!!
マナーモードにしてれば良かった!」
それで、隆史くんも寝不足?
あはは!
みんなが思ってるのと全然違うじゃん!
なんだ!そうだったんだ。
良かった、女をお持ち帰りしてなくて♪
「で、今日はクラブ行くでしょ?
今日のイベントって、あのクソつまんない『チェンジ』が来る事みたい
だよ」
チェンジって、ダンスチームなんだけど、コレがまたすごく下手なの
よ!!
笑えるくらいに!
でも、その下手さが受けて、なぜか大人気♪
「イベントなんてどうでもいいよ!
盛り上がるかどうかが問題じゃんか。
はじけられそうだし、行こうよ!」
そう、私ってばお祭り大好きなのよ。
小さい頃から、まだパパと一緒に生活してた時なんかは良く連れて行っ
てもらったの。
「はいはい。じゃあ、私服も持って出勤ね。
私今日同伴入ってるから、先に帰るよ」
先帰るって、言っても授業が終わってからだろうと思っていたのに、和
美は午前の授業が終わるとすぐに早退していた。
アイツ、単位大丈夫なのか?
今日だって遅刻の上に早退だぞ……。
って、人の心配する前に自分だ!
プリクラ帳に化けてしまったスケジュール帳を開いて、メモの所を見
た。
げっ!
古典の単位がギリギリ!
後二つさぼれば、留年じゃんか……。
あれ?
でも、私が2つでヤバイのに、和美、ホント大丈夫かよ?
まぁ、とにかく私も頑張って学生しなくちゃね。
ばっちり6時間授業を受けて、担任のつっまんないくせに長い話しかな
いSTが終わると、大急ぎで帰宅した。
掃除?
そんなのさぼりに決まってるじゃん!
それから、今日仕事の後着る服を念入りに選ぶ。
どうしようかな?
ボンテージのベアトップにフレアミニ。
この服なら、編み上げブーツがいいんだけどカバンに入らない……。
いや、無理矢理つっこんだらなんとかなるかな?
大きなショップ袋にそれらを詰めてから、バイト用の顔作りを始めた。
女って化粧してる時って、なんか気分がいいんだよね。
ドンドン自分が違う自分になるって言うか、気合いが入るって感じ?
「ばーちゃん!行って来ます!」
気合い入りまくって、元気よく家を出た。
あの服装なら巻き髪にでも合うし、今日はホントはじけるぞ!!
店に着くと、今日も昨日と同じく大繁盛。
ホントこの不景気に立派なモンだわ。
「おはよう、佳織ちゃん」
「おはようございますぅ」
なんとなくブリッコをしながら、テーブルに着いてみたりした。
「今日はご機嫌?」
「いや、なんとなく?」
「そうなんだ」
「うん」
常連客は、私の行動をいつも面白いと言ってくれる。
いや、別に芸人じゃないから笑わせたいわけじゃないんだけどね。
でもまぁ、男にも2枚目とか3枚目ってあるように、私のキャラが定着
しつつあるのは、ホステスとしてはいい事だと思ってる。
おかげで、口説き客がやたらと少ないのよね♪
パパ作りが目当てじゃないから、かなりうれしいのだ!!
中には、いい年したババアがシナを作って、色気ムンムンで頑張って
るホステスさんもいたりする。
ああは、なりたくないわ。
もうババアになったら早々に寿引退したいモノ!
適当にいい男捕まえてればいいんだけど、かなり不安だよな。
私って男運が悪いと言うか、男選びが悪いと言うか……。
適当に会話をしたり飲んだりしていると、アッという間に、閉店の時
間になった。
このバイトを始めた時は、すごく不安で5分すら長く思ったもんだけ
ど、今では接客さえしてれば、なんとなく時間は過ぎてるって感じ♪
私ってばかなりプロっぽいんじゃ?
なんてうぬぼれてしまいたくなるくらいには、慣れてきた。
「お疲れ様でした!!」
お客様のすべてが帰ってから、私と和美は大急ぎで服を着替えた。
「奇遇だね。私も今日はブラック系にしたから二人で歩いても変じゃな
いよ」
二人ともかなり洋服が好きだから数だけはあるんだけど、そのおかげで、
二人でチグハグなカッコになることも多々有り。
私がゴシックロリータなのに、和美がギャル系とか、統一感のないコン
ビって感じで、ソレはそれでもいいんだろうけど、やっぱ釣り合いがと
れてる方が見栄えっていいと思う。
「さてと、じゃあ行きますか?」
「うん!」
元気よく店を出ると、さすがに土曜日。
オヤジ共までサタデーナイトとか死語を使ってはしゃいでるくらいの人
混み。
クラブに着くと、大音響でほとんど声も聞こえない。
チェンジのメンバーが丁度フロアに登場した所で、かなりの歓声。
「熱い」
熱気がすごくて、かなり熱い!
う〜ん、お祭り好きだけど、この熱気は嫌いだ。
とりあえずカウンターでビールを頼みながら、適当にチェンジのイベン
トダンスを見ていたんだけど、なんだか今日は気分が乗らない。
「つまんねぇ……」
面白くなさが満面に顔に出ていたのか、和美が出口を指さした。
私はうなずいた。
二人で、結局10分くらいでクラブを出てしまった。
なんでだろ……。
それなりに楽しみにしていたし、普段なら全然あの程度ではしゃげたん
だけどな。
「何か気分が乗らないみたいだね。
ハッパでもする?」
「バッドになりそうだから、それもいいや」
何だろう……。
何かが違う。
も一つ、パッとしないんだよね。
「とりあえず飲まない?
近くにバーとかありそうだし」
適当にトボトボと雰囲気のいいバーを探しながら歩いていると、和美が
私の腕を急に掴んだ。
「隆史くんたち、今日も出てるみただよ。
懲りないナンパ少年だね」
んんんんんん?
前方をよおく見てみると、確かに二人を発見。
ナンパなんてしなくても、電話すればすぐに女なんか調達できるだろう
に……。
「あ、気づかれた。。。」
一樹くんがこっちに気づいて、手を大きく左右に振りながら近づいてく
る。
一樹くんって、和美に気があるんだろうな。
かわいそうに、相手されないって!
和美の彼氏は今はやりのIT関連の会社の社長さんだよ。
しかも妻子持ち・・・。
「今日はまた違った雰囲気だね。二人共」
「そう?」
隆史くんも一歩遅れながら、私の隣に来た。
「昨日、メールくれなかったろ?待ってたのに」
シラっとそう言ってのける。
嘘をつくんじゃない、嘘を!!
「徹マン(徹夜で麻雀)してたって聞いたよ?」
さすがは男前、こんな嫌味にも動じない笑顔で、さらに嘘の上塗り。
「うん、みんなで麻雀しながら待ってた。でも、今日もくれなかっただ
ろ?」
………。
本心とはとても思えない会話をしながら、私はやっぱりドキドキしてし
まう。
嘘でもいい。
それでも、こんな言葉をもらうと素直にうれしい。
「私も待ってたの。だって、隆史くんって忙しそうだから、いくら教え
てもらっても、やっぱり迷惑なんじゃないかなって、思うとできなかっ
た」
コレは私の嘘。
アドレス交換して、速攻メールなんてまるで待ってました!って感じで
飢えてるみたいだし。一日おいてメールとか電話する方が成功率が高い
んだもん。おかげで一日は放置するのがクセになってしまっていた。
「そっか、遠慮してたんだ。良かった。
それってオレの事嫌いじゃないって事だもんな」
どうして、こうも女が喜びそうな言い方をするんだろうか?
「うん」
嫌いじゃないどころか、大好きだって感じ!
と、言いたいのをグッと堪えた。
なんか、ヤバそう。
私、マジではまっちゃいそうで怖い。
こんな得体の知れない男前にマジ惚れしたら、かなり大変だろ
う……。
ドキドキしている心臓とは裏腹に、冷静な判断をしてる自分がいる。
ダメ。
本気になったら!
自分でそう言い聞かせなきゃ、止まらない。
こんな綺麗な顔で、ジワジワと精神的攻め言葉を使われてしまうと、気
がついたら奈落の底にいそうな自分が怖かった。
「こら、そっち佳織を口説かないように!」
前方を3メートルくらい離れて一樹くんと歩いていた和美がいきな
り振り返った。
「え?まだ口説いてないんですけど?」
クスっと小さく笑いながら、隆史くんは「なっ?」と同意を求めてき
た。
いや、あなたの場合、存在そのものが口説いているかもしれない。
引き寄せられてしまいそうになるのは、私だけじゃないと思うもん。
「佳織ちゃんって、まさかと思うけど処女だったりする?」
な、なんなんだ?
今度は一体どんな攻め技?
何がどうなると、いきなりこんな質問が飛び出すのだろうか?
その意味を知りたくて、ジッと隆史くんの顔を見つめた。
………。
撃沈。
ダメだ。
顔を見ると、ドキドキしてしまって、思考能力が失われてしまう。
目で人を殺すってよく耳にするけど、きっとこんな感じなんだろうな。
「いや、適当には経験してます。はい」
隆史くんは、納得したように大きくうなずいた。
「だよな!なんか和美ちゃんがやたらとガードしてるから、もしかした
らって思ったんだ」
ああ、和美はいつもあんな感じ。
なぜかいつまでたっても、私を守ろうとしてくれるのよね。
でも、隆史くんに対してはかなり、過剰に防御してくれてるみたい。
そりゃ、友達としては心配だろうな。
私自身、とってもありがたいんだけど…かなりやばいっす。
「じゃあ、実はお嬢様だったりする?」
「まっさか!お嬢がこんな時間にこんな所にいないでしょ?
ましてや、水商売なんてしないって!!」
大きく否定すると、隆史くんは眉根を寄せて、複雑そうな顔をした。
またその顔の色っぽい事!
男前って、きっとどんな表情しても綺麗なんだろうな。
「やっぱ、オレに佳織ちゃんを近づけたくないだけか……」
大きくうなずきたいほど、ご名答でございます!!
でも、なんかその綺麗な顔をあんまり曇らせたくないから、ごまかすこ
とにした。
「さあ、どうだろうね」
すると、彼は途端にさっきまでの憂いを帯びた表情を華やかに微笑まし
た。
「友達なんて関係ないよな?
問題は佳織ちゃんが、オレをどう思ってるかって事だから!」
ああ、ホントどうしましょう?
こんな言葉で、せっかく防御してくれてる和美ちゃんの友情も、必死で
冷静になろうとしている自分自身すらも、裏切りたくなってしまう。
私は、曖昧に笑うしか出来なかった。
「で、どうする?
カラオケでも行くの?」
一樹くんが私たち二人に聞いてきた。
和美の昨日の態度を思い出すと、一緒に遊ぶにも抵抗を感じてしまう。
そりゃ、隆史くんの歌とか聞いてみたいけど…。
「いいよ、なんか今日ノリ悪いみたいだから、つき合うけど?」
和美は私にウインク一つと、OKをくれた。
「隆史くんはどうしたいの?」
「オレは佳織ちゃんと一緒なら、それでいいけど」
うっわ★
直球だよ、そのセリフ。
どうして、こうも思わせぶりなセリフが次から次へと飛び出して来るん
だろう?
こんなドラマ顔負けのいい男が、こんな事言うなんて、かなりの反則じ
ゃん。
「はいはい!じゃあ決定ね」
照れまくる私をなだめるように、和美がカラオケ行きを決定してくれ
た。
うーん、感謝!
「佳織ちゃんはどんな歌が好き?」
ボックスに着くと、当たり前のように一樹くんが和美の隣に座り、対面
するように私と隆史くんも隣同士に座れた。
「……何でも歌えるの?」
隆史くんは本をパラパラとめくりながら、うなずいた。
どんだけ来てんだよ?
と、つっこみたい気持ちを抑えた。
だって、どうせ女込みで来てるんだろうし、そんな事、聞きたくないも
ん。
イントロが流れると、スローバラードが流れた。
うわ!
すごい、上手い!
もちろん、一樹くんもそれなりに上手だけど、隆史くんの方が色気のあ
る独特な声が、さらに心地良くさせてくれる。
低いテノールに包まれながら、いい気分に浸っている私を和美ちゃん
の一言が現実に引き戻してくれた。
「さっすがモテる男は選曲が違うねぇ。 ありきたりな新曲じゃない
けど、古い訳でもない。それにメロディと歌詞もステキだし。何より上
手い!
こんなの聞いたら、佳織なんてサクッと惚れちゃいそうね」
きっと、和美にしたら褒めてるんだと思う。でも、トゲトゲしく感じ
るのは私だけじゃないはず……。
隆史くんの顔をチラリと覗くと、唇の片端を微かに上げて、ニヒルな笑
顔を作った。
「お褒めにあずかり光栄だね。
で、和美ちゃんだったっけ?
昨日から思ってたけど、どうしてそう、場の雰囲気を壊すのが好きなの
か、オレに教えてくれる?」
怒ってるよ。
しかも静かに、キレてる。
男前がすごむとかなりの迫力。
元々つり上がり気味の目をさらに意地悪につり上げながら、その瞳は挑
むような輝きを放っている。
「あら?別にそんなつもりはないよ。
褒めたつもりなんだけど、お気に召さなかったかしら?」
和美も負けてはいない。
本来和美って、攻撃的な性格なのよね……。
「感じ悪いな、彼女」
隆史くんも、わざと聞こえるように、私に耳打ちする。
あああああああああああ。
見る見る間に、和美の顔が般若のように変化している。
さっきも言ったけど、どうしてこう顔の綺麗な人間って、すごむと強烈
なんだろうか?
和美も、かなりの美人の部類に入るはず。
「私、帰る!!」
すごい勢いで、立ち上がると、ボックスのドアをばったんと大きな音を
立てて、出て行ってしまった。
「和美!!」
あわてて、追いかけようとする私を一樹くんが止めた。
「オレが行くから、佳織ちゃんはここで待ってて」
「でも……」
「ココにいればいいよ」
隆史くんも、語調は優しく、けれど立ち上がった私の腕をきつく掴みな
がら、イスに座らせた。
その瞬間に、一樹くんは部屋を出た。
和美が、私を置いて飛び出すなんて、滅多にない。
その逆ならよくあるんだけど……。
そんなに隆史くんが、気に入らないんだろうか?
「なんか、怒らせちゃったみたいだな」
………。
「やっぱり、私も探して来るよ……」
私の腕を掴んだまま、放そうとしない隆史くんの指を、強引に放そうと
した。
「ココにいてよ。
オレ、一人じゃ淋しいじゃん」
食い込む程力強く捕まれて、私は気がついた。
怒ってるのは、和美だけじゃないんだ…。
「ん…」
おとなしく、座り直して、私は飲みかけのカクテルを飲み干した。
「次、何か飲む?」
「………」
とりあえず、ココにいることにしたものの、和美が気になってしまう。
せっかく隆史くんと一緒に居るのに……。
「適当にオーダーするよ?」
「うん……」
隆史くんはカシスソーダーを頼んでくれた。
かなり甘めで、アルコール初心者に好まれるカクテル。
あまり会話もないまま、ソレすらも飲み干そうとしていた時、和美か
らメールが届いた。
『家到着。今日はごめん。』
と、書いてある。
私はその画面を隆史くんに見せた。
「安心した?」
くっきりと別れた三白眼を優しく細めて、私の顔を覗き込む隆史くん。
安心した途端に、私は思い出した。
ゲッ!
密室に二人きりじゃん!
「一樹くんは、どうしてるんだろ?
まだ探してるのかな?」
「ああ、あいつも帰ったんじゃないかな?
さっき、メールあったけど、見てないからわかんないや」
え?
ポケットから携帯を取り出して、画面を覗きながら、隆史くんはうなず
いた。
「やっぱ、そうみたい。2分前に入ってる」
なぜ、すぐに確認しない?
ああ、そうか。
一樹くんじゃなくて、ほかの女からのメールだとやばいと思ったのか
も……。
「じゃあ、ココで待ってても仕方ないんだよね?」
「うん。でも時間もまだあるんだし、一緒にいようよ」
ダメだ。
ブレーキ代わりの和美もいないし、緊張が解けた脳じゃ、自分でストッ
プできそうもない…。
頬の温度が上昇していくのがわかる。
絶対、今赤面してるよ真っ赤に…。
「佳織ちゃんってお酒強そうだよね。
そりゃ、水商売してるくらいだし、当たり前か。次はビールでも飲
む?」
そうしましょう!
こんな状態で、シラフだなんて、かなりたえられない。
舞い上がって、ナチュラルトリップしちゃいそうだもん。
すぐにビールが届いて、二人でなぜか、しきり直しの乾杯をした。
「佳織ちゃんって、何歳?」
ナンパ・コンパの王道セオリー。
相手のプロフィール探りを今更するのか?
「なんで?」
仕方がないから、私も初対面ブリッコ。
「昨日は年上かなって思ってたんだけど、今日はなんとなくタメかなっ
て感じだから」
ああ、そうか。
昨日は、着替え持って来るの忘れてて、スーツのままだったんだ。
「どっちの方が隆史くんの好みな服装なの?」
隆史くんは、目をキラキラさせながら即答してくれた。
「もちろん、今日でしょ!」
やっぱり、水商売はあんまり好きじゃないんだ……そりゃそうだよ
ね…。
って落ち込みかけた私に、隆史くんは続きの言葉でオチを作った。
「今日の方がスカート断然短いじゃん!」
ご丁寧に、私のスカートの裾を少し持ち上げながら。
「え?ちょっと、見えるって!」
慌てて、裾を押さえながら、安心してしまった。
良かった。
ホステスが嫌いとかって問題じゃなくて。
「あはは!やっと笑った。
さっきから、苦笑いとか、作り笑いばかりだったぜ」
するどい…。
あなどるなかれ、笹岡隆史。
「そんな事ないもん!」
「そう?だったらいいけど」
ああ、神様
私はこんなに幸せでいいんでしょうか?
今、私はすごくすごく綺麗な顔をした大好きな男の子と、談笑していま
す。
もう、飛び跳ねそうな程、幸せ!!!
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