隆史と約束したものの、やっぱりお酒が入ると寂しさが募ってしまう。
会いたい気持ちだけがふくらんで、わけもわからずに彼の名前を口にして
いる。
「隆史………」
仕事が終わった更衣室でも、店を出て和美と一緒に入った居酒屋でも、気
が付くと隆史と言っている自分がいる。
「そんなに会いたいなら、行けばいいじゃん」
「ダメ!」
簡単に言わないでよっ!
すごく行きたいけど、約束したんだもん!
なるべく控えるようにしなきゃっ。
だけど、会いたい。
会いたくて会いたくて、会いたい。
「ああ、この世に隆史が二人いればいいのに」
「………二人もいたらイヤだよ、あんな男」
「………。」
どうして、和美は隆史を嫌いなんだろう?
好かれても困るけど、こんな毛嫌いしなくてもいいのに。
「あのね、佳織はいいかもしれないけど、ハタで「会いたい」を連呼され
る私の身にもなってよ。かなりうざいんだよ!
だから、またまた強制連行させて頂きます!」
和美はホントに私の抗議も聞かずに、EDENへとズンズンと猪突猛進
した。
相当うざかったのか、無言のまま勢いよく歩いている。
すれ違う人が、道を空けてくれるくらいのものすごさ………。
「いらっしゃいませ!」
ドアをしっかりと開いて、中に入るといつものウエルカムコール。
あんまり派手に扉が開いたものだからホストの数人と入り口近くに座って
いるお客さんは驚いた表情でこっちを見ている。
「注目浴びてるぞ、和美」
「注目くらい平気よ!佳織の湿っぽい愚痴を聞いてるよりね!」
キッと鋭い視線で、周りを睨みつけながら、案内される席へと移動。
そ、そんなに愚痴ってたかな?
剛史くんが来るまでの数分、和美は止まらない怒りを思い存分に私にぶつ
けてくれた。
「純愛ブームもいいけど、どうせ毎日やりまくりの二人が、いつまでも会
いたいとか好きとかラブラブビーム飛ばしてるんじゃない!
初々しいカップルみたいな悩みを厚かましくも愚痴るな!」
…………。
生理かしら?
和美ってば、凄いイライラしてる。
「そんなに言う程愚痴ってないよ」
「今日だけで「隆史」って何十回言ったと思ってんの?
毎日毎日顔会わせていて、よくそれだけ飽きもしないね!」
飽きるわけないじゃん、あの隆史だよ。
「…………あのね、別にいいよノロケなら。本来恋愛してる時って、愚
痴でも幸せそうに聞こえるモノでしょ?
佳織の場合はそうじゃないの、ホントに悩んでるって感じで、こっちまで
気持ちが下降するの!
私まで無意味に暗くなっても仕方ないでしょ?
会いたいなら、会え!」
丁度和美が言い終わる頃に、剛史くんが営業スマイルでやって来た。
全然爽やかじゃないくせに、ニコリと白い歯を見せてさわやかさを押し
売り。
夜の仕事を選んだ時点で、さわやかなわけがないっつうの。
よく客でもいるんだけど、「お嬢様」系のルックスに弱い男。
バカだよね〜〜〜〜〜。
正真正銘のお嬢がホステスなんかするかって!
「どうしたの?二人とも不機嫌そうな顔して」
何も知らない剛史くんは暢気にそう言うけれど、私は今すっごい落ち込ん
でるんだいっ!
和美に言いたい放題言われてさ………。
ふんっ!だ。
言った本人の和美はケロリと楽しそうに剛史くんとお喋りを始めている。
おいこら、隆史が来るまで私は一人かよ?
誰かヘルプくらいつけろ!!
心の叫びが届いたのか、この前の翔麻くんがかわいい顔でやって来た。
「いらっしゃいませ。
今、隆史さんちょっと忙しいから、つなぎに来ました」
けっこうジャニ系のかわいいルックスで、お喋りも頑張ってるのに空回
りしちゃう所が、どうも私のツボにはまってしまった新米ホスト。
どうせ隆史が来てもあんまり席に着いてくれないんだし、場内指名でもし
ようかな?
数いるホストには、やっぱり不愉快になるような男もいるし、ヘルプの
たびに違うホストと一から会話するのもメンドクサイ。
でも、隆史は怒るだろうなぁ。
自分以外の男を指名するなんて、失礼なのかな??
「う〜〜〜〜〜〜ん」
「何うなってんの?」
かっわいらしいお顔がハテナ顔になって、翔麻くんは無邪気な子供みたい。
「ごめんごめん、とりあえず乾杯しよう!」
和美と剛史くんに私と翔麻くんの四人で楽しく飲んでいたら、アッという
まに時間は過ぎて、30分くらいたっていた。
いくら人気があっても、隆史本人が挨拶に来ないってどういうつもりよ?
さすがに、むかつくんですけど!!
時計を5分ごとに確認してしまう、只今45分経過。
まだ隆史は来ない!
EDENのワンセットは1時間。
その四分三もの時間を指名したホストが来ないなんて、どういう了見なん
だよ、この店はっ!!
「ごめんね、佳織ちゃん。
今日はエースが来てるから、なかなか隆史さん抜けられないんだと思う」
子供みたいな顔で、翔麻くんがあやまってくれるけど、そう何度も仏にな
れるわきゃぁねぇ!
いい加減、切れるっつうの。
それにエースって何よ?
テニスやバレーやってるわけじゃないのに、エースが何だっつうの?
もっと簡単に言え!
上得意様が来ているって!!
いくら言葉を飾っても、所詮商売じゃん。
ホストなんて個人商店みたいなモノなんだから………。
太くデカイ客がいれば大切にしちゃうのも仕方ない。
だ・け・ど!
挨拶くらいするべきだろう?
どれだけすんごい客なんだよ?
「マダムなおばさんでも来てるの?」
そんなに時間を費やして接客するなんて、高額消費者じゃないとあり得な
い。
「…………いや、そんなんじゃなくて」
言いにくそうに、口ごもる翔麻くん。
そりゃ、隆史の客のプロフィールなんて簡単に教えられないだろう。
そう思ったのに、和美の隣に座っているちょっとおバカなホストの剛史は
ベラベラと語りだした。
「風俗嬢。しかも5,6人友達をつれてきて隆史のトップ指名を毎回」
…………。
5,6人かぁ。
その売り上げ全部が隆史の成績になる。
どの程度のボトルをおろしてるのかわかんないけど、仕方ない。
そりゃエースにもなるよな。
毎回トップ指名で5,6人がお金を落とすんなら、今の隆史の一番の客か
もしれない。
「どれくらいのペースで来てるの?」
和美も興味を持ったのか、剛史くんに質問している。
私も、耳を大きくさせて剛史くんの答えを待った。
「週1ペースくらいかな?
だいたいオープンラストだけど100万くらい落としてくよ」
……………………その程度でエース??
一人あたり20万なら、そんなに特別でもない気がする。
隆史の人気なら、そのレベルの客なんてゴロゴロいそうだ。
同じように思ったのか、和美がケラケラと大きな声で笑い出した。
「ショボイを通り過ぎて、しゃばいよ、隆史くん。
一人、月額にすると80万落としてるだけだろ?もっと高ランクの客いる
だろ、ヤツなら」
ショボイを通り越すと娑婆いになるのか?
なんて、変な部分に疑問を持ちつつも、私も同意見だ。
隆史レベルのホストなら、月数百万落とす客だっているはずなのに………。
「違いますよ、和美ちゃん!!」
慌てて大きく否定をしたのは、剛史くんじゃなくて翔麻くんだった。
「どう違うの?」
「彼女たちはグループで来るのが週1くらいだけど、それぞれが個人で来
店する事の方が多いんです。特にその中の一人なんて週3は来ていて毎回
ボトルをおろしてるし、彼女を含むグループ全体でエースなんです」
まるで自分のことのようにきっぱりと胸を張って説明している翔麻くん。
もしかして君は隆史の信者か?
わかるぞ!
隆史の色気って、男にも通用しそうだもんね!
で、でも、ゲイはやめてね。
ライバルは女だけでたくさんよっ!!
男まで相手にしてたんじゃ、私の心はホントに潰れてしまう。
「ふ〜〜〜ん、ソープ嬢は今でもバブリーってか?うらやましいね、ホス
トクラブで豪遊なんて」
ちっともうらやましそうじゃなく言ってる和美の横で、今度は剛史くんが
首を左右にふって否定した。
「ソープじゃなくて、まだヘルスだよ」
なんだかその言い方に、少しひっかかった。
なぜ「まだ」ヘルスなんだろ?
いつかはソープに行くのが約束されてるみたいな言い方だ。
「へぇ、ヘルスでそんなにホストにはまれるなんて、かなりの売れっ娘な
んだ!」
確かに和美の言う通りだ。
月に100万以上を稼ぐヘルス嬢は少ない。
風俗は不景気に強いなんて言われていても、やっぱり世知辛い世の中、
そんな稼げるわけがないのはどこの世界も同じ。
「ラブちゃんって知らないかな?
ヘブンチェーンの雑誌にバンバン載ってるんだけど」
剛史くんの言葉に、私は少し呆れてしまった。
だって、やっぱり客のプライバシーを簡単に言うものじゃないし、それに、
なんで女の私たちがヘブンチェーンなんて風俗店雑誌を見るのよ?
しかし、ラブちゃんだかなんだか知らないけど、根性あるよ。
「風俗雑誌に顔載せするなんて、親が見たら泣くよね。
まぁ、AVだって親が見れば泣くんだろうけどさ………」
私の言葉に翔麻くんは、少し考えるような顔をしながら、真面目に答えた。
「でも、ソレを見てヌいてたらもっと凄くない?」
な、なんて恐ろしい事を真顔で言うのだろうか、この子は!!
「………我が子のAVでヌくの?
そんな親いらないって!!!」
なぜかAVネタで盛り上がってる所に、やっと隆史は顔を見せた。
「いらっしゃいませ」
いつもならニコリと涼しげな笑顔で挨拶する隆史なのに、なぜか少し目元
がきつい。
笑顔なのに、目が笑っていない。
「どうかしたの?」
翔麻くんと入れ替わるように、私の隣に座り、深い溜息をついた。
「店に来ないって約束したろ?
なんで来るんだよ」
………………………。
や、やっぱり怒ってる?
「淋しかったから」
だって、隆史に少しでも会いたいんだもん。
離れてる時間、隆史が他の女を相手にするなんて、すごい苦しい。
「………終わったら電話するから、もう帰れよ」
タバコに火をつけて、紫色の煙を吐き出すと、隆史は注がれたばかりのグ
ラスをゴクリと勢いよく飲んで空けた。
そのまま、まだ火をつけたばかりのタバコを灰皿に押しつけて、席を立っ
た。
な、何?
何でそんなすぐ帰らなきゃいけないのよ?
「ちょっと、態度悪くない?
今来たばかりで、最低限1杯飲んだらすぐチェンジなんて、感じ悪いよ、
隆史くん」
何が何だかわからない。
ただ、隆史が凄く怒ってるのだけははっきりとわかる。
「ごめん、でも今日は凄く忙しいんだ。
だから悪いけど帰ってもらえないかな…」
和美にも、言葉は丁寧にだけど、はっきりと帰れと言っている隆史。
なんで?
剛史くんも、黙って隆史を見ている。
明らかにいつもと態度の違う隆史。
どれだけ忙しくても、帰れなんて、今まで言わなかった。
「帰るか帰らないかは、客である私たちが決めることなの。
あなたに指図されたくありません!
別に忙しいならもう結構よ!
他のホスト呼ばせてもらいますからっ!!」
ギョッと、目玉が飛び出るかと思った。
隆史と和美は犬猿の仲なのはわかってたけど、和美はかなりマジ切れし
ている。
言葉使いが丁寧な時って、結構やばい。
これ以上騒ぎにならない間に帰った方がいいかもしれない。
そう思った時、隆史は予想を反して、静かに答えた。
「好きにすればいいだろ」
……………………。
「もういい、帰る。
勝手に来てごめん………。
剛史くん、チェックして」
やっぱり、来るべきじゃなかった。
隆史の営業妨害してるなら、もう来ないよ。
そんなに怒るなんて思わなかったから………。
なんだか泣きそうな気配なのに、和美の怒りは止まらない。
「ラブちゃんだか何だか知らないけど、そんなにエースが大事なら、貸し
切りにすればいいじゃない!
佳織にあたるなんて最っっっ低な男だね」
和美の言葉に、隆史は凄い勢いで剛史くんを見た。
「テメェが言ったのか?」
まるで殴りかかりそうな勢いの隆史。
いつもクールな三白眼が、ギラギラと好戦的に光ってる。
「な、何だよ、悪かったか?」
慌ててる剛史くんは後ずさりしながら、レジへと向かった。
…………。
エースが来てるってだけで、そんな態度が違うんだ?
隆史にとって、彼女よりも、エースの方が大切なんだ………。
でも、仕方ない、よね?
仕事だもん。
夢を実現するために、頑張ってるんだよね?
そうだよね?
凄く淋しいけど、仕事だから仕方ない。
剛史くんの後を追いかけるように、レジへと向かった私の我慢は限界を
超えた。
仕事だから。
夢のためだから。
そんなすべて、どうでもよくなってしまった。
精算するために財布を出した時、出入り口のさらに奥にあるお手洗いか
ら、出て来た女とバッチリと目が合ってしまったから。
この世界で、存在する事を認めない女。
地球上に生息することを許されない女。
隆史に触れる事も、その汚い目に隆史が映る事もその耳に隆史の声が聞こ
える事さえ、許せない女。
田所愛が、トイレから出てきた。
「………杉、山…」
人の名前を呼ぶんじゃねぇ!
テメェの口から呼ばれたと思うだけで吐き気がする!!
手に持ってあった財布を落として、そのまま渾身の力を握りしめた。
殺してやる!!
恨みなんて生やさしいモノじゃない!
憎しみなんて、かわいいものじゃない。
生きている事実だけでも許されないんだ!
飛びかかるように私は田所に近づいて、拳を振り上げた。
今、手に何も持ってないことを有り難く思いなっ!
凶器になるようなモノを持っていたら、絶対に殺していた。
左手で右頬に綺麗にストレートが決まった。
だけど、こんな一発じゃ許されない!
ドアの真ん前にあるウエイティングバーのイスを転かしながら、田所が倒
れた。
その上に馬乗りになって、私はさらに殴りかかる。
「やめなっっ!!!」
和美が後ろから私を羽交い締めにした。
「放せよっ!!」
まだ足りない。
こんなのじゃ、ちっとも足りないんだ。
「やめろ………」
隆史が倒れてる田所と、上に乗っている私の間に顔を入れて苦しそうに目
を細めている。
いつもはステキに見える三白眼に、同情や哀れみの色が混じってるように
感じた。
その目に見つめられた瞬間に、体から力がスーッと抜けてしまった。
そうか、ラブちゃん
ラブを和訳すると愛。
ベッタベタな源氏名。
田所愛が、隆史のエース。
コイツのために、私は帰らされるわけだったんだ?
「佳織、帰るよっ!!」
力が抜けてフラフラしている私を支えるように、和美はしっかりと抱き寄
せてドアを開けた。
毎日新たな出会いがある仕事をしているし、苦手な人とか、嫌いな人な
んてたくさんいる。
でも、存在自体が許せないような人間なんてそういない。
田所愛は、そんな人間。
私は平凡な高校生だった、ただ隆史が好きで好きで仕方無かっただけなの
に、あの女はそんな私を不幸にした。
大好きな隆史の子供を身籠もった私を階段から突き落とした。
妊娠を知っていたのか、知らなかったのか………。
そんなの問題にならない。
アイツは子供を殺したんだ!
この世に産まれていたならば、アイツは過失が認められたとしても殺人者。
子供を流してしまったショックでリスカまでしてしまった。
そんな私のために、隆史は学校をクビになっていた………。
すべての原因は田所にあるのに!!!
「あぁぁぁぁぁぁああぁっぁぁぁぁ!!」
声にならない思いを吐き出すように叫んだ。
「佳織、大丈夫??」
しゃがみ込んで叫び続ける私を立ち上がらせようと和美は腕を引っ張りな
がら、のぞきこんだ。
「………うん」
大丈夫。
悲しいくらいにはっきりとしている意識。
隆史は何であんな女を相手にできるの?
その神経がわからない。
エースなんて呼ばれて、浮かれてるだろうあの女が、隆史に触れられる距
離にいる。
隆史を視界に入れる距離にいる。
それだけで許せない。
和美に支えられるようにしてタクシーに乗り込んで和美の部屋まで行っ
た。
私の手は拳を握ったまま、行き場のない怒りに青白くなっていた。
二人は無言のまま、お酒を飲んだ。
和美が気をきかせてドンドンビールをあけてくれる。
挙げ句の果てに秘蔵の焼酎の一升瓶まで出してくれた。
せっかくのおいしいお酒なのに、味がしない。
ただ、口から入って、喉を流れ胃を痛めるだけの液体。
でも、飲まずにいられない。
何も考えないで、眠るためにも………。
眠ったら、もうそのまま永遠に目覚めたくない。
現実はあまりにも不可解で、納得も理解もできない。
何をどうすれば、隆史は愛を許す事ができたのだろうか?
考えたくないのに、どうしても頭がソコから離れない。
目を閉じると、愛の顔が瞼にしっかりと焼き付いている。
「なんか、酔えないよ」
「別に酔わなくていいんだよ、飲みたいだけ飲んで、眠ればいいからさ」
和美は優しく微笑んでグラスに新しく水割りを作ってくれる。
「………うん」
会話もほとんどないまま、時計の音がカチカチと部屋に響く。
時折、マンションの下を走っている車のクラクションが、聞こえてくる
くらいだけで、静かな時間が流れているのに、私の頭の中は沸騰したままグ
ラグラしている。
体中の血が叫び出しそう。
そんな私の気持ちをさらに逆上させたいのか、携帯電話が隆史からの着
信を教えるように鳴っている。
「…………」
隆史からだとわかっているのに液晶を見て確認。
そして、登録されたその隆史の文字にすら怒りを感じてしまうのに、隆史
は何度も何度も電話をかけてきた。
「出なくていいの?」
「………今は隆史の声も聞きたくない」
あんまりにもしつこく鳴り続ける電話にイライラして、力いっぱい携帯電
話を逆パカした。
繊細な機械の固まりは簡単に二つに分離された。
「か、佳織?」
「だって、うるさいんだもん」
追いかけもしなかった隆史。
仕事が終わった頃に電話なんかされても、何を喋れと言うの?
やっと、静寂を取り戻した部屋に再び電話の音が鳴った。
今度は和美の携帯。
「………剛史くんからだけど、出るよ?」
そう言うと、和美は発信ボタンを押した。
「もしもし、あれからどうなったの?」
「…………」
少し会話をしてから、和美の口調が変わった。
「佳織ならココにいるけど、代わらないよ。
私は隆史くんは好きじゃないけど、佳織が幸せならソレで良かった!
だけど隆史くんが田所と繋がってるのは、許せない!!
例え佳織があの場で、田所を殺したとしても、私は佳織を認めるよ。
世界中のみんなが佳織を否定しても、私は佳織を許す!隆史くんも同じ気
持ちだと思ってたから、見守ってたのに、見損なったよ!
所詮、小さい男だったんだね!!!」
剛史くんから、隆史に電話相手が変わったんだろう。
どうして、そうセコわざを使うかな?
着拒否されてるなら、諦めればいいものを………。
「代わらないって言ってるでしょ!!」
…………。
隆史はそんなに私と喋りたいのかしら?
何も聞きたいことなんてないのに………。
「和美、いいよ。代わって」
和美は凄く戸惑ったように、口を開いて私を見た。
私はそんな和美にうなずきながら、彼女の携帯を借りた。
「隆史?」
『さっきはゴメン』
………。
「別に謝らなくていいよ。
私は隆史が凄く好きで、自分自身よりも大切に思ってた。だから隆史との子
供が出来た時は凄くうれしくて、もうホントに何よりも大切に守ろうとして
たの。
ソレを全部壊した女が田所愛。
そんな女相手に接客してるんだ?
凄いね、隆史って。
私には愛想笑いなんてできない!
あんな女、次会ったらまた同じように殴りかかってしまうに決まってる。
だけど、彼女は隆史にとってのエースなんでしょ?仕事って大変だね、
どんな相手にでも営業しなきゃならないんだから」
『わかってる。聞いてくれ、佳織』
「………何を?もう隆史の話は聞けない。
何を聞いても、信じられないから」
プチン。と終了ボタンを押すと、隆史の声は途中で途切れて、小さな機
械音が聞こえた。
例え、隆史があの女に営業してても、私には関係ない。
凄く凄く好きだからこそ、許せない。
二人の幸せを壊した女に話しかける隆史を。
そのために、私を帰そうとした隆史を。
好きだったからこそ、隆史が憎い!
私よりもあの女を一瞬でも優先させた事も、あの女を相手にしているすべ
ても!!
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