隆史は、和美の言葉にかなり気を悪くしていたみたいで、ご機嫌斜めな
まま電話をくれた。
『なんで先に帰ったんだよ?
一緒に帰ろうって約束しただろ?』
「ごめん!あのままじゃ和美との口論が激しくなりそうだったから……」
『だったら和美ちゃんだけ帰せば良かったじゃん』
………私があの場に居たくなかったなんて、隆史は思ってもいないん
だろうな………。
「最初から帰る予定だったのを変更させたの私だしさ」
『もういいよ』
あ〜ぁ、怒らせちゃった。
私だって、もういいよ。だよ。
回線が切れたのにツーツーと機会音だけを鳴らし続ける携帯を充電器に設
置しながら、私はため息をついた。
ほんと、もう疲れた。
期待すれば裏切られる、幸せになろうと思うからダメなんだ。
最初から何も望まなければ、悩む事もない。
今は何も考えないでゆっくり眠ろう。
明日になれば、また違った気分になってるかもしれないから…。
そう思っているのに、私の心ってかなり操縦不能らしく、目を閉じても隆
史の顔が浮かんでしまう。
しかも、小鳥のさえずりまで聞こえだした…。
やばいよ、夜が明けてしまった………。
今日も寝不足状態…。
だんだん、クマが濃くなってそれを隠すために化粧も厚くなってしまう。
そのうち5ミリ層でファンデ塗ってたりして…。
そりゃないか。
ダメだ、あまりの寝不足にノリ突っ込みしてるし、私。
こうなりゃ、ヤケよっ!
このまま寝ないで店に行ってやる。
気合いと根性でなんとかなるでしょ。
開き直った私は、そのままテレビをつけてワイドショーを見ながら、なぜ
か眠ってしまった……。
きっと、寝ようと思うから眠れなかったんだろう。
目覚めた時はもう夕方の5時。
う゛っ、今日も今日とて大遅刻。
なぁんか、最近遅刻ばっかりだし、仕事やる気全然ないし…。
無気力だ。
出勤したくないなぁ。
客とお喋りするのかったるいし、休もうかな?
罰金払ってでも、行きたくない。
休み決定♪
チーフに休む連絡をしてから、思ったんだけど、何しようかな?
休んだはいいけど、することがない。
一人で部屋にいたって、考え事ばかりして、煮詰まっちゃう。
和美はきっちり仕事してるだろうから誘えないし………。
私、もしかして友達いない??
そう言えば昔から友達らしき人なんていなかったかもしれない…。
気がついたら周りは男ばっかで、だからよけいに女から嫌われてさぁ。
そんな私がよく女だけの職場で働いてるよ。
すっげぇ。
って、感心してる場合じゃないんだよね。
どうしよう…暇だ。
隆史は昨日怒って電話を切ったきりだし、謝る気にもなれない。
このもてあましてしまった私の時間を有効に使うには?
飲みに行こうっと!
気分が乗らない時は、飲んで楽しむ!
これが一番だよね。
「いっらしゃませ!!」
元気よくホストたちからのウエルカムコール。
ルージュは他のお店と違って、8時からオープンしているから、休みの
日とかでも行ける。
「川上!!久しぶり♪」
2週間ぶりくらいかなルージュに来るのは。
「彼氏でもできたのか?久しぶりだよな」
私より6つ年上の彼はルージュのオーナー店長。24歳で店を持つっての
は凄いと思うけど、彼が現役時代はどんな営業していたのか、私も知らな
いんだよね。
もともと、近所の知り合いだっただけで。
「久しぶりって言っても2週間
くらいしか空いてないんだけどね」
「あはは、2週間も来なかったら久しぶりなんだよ!今日は誰を指名する
?」
この店は完全指名制なんだけど、私はまだお気に入りのホストがいない。
だから来るたびに色々なホストを呼んでるんだけど、いまいちパッとしな
いんだよね……。
「顔はいいから、面白い子がいいな。トークの上手いホストをつけてくれ
る?」
「ば〜か、ここはみんな男前だし、トークも一流なんだよ」
…………………。
「あはは」
そりゃホストクラブだし、男前は確かに多いけど、中には「君ちょっと」
って感じの人もいるし、トークに関しては、まぁ、それなりにみんな喋れ
るんだけど、つまんないホストだっている。
でもマスターからすれば、そんな事言えないか。
「じゃあ、一番お酒が強いホスト!
今日は、トコトン飲みたい気分だし♪」
「じゃあ、オレじゃん」
「え〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜」
川上相手じゃ、ルージュに来た気持ちになれない。
「おいおい、なんでブーイングなんだよ?」
「友達との飲み会ムードになってつまんなぁい」
「酷いな、お前。
別にいいじゃん、飲み会ムードでも」
………。
ま、いいか。
気が紛れればそれでいいんだし。
今日の所は川上で我慢して、二人で仲良く乾杯をした。
和美がいてもそうなんだけど、川上が席に着くとなぜか営業論になって
しまうんだよね。
そして、今日の川上は人が一番触れて欲しくない話題に、最初から切り込
んでくれた…。
「ホストしてるとさ、恋愛ってできないよな」
「なんで?」
ホント川上は私に対して色営業がまったくなさすぎるって言うか、ソレで
いいんだけどかなり本音トークをぶちかましてくれるから、おもしろい。
「だってさ、どの口説き文句も何回も使いまくって新鮮じゃないし、簡単
でお手軽に女が寄って来るから、ついつい浮気したくなってしまうだろ?」
「知らないよ、そんなの」
「あれ、ホステスは違うの?
いい男わんさかいそうじゃん」
「う〜ん、客は客って感じなんだよね。
間違っても恋愛関係に発展することはないよ、少なくても私は」
「そっか、そうだよな。年上ばっかだもんだ」
シミジミとうなずきながら、変な所で納得している川上。
だけど、私はそんな話は聞きたくない。
「てか、川上は客と恋愛できるの?」
「当たり前じゃん。客以外に出会いなんてないし」
…………………。
そっか、お客さんから彼女に発展する事ってあるんだ。
でも、どこから彼女になるんだろ?
「今川上に彼女っているの?」
「ストレートな質問だなぁ。一応いないって答えるだろ、普通」
そうだよね。
ホントはいても、客にはいるなんて言えない。
どこでどう、自分の首を絞めることになるかわからないから…。
「でもさ、ホストの彼女なんてすごく辛いだろうね。
自分が知らない所で、彼氏が他の女を相手してるなんてさ…」
そう、毎日考えると眠れなくなってしまう。
隆史は今頃、どんな会話をどんな女性としているんだろう?
ソレは仕事で、嫉妬なんてするべきものじゃないとわかっていても、心が
納得してくれない。
「ソレはホステスも大差ないんじゃねぇの?
そりゃ、客の年齢層が近い分、心配だろうけど」
「…ホストってさ、枕抜きでは成り立たない部分があるじゃん。やっ
ぱそれは大きい違いだよ。ホステスはある程度までなら色営業しなくても
成立するもん」
それに、お客さんは接待とかで来店することも多いし、確かに据え膳は食
うだろうけど、心までもホステスに求めて来る人は少ない。
ましてや、金銭的にも店に通えるだけの余裕があって遊びに来ている。
でも、ホストに通う女の子たちは恋愛を求めてお金を払う。
自分たちが頑張って稼いだお金を惚れた相手だからこそ、落とせるんだ。
日に何十万も払ったりできるのは、彼女たちに余裕があるからじゃない。
指名しているホストが大好きだから、よろこんでもらいたいからだ。
「ま、確かにそうかもしれないけどさ、同じ仕事してない限り、そんな事
知らないだろ?」
………………。
「川上の彼女は、同業じゃないんだね」
「そりゃそうだろ。
同業だったら、いつまでも腹の探り合いで疲れるだけじゃん。
何年か前につき合ってみたけど、すぐに破局したぞ。毎日喧嘩で」
そうなるのかな?
やっぱり、信用できないよね。
「その人も、最初は客だったの?」
「え、まあな」
じゃあ、なおさら信用なんてできないだろうな…。
もしかして、自分も色恋営業の餌食になってるのかもしれない。
その疑心暗鬼から解けることは、すごく難しい。
きっと、ホスト本人がどう思ってるかだけで、周りから見ればただの客に
過ぎない。
他の客と同じセリフを言われていても、気づかないでよろこんでしまう。
そして、ドンドン深みにはまるんだ。
気が付いたら奈落の底まで…。
虚しすぎるよね。
真実味のまったくない言葉だけを信じて、肌を重ねることには何の意味も
なくて、ただお金を払った分だけ優しくされるなんて。
それでも、会いたい気持ちだけが募って、苦しくて…。
ホントに疑似恋愛。
「素直に騙された方が楽だろうね」
ポロリと本音が漏れてしまった…。
「何、もしかしてホストに惚れてるとか?」
川上はちょっとびっくりしたのか、目を見開いて体を乗り出した。
「まっさか!!」
ケラケラと大きく笑い飛ばしたものの、図星されて、かなり動揺している
自分がいる。
「佳織の言いたいことはわからなくもないなぁ。こんなこと言ったら怒ら
れるけど、水商売してる女より、風俗嬢の方が純粋なんだよな」
……………。
「どういう意味よ?まるでホステスが純粋じゃないみたいじゃん」
「みたいじゃなくて、実際にそうなんだって。
同じ仕事してる分騙されにくいし、信用してもらいにくいんだ。
それにプライドもあるみたいだしさ、かなり大変。だけど風俗で働いて
る子たちはみんな素直にリップサービスを受け取ってくれるだろ?」
……………。
こいつ、本気で最悪だ。
リップサービスとか言い出した。
それって、どんな口説き文句も、褒め言葉も営業でしかないって意味にな
るんじゃ?
「まるきり全部リップサービスなんだ?」
「…いや、中にはホントも混じってる。でも、基本好きな女は店に来
させないだろ?
最初は客だったとしても、彼女になれば来店してもらいたくないって、普
通思うじゃん」
……………。
わかんないよ、そんなの。
そりゃ、私だってEDENに行きたいわけじゃないけど、でも、隆史の客
が気になって仕方がない。
それに、来るななんて言われてないし…。
やっぱり、私も客なのかな?
つき合おうって言ってくれたのも、リップサービスの一環なのかな?
だんだんすべてが、信用できなくなってくる。
「でも、ライバルに負けそうな時とかには彼女に頼りたくなったりしない
の?」
「する!もう頼りまくりだった。
でもさ、なんか自分の女に金払わせるのって、男として違うだろ?」
違うだろと聞かれても、私は女だからわかんないってば。
「さぁ」
「まぁどうでもいいか、そんな話。それより最近調子どう?」
…………どうでもよくないっす!!
聞きたくないけど、気になって仕方がない。
ホストの恋愛って、どんななのか。
隆史は、ホントに私を彼女と思ってるのだろうか?
それとも、営業されてるだけなんだろうか?
信じたいのに、信じられない。
だから開き直ってみたものの、やっぱり信じたい。
私は隆史にとって特別なんだと。
彼女なんだと。
ダメだよね、騙されるのが怖い。
ズタズタになる程好きになって、ただの営業だったらどうしよう…。
もう、傷つくような恋なんてしたくない。
幸せで、フワフワとしているトキメキだけが欲しい。
やっぱり、私にはホストとつき合うなんて無理なのかな?
怖くて怖くて仕方がない。
傷つくのが怖い。
だって、ブレーキを外すとすぐにアクセル全開で気持ちはふくらんでしま
うのがわかるもん。
私は隆史をそれなりの感情で好きになることはできない。
好きになったら止まらない。
騙されてもいい、自己破産しても彼のために飲みに行ってあげたいとすら
思うのがわかる。
隆史をNO1にするために、気が付いたらヘルスやソープで働いてるかも
しれない。
そんなのイヤだ。
私は好きでホステスをしてる。
ソレなのに、仕事を捨てて、自分を捨ててまで彼に貢いでしまうようにな
ったら、私はどうなるのだろう?
そのあげくに、騙されていたら?
…………………。
怖いよ。
隆史をこれ以上好きになるのも、騙されるのも、傷つくのも怖い。
臆病ものだと笑われてもいい!
怖いものは怖いんだからっっ。
ダメだなぁ。
恋愛に臆病になるなんて…。
隆史との恋に、一度すごく傷ついたからかな?
心が竦んで、動かない。
前に進みたいのに、マイナス思考が邪魔をして、素直になれない。
声を聞くだけで、キスをするだけで、肌を合わせるだけで幸せなのに、隆
史の心まで欲しくなってしまうなんて、欲張り、なのかな?
わからない。
もう、どうすればいいのか、全然わかんないよ。
隆史はさっきもメールをくれていた。
『今から仕事行くよ。今日は会える?』
と………。
今日は会えるって、店に来る?って意味なんだろうか?
それとも、仕事が終わった後、会ってくれるって事なんだろうか?
どっちにしろ、隆史は深い意味なく送信したんだろうけど、私はそれでも
悩んでしまう。
どんな返事を送ればいいの?
「ホストって大変だね。毎日毎日メールを送ってさ、一斉送信とかもある
けど、そんな事したらすぐに相手にばれるし…」
愚痴にも似た言葉がポロリと漏れてしまった。
川上は、そのセリフにすぐにくらいついた。
流してくれればいいものを…。
「そうだぜ!!
まだ夜はいいんだけど、店終わって明け方のメールなんて大変!!
酔ってるからさ、この客にはさっき送ったっけ?とか、この子今日来てた
よな…とか、考えちまうんだよ」
ああ、やっぱり聞きたくなかった。
「大変だね、みんなに毎日なんて」
彼女だから毎日メールが来るわけじゃないんだ………。
なぁんだ。
何を基準に、彼女だと信じることができるんだろうか?
毎日会えること?
そんなの、毎日飲みに行けば会えるじゃない…。
「まあな。でも毎日送るのは最初だけ。後は来店してくれた時とか、
スパンを計りながら送信しなきゃな。ホステスも同じだろ?」
…………。
ああ、そうさ!同じさ、同じだよっ!!
お客さんにはちゃんとメールしてるよ。
特上ランクの客には毎日でもメールを送ってるさ。
ああ、だんだんイライラして来た!!
もう、ホストとかホステスとかそんなの関係なく恋愛がしたい!!
私は隆史が好き!
凄く凄く好きで、会えないと息もできないくらい好きなの。
なんだかんんだと言っても、もう、隆史に溺れきってしまってる。
いいよね??
我慢できない。
隆史の顔が見たい。
隆史と離れた場所で、営業方法を聞いて不安になってるよりも、隆史の顔
を見ながら不安になる方が数倍マシだ。
もう、ダメだ。
禁断症状が出そう。
隆史の顔が見たい!
「チェックして!」
EDENに行こう。
隆史に会いたい。
他の店で飲むくらいなら、隆史の売り上げに協力してる方がいい。
どんだけ考えても、悩んでも、変わらないことが一つある。
私は隆史が好き。
ルージュを出て、そのままEDENに直行した。
「いらっしゃいませ」
他のホストクラブと違って、落ち着いたイメージを醸し出しているEDEN。
流れるBGMもピアノの生演奏で、決してうるさい音なんてない。
ボトルのサンキューコールだって、凄く短いし、店全体が協力して作って
いる雰囲気。
その高級感が、私を飲み込んでしまいそうで、怖い。
普段ならそんなのも楽しめただろうに、今の私には高級感が威圧感となっ
てのし掛かってくる………。
案内された席に座って、セットされたボトルを見ると5分の1くらいしか
残っていない。
チャンスボトルってヤツ。
さっさと開けて、次のボトルをおろしてもらうために、ホストは営業をす
る。
私は隆史に営業される…………。
「佳織、仕事は?」
こんな時間に来店したから、隆史は少し驚いたように、挨拶もすっ飛ばし
て隣に座った。
「やる気なくて、休んだの」
「そうだったんだ」
呆れたように、苦笑いする隆史。
その顔も、溜息が出そうなくらいクラクラしちゃう。
やっぱり好きだ。
顔を見るだけで、ドキドキしてしまう。
「ねぇ、芋焼酎入れる予定とかないの?」
水割りを作ってくれる隆史に質問。
今、ブームだし森井蔵とか、村尾や魔王とかだとそれなりの値段取れるし、
何よりも女性客を掴むためには、カロリーの低い焼酎に力を入れてもい
いと思うんだけどな…。
「一応マスターに言ってるんだけど、まだわからないんだ。ごめんな」
イヤ、隆史が悪いわけじゃないんだから、謝らなくても…。
「そっか、じゃあ今と同じのおろしておいてね」
見え見えの営業されるくらいなら、自分から注文する方がマシだ。
隆史が、次のボトルを聞く前に、頼んだ。
新しいボトルが届いて、新たに乾杯をすると隆史はすぐに他の席へと移っ
た。
……………。
やっぱり、自分から言わなきゃ良かったかも………。
そしたら、隆史はちゃんと営業しなきゃいけないから、もう少しだけこの
席にいてくれたのに…。
営業されたくないけど、席から離れられるのも辛い。
淋しいな。
隆史と同じ室内にいるのに、会話すらできない。
他のホストがヘルプで来てくれるけど、上の空になっている。
バレない程度に、隆史のいる方向が気になって注意を払ってしまう。
隆史、戻って来てよ…。
忙しいのわかるけど、私の相手をしてよ。
淋しくて、不安で、胸が潰れちゃいそうだよ…。
だけど、少し業界をかじった人間なら知ってる暗黙のルールがある。
指名以外のヘルプが着いてる時に、態度が悪い客だったら、裏では指名し
てる人が文句を言われてしまう。「客の教育がなっていない」って。
いくらお気に入りが席に帰って来なくても、文句も言わずに物わかりい
いフリをするのもそう。
なぁんで、金払って気を遣わなきゃならないのかしら?
なんて思うこともあるけど、楽しく遊ぶためにはそれなりにルールがあっ
ても仕方がない。
ホステスだってそうだもん。
その辺のルールを無視した客がいたら、やっぱり迷惑だ。
隆史に迷惑をかけたくないし、私自身、そんな遊びも知らないバカ女だと
思われたくない。
気が付いたら、もう1本おろしていたブルーの方も空きかけ。
私と隆史は焼酎を飲んでるけど、ヘルプのホストのためにブランデーもお
ろしている。
ホントはヘルプのためってよりかは、隆史の売り上げのためだ。
焼酎のボトルはよく飲むから回転は速いけど、値段がかなりリーズナブル。
セット料金と合わせてもそんなにかからないから、ブランデーも下ろす
事にした。
毎日来店していても、チビチビと安いお酒しか下ろさない客は客としての
ランクも低かったりする。
あんまりランクの低い客ばかりだと、隆史の人気にも左右してしまう。
「ごめん翔麻(しょうま)くん、ブルーおろしておいてくれる?」
またまたチャンスボトルなのに、隆史がテーブルに戻って来る前にヘルプ
の翔麻くんに注文してしまった。
…………。
戻って来て欲しい気持ちと、営業されたくない気持ちが、グラグラとして
いる。
ヤバイなぁ。
こんな気持ちで飲んでたら悪酔いしちゃいそう。
だけど、ボトルは確実に空いていく…。
ブルーも届いて、隆史が帰ってくるまではと遠慮していた翔麻くんを納得
させて新たに乾杯をした。
もう、ルールとか見栄とかどうでもいいや。
今日は楽しく飲もう!
隆史が他の席に行ってからもうどれくらい過ぎたのかしら?
その間ずっと翔麻くんが接客をしてくれてる。
なかなかかわいいらしい顔してるし、喋っていてもイライラしない。
気分を入れ替えてやっと楽しくお喋りを始めた頃に、隆史は戻って来た。
「ごめん遅くなって。
しかもニューボトル入ってるし………」
エゴイストプラチナムの匂いをさせながら、隆史は爽やかに微笑んでいる。
飲み過ぎたのか、翔麻くんのトークが良かったのか、不安とかはどこかに吹
っ飛んで、凄く楽しい気分になっていた。
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