ラストボーイ
ラストボーイ

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1 プロローグ 2ベッド 3 家族 4 不妊 5 天使か悪魔 6 シングルマザー
7 ホスト 8 依存的幸せ 9新婚ブルー 10 蜜月 11 12 エピローグ

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2 ベッド
男前にはマザコンが多い
 なぜなら、母親だって女だから!
そりゃ不細工な息子より、イケメンな息子の方がかわいいだろうし、愛情
過多で子育てしても仕方がないってものよね。
そして、隆史は立派な男前。
だから、マザコンだったとしても仕方がないんだけど、彼の場合は母親に
愛されずに育っているから、「ままぁ」なんてにやけた男共とは全然違
う。
 煌びやかな世界が似合う男。

だけど私は彼をマザコンならぬ、佳織コンにしたい!!
 私に全部依存してくれるくらいがいい。
そんな思いで、目の前にいる隆史を見つめていた。
  キャンドルライトに照らされて、真っ赤な絨毯の上に鮮やかな純白のタ
キシードを着てる愛しい人。
 私には父親がいない。
だから、ヴァージンロードを歩くのは一人きり。
誰かにエスコートされなくても、私は真っ直ぐに隆史の元へと行ける。
 ベール越しに見える隆史の姿。
誰の祝福があるわけじゃない。
私と、隆史二人だけの結婚式。
友達も呼んでいない。
いるのは、神父様と神様だけ。
ゆっくりと隆史のそばに辿り着いて、その腕に自分の腕を絡めた。
 捕まえた!
もう、放さない。
「すごく綺麗で、ドキドキしてる、オレ」
隆史は私と一緒に神父様の前に並びながら、ソッと耳打ち。
 絶対、私の方がドキドキしてる!!
だって、こんなに幸せすぎて、いいのだろうか?と不安になってしまう暇
もないくらいによろこびで胸がいっぱい。

 永遠の愛を誓った後、隆史の細い指先がソッとベールを上げる。
はっきりとした視界いっぱいに隆史の顔が写る。
 大好き。
ずっと、この瞬間を夢見て来た。
好きすぎて、一緒にいるのがつらいほど恋こがれていた彼の隣で微笑む私。
 ゆっくりと顔を傾けて神聖な口づけ。
優しく触れる唇に、私は体の震えが止まらない。
 幸せが、大波のように私を飲み込んでいく。
こんな感覚は初めて。
きっと、世界中で一番、今の私が幸せものだ。
凄く凄く大好きな人と、誓いのキスをしてる。
しかも神様の前で。
 永遠なんて贅沢言わないよっ。
生きてる間だけでいい。
私と隆史は家族になれた。
 確かな絆。
友達でも恋人でもない。
夫婦という確実な関係。
明日を不安に思わなくてもいんだよね?
もう、寂しいなんて思わなくてもいいんだよ?
 ダメだ。
一生に一度の一番ステキな時なのに、うれしすぎて、隆史が涙で滲んでし
まう。


  小さな小さな教会で、私たちは結婚式を挙げた────。




 婚姻届を提出して、手続きを全部済ませてからの式だったので、私たち
は新しく購入したマンションへと戻った。
二人だけの新居。
 広々とした、リビングでくつろぐ暇もなく早々と寝室へと私を導く隆史。
「ちょっ、休憩なしっすか?」
結婚式や、役所に行ったりで、ちょっと疲れてしまった私なんだけど、隆
史は違うらしい。。。
「だって、教会からずっとかわいい佳織の姿を見てたんだぞ!」
隆史ってば、ウエディングドレスの試着の時には、「楽しみがなくなるか
ら」と言って、見なかったくせにブライダルインナーを買う時は、私より
も丁寧にしていた。
 ゆっくりとドレスを脱がせて真っ白なシルクのレースをおしげもなくふ
んだんに使用したトースレットのホックを一つ一つ外していく。
「やっと、ホントにオレの佳織になったんだよな………」
露わなデコルテ部分にキスをしながら、隆史の指先は腰を滑るように落ち
て、ガーターベルトへと辿り着いた。
「隆史」
「今日は寝かせてやんね」



お互いの存在を感じるように、私たちは求め合っていた。
 何度も忘れようとして、それでも忘れられなかった人。
やっと、ホントに一つになれた。
 文字通り、隆史は朝まで私を眠りにつかせてくれることはなかったけれ
ど、何度も幸せにしてくれた。
もう、記憶がなくなるほどに、幸せな快楽の中に私を誘った。
 そして、そのまま幸せを感じながら、私は深いまどろみに酔いしれてい
た。

 真新しいシーツにくるまれながら目覚めると、きつい日差しがブライン
ド越しに室内に入っていて、お昼を過ぎてるのを教えてくれた。
 あれ?
隣にいるはずの隆史の姿がない。
 私はとりあえず裸のままクローゼットから部屋着を取り出して、リビン
グに出た。
だけど、やっぱり隆史の姿が見えない。
 結婚前に部屋を探す時、隆史は新品にこだわっていた。
家具も食器も、部屋ですら新しいモノを用意してくれた。
 過去の思い出を忘れるわけじゃないけど、だけど、新しい気持ちでこれ
からの二人の生活を育もうってことなのはわかる。
 でも、愛着のまだない部屋で、座り慣れないソファは、私を寂しくさせ
る。
 どの部屋を探しても、隆史はいなくて、昼下がりだというのに、私は冷
たいフローリングにぺたりと座り込んだ。
「仕事、行ったのかな………」
体中に、隆史の余韻が残っている。
たくさんのキスと一緒にいっぱい隆史を感じていたのに、今、私は一人き
り。
  見渡す限り、何一つ私を落ち着かせるモノがない部屋。
 隆史がいれば、それだけでこの部屋は暖かくなる。
だけど、いなくなれば一気にそのぬくもりは消えてしまう。
 ダメだ………。
私、何してるんだろ?
とりあえず、お昼ご飯食べなきゃ………。
 シャワーを浴びて、化粧をして、服を着替えた。
 財布と携帯電話をカバンに入れようとした時に、やっと隆史からのメー
ルに気が付いた。

『気持ちよさそうに眠ってるから起こさないまま仕事に行くよ。
今日はミーティングが終わったら帰るから』
…………。
やっぱり仕事に行ったんだ。
どれだけ眠っていても、起こして欲しかった。
 新婚初夜だってのに、ちゃんとお嫁さんらしくご飯を作って送り出し
たかったなぁ。
でも、帰って来たらご飯を用意しておこう♪
今日は何を作ろうか?
 隆史がよろこんでくれそうなモノにしよう♪


 隆史と付き合うようになってから結婚するまで、私たちはお互いの部屋
を行き来しながら、楽しい時間を送っていた。
もちろん、高級店が建ち並ぶ場所にあるperfume も順調に売り上げを伸ば
し、落ち着いてきた頃に、隆史からプロポーズをされた。
そりゃ、私は即返事!
 それからの日々はドレス選びや、エステなどの準備ですごく早かった。
日々忙しい隆史に迷惑をかけたくなかったから、式は挙げないでもいいと
思っていたのに、隆史は教会を予約してくれて、ウエディングドレスまで
買ってくれた。
 仲人も、両親はもちろん、友人知人も呼ばないで、二人だけの秘密のよ
うな結婚式だったけど、私はとてもうれしかった。
  なのに、今の私はいつもと同じ。
ううん、結婚を機に仕事を辞めてしまったから、何をすればいいのかわか
らない。
いつもならこの時間は、営業電話やメールをして、用意をしていた。
 だけど、今、何をすればいいのかわからない。
もてあましてしまった時間。

 ゆっくりと買い物をすませて、部屋に戻った。
 もう、空が赤く染まって、灯りを付けなきゃ暗い部屋。

 おかしいなぁ。
私、隆史と結婚して、新婚初夜も済ませて、幸せいっぱいのはずなのに、
なんだか寂しい。
どうしてだろう?
どうして、今、隆史は隣にいないんだろう?

 何だか寂しさを感じながらも、テレビを見たり、雑誌を見たりしながら
夕食の時間。
 一人で食べる食事って、ホント味気ないなぁ。
私、これからどうやって一人の時間を過ごしていけばいいんだろうか?
 これから、隆史のいない間、何をすればいいのだろうか?
掃除をして、洗濯して、食事。
それ以外に、することなんてあるのかな?
笑えるはずのバラエティ番組からは、楽しそうな声が聞こえてくるのに、
私の耳には虚しく届く。
 何が面白いのだろうか?
すべてが色あせて、つまらなく感じてしまう。
 新婚生活って、こんなモノ?
時間をかけて作った料理も、一人で食べなきゃいけない。
 そりゃ、わかってた。
隆史が夜仕事してるんだから、この時間に一緒にいられるわけがないって。
  わかっていたつもりだったんだけどなぁ。
寂しくて、淋しくて、涙が出そうだ。
幸せな夢ばかり見ていたから、些細なことなのに、こんなに悲しくなって
しまうのかな? やっぱり、幸せを期待しちゃいけない。



「佳織、こんな所で寝てると風邪ひくぞ」
ふわりと背中にぬくもりを感じて、目を開けると、隆史の綺麗な顔が視界
に飛び込んだ。
「え?あ、寝ちゃったんだ………」
隆史の帰りを待っていようと、リビングのカウンターに座っていたら、そ
のまま眠っていたみたいで、隆史のスーツの上着がかけられていた。
「ちゃんとベッドで寝ろよ。
別に起きて待ってなくていいんだから、な」
優しく目を細めた隆史からは、プラチナムとアルコールの匂いが漂って来
る。
「………ご飯、暖めるね」
キッチンへと向かいながら、時計にチラリと視線を向けると5時になって
いた。
perfume の閉店は4時半。
その後ミーティングを終えて、真っ直ぐ帰って来てくれたんだ。。。
 ホストを引退して、経営者になるって隆史は言っていた。
 その通りに、アフターも同伴もなくなったけど、店の準備や色々と昼頃
から隆史は仕事に出かける。
 それから明け方になるまで帰って来ない。
「佳織、温めるくらい自分でできるから、ゆっくり寝てていいぞ」
心配そうに私に声をかけてくれる隆史。
でも、この時間しか一緒にいられないんなら、なおさら起きていたい。
会話なんてなくてもいい。
ただ、二人でいられる時間を大切にしたいだけ。
「大丈夫だよ、さっき寝てたみたいだし、もう平気」
暖め直した料理をテーブルに載せて、向かい合わせに私は座った。
「そっか、じゃあ今夜も眠らせなくてもいいんだ」
形のいい唇をわずかに上げて、色気のある笑みを見せる隆史に、私はドキ
リとしてしまった。
「やっ、今日はダメ」
ドキドキとうるさい心臓を押さえながら、拒否してるのに、隆史は魅惑的
な目で私を見つめている。
「さっき平気っつったじゃん?
せっかくの新婚なんだし、がんばっちゃうよ、オレ」
いや、だから人の話をだなぁ。
「頑張らなくてもいいし。。。」
「え?
だって、もっとオレを感じてもらいたいし」
だ、だから!!!
「エッチするんじゃなくて、違うことで隆史を感じていたい!!」
隆史に抱かれると、深い快楽に包まれて何も考えられなくなってしまう。
 そんなのヤだ。
隆史と一緒にいるんだって、安らぎが欲しい。
激しい快感じゃなくて、穏やかに隆史の温もりを感じていたい。
「例えば?」
「手をつないで寝るとか………」
子供みたいなことを言ってるよな、私。
結婚前から、何度も抱かれて来たのに、今更何を言ってるんだ!って呆れ
られるかな?
でも、二人でお喋りしたり、体だけじゃなく、心で隆史を感じていたいん
だもん。
隆史がいない時間も、一緒にいるんだって思えるくらいに、隆史でいっぱ
いにしたい。
「了解!」
大きくうなずいてから、隆史はやっと食事を始めた。
 仕事の後だし、こんな時間だから胃に優しいモノを作ったんだけど、隆
史は全部食べ終わると、私の手をとって、早速寝室へと歩く。
「このまま眠ろうか」
  指先から伝わる体温。
広いキングサイズのベッドは、二人で眠るにしても大き過ぎて、私は隆史
にピタリと体をくっつけた。
 私はシングルベッドで、ギュッと抱きしめ会いながら眠る方が好き。
でも、隆史は仕事で疲れてるのかな?
ゆっくり、一人で眠りたいのかな?
「佳織、あんまくっつかれると、オレ我慢できないよ?」
優しく髪を撫でてくれながら、隆史は私を見つめる視線に甘やかな輝きを
宿らせている。
 や、このままだとまた昨夜と同じ事になってしまう。
うんと、
えっと、
頭をフル回転させて、話題を探した。
「そ、そう言えば、隆史が住んでたアパート、解約した?」
私の住んでたマンションの解約はまだだったりする。
 隆史が家具を全部新しく買いそろえたから、部屋に残ってる家具の処理
とかあって、結局そのまま。
隆史はどうなんだろうか?
「………あの部屋、オレが住んでたけど、名義はオレじゃないんだよな」
さっきまでの甘い視線が、少し陰りを見せた。
 何だろ?
言いたくないのかな?
でも、隆史名義の部屋じゃなければ、誰の部屋なんだろうか………。
「そっか、私もまだなんだよね」
隆史は、やっぱり言いたくなかったのだろう。
私の部屋の話題になると、身を乗り出した。
「マジ?
だったらさ、perfume に名義変更できないかな?
男子寮が欲しいって思ってたんだけど、時間なくてまだ探してないんだ」
確かに水商売Okな不動産って結構少ない。
家主さんに嫌われるんだよね、深夜の外出が多いし、近所迷惑になるから
って理由で。まぁ、他にも信用できないとか色々あるんだろうけどさ。
「多分、できると思うよ。
でも、それなら家具もそのままでいい?」
まだ使えるモノばかりだし、処分するのももったいないなぁって思ってた
んだよね。
それに、めんどくさいし。
「その方が住む奴らも喜ぶと思うから、いいんだけど………」
何だか歯切れの悪い隆史。
「何か不都合でもあるの?」
変な家具とかあったかなぁ?
別に女の子らしい、ピンクの家具ってわけでもないし、普通だと思うんだ
けど。
 考え込む私に、隆史は少し顔を赤くさせて、小さな声でポツリと言った。
「オレ、ヤだ。
佳織が寝てたベッドに、他のヤツが寝るのだけは」
………。
 何だか、隆史がかわいい!!!
どうしよう、滅茶苦茶ツボにはまっちゃった!
「もしかして、妬いてる?」
うわぁ、赤くなる隆史なんて初めて見たかも?!
どうしよう、うれしくてかわいくて、最高♪
「うるさい!
でも、イヤなモノはイヤなんだよっ」
プイと私から背けてしまった隆史の横顔を見つめると、耳まで赤くなって
いる。
 もう、我慢できないっっっ!
「隆史、すっごい大好き」
ギュッと、横を向いたままの隆史に抱きついた。
 ああ、やっぱり結婚っていいね。
こんな表情まで見ることができるんだもん。
幸せだ!!!
幸せすぎて、もう頭の中がとろけてしまう。
「オレを妬かせたお仕置きしてやる!」
抱きついた私は、間違って隆史の心を切り替えてしまった。。。
せっかく今日はお喋りしながら眠ろうと思ってたのに、お仕置きという名
の快楽をまざまざと体に刻みつけられた。


 翌日、私はやっぱり隆史より後に目が覚めた………。
こんなんじゃ、嫁失格だよ。。。。

「佳織、今日の夕方時間ある?
電話するから、一緒に家主の所行こう」
昨夜の話で、確かにマンションの名義替えをすることになったけど、まさ
か今日とは思ってもいなかった。
「そんなに急いでるの?」
「いや、違うけど、今日できる事は今日中に片づけておきたいし」
ああ、そうか。
ホントに隆史は忙しいんだね。
EDENでホストしてた頃よりも、もっと大変そうだ。
 そりゃ、自分の客だけ管理してるよりも、店自体を経営するのって、す
ごいことだと思うけど、そんなに頑張りすぎて大丈夫なんだろうか?
ちょっと心配になってしまう。
 ホント、体調管理くらい、しっかりできるようにならないといけないね、
私。
「わかった、電話くれたらすぐに出られるようにしておくよ」
「サンキュ、ごめんな、佳織にまで迷惑かけて」
 それだけを言うと、隆史はスーツに着替えて仕事をしに出て行ってしま
う。

「いってらっしゃい」
「いってきます」
もちろん、キスの挨拶をしながらお見送り。
新婚って感じがするのはその一瞬で、隆史の姿が見えなくなると、すぐに
私は何をして時間を過ごせばいいのかわからなくなってしまう。
隆史が、好きで、やっとつきあえるようになて、うれしかった。
 もっとずっと一緒にいられるように、結婚したいとも思った。
でも、私は一人の時間の過ごし方を知らない。
他の人はどうやって、毎日を送っているんだろうか?
 淋しい時はいつも誰かに電話をして、会ったりしていた。
でも、結婚してるのに、そんなことはできない。
女友達はほとんどいないし、いても家庭に入ってるか、働いてるか………。
 何か趣味でも見つけた方がいいかもしれない。
 今夜にでも隆史に相談してみようかな?

夕飯の買い物したり、テレビを見たりしていると、やっと隆史からの連絡
が入った。
『悪い、オレが行きたかったんだけど、ちょっとゴタついてるから、代わ
りを京介に頼んだ。もうすぐ到着すると思うから………』
え?
隆史と一緒に大家さんの所に行くモノだと思っていたのに、京介に変更し
て、少し悲しかったけど、電話の向こうですごく慌ただしそうな隆史の声
だったから、私はうなづくしかできなかった。

 それからすぐにインターホンが鳴り、私が外に出ると、スーツ姿の京介
がいた。
「う〜ん、新妻と二人でドライブかぁ」
え?
京介はいつもの不機嫌そうな顔じゃなく、営業スマイルで話しかけてくる。
どうしたんだろ、今日は機嫌がいいのかな?
どうも京介には嫌われてるみたいだったのに、こんな風に笑いかけて貰え
ると、ちょっとうれしい。
「新妻って」
「なんかエロティックだよな、響きが」
いや、全然普通なんだけど………
「AVとかのタイトルって感じ?」
「そうそれ!『昼下がりの新妻』とかありそうじゃね?」
…………。
いやぁ、どうしてそうすぐにエロに話をリンクさせてしまうんだろうか?
隆史もそうだけど、男ってみんなそうなのか?
いや、違うだろ!
 とりあえず、マンションの前に止められてあったエスティマに乗り込む
と、後ろの席にたくさんの布団が積まれていた………。
「布団の押し売りでもするの?」
思わずそう言うと、彼は小さく吹き出しながら説明をしてくれた。
 コレは寮になる予定の私の部屋に持っていくんだそう。
 先輩ホストの部屋に居候してる新人ホストが5人くらいいるらしくて、
その人たちを寮に入れる予定なんだって。
でも………、
「私が一人で住むには少し広い部屋だったけど、5人で生活するには狭い
よ」
「立地条件がよくて、水商売OKの部屋って家賃高いんだよね。
新人が一人で払えると思う?
シェアするしかないって!
狭くても我慢だよ、早く一人暮らしできるくらい稼げるようになるために
も、ハングリー精神が養えていいんじゃね」
う〜ん、そんなモノ何だろうか。
女の子が水商売するときに用意される寮はワンルームなんだけど、ちゃん
と一人一人個別なんだよね。
それに比べて、ホストってちょっと過酷だなぁ。
 基本給だって低いし、ホント売れないと稼げない商売。
 そんなこんなで、京介の運転する車で連れてこられたのは元私の住んで
た部屋。
そこで布団を部屋に置いてから、大家さんのいる所へと向かう車内で京介
は優しい笑顔をくれた。

「結婚おめでとう。
言うの遅くなったよな、ごめん」
え?
嘘?
マジっすか?
「あ、ありがとう」
うわぁ、どうしよう。
結婚を祝ってもらったの、和美以外初めてだ。
 誰にも内緒で、ひっそりと式もあげたし、それに、京介は私を嫌ってる
みたいだったし、祝福を受けるなんて思ってもなかった。
なんかおめでとうの一言がうれしくて、涙が出そうになってしまった。
 そんな私をルームミラーで見つめながら、京介は不思議そうな顔をして
いる。
「何泣いてるんだよ」
「……だって、うれしんだもん!
京介におめでとうって言われるなんて思ってなかったし、どちらかと言え
ば反対してると思ってたから」
「別に最初から反対なんてしてないって。
オレはずっと二人がくっつけばいいと思ってたんだから」
「ホント?」
だって、そんな素振り全然感じなかった。
絶対、嫌われてると思ってたし。
「当たり前だろ、隆史がずっと片思いなんて笑い死にしちゃうよ、オレ。
つうか、今でも笑いたいの我慢してるんだよな、ホントは」
笑いたい?
「何がよ、別に隆史は片思いなんかしてないもん!
私凄く凄く隆史が好きなのに、どこが笑えるの?」
やっぱり京介は京介だ。
普通に祝ってくれればいいのに、どこか天の邪鬼な言い方してる。
「いやぁ、契約が済み次第すぐにでも入寮させたいのに、隆史のやつ、佳
織ちゃんのベッドの処分が終わるまでダメだって言うんだぜ?
あり得ないだろ」
…………。
 京介にまで言ってたんだ。
「や、だって………」
どう返事すればいいのかわからなくなってしまった。
隆史の嫉妬がうれしくて、何だか恥ずかしくなってしまう。
「マットと布団を換えればそれでいいだろうに、ダメなんだとさ。
 でもさぁ、そんなにイヤなら、ベッドだけといわず、部屋自体寮にする
なって思わねぇ?
何かその辺りが、隆史ってバカなんだよ」
う〜〜ん。
隆史をバカ呼ばわりして許せるのって、京介だけかもしれない。
だって、バカと笑いながらも、隆史の事を喋る京介の表情はとっても優し
い顔をしてるんだもん。
「京介って、ホント隆史と仲良しなんだね」
この一言に、京介は運転中だというのに、私を見つめて、一言。
「誤解すんなよ!」
え?
わけがわからない私に、今度はちゃんと前を見ながら付け加えた。
「よく言われるんだけど、オレはノーマルだから!」
 あはは!
あり得ない!
そんなの思ったことも聞いたこともないよっ。
「わかってるよ」
 


 無事契約も終わり、ベッドの処分もできて、隆史以外との男の思い出ま
でもある部屋は、正式にperfume の寮となった。





2004-2008©白雪姫-hime-