はぁぁぁ。
腰が痛い。
しかも、イライラする。
今月もまた、生理が来た。
隆史と結婚して3ヶ月。
いや、付き合ってた頃から考えると、もうずっと避妊らしきものをしてい
ない。
なのに、子供ができない。
隆史は、今は二人でいたいと言ってくれたけど、私は早く隆史と家庭を作
りたい。
隆史の家族に対するイメージを実行してあげたい!
私が、隆史にホントの家族を作ってあげたい。
そう思うのに、妊娠しないのはなぜ?
「こんばんは」
仕事用のスーツじゃなく、ラフな格好で和美が遊びに来た。
「いらっしゃい♪」
今日は、和美と京介をご招待してのホームパーティ。
毎日毎日、隆史のことばかり考えるしか何もない私のために、隆史が提案
してくれたの。
そのために昨日から、色々と買い物に行ったり、準備をしてたから、疲れ
てイライラしてるだけだと思ってたのに、生理前だったからなのね。。。
和美の後ろから、京介の姿も見えた。
「二人一緒に来たの?」
「いや、偶然そこでバッタリ」
京介も、ジーンズにドルガバのVネックを合わせたカジュアルな服装だっ
た。
うーん、カジュアルな着こなしなのに、あふれ出る色気は何?
さすがホストだよ、どこにいても、どんな格好をしてても、すぐに職業が
バレそうだ。
「うわぁ、すごい」
室内に入るなり、テーブルの上に並ぶ料理を見て、和美が驚いている。
「はりきっちゃった」
ネットや本を見ながら、たくさんの料理を作った。
他にやることがないから、かなり手の込んだ料理まで挑戦できたし、結構
楽しかった。
「全部佳織ちゃん一人で?
出張シェフでも頼んだかと思った」
京介も、マジマジと料理を見つめている。
「や、でも味は保証できないし」
なんだか、そんなによろこんでもらえると、恥ずかしくなってしまう。
「いや、味もいい♪
毎日佳織の手料理食ってるオレが保証する!」
パソコンで、エクセルをしていた隆史も、二人の訪問に仕事を止めて、
ダイニングへと入って来た。
全員揃った所で、シャンパンを開けて乾杯。
楽しい時間は、すごく流れるのが早くて、もうデザートになってしまっ
た。
「ケーキも焼いたんだよ」
大きく盛り上がったシフォンケーキを切り分けて、配ると、隆史の優しい
視線とぶつかってしまった。
「どうかした?」
「楽しそうだなって、思って」
凄く凄く優しい瞳で、胸がギュッと熱くなる隆史の視線。
「楽しいよ」
隆史がそばにいて、祝福してくれた二人と一緒に食事をしてる。
すごく幸せな時間。
「じゃあ、また二人に来てもらう?」
隆史の仕事柄、まだ結婚してることを公表していないから、来客があるな
んて、すごく珍しい。
ホントなら、上司とか親戚とかを呼んで、結婚の挨拶みたいな食事をす
るんだろうけど、私たちはお互いの家族を知らない。
和美が、私には家族以上の存在。
「うん!」
満面の笑みで答えた私に、隆史は形のいい唇をわずかに上げて、小さく微
笑んだ。
「ちょっと複雑な気分だな。
オレと二人きりより、うれしそうってのが」
「そんなことないよ!
でも、やっぱり和美たちが来てくれて、楽しい♪」
隆史と二人きりな毎日を過ごしている。
でも、隆史は明け方まで仕事をして、昼過ぎにはまた仕事に行ってしまう。
「お前ホント失礼な。
人呼んでおいて、その言いぐさ。
オレらって、邪魔しに来たわけじゃねぇよ」
京介に言われながら、隆史はそれでも否定すらしなかった。
「え?邪魔しに来たんだと思ってた。
せっかくの休日で佳織と二人きりのオレの最高の時間を」
いや、隆史。
ソレ、ホントに失礼だし。
でも、うれしいけど☆
「結局のろけってヤツよね。
こんなラブラブじゃ、来月辺りに子供もできてたりして」
和美にからかわれて、私がドキリとしてしまった。
…………。
どうして、子供ができないんだろうか?
もしかして、私が原因なのかな?
学生時代に一度、流産したから、妊娠しにくい体になってしまったのかも
しれない。
「どうしたの、急に真面目な顔して」
私の変化にいち早く気づいた和美が、不思議そうに見ている。
「へ?
真面目な顔って、、、いつも真面目だしぃ」
笑って誤魔化しながらも、やっぱり頭の中では自分の体に対する不安が募
っていた。
不妊症。
2年くらい、子供ができないとそう言われてしまう。
私たちがつき合いだして、今日まで1年半くらいが過ぎた。
なのに、今月も妊娠していない。
こんな事、誰にも相談できない。
「ホントに?」
簡単に誤魔化されてくれない和美を納得させてみせるために、私はわざと
笑い飛ばした。
「うん!
隆史の子供だったら絶対、かわいいだろうね♪
女の子なら、フィギアスケートとかさせたりしちゃって☆」
「いや、カリスマホストの娘でフィギアって………、まぁ、いいけど」
苦笑いしてる和美の隣で、少し考え込んでいる京介がいた。
「………お前、大丈夫なの?」
私に聞かせたくないのか、小さな聞き取り憎い声で、隆史に話しかけた。
「………ああ」
隆史も、小さくそれだけ答えると、この話題から逃げるかのように、洗い
場に行って、食器を片づけ始めた。
何だろう。
何が、大丈夫なんだろうか?
わかんないけれど、聞けない。
だって、隆史はいつも私を傷つけないようにしてくれる。
だから、きっと彼が言いたくないことは、聞かない方がいいんだ。
ううん、違う。
傷つくのが恐いから、聞かない方がいいんだ。
ホストは、女と切っても切れない関係。
どれだけ、一線から離れたと言っても、女の客を接客する仕事には違いな
い。
だから、私は毎日嫉妬しちゃう。
結婚して、家族になったってのに、夜、一人で眠れなくて、隆史が帰宅す
るまで起きていちゃうんだ。
結婚したら、隆史を独占できると思っていた。
そんなの大きな間違いなんだよね。
結婚しても、仕事を続ける限り、私は隆史を独占なんてできない。
「結婚って、何の意味があるんだろう」
言葉にするつもりなんてなかったのに、ポツリと声になって、気持ちが外
に漏れてしまった。
隆史と京介には聞こえてなかったみたいだけど、和美にはばっちりと聞こ
えてたらしく、チラリと私を見ている。
「………佳織、そういやスーツくれるって言ってたよね、見せてよ」
そう言って立ち上がる和美を、洋室に案内しながら、私はなんだか苦しく
なった。
「………全部いらないから、好きなだけ持って帰ってね」
クローゼットから、仕事用のスーツを取り出して、広げている私の動きを
止めた和美は、真剣な表情で顔をのぞき込んでくる。
「………幸せじゃないの?」
裏表も隠し事も、何もない和美の瞳。
今まで、ずっと相談してきて、私の恋をいつも見守ってくれていた和美。
「幸せ、だよ」
幸せじゃないなんて、言えない。
これ以上、和美に心配なんてかけられない。
「………佳織はまた嘘をつこうとしてる」
「嘘、って。
何で決めつけるのよ。
ホント幸せだし」
笑いながら言おうと思うのに、声が震えてしまう。
「まぁね、幸せの価値観なんて、人それぞれだから、そんな泣きそうな顔
してるのが、幸せだって言い切るんなら、ソレでもいいよ。
ただのマゾじゃんって感じだけど」
幸せの価値観?
私の幸せって何だろう?
「……和美の幸せって何?
私の幸せって………何?」
ねぇ、誰か教えてよ。
幸せの定義なんて、どこにあるの?
誰が決めたの?
私は今、幸せに見えているのだろうか?
誰から見れば、どんな角度で見れば、私は幸せに見えるんだろう。
「…ホントに幸せな時は、そんなの考えないで、その時間を楽しむもんだよ。
幸せって何?って思った時点で、佳織は幸せに到達してないんだ」
幸せに到達していない?
そんなこと言われても、わかんない、、、よ。
あんまり深く考え込むと、泣き出しちゃいそうだ。
何も考えたくない。
だって、私は隆史と結婚をして、幸せなんだ!
そう思ってるのが、一番なんだから。
なのに、気が付けばいつも、淋しくて不安になってしまう。
「私の幸せは隆史と一緒にいること。
だから、今は幸せなんだよ。
隆史と離れてる時より、幸せなんだよ」
自分に言い聞かすように、和美に言った。
そう、私の幸せは隆史と共にあること。
こんな好きな男と結婚できて、大切されて、幸せに決まってる。
「うん、そうだね。
だから、わかんない。
佳織が今、何を悩んでいるのか想像すらできないんだよ。
ちゃんと教えてくれなきゃ、わかんないよ。
それとも、私は頼りにならない?
佳織の悩みを打ち明けられないような人間なら、仕方ないけどさ」
………。
いっつも和美に甘えてばかりいた。
相談ばっかりして、私は和美のために何もできないのに、和美にはいつも
助けてもらっていた。
でも、結婚したし、もう心配かけちゃいけないと思ってたのに。
「違う、そうじゃない。
もう、一人で解決しなきゃいけないって思ってたの」
いつまでも和美に甘えてちゃダメだと思った。
「別にいいじゃん、友達なんだしさ。
ほら、言ってみ、何を悩んでるんだ?」
どこまでも甘やかしてくれる友達。
やばいなぁ、和美から離れられなくなりそうだ。
そう思いながら、口を開こうとした時、ダイニングから隆史の声がした。
「佳織っ、何してんの?」
「……明日、夕方遊びに行こう。
お茶でもしようね」
和美はウインク一つをしながら、適当にスーツを何着か手にダイニングに
戻った。
「今ね、佳織から仕事用のスーツもらったんだ」
私の代わりに、隆史に説明をしてくれる和美を見ながら、考えてしまった。
和美に何を相談するつもりだったんだろ?
結婚したのに、隆史がいないと淋しいと思ってしまう事を?
それとも、子供ができないことを?
あまりにもバカげてる。
子供のことは、隆史と二人で考えるべき問題だし、淋しいのは、、、いく
らなんでも非常識だ。
隆史が働かなきゃ、私たちは生活できない。
今の時代、老後とかライフプランを早い時期から考えておかないといけな
いくらいってわかってるのに、それでも隆史が女と喋ってるかと思うと、
イライラしてしまう。
淋しくて、不安で、苦しくなってしまう。
働いてほしくないわけじゃない。
でも、嫉妬する自分を止められない。
結婚しても、私は何も変わっていない。
仕事をやめて、隆史のことを考える時間が増えた分だけ、比例するかのよ
うに、不安が蓄積していくの。
どうしてだろう。
幸せなはずなのに、新婚ラブラブなはずなのに、満たされた気分になれな
い。
同棲してたから、かな?
生活に、変化がなくて、まだ結婚した実感がないのかもしれない。
それとも、毎日隆史と一緒にいて、幸せボケしてるだけなのかな?
わからない。
でも、私は多分結婚した実感を得ても、不安になるだろう。
だって、この世には離婚って言葉があるから。
いつ別れるかわからない。
離婚率は年々右肩上がり。
ただ、役所に薄っぺらい紙を提出しただけの関係に過ぎない。
私と隆史を繋ぐのは、お互いを好きという感情だけ。
人の感情ほど、もろいものはない。
目に見えない分だけ、根拠がなくて、信用できなくなってしまう。
だから、早く家族になりたい。
安定した、信頼関係が欲しい。
もう、隆史を失ったりしたくない。
今度、隆史を失ったら、私はホントにどうなっちゃうかわからないよ。
こんなに大好きだとわかった。
他の誰と付き合っても、忘れられないんだとわかった。
誰よりも、何よりも隆史が好きだから、隆史を失うのが恐い。
その恐怖が、私を不安にさせてしまう。
「佳織、どうかした?」
京介も和美も帰った後、片づけをして、くつろいでる隆史は、いつもの顔
で聞いてくる。
「ううん。
今日は楽しかったね」
「そうだな」
言いたくない。
結婚したばかりで、もう不安になってるなんて、言えない。
隆史と一緒にいる時間は、凄く素敵で楽しい。
だから、隆史がいないだけで、淋しくて、苦しくて、不安になってしまう。
そんなバカな私に気づかないで欲しい。
隆史は、不安なんてない?
隆史は、今幸せ?
聞きたいことはたくさんあるけど、全部を飲み込んでしまう。
恐いから。
私が欲しい答えと違ったら恐いから、何も聞けない。
隆史を見送ってから、昨日約束したように和美と会った。
「何か不満でもあるの?」
会うなり、ストレートに本題に入る和美。
いっつもそうだ。
彼女は絶対変化球を知らない。
オブラートでモノを包むって事を知らない。
「いや、不満ってわけでもない。
ただ、なんかやっぱり隆史が働いてる時間とか、淋しくて、不安になって
しまうの。
変だよね、結婚したのに、何が不安なんだよ?って自分でも思うよ」
ホント、情けないくらいに、わかってる。
「……よくわかるよ。
結婚しても、それこそ浮気をするかもしれないし、まぁ、離婚だってある
わけだし、確実に二人を繋いでるってわけじゃないもんね」
和美の言葉に、思わず私は顔を上げて、マジマジと、その綺麗な顔を見つ
めてしまった。
「すごい!
その通りなんだよ」
和美は目を細めて、ゆっくりと微笑みながら口を開いた。
「だからずっと言ってたじゃん。
結婚なんかに意味はないんだから、愛人街道進もうって」
ああ、そうか。
和美は最初から結婚に夢を見ていないんだ。
私たちは、家庭環境に恵まれていたわけじゃない。
だからこそ、私は平凡な家庭に憧れて、結婚を夢見ていた。
でも、和美は逆なんだ。
自分の親を見て、現実を知っているからこそ、諦めている。
「隆史の愛人になるのはイヤ。
本妻のがいい」
他の女が世間で隆史の女と認められるなんて、許せない。
そんなのは絶対にイヤだ。
「うん、わかってるよ。
だから結婚したんでしょ?
本妻と愛人の差はね、子供だよ。
本妻は何も関係なく子供を産める。
でも愛人は違う。
認知してもらえるかどうか、そこから心配しなきゃいけない。
父親がいない子供を育てる覚悟をしなきゃいけない。
私は愛人になっても、子供なんて産まないね。
自分と同じような子供を作りたくない。
でも、佳織ならちゃんと愛情をかけて、素直な子供を育てられると思うよ」
その子供が、できないんだよ。
「結婚して、隆史と家族になれた。
でもそれは形式上だけで、まだホントの家族なんかじゃない。
だから子供が欲しい。
ちゃんと、隆史と家族になりたい」
そう強く望んでいるのに、気づいてしまった。
私、妊娠しにくい体なのかもしれない、と。
「……子はかすがいって言うけどさ、何かソレ間違ってるよ。
佳織は隆史と家族になるために、子供が欲しいんだね。
自分の不安を解消するために、子供が欲しいなんて、何か違う気がする。
そりゃ、わざと妊娠するようにし向けて出来ちゃった結婚を狙う女だって
いるよ。
でも、子供を道具にしちゃダメ」
……和美の言ってることはわかる。
よくわかってる。
もちろん、それだけの理由で子供が欲しいわけでもない。
「私自身も、隆史の子供を産んでみたいの。
今度こそちゃんと、大好きな男の子供を産みたいんだよ」
一度は体内に宿った命があった。
だけど、産んであげることができなかった。
だからこそ、ちゃんと大好きな人の子供の母親になりたいと思う。
なのに、私は子供ができない……。
男の人って、子孫繁栄させたくて、エッチするんだよね……。
自分の遺伝子を残したくて、エッチするんだよね。
だけど、私は隆史の遺伝子をこの世に残してあげることができないかも
しれない。
そう思うと、何だか熱いモノが、こみ上げてきた。
「ちょっ、いきなり泣かなくても。
わかったから、佳織が本気で子供を欲しがってるって、ごめんね。
道具だなんて思ってないんだよね」
喫茶店でいきなり泣き出してしまった私に驚いて、なだめようとしてる和
美。
だけど………
「違う!
そうじゃないの!
………私、子供ができないんだよ」
そう、今まで何も考えてなかった。
「……え?」
「気が付いたら1年以上避妊してないのに、出来ないんだもん」
和美は目を見開いて、心の奥をのぞき込もうとしてるのか、ジッと私を凝
視してる。
「……1年以上って、結婚前からだよね……」
「どうしたらいい?
ねぇ、どうしたらいい?」
もう、わかんないよ。
子供が欲しいと思ったとたんに、イヤなことに気が付いてしまった。
こんなの有り?
「……とにかく病院に行って検査してもらおう。
隆史にも、ちゃんと相談しなきゃいけないよ」
「いやだ!」
言いたくない。
隆史には言いたくないっっ!
「イヤじゃないでしょ、結婚してるんだし、二人の問題なんだよ」
「イヤなの!!
子供が産めないってわかったら、嫌われるかもしれない!
そんなのヤぁぁぁぁ」
もう、隆史を失いたくない。
どうしても、隆史を失いたくない。
これ以上、不安になりたくないんだもんっっ。
「…佳織が原因じゃないかもしれないよ」
私しか、思い当たらない。
だって、一度は隆史の子供を身ごもったんだ。
「ちゃんと隆史は子供が作れる体だと、私自身が立証してるじゃん!」
だから、多分子供ができないのは私だ。
流産した時に、何か問題があっったんだよ、多分。
「……その後に、大きな病気になったかもしれないじゃん」
「そんな話し聞いてないもんっっっ」
和美に話をしてる間に、ドンドンと加速度を増して私は不安になっていく。
話をすればするほど、パニック状態。
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