ラストボーイ
ラストボーイ

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7 ホスト 8 依存的幸せ 9新婚ブルー 10 蜜月 11 12 エピローグ

●●●
8依存的幸せ
 2件目を出すに当たって、経営コンサルタントをしている知り合いに相
談していたらしい。
なんと、そのコンサルタントが高校の頃一緒だった一樹だったから驚いた!
彼はもうすでに結婚していて1児のパパ。
色々な零細企業のコンサルをしてるらしく、隆史もperfume を株式会社に
して、2件目を一樹くんに相談したんだそう。
だから、京介と一樹くんと隆史の3人で色々と試行錯誤を繰り返し、やっ
と決まった所に隠し子騒動だったので、京介も一樹くんも呆れさせてしま
った。
お詫びに?
 ご飯に招待することにした。



「久しぶり!すごく綺麗になったよね」
家に来るなり、営業トークを始める一樹くんに、隆史は少し嫌な顔をした。
「人の嫁を口説くなよ」
そんなやりとりに京介と私は笑ってしまった。
昔と変わらないなぁ。
って思って。
「一樹くん、すごいね!
コンサルしてるなんて、しかも、もうパパなんだって?
幸せそうだね」
子供の話をしたとたん、一樹くんはうれしそうに財布から丁寧にパウチさ
れた子供の写真を見せてくれた。
「あ、男の子だ!」
まだ2歳くらいだろうか?
小さな足で頑張って立って、おぼつかないVサインをしている子供が笑顔
で写っている。
ホントに子供ってかわいい。
きっと、いるだけで癒される存在なんだろう。
「今、ヤンチャで困ってるんだよ。
悪戯しまくりで、嫁さんも毎日ヘトヘト状態みたい」
愚痴ってるのに、どうしても幸せそうにしか見えない一樹くんに、隆史と
京介は呆れながらも耳を傾けている。
私も出来上がった料理をテーブルに並べながら、楽しくその時間を過ごし
た。
 何だか不思議な空間だった。
高校の頃、隆史と仲良かったのを知ってるけど、まさかこんな形で再会す
るとは思ってもいなかったし、それに、京介と一樹くん、二人がいると隆
史はまるで昔の頃のような表情で喋っている。
きっと、仕事場ではちゃんとお互いに違う顔をしてるんだろうけど、こう
やって、くつろいでくれてるんだよね?
そう思うと、ホントにうれしい。
3人がくつろいでいる場所に、私のスペースがある。
それが、とてもうれしかった。
  隆史が私といることでくつろいでくれている。
結婚って、帰ってくる場所を提供することなんだよね?
私が帰るのも隆史のいるこの部屋。
隆史が帰るのも私がいるこの部屋。
同じ空間に、住んでる二人が空気みたいに混ざり合って、いるのが当たり
前になるの。
それが、結婚なんだよね?
何となく、そう思えてきたよ。

隆史、大好きだよ。

3人で楽しそうに食事をしている隆史を見つめながら、心の中でつぶやい
てみた。
  いつ頃からだろうか?
私は恋するのが恐かった。
誰かを好きになるのが恐かった。
心の中を他の誰かに占領されて、ソレを失ったら、ホントに抜け殻になっ
てしまうから、本気で恋することから逃げていた。
だけど、隆史からは逃げられなかった。
何度も何度も逃げようとした、その時の今以上好きになるのがイヤで、も
っと、もっと苦しくなるのがわかっていたから、逃げだそうとしたけれど、
そのたびに隆史は私を捕まえてくれてたね。
今、ホントに幸せだと思える。
私の近くで、隆史がくつろいでいる。
それだけのことなのに、人から見たら普通の事だけど、私には一番の幸せ
なんだ。
もう、隆史がいないと生きていけないくらい、溺れてしまった私は、どう
すればいいのだろうか?
あなたを失うのが恐くて仕方がない。
でも、逃げ場もない。
ねぇ、どうしよう。
幸せになればなるほど、比例して、失った時の怖さに怯えてしまうの……
…。
 誰かを不幸にしてでも幸せになりたいと願った
 そして幸せになったらやっぱり神様は私を不幸にするんだろうか?
 今の幸せはたくさんの不幸の上にある。
 この罪にはどんな罰が下るのだろうか?
そんな不安が幸せと交錯するの。
私は、どうして酔えないんだろう?
夢のような幸せを満喫していればいいのに、ドロドロと深い闇に飲み込ま
れそうになる心があるなんて、隆史は気づいてるのだろうか?
幸せになり過ぎるの恐い、だなんて、隆史にはわかってもらえないかもし
れない。
  ううん、隆史だけじゃない、誰にもわからないよ。
だけど、はっきりと感じてるんだ。
今、幸せと一緒に存在する不安を。
隆史を失いたくない。
そして、いつか、彼の子供を産んで幸せな家庭を築くの。
それが願い。
ホントに平凡な家庭でいいの。
パパとママがいて、子供がいる。
その中に、小さな事件とかがあって、家族会議なんかをしたりして、みん
なで解決していくの。
そう、それが私の望み。
今、子供はいないけれど、目の前で繰り広げられる会話。
隆史の仕事とその仲間達がお喋りしている。
私は邪魔になってるわけじゃない。
でもね、何かが足りない。
いくら愛されてる信じていても、ソレは今だけなんだ。
1秒先の未来が怖い。

食事も終わり、話しも済んだのか、二人が帰宅した後、隆史は極上の笑顔
を見せてくれた。
「何かいいもんだな、昔のツレって言っても今もツレなんだけどさ、一緒
に仕事するって楽しいよ。遠慮なく意見とかも言えるしさ」
 何年たっても、変わらない友情。
すごくうらやましい。
私も、隆史とそういう絆が欲しい。
 愛と恋の違いなんてわからない。
私は隆史に恋をしているし、愛してもいる。
だけど、隆史は私を愛してくれてるのだろうか?
それとも恋してくれてるのだろうか?
安定した春の日だまりのような暖かい恋を、私は選ばなかった。
アスファルトさえも溶かすような灼熱の恋を選んだ結果、今に至る。
いつも、どこにいても激しく狂いそうな程隆史を思ってしまう。
何も手が着かないくらに、隆史を愛したく手仕方がない。
これが、愛なのか恋なのか、そんな世間の決めた言葉なんかで表そうとす
るのが、そもそも間違いなのかな?
隆史しか見えない。
こんな私はどこかおかしいのだろうか?

「こんなに幸せでいいのかな?」
私の不安はこんな言葉になってしまう。
正直に話したいのに、嫌われるのが怖くて素直になれない。
「何言ってるんだよ?」
頭を撫でながら、隆史は微笑みをくれる。
「………なんか、幸せだと思えば思うほど、この幸せが壊れた時のことを
考えてしまうの」
不安定な場所に立っていて、すぐにでも地盤は緩んでしまいそうなもろい
幸せに感じてしまう。
「今は、幸せなんだろ?」
目をのぞき込むようにしながら、隆史はその綺麗な三白眼に私を写す。
「うん、幸せ。
でも、明日は?
明後日は?わからないでしょ?
この前までだってすごく幸せだったけど、不妊症かもしれないとか、隠し
子かもしれないとか、色々と悩んでしまったし………」
幸せを味わった後、大きな不幸が待ち受けている。
いつもいつもそうだ。
「それはオレが悪かったんだよ、ホントにごめんな?
結婚する前にちゃんと言っておくべきだったと思ってる、ホントにごめん」
目を細めて、すまなさそうに謝る隆史。
「違う。隆史を責めてるんじゃないの」
ただ、私の幸せはいつも隆史の元にある。
隆史が基準なんだ。
私の幸せなのに、私が基準じゃない。
だから、毎日が不安になってしまう。
「いや、でも……オレのせいじゃん」
「そうじゃないんだって!」
どう伝えたらいいのだろう?
この不安を………。
心を言葉に表すのって、すごく難しいんだね。
ただ、隆史を好きなだけ。
でも、それじゃあこの意味もない未来に対する恐怖を伝えることなんてで
きない。
「じゃあ、何?」
ジッと私を見つめながら、隆史は次の言葉を待っている。
 待たれると、余計に焦って、言葉がこんがらがって、上手く説明できな
くなってしまう。
「えっと………隆史が悪いんじゃなくて……」
「じゃあ、佳織が悪いの?」
「うーん、そうなんだけど、そうじゃなくて………」
「ん?」
ああ、何て説明をすればいいのだろうか。
「なんだろ、隆史に頼ってるんだよね、自分の幸せなのに……」
「マジ?
何かそれって、オレすごくうれしいんだけど?」
本気でよろこんでいる隆史を見て、落ち込みそうになった。
だから、そうじゃないってばっっっ。
「待って、だから違うんんだって!」
「何が違うんだよ?
オレが佳織を幸せにしてるって、意味だろ?」
不思議顔の隆史くん。
「そうだよ、隆史が幸せにも不幸にもするの。そんなつもりなくて、隆史
の些細な仕草にでも幸せを感じるように、ほんの小さなことで不幸にもな
ってしまうんだ」
ソレって、どうよ?
私の感情の喜怒哀楽すべてが隆史を基準に動いてる。
「じゃあ、オレがずっと佳織を幸せにするようにすればいいだけじゃん」
簡単に言ってのける隆史。
「それが、怖いの」
「怖い?」
「うん。子供のことだってそう。
隆史は私を不安にさせないためにパイプカットしてたことを黙ってくれて
いた。
でも、逆にそれが私を不安にさせた」
「……ん」
「隆史は私を幸せにしようとしてくれたことなのに、悲しくなっちゃった。
それに、私の気持ちなのに、私の幸せなのに、隆史に依存しまくってる。
ちゃんと、自立しなきゃいけないなぁって思うの」
私はホントに隆史がいないと何もできなくなってしまう。
そのうち、息すらできなくなってしまうよ………。
「いいんだよ、オレはそれでうれしい。
佳織に辛い思いさせてしまうかもしれないけれど、でも、オレに依存され
てる佳織がいい。
自立なんて淋しいこと言うなよ。
佳織は今のままでもあんまり甘えてくれないし、もっとオレに頼ってもら
いたいくらいなんだからさ」
そんな甘いセリフを言われると、単純な私はドキドキして、このままでい
いのかもしれない、なんて思ってしまう。
隆史の言うとおり、もっと依存しちゃいたくなってしまう。
でも、ホントにソレでいいのだろうか?
「……あんまり、辛い思いはしたくないや」
「させないように、オレが努力するよ」
隆史は今仕事がすごく忙しい。
この前まで雇われてた側の人間が、ホストを雇う側になっただけじゃない。
それは、経営者になったって意味で、店のすべての責任がある。
しかも、今回は2件目を出すに当たって、株式会社化しようとしている。
そうなったら、株の管理もしなきゃいけないだろうし、ホントに大変な時
期だ。
一樹くんだって、向こう20年のキャッシュフローを考えろとか言ってい
た。
キャッシュローなんて言葉、今までなら使わなかっただろう。
今後の収支の予測をたてるなんて、かなり難しい。
 ホストの人件費だって、ホストの人数や人気によって変化する。
水ものな仕事をしてるホストに、キャッシュフローを作れだなんて、かな
り無理がある。
でも、そのおおよその予測くらいはしておかないといけない。
他にもたくさん仕事がある。
毎月の給料管理、新人ホストの教育。
全部が全部、隆史の責任において成り立つんだ。
それなのに、私は隆史に迷惑をかけただけ。
京介が言ってたみたいに、ホントちゃんと応援しなきゃいけないね……。
「ごめんね、私がもっとしっかりしないと、隆史に迷惑ばかりかけちゃう
ね」
凄く凄く大変な時期なのに、いつも隆史しか見えない私は少し考え直すべ
きだ。
そう思っているのに、隆史はまた甘い言葉で私を惑わせる。
「いいんだよ、佳織はしっかりしなくて!
オレが全部支えるよ、だから思い切りよりかかっていればいい」
ニッコリと極上の笑顔で言われてしまった。
  私をどこまでも甘やかすつもりなんだろうか?
「ダメだよ、何かそれはダメなんだよ」
きっと、人間として、大切な何かが欠落している。
隆史に寄りかかるような私じゃ、きっと、ホントの私じゃないような気が
する。
「ダメじゃねぇって、もっとオレに依存しろよ。
オレがいなきゃ、何もできないくらいになってくれた方がいい」
そんなの、今でも充分過ぎるくらいそうだよ。
「隆史がいないと、息の仕方を忘れるくらいに愛してるよ」
愛してる。
何度も繰り返した言葉たち。
だけど、たった5文字じゃこの思いの全部は伝えられないよ。
隆史、隆史、隆史。
何度この名前を呼べばあなたに届くのだろうか?
「いいね、ソレ。
オレも、佳織がいなきゃ、何もできない。
って、京介にも言われたろ?
佳織のことばかり考えて、仕事にならないくらい、佳織を愛してるよ」
ギュッと抱きしめてくれる隆史。
オフだから、少しだけつけている香水エゴイストプラチナムの匂いが私を
包み込んでくれる。
ああ、この匂いは私を落ちつかせる。
香水って、人の温度で匂いが変化する。
一人の夜が淋しくて、プラチナムを枕につけてみた所で、本物の匂いには
敵わない。
今、抱きしめてくれる腕を、信じていよう。
そう思う。
だって、今はホストとして誰かに接客をしてるわけでもなく、仕事からも
離れて私の旦那として接してくれる。

あぁ、もういいか。
この腕にすべてをまかせてしまおう。
きっと、それしか私の未来はないんだ。
隆史がいなくなったり、私を不幸にしたとしても、それでも私は生きてい
たいなんて思わない。
隆史のいない世界なんて、隆史が隣にいない世界なんて、私にとっては無
意味でしかないんだ。
無機質で、まるで色のないモノクロな虚無。
だったら、もう悩むのはやめよう。
毎日隆史のことだけを考えて、それで時間を過ごすの。
それだけでいい。
幸せが何かなんて、私は知らない。
だったら、何も考えなければいい。
この腕の中で、ゆっくりと感じていこう、そしていつか、幸せが何かわか
ったとき、そのときこそ、私は生きてる意味もわかるだろう。
「ねぇ隆史、ずっとずっとそばにいてね。
私がイヤになっても、それでもいいから、側にいてね」
そんな切実な願いを言うと、隆史はニッコリと微笑んだ。
「ばぁか、イヤになるわけないじゃん。
佳織こそ、オレと一緒にいろよ。
ずっとずっと、二人の時間が続く限り」
二人の時間?
「二人の時間って、もしかして一人の時間もあるってこと?」
「違うよ、オレが生きてる限り、佳織が生きてる限り、って意味。
オレらはずっと離れることなんてできないんだよ。
だって、運命じゃん?
もう、どんな傷害だって、乗り越えられると思うんだ、今なら。
だから、一人で抱え込もうとしないで、オレを頼ってくれな。
オレも、佳織を頼りにするからさ」
「うん。
隆史が頼れるようないい女にならなきゃ、だね♪」
頑張って、気合いを入れて答えると、隆史は慌てて首を振った。
「ダメダメダメ!」
そんな強調してダメと言われても…。
「なんでよ、隆史に似合う女になりたいもん」
「充分にいい女だよ、今のままで。
これ以上いい女になられたら、オレが嫉妬でマジ仕事できなくなっちまう。
近所への買い物にも行かせたくなくって、ホント大変だから、今のままで
いいんだよ。
佳織はそのままいてくれればいい。
オレの隣で、この家で、ずっとずっと」
 甘い甘い隆史の言葉。
私はこの言葉に酔ってしまっていいの?
現状維持だけでいいの?
でも、今は幸せだ。
まるで春の日だまりにいるみたいに、心地がいい。
隆史のいる部屋。
隆史の息づかいを感じる部屋。
そこに私が存在する。
それだけで、すごく幸せを感じてしまうんだ。
京介に言われた言葉に反省したけれど、うれしさを感じてしまったのもホ
ント。
私が気になって、大切にしてる仕事ですら手につかなくなってしまった隆
史。
ああ、それだけ私は愛されてるんだと実感できてうれしくなってしまった。
悪いってわかってる。
でも、うれしかったんだもん。
これからは、あんまり心配かけないようにしよう。
一人で考え込まずに、ちゃんと隆史と向き合っていこう。
いくらすれ違いの時間でも、一緒に住んでいるんだもの、いくらでも会話
する時間なんて作れるはずよ。
  これからも、隆史が心配してくれるような女になれるように努力はする
けどね。
じゃないと、よけいに不安で不安で仕方がない。
私の中で、隆史は世界で一番大好きな人。
いなきゃ生きて行けない人。
愛してる人。
もう、絶対に何があっても離れたりしないためにも、私たちは歩み寄ろう。
結婚して、戸籍という絆だけじゃなくて、ちゃんと心と心の繋がりが欲し
い。
今まで以上に、一方通行な思いじゃなくて、ちゃんと二人で思い合ってる
って、そう感じられるように、私が不安にならないように、そして、隆史
が不安にならないように、お互いにお互いをいっぱい感じようね。
「これからいっぱい喧嘩したり、仲直りしたり、色々とあるだろうけど、
それでもずっとずっと一緒にいてね」
もう、本気で離れたくない。
ううん、離れられない。
そう思いながら、隆史を見つめる私を彼はギュッと抱きしめてくれた。
 プラチナムの匂いが、隆史の体温が私を包み込んでいく。
広がる安心感と、幸福。
「さっきそう言ったじゃん」
「うん」
愛してる。
こんな言葉でも、それでも思いの少しが届くなら何度でも伝えよう。
隆史に私の思いが届くまで、何度でも何度でも言い続けるよ。
「愛してる、すごくすごく愛してる」








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