マイ・フェア・ボーイ
マイ・フェア・ボーイ

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1プロローグ 2 遅いけど初恋なんだよ! 3 うれしはずかし初体験 4 どうしようか? 5 大変なんだよ?! 6 好きなんだそれだけ
7 やったね初指名 8 枕営業 9 悪魔がやって来た? 10 二人の行き違い 11 突然の別れ 12初恋は実らない 13エピローグ


●●●
10 二人の行き違い

インターホンを押すと、佳織はフラフラしながらドアを開けてくれた。 
テーブルの上にはたくさんのビールの空き缶が無造作に並んでいる。 
 店であんなに飲んでいたのに、まだ飲んでいるのか? 
「ミーティング終わったんだ」 
あまりロレツの廻らない口調で、佳織はいつものように明るくオレを受 
け入れてくれた。 
「飲み過ぎると、今日の仕事大変だろ?」 
かなりフラフラしながら、佳織はイスに座った。 
イスにたどりつくまでに、何度も転びそうになりながら………。 
「うん、そうだよね。 
でも、酔えないのよ…。 
なんでだろ、こんなにたくさん飲んでいるのに、ね」 
ニッコリ、と微笑みながらその目は焦点が定まっていない。 
 直樹さんじゃないけど、こんな状態じゃまともに話しなんてできそう 
もないな。 
 こんなに酔っているのに、佳織はまた新しいビール缶のプルタブを空け
た。 
「もう、飲まない方がいいって」 
「ん? 
じゃあ、勇哉くんが飲む?」 
ゴクリと大きく口にビールを含むと、佳織はその液体をオレの口の中に入
れた。 
 生ぬるくなったビールが、オレの喉をならす。 
いきなりのこの展開に、少し戸惑いながら…。 
「おいしい?」 
佳織は、うつろな目でオレを見た。 
その流し目具合が、妙に艶めかしい。 
「うん、おいしい」 
オレの返事をうれしそうにうなずきながら、次の一口をまた、口移しで飲
まされた。 
そしてそのまま、佳織はイスに座っているおれの膝の上に腰掛けた。 
「まだ飲む?」 
ビールで濡れた唇で、小さな舌をのぞかしながら、誘うようにねだるよう
にキスを くれる。 
ついばむようにたくさんのキスをくれながら、手はオレのシャツのボタン
を外して いく。 
「佳織………?」 
おれ、今誘惑されてる? 
いいの? 
このまま抱いちゃっても…? 
胸の突起に佳織の細い指が触れた。 
ああ、もうだめ! 
オレ、止まりそうもない。 
このまま、やっちゃう!! 
優しく、ソフトタッチに触れられながら、オレの身体は、反応していく。 
佳織の唇に舌を押し込むように入れると、それを絡めるように佳織の舌が
返事をく れる。 
「佳織、好きだよ……」 
ちゃんと伝えたいのに、声が上ずってしまう。 
佳織の手が、胸から段々と下がって、オレはかなり敏感になっている場所
をまさぐ られた。 
「私も好きよ…」 
キスの合間に、確認するかのように告白を繰り返しながら、オレは佳織に
主導権を 握られてしまった。 
 二人で、ダイニングのフローリングで重なり合うようにお互いの身体を
求めなが ら、佳織の手は休むことなく、オレを刺激する。 
 器用にベルトを外して、下着の中に手が進入して来た。 
酔っているからなのか、高い体温の指先が、心地いい。 
 うわ!! 
男でも、性感帯ってあるんだ? 
すっげぇ、気持ちいい。。。 
快感の波にゆっくりと飲まれながら、オレの心は、理性はもうどこかに消
えてしまっ ていた。 
「佳織、ダメ…オレ、やばいよ…」 
オレは、吐息にも似た切ない声で、それだけをやっと言えた。 
口を開くと、あえいでしまいそうで、かなり苦しい。 
「まだ、ダメだよ?」 
そんなオレを嬉しそうに見つめて、佳織は微笑んだ。 
「……マジだめだって!!」 
オレのセリフなんてまるきり無視状態で、佳織は今まで誰にもされたこと
がない ような事をした。 
  
「……ホント、やばいって! 
頼むから、もう……」 

オレは一度佳織の口と手で達してから、やっと、快楽の波から開放された。 
今度こそちゃんと佳織の中で、再び快楽に飲み込まれながら、その勢いで、 
眠ってしまった。 


目覚めると佳織の姿はなく、オレは広い空間に取り残されたような気分と、
今朝の 余韻が入り交じった、複雑な気持ちなった。 
 今朝の佳織は今までと全然違う激しさでオレを翻弄させながら、何も考
えられ なくなる程に刺激的だった。 
 なんで? 
佳織自身もまた、何かを忘れたかったから?
何かを考えたくなかったからなのか? 
確かに、大量のアルコールを飲んでいても、意識はまともだった。 
足取りなんかはかなりフラフラだったし、目もどこかうつろげだったけれ
ど、でも 意識だけははっきりしていたようだ。 
いや、あんなに凄い事したくらいだから、多少はアルコールのせいだろう
か? 
あああああああああああ! 
ダメだ、まともに思考回路が機能しないぞ!! 
やばくないか? 
 ちょっとでも気を抜くと、今朝の事が思い出されて、ドキドキしてしま
う。 
オレが今、横になっているベッドであんな事されちゃった!! 
うわぁ、やべ! 
…………。 
…………。 
…………。 
オレって、マジにやばいかも? 
かなり佳織にハマッてる。 
どれくらい、かなりかって言うと、思い出しただけでイッちゃいそうな位! 
やばいよなぁ、ビデオや雑誌じゃあるまいし、生身な分だけリアルなんだよ
な……。 
ベッドにいるから、やばいんだよな? 
とりあえず、起きて、家に帰ろう! 

身繕いをして、佳織の部屋を後にした。 
スーツのポケットに入れておいた、携帯を見ると、メールが何件か入って
いる。 
客からのメールと佳織からのメールだった。 
『ごめんね! 
今日は同伴の約束してたから、先に出ます。 
鍵はオートロックだから気にしないでね』 
同伴かぁ、オレも頑張って、少しは指名を増やさないといけないよな。 
佳織を見習って、がんばるぞ! 

お客からのメールに、いくつか返信をしていると、その一人から、着信が
あった。 
最初は、電話番号を教えるのに抵抗があったけど、もう今じゃ全然平気。 
そのうち、直樹さんや京介さんみたいに携帯二つくらい持っちゃうのもい
いかも?! 
「もしもし、勇哉?」 
「うん。昨日はありがとな、遅くまでつき合ってくれて」 
もちろん、店内でなんだけど。 
「いいよ、別に。それより今日も入ってるの?」 
「うん、金曜と土曜は入ってる。日曜も早い時間だけだけどいるし」 
「そっか、今何してるの?」 
「今?」 
「うん、どこにいるの?」 
「腹減ったから、コンビニで弁当でも買おうかなって」 
嘘じゃないけど、そりゃ腹も減ってるし、コンビニ弁当もいいんだけど、
全然考えて も居なかった言葉が、口からでまかせに飛び出てくる。 
「そうなんだ? 
どうせなら、一緒に食べようよ! 
出てこれる?今ルージュの近くにいるんだけど」 
おお! 
コレって同伴のチャンス? 
「わかった!15分くらいで行くから、近くの茶店で待ってて」 
電話を切ってから、オレは思わずニンマリと笑ってしまった! 
佳織のマンションは繁華街から歩いて15分くらいの場所だから、このま
ま行くと、 すぐに待ち合わせ場所に行ける。 
便利だよなぁ。 
直樹さんの部屋は、少し遠いけど、それでも電車で二駅くらいだし、オレ
の家よりか は全然近い! 
いいなぁ、オレもスーパーホストになったら、引っ越そうなかな? 
 頭の中でどんなマンションがいいか、考えていると、もう目的地に着い
てしまった。 
「早かったね!」 
さとみちゃんは、小麦色に焼けた肌をおしげもなく露出する、服を着てい
た。 
うーん、高校生でいそうだよな、一見。 
「今日、仕事は?」 
「今日はね、昼間雨が降ってたでしょ? 
だから、休み!」 
??????? 
「あはは!雨降りの日は働く気がしないのよ!」 
それって、どうでもいい言い訳、だよな? 
ルージュで働きだして、少しだけ分かったこと。 
キャバ嬢の中には、遊び半分でバイト気分バリバリの女の子もたくさんい
るって事だっ 
た。 佳織以外の水商売をしている女の子を知らなかったから、みんなもっ
と真剣に働いてい ると思っていたんだけど、そうでもない人もたくさんい
た。 
もちろん、同じくらいに、まじめに働いている人もいるんだけど。 
「基本的に、働くの嫌いなんだろう?さとみちゃんって」 
「バレバレだよねぇ。 
うざいじゃん?オヤジばっか相手してさぁ。そんな高くもない給料で、セク
ハラの嵐 なんだよ?」 
セクハラの嵐って……。 
「それが仕事みたいなモンじゃないの? 
もちろん、喋って飲んでが基本なんだろうけど」 
さとみちゃんは大きくうなずきながら、数々のセクハラ話をしてくれた。 
肩が凝ってるだろうからマッサージしてあげると言って、肩に触れてくる
のはまだ初心者で、事あるごとに胸を触られたり、足をなでられたりしちゃ
うらしい。 
変態かよ?って感じだな。 
「そんなオヤジにはなりたくねぇ!」 
「でしょ? 
もちろん、普通に飲んで喋るだけの人もいるんだけどね! 
後ね、なんか同じ触るキャラでも全然いやらしさを感じない人と、すっご
い不愉快に 
なる人がいるんだよねぇ、何が違うのかわかんないんだけど」 
どこが違うんだろうか? 
ソレって、かなり知りたいような…。 
ま、でも、そんなオヤジになるわけじゃないから、いいけど。 
「じゃあ、今日はそのストレス発散に逆セクハラでもする? 
オレの事触りまくるとか?!」 
「何それ?いいかも!!」 
笑いながら、さとみちゃんはオレの肩をバシバシ叩いた。 
居酒屋で、適当に晩飯を食った。 
周りから見れば、ホストとその客って感じなんだろうか? 
それとも、ホステスとその客? 
あるいは、恋人同士? 
どんな感じに写っているんだろう。 
佳織と一緒だったとしても、周りの目にはホストと客にしか見えないんだ
ろうか? 
オレがスーツを着ている限り…。 
さとみちゃんは、オレの腕に自分の腕をからませながら、ルージュまでの
道のりを歩いた。 
こんな姿、佳織が見たらどんな気分なんだろうか? 
やっぱ、いい気はしないだろうな。 
店について、さとみちゃんを席に案内してから、更衣室に入ると、マスタ
ーに呼ばれてしまった。 
「今度から、同伴の時は連絡くれな。 
遅刻か同伴か区別つかないから…」 
「はい」 
記念すべき、初同伴にオレはうかれていて、その日は気分よく営業をして
いた。 
気がつくと、もうラスト(閉店)時間になっていた。 
 ルージュでは、ラストにその日の売り上げNO1がラブソングを歌う事に
なって いるんだけど、だいたい直樹さんか京介さんがラストを飾ってい
る。 
今日も京介さんがしっとりとラブバラードを歌っている時になって、オレ
は初めて気がついた。 
あれ? 
今日、佳織が来なかった。。。。 
店の照明が明るくなり、店内にいた客が帰ってから、ミーティングの間中、
オレの頭 の中は佳織でいっぱいになってしまった。 
いつも、金曜と土曜のオレが入ってる時は、どんなに遅くなっても来てく
れた。 
なのに、今日はメールも入っていない。 
なぜ? 
今朝はあんなに、オレを求めてくれたのに、もう顔も見たくないって事? 
やっぱり、隆史さんの方がよくなってしまったのか? 
かなり入っているアルコールが、オレの思考をマイナスへと引っ張ってい
く。 
もしかして、昨日は行けなかったEDENに顔を出しているのだろうか? 
アイツに逢っている? 
そして、オレの知らない二人の会話をしているのか? 
想像なんてしたくないのに、楽しそうにしている佳織の姿が目に浮かぶ。 
アイツの前で、すごく無邪気にしている佳織。 
アイツはそんな佳織を愛おしく思って、抱きしめるかもしれない…そして、
二人は再びつき合ったり?? 

いやだ!! 
佳織はオレの彼女なんだ! 
渡さない! 
佳織をアイツになんか渡したくない! 


「おい、すごい顔してどうしたんだ?」 
弘幸に話しかけられた。 
あ、え? 
ミーティングは…終わってる? 
「これから直樹さんと飯でも食いに行こうって誘われたんだけど、お前は
どうする?」 
飯? 
飯なんて食ってる場合じゃないんだ!! 
「直樹さん!」 
いきなりオレに呼び止められて、更衣室に向かっていた直樹さんはビック
リしながら振り向いた。 
「一緒に行く?」 
「…EDENってどこにあるんですか?」 
「すぐ近くだよ。でも今から行っても店は閉まってるぜ」 
それでもいい! 
なんか、この心のモヤモヤをどうにかして解消したい! 
アイツと佳織が逢っていない事を確かめたいんだ! 
でないと、落ち着かない。 
「どこにいけば、隆史さんに会えるんですか?」 
「隆史に会ってどうするんだ? 
ケンカでもする?」 
弘幸は、黙って二人のやりとりを聞いている。 
「いや、違うくて…そんなんじゃなくて、佳織と一緒にいるかどうか知り
たいだ けなんだ」 
今まで黙って聞いていた弘幸が、オレに話しかけてきた。 
「それって逆じゃん?先に佳織ちゃんに連絡すれば済む話だろ。 
隆史ってこの前来てた人だろ?オレ接客してないからわかんないけど、彼
は佳織ちゃん の何なの?」 
「…元彼。そして、多分今でも佳織が好きな人」 
そう、佳織が今でもきっと思ってるだろう相手。 
直樹さんとつき合っても、ほかの誰とつき合っても、結局は忘れる事がで
きなかった 相手。 
ああ、そうか。 
オレは不安なんだ。 
いくら強がってみても、佳織の本心はアイツにあるだろうって疑いが、消
されたわけ じゃなくて、不安で不安で仕方がないんだ。 
佳織の事を考えるたびに、同じように頭の中に出張ってくるアイツが、
オレをドンドン不安にさせる。 
 直樹さんが佳織を好きだと知った時でも、オレは自分を騙していた。 
それでも佳織が好きなのはオレなんだと信じたかったから。 
でも、そんな自己暗示はやっぱりホントの事じゃなくて、ただ、自分を偽っ
てるだけ なんだ。 
一度、不安を認めてしまうと、もう止めどなく心にあふれ出てくる。 
「ソレ、佳織ちゃんから聞いたの? 
今でも好きだって言ってたの?」 
弘幸は、優しくおれに聞いてくる。 
そんな事、何度も考えたよ。 
でも、あれこれ理由をつけて、避けてしまう。 
佳織本人から、そんな言葉を聞かされたら、オレは苦しくて、悲しくて…
どうにかなってしまいそうで怖い。 
真実を知りたいのに、怖くて聞けない。 
だって、佳織はアイツの話をするだけで涙ぐんでしまうんだぜ。 
 この前だって、佳織はアイツにきつく当たっていたけど、それは愛情の
裏返しにも 思える。 
佳織はいつも、優しくソフトな人当たりで、オレに対しても、直樹さんに
対しても、 ほかのホストにしてもそうなのに、アイツにだけは違うかった
んだ。 
「………」 
オレは真剣だった。 
逆でもいい、佳織本人から聞きたくない! 
絶望的な気分になるのはイヤだ! 
「隆史はアフターしてるか、家に帰ってるかじゃないか? 
会いたいなら会わせてやればいいじゃないか。 
アイツだって会いたがってたんだから。」 
もう帰り支度を終えた京介さんがどこから話を聞いていたのか、オレにア
イツの携帯 番号を教えてくれた。 
「ありがとうございます」 
教えられた番号を押し、発信ボタンに指を乗せた時! 
「あ!!勇哉くんらぁぁぁ!!」 
千鳥足で道路を挟んだ向こうから、佳織が和美ちゃんに寄りかかりながら
叫んだ。 
大きく左右に手を振りながら、こっちに向かっている。 
「いい気なモンだよな。ホスト二人、あ、直樹を入れて3人を手玉に取っ
て、本人は 気持ち良く酔ってるんだから」 
京介さんが、ため息混じりに言った。 
「違うと思いますよ。佳織ちゃんはそんな女の子じゃないです。ただ、淋
しいからお酒に逃げてるんです」 
え? 
オレは冷静な判断を下した弘幸を見た。 
そうなのか? 
佳織は淋しいのか? 
なんで、そんな事お前にわかるんだ?? 
車の合間を縫って、佳織はビルの下に来ると元気よくオレに抱きついて来
た。 
「勇哉くん、大好きだよぉ」 
力なく、オレの首に腕を回して、小さなキスをくれる彼女。 
かなりのアルコールの臭いがする。 
「送り出し?それとも閉店?」 
佳織に比べると、全然シラフの和美ちゃんは、呆れたように佳織を見つめ
ていた。 
「ちょうど終わった所」 
弘幸の答えに反応したのは、質問した和美ちゃんじゃなく、佳織だった。 
「えぇぇぇぇぇ?せっかく来たのにぃぃぃ!」
頬をふくらませながら、拗ねている 
佳織を和美ちゃんがなだめるようにオレから引きはがした。 
 もっと、抱きつかれていたかったのに! 
コレが、甘える佳織の姿なんだろうな。 
「佳織が、グダグダ悩んでたからでしょ?こんな時間になったのは!!」 
「違うもん! 
気がついたらこんな時間なんだもん!!」 
「はいはい、そうだよねぇ。 
勇哉くんに会えて良かったね」 
佳織は満面の笑みで大きくうなずいた。 
「うん!」 
うわ!かわいい! 
こんな素直に表現されると、オレの方が照れてしまう。 
「良かったな、電話しなくて」 
弘幸は王子様みたいな顔を、優しく笑顔にして、オレに耳打ちをすると、
手をふった。 
「お疲れ様でした!」 
挨拶をして、京介さんと二人で、帰路を歩き始めた。 
「じゃあ、オレも帰ろうかな」 
直樹さんもソレに続くようにして、帰った。 
「今日、この子すごいアレてたんだよ。 
ルージュに行きたくないって言い出したかと思うと、勇哉くんに会いたい
って泣き 出したり、かなり大変だったんだからね!」 
和美ちゃんは、その綺麗な顔に疲労の色を映しながら、それでも佳織を支
える姿勢 を崩さずに、オレを軽く睨んだ。 
「どうしてそんなに飲んでたの?」 
「……昨日何かあったでしょ? 
隆史とブッキングしたのは聞いたんだけど、どうもソレが理由じゃなさそ
うなのよ。 
佳織が悩むような事を何か言ったりした?」 
…オレには思い当たらない。 
どちらかと言うと、アイツの愛してる発言しか覚えていないし……何かほ
かに佳織が気にするような会話があっただろうか? 
「ごめん、オレにはわかんないや」 
「そっか…」 
和美ちゃんが残念そうにしながら、オレと佳織をタクシーで佳織のマンシ
ョンまで送り届けてくれた。 
「佳織、部屋についたよ」 
「………ん」 
もう、眠たいのだろうか?彼女はボウっとした感じで、オレに手を引かれ
ながら部屋まで入り、そのままベッドに横になった。 

何を悩んでいるんだろうか? 
もう寝息をたてている彼女の頬にソッと触れてみた。 
「………」 
オレが悩んでいるように、彼女もまた、何かに苦しんでいるのだろうか? 
それは、オレの事だよな? 
アイツの事じゃないよな………。 
こんなに酔いつぶれるまで飲んで、何から逃げたかったんだろう? 
 オレは佳織が好きだよ。 
それと同じ気持ちで佳織もオレを思ってくれてるよな? 
こんなに近くにいるのに、ほかには誰もいないのに、それなのにこの不安
な気持ちは 消せない。 
 佳織がオレだけのモノならばいいのに! 
誰にも見せたくない、触れさせたくない! 
そして、佳織の目に映るのもオレだけだったらいいのに………。 

 「佳織、何処にも行かないでくれよ」 
夢の中にいる彼女は、何も答えをくれないまま、深く眠っていた。




2004-2006©白雪姫-hime-