マイ・フェア・ボーイ

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1プロローグ 2 遅いけど初恋なんだよ! 3 うれしはずかし初体験 4 どうしようか? 5 大変なんだよ?! 6 好きなんだそれだけ
7 やったね初指名 8 枕営業 9 悪魔がやって来た? 10 二人の行き違い 11 突然の別れ 12初恋は実らない 13エピローグ

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12 初恋は実らない

 オレは元のオレに戻っていた。 
いや、以前よりもかなりキツイかもしれない。。。 
  
 眠れない夜が続いて、一人の夜が淋しくて、以前のようにナンパをし
た相手に会ったり、その日初めて来た客と夜を明かしたりしていた。 
 女を抱いている時だけが、佳織を忘れられたから。 

「勇哉、今日はどうする?またバイト休むのか?」 
週末の夜を、淳司が誘ってくれた。 
オレは、バイトに行くのも中途半端な状態で、当欠と呼ばれる当日欠勤を
何度かしていた。 
もちろん罰金は1万円とかなりの高額だったけど、枕営業したお客さん
がキャッシュをくれたりと、バイトの給料よりも収入があった。 
そう、まるで逆エンコーみたいなモンだろうか…。 
「淳司は、クラブに行くのか?」 
「今日は、女子校とコンパ! 
だから、お前も休むんだったら一緒にどうかな?って思ったんだ」 
コンパ。 
女との出会い。 
でも、速攻お持ち帰りとかできるわけでもないし、金もかかるし……。 
「オレ、やめとくは! 
今日はまじめにバイトしとく」 
名前聞いたり、適当に相手の趣味に合わせて歌ったりして、お友達から
始めましょうなんて、かったるい。 
店に出れば、最初からオレを気に入ってくれてる女がいて、オレに気を
遣ってくれて、その上金になるなんて、断然バイトの方がお得だよな! 
「わかった!じゃあまたな」 
「おう」 
そのまま淳司と別れて、オレは弘幸にメールを打った。 
同じクラスなんだけど、下校のチャイムが鳴るとすぐにどこかに行って
しまって、見当たらなかったから。 
 すると、すぐに電話の着信音が鳴った。 
『もしもし』 
「オレだけど、お前今どこ?」 
『もう駅。今日は同伴の予定だったから、急いでるんだ』 
「そっかわかった!じゃあ、オレも後で店行くから、そこで会おうな」 
電話を切って、オレも急いで家へと向かった。 直樹さんにもらったス
ーツに着替えて、THEホストになった。 
自分でも最近のオレって大嫌いな程、イヤな男だったりするんだ。 
女なんて、どうでもいいって感じで、金にしか思えない。 
枕営業さえすれば、それなりに金を落としてくれるし、なんか呆れたモノ
すら感じてしまう。 
 街にあふれかえる馬鹿ギャル共もそうなんだろうか? 
オヤジに抱かれて金もらって、そのクセにオヤジを馬鹿にしている。 
今のオレと同じ感覚なんだろうか? 

「おはようございます!!」 
夕方の6時半、オレは元気よく挨拶と共に入店した。 
「へえ、めずらしいじゃん!勇哉がまともな時間に来るなんて。最近は
遅刻か当欠。あるいは同伴しかなかったのに」 
きっと、嫌味なんだろう。 
先輩ホストが挨拶の代わりにこんな言葉をくれた。 
「ちょっと売れ出したからって、調子に乗ってると痛い目に会うぜ」 
………。 
男の嫉妬っていやだよな。 
情けない。 
先輩のくせに、オレに売り上げを抜かれたはらいせかよ? 
だから中途半端なホストって嫌いなんだ。 
直樹さんや京介さんなんかは、絶対に嫌味やいじめをしない。 
それだけプライドも実績もあるからだろう。 
でも、こいつらみたいなのは、自分より売り上げの低い時には優しいく
せに、少し負けると態度をコロリと180度転回させる。 
最悪だよな、そんな性格だから売れないんだよ! 
 うざい連中をシカトしながら、店内を掃除をしたり、メールチェック
なんかをしながら時間を潰すと、真奈美ちゃんからメールが届いていた。 
『今日は入ってるんだ! 
じゃあ、後で行くね』 
一度アフターをして以来、真奈美ちゃんはかなりご機嫌で、来るたびに
ランクの上がったボトルをおろしてくれる。 
最初はマーテルのコルドンブルーだったのが、今ではカミュになっていた。 

「いっらしゃい」 
開店と同時くらいに、真奈美ちゃんは姿を見せた。 
「早く会いたくて、仕事さぼっちゃった」 
照れ笑いをする真奈美ちゃんをテーブルに案内した。 
それから、伝票に名前を書いてる間、彼女のヘルプにさっきの嫌がらせホ
ストがついていた。。。 

「お待たせ!今日は何飲む?」 
いつも通りに、オレは真奈美ちゃんの隣に座った。 
彼女の顔が暗くて、表情が読みとれなかったといえば、言い訳になるだろ
うか? 
オレが伝票をつけてる短時間の間に何かがあったかなんて考えもしなかっ
ただけなんだ…。 
「……とりあえずビールから………」 
さっきの元気はどこへやら? 
真奈美ちゃんの声が曇ってる事にようやくオレは気がついた。 
「どうかした?」 
ボーイにビールを注文しながら、注意深く彼女の顔を見た。 
「…勇哉、枕営業してるってホント?」 
あの野郎!! 
オレはむかつく気持ちをがんばって抑えて、真奈美ちゃんにこれ以上ない
くらい優しい声を出した。 
「そんな馬鹿な事するホストだったら、真っ先に真奈美ちゃんを口説いて
ると思うよ?」 
「……………そう」 
だめだ! 
どんな風に聞いたか知らないけど、彼女はオレを完全に疑っている。 
「信じられない?」 
「…ううん」 
はぁぁぁぁぁぁぁぁぁ。 
オレは深いため息をついた。 
ううんって声かよ? 
「全然信じられないって顔に書いてあるぜ。 
別にいいよ、こんなに言っても信じないならそう思ってれば?」 
確かに、太い客(金払いのいい客)ではあったけど、メンドクサイ事にな
るなら、切れても構わない。 
どうでもいいし。 
オレのその気持ちが伝わったのか、真奈美ちゃんは慌てて首を大きく振った。 
「違う!違うの!勇哉を信じてるよ! 
ごめんなさい。もう言わないから、許してくれる?」 
あれ? 
逆ギレがうまい方向に転がった? 
てっきり、真奈美ちゃんは指名替えをするモノだと思ったけど…。 
「ね、ホントにごめん!許してよ…」 
彼女の反応に面食らって黙ってるオレを、さらに勘違いした彼女は泣きそ
うな声で謝ってくる。 
「わかったよ」 
「良かった!」 
安心のため息をつきながら、テーブルに置かれたビールをオレのグラスに
入れてくれた。 
「仲直りの乾杯しよ?」 
「ああ」 
しっかしわけわかんないよなぁ。 
なんで逆ギレしたオレに謝るんだ? 
でも、おかげでかなり助かったけど。 
枕営業の事だってどうにか切り抜けて、その上、彼女はオレの客のまま! 
最高じゃん♪ 
それから楽しく二人で飲んでいたら、京介さんが同伴出勤して来た。 
「あ!京介さん呼んでもいい? 
勇哉が休みの日、京介さんに相手してもらってるの…」 
遠慮がちに、真奈美ちゃんが聞いてきた。 
馬鹿だよなぁ。 
誰を呼ぼうが、ホントは本人の自由だし、金払うのだって自分なのに。 
「いつくらいから?」 
「ほら、この前アフターした時に隆史さんに会ったでしょ?その時京介
さんを通しての知り合いって聞いたから、仲いいのかなって思って…」 
ああ、あの時確かにそんな会話したよな。 
「で、オレより京介さんがよくなったとか?」
「違う!全然そんなんじゃないよ!! 
ただ、京介さんだったら、勇哉の事色々知ってるのかなぁって思って! 
やっぱり、勇哉の事たくさん知りたいし」 
「いいよ、呼ぼう!」 
ボーイに京介さん場内をお願いすると、すぐに京介さんがテーブルに着い
てくれた。 
「真奈美ちゃん、ありがとう! 
今日は勇哉がいるから、オレなんて用事がないだろうって思ったのに、う
れしいな」 
うーん、さすがだ! 
京介さんがテーブルにいるだけで、華やかさが違うような気がするのは、
オレだけじゃないだろう。 
「よく言うよ!私の席なんかそれこそ京介さんには用事ないでしょ? 
なんてったって、NO1だもんね!!」 
え? 
オレは、京介さんの顔を見た。 
カレは、軽くうなずくだけだった。 
直樹さんは? 
直樹さんが一番じゃないのか? 
なんで?? 
「オレの1番はただ、運がいいだけだよ! 
ホントのNO1は直樹なんだ。ただ、アイツちょっと妹がこっちに出てるみ
たいで、最近早上がりばかりしてるから、売り上げが落ちてるおかげで
オレが上になったんだよ」 
妹が? 
直樹さんに妹なんていたんだ………。 
へえ、かわいいだろうな。 
などと、暢気な事を考えていたオレは、かなり間抜けだろう。 
 直樹さんが3時頃に上がってしまうのは、佳織が心配だったからだ。 
そんな事も知らずに、オレはヘラヘラと笑いながら、接客をしていた。 

 直樹さんと客が重なる事ってないから、全然知らなかったけど、確か
にミーティングの時に、直樹さんを見かける事はなかった。 
そして、今日も。。。 
「マスター、オレ時間だから帰る」 
丁度、真奈美ちゃんのチェックをする為にレジにいた時、レジの後ろ
にあるモニタールームから直樹さんの声がした。 
「まだ、無理そうなのか? 
お前にこんな時間に抜けられると、かなりキツイんだよな…」 
「………オレ、アイツのそばに居たいんです。ホントはずっと一緒に居
たいのに、佳織が仕事に行けってうるさいから…」 
かおり…………………?! 
カオリ。 
佳織。 
「お前がこの仕事続けてるのって、佳織の為だもんな。わかって
るよ。悪かったな引き留めて」 
「…じゃあ、お先に失礼します」 
うわ!! 
出てくる! 
慌てて伝票を持って、真奈美ちゃんのテーブルに戻った。 
心臓がバクバクしている。 
佳織と一緒に居たい? 
じゃあ、直樹さんの妹って嘘で、佳織と一緒にいるために早上がりをして
るのか? 
「どうしたの勇哉、すごい顔して…。 
そんなに高額になってる?」 
「え?いや、違うって! 
もう帰るんだって思うと淋しくて」 
スラスラと嘘をつきながら、オレの心はかなり動揺していた。 
佳織と直樹さんが一緒にいる? 
よりが戻ったって事かよ? 
「あはは!もう勇哉ったら!うれしいけど、今日はごめんね、マジ眠い
から、帰るよ…。また来るね」 
「ああ、わかった」 
さっさと帰れよ! 
もう、平常心でなんていられない!! 
ギリギリだよ…。 
エレベータまで真奈美ちゃんを見送ってから、オレは京介さんを見た。 
「あなたは…知ってたんですか? 
直樹さんの妹って…」 
「佳織ちゃんだろ?」 
シラッと言ってのけた京介さんの顔が、歪んで見えたと思ったら、オレ
はその場に倒れてしまった。 
正確には、倒れそうになった所を、京介さんに支えてもらった。 
「大丈夫かよ、お前? 
そんなにショックか? 
別れたんだろ、佳織ちゃんと。 
あの女だけはやめとけよ! 
直樹も隆史もおかしいんだよ、ドンドン佳織ちゃんにはまって、自分を見
失ってるよ。 
確かにルックスはいいけど、あんなに男が多いんじゃ、疲れるって!」 
「………やっぱり直樹さんとよりが戻ったんですか?」 
「いや、違うと思う。 
ただ、直樹が入れあげてるだけだろ、どうせ。あの女は誰にも本気にな
ったりしないんじゃないの? 
そのクセ、いっつも淋しいのは自分だけだと思ってそうじゃん! 
かなりタチ悪いよな」 
「……オレ、限界っす! 
佳織に会いたい! 
もう、気が狂いそう…」 
「人の話聞いている? だから彼女はやめとけって!」 
「無理です…、佳織に会いたい!」 
一度言葉にすると、せきを切ったようにポロポロと、佳織への思いがあふ
れ出てきた。 
どこに、かくしていたのだろうか? 
こんなに好きだという気持ちを。 
ああ、佳織に会いたい。 
「……今日はお前も上がれば? 
そんな顔じゃ、仕事にならないだろうし」 
目頭の奥から、熱いモノがこみ上げてくる。 
佳織に会いたい。 
佳織に、会いたくて、会いたくて…もう何も考えられない! 
おれはそのままエレベーターに乗って、佳織のマンションへと向かった。 
居ないかもしれない。もし居たとしても、直樹さんと一緒だろう。 
それでも、会いたいんだ。 
顔が見たいんだ。 
声が聞きたいんだ。 

勢いにまかせて、インターホンを鳴らす。 
「直樹?いい加減、まじめに働きなさいよ」 
相手を確かめもせずに、佳織はドアを開けた。 
「あっ………」 
二人して息を飲んだ。 
佳織は直樹さんだと思って、ドアを開けたのだろう…。 
「久しぶり」 
声が上ずってしまう。 
目の前には佳織がいる。 
少し痩せた? 
線の細い身体を、ドアに預けるようにもたれながら、目を見開いてオレを
見ている。 
「…うん」 
佳織に会いたいと、それ意外、ホントに考えていなかった! 
会って、何を喋ればいいのかわからない…。 
「中に、入ってもいい?」 
ダメだと言われたらどうしよう! 
何を話していいのか、話題すら見つからない。 
このままだと、帰らなくちゃならないじゃないか!! 
祈るような気持ちで佳織を見つめると、彼女はいつものように、優しい笑
顔でうなずいた。 
「どうぞ」 
玄関で靴を脱いで部屋に入ると、一瞬なつかしい匂いがした気がする。 
でも、それはホントに一瞬で、部屋に置かれている家具なんかの配置
が、以前とは全然違っていた。 
「模様替えしたの?」 
「うん、なんとなくね」 
「一人で大変だったろ?」 
言った後に、すぐに後悔した。 
ドレッサーやタンスなんて重たいモノを、一人で移動できるわけがないんだ。 
誰かにしてもらった………はずだ。 
「直樹が手伝ってくれたから、そうでもないよ」 
………。 
「直樹さんと元サヤ?」 
聞かなければいいのに、ついつい口が動いてしまう。 
オレってホントの馬鹿かもしれない。 
佳織の口からそうだと言われれば、それで終わりなのに後先考えず
に、口走ってばかりだ…。 
「直樹と私が?あり得ないわよ、そんな事」 
まさかと言わんばかりに、大きく否定をされて、オレは少しだけ安心をした。 
 良かった! 
直樹さんとつき合ってるわけじゃないんだ。 
京介さんが言ってたように、直樹さんが入れ込んでるだけなんだ…。 
「ソレを聞きたくて、わざわざ?」 
「………」 
違う! 
ただ、ただ顔が見たかった。 
ただ、声が聞きたかった。 
気がついたら、ココに来ていた。 
なんて、言えない。 
肝心な所は、全然言えない。 
言葉にならないんだ、喉まで出かかっているのに、何かがつっかえて、音
として響かない。 
声にならない、いくつものを言葉を伝えたくて、オレは佳織を見つめた。 
佳織もそんなオレを見ている。 
この瞬間だけ、二人は恋人に戻ったような錯覚に陥ってしまいそうだ。 
ねぇ、佳織は今、何を考えながらオレを見ているの? 
「………」 
無言のまま、時間だけが過ぎる。 
二人の間には、これ以上は近づけない空気がはりつめているのに、それ
でも佳織がオレを見ていてくれるだけで、それだけで幸せを感じてしまう。 

 ガチャリとドアが開いて、外から直樹さんが入ってきた。 
ああ、二人だけだったのに…。 
「勇哉来てたんだ?今日早上がりしたの?」 
不思議そうな顔をしながら、カレは手に持っていたブランドモノの紙袋を
佳織に手渡した。 
「何、これ?」 
「ん?浴衣!今度花火大会あるだろ? 
それ着て一緒に行こうと思って」 
「それはいいんだけど、私浴衣持ってるよ?」 
「うん、でもオレはその浴衣が気に入ったの!だから、ソレを着てくれ
たらうれしいと思って」 
そうか、オレより先に店を出たはずの直樹さんが遅くなったのは、浴衣
を取りに家に戻っていたからなんだ…。 
「うーん、もらっちゃっていいのかな?」 
「当たり前だろ、佳織に似合うと思ったから買ったのに」 
おいおいおいおいおいっっ! 
オレの存在、忘れられてないか? 
てか、ホントに元サヤじゃないのか、この雰囲気で。 

 紙袋の中から、鮮やかな赤と赤紫のグラデーションがきれいな浴衣を
出しながら、佳織は喜びで顔を満たしていた。 
「かっこいい!!ありがとうね」 
佳織は浴衣を当てながら、ニコニコとしている。 
ホントに、つき合っていないのか? 
「勇哉はどうしたの? 
人の事言えないけど、あんまさぼってっと成績下がるぞ。せっかく今順調
なのに」 
やっと、オレを思い出してくれたのか、直樹さんがオレに向きを変えてく
れた。 
「いや、佳織にどうしても会いたくなって…」 
蚊が鳴くような声とでも言うのだろうか? 
小さな小さな声で、そう言うしかできなかった。 
「もしかして、仲直りしようと思ってた? 
オレ、邪魔だったかな?」 
遠慮がちに、直樹さんが佳織を見ると、佳織はさっきまでのニコニコ笑顔
を一気に曇らせた。 
「………。」 
重苦しい空気が、のしかかるように体中にまとわりつくのがわかる。 
冷房の効きすぎた部屋は、ドキドキする鼓動を冷ます事もなく、ただ
黙々と部屋を冷やすだけで………。 
「オレ、席外した方がいいだろ? 
帰るよ」 
「帰らないで…。 
私、ちゃんとしなきゃダメだと思ってた。 
直樹にも…」 
佳織は、長いまつげの陰をまぶたに落としながら、俯いた。 
「不安だった。毎日出会いがある仕事をしているでしょ? 
しかも、私が働いてる店と違って、若いかわいい女の子がたくさんお客
さんとして来るんだもん。しかも指名って言う『あなたを好き』って遠
回しなアピールつきで、彼女たちはお金を払ってる。もちろん私もその一
人だよ。 
でも、彼女だと思うと、私だけは特別なんじゃないかって思いたいじゃない! 
それなのに、毎日不安でたまらない。 
いつ、私なんかよりステキな人があなたを指名しないとも限らない。そ
れに、例えば誰か違う彼女が出来たとしても、私は気づかないまま店に通う
んだわ。そして彼女面して、調子に乗ってアフターまで誘うかもしれない」 
一気に喋りながら、伏せられた目から涙をポロポロとこぼすその姿は、
今までとまた違う佳織の姿だった。 
「だから、勇哉と別れたの? 
勇哉は、佳織に不安な思いをさせた? 
ほかの女になんて目もくれてなかったよ」 
直樹さんが優しく佳織の肩を抱き寄せている。 
「隆史に言われたでしょ? 
新人ホストの営業になら、騙されるんだって………。
アレ、堪えたのよ。 
結局、私自身騙されていても気づかないだろうって……。 
そんなの怖いじゃない、私馬鹿みたいじゃない! 
どんなに好きになっても、所詮はホストなんだよ? 
わかってたのに、馬鹿だよね………」 
「オレ、ホスト辞める。 
そしたら、佳織はオレとよりを戻してくれる?」 
………。 
佳織はそんなオレのセリフに、静かに首を振った。 
「もしね、ホントに辞めたとするでしょ? 
私はうれしいけど、つき合ってく日々に、仕事を辞めさせたって思うと遠慮
してしまう。 
直樹の時に同じような経験したもの。 
同じ失敗はしたくない…」 
頑なに否定する佳織を宥めるように直樹さんは微笑みながら、言った。 
「でも、勇哉はオレとは違うし、大丈夫かもしれないだろ?」 
「………無理だよ…。 
もう疲れちゃったの、ホントに」 
涙をこぼしながら叫ぶでもなくわめくでもなく、冷静に淡々と語る
佳織を見て、オレは諦めるしかないのだろうか? 
もう、どうにもならない? 
「本気で好きになるんじゃなかった………。
そしたら、今でも勇哉くんと楽しい時間を過ごしてかもしれない。
でも、好きになったから、不安でたまらなくて、壊れちゃいそうになってし
まうの。ごめんね、私が弱虫で……」 
「おれ、いやだよ………。 
こんな別れ変だよ! 
絶対いやだ!別れない!!」 
オレの方が泣きたいよ。 
なんでダメなんだよ? 
ホスト辞めれば佳織は不安にならなくて済むじゃないか! 
それから考えればいいじゃん! 
「………」 
「佳織、もうホントに無理なのか?」 
直樹さんの質問に、小さくうなずくと、今度は佳織は泣きじゃくりだした。 
「落ち着いて、な?」 
顔を覗き込むように直樹さんは佳織を優しく包み込んでいる。 
おれは、きっとこんな事できやしない。 
今でも、取り乱して自分の事ばかり考えているのに、とても佳織の気持
ちまでくみ取ってあげる余裕なんてない。 
 直樹さんに背中をさすられながら、少しづつ冷静になった佳織はオレの
顔をまともに見た。 
「ごめんなさ…い………」 
「何が?」 
どうして謝るの? 
オレ、マジわかんねぇ。 
「佳織、落ち着いたみたいだから、オレ帰るな。後はきちんと二人で話た
方がいいだろ?」 
佳織は、不安そうに直樹さんを見つめる。 
直樹さんはそんな彼女に優しく微笑み返すと、肩をポンポンと叩いて、部
屋を後にした。 
取り残されてしまった、二人。 
どう、話つけるんだよ? 
会話にならないじゃないか………。 
「なぁ、もう一度だけ聞くよ。佳織はもうオレがイヤ?」 
「………」 
彼女は小さく首を振る。 
「オレはまだすっごく佳織が好きだよ。 
だから、もう一度やり直したい」 
「…………ごめんなさい」 
「だから、何でそうなるの? 
もうつき合いたくないくらい嫌いになったなら、オレだってわかるよ。で
も違うんだろ?」 
「…苦しいの。勇哉くんと一緒にいると、息がつまるの。不安で不安でた
まらないの。。。。」 
わっけわかんねぇ! 
「……ごめん」 
泣きながら、誤り続ける彼女。 
何で、こんな事になったんだろうか? 
今さら考えても仕方ないか………。 
佳織はもう、やり直すつもりがないみたいだし…。 
オレがどれだけ頑張っても、もう無駄なんだろうから…。 
「もう、いいよ」 
オレはフラフラと佳織の部屋を出た。 
なんで、彼女はこんなにわけがわからないんだろうか。 
オレは佳織が好きだし、佳織を大切にしたいと思っていた。 
でも、彼女はそんなオレをいらないんだ。 
もう、オレなんか必要じゃないんだ…。 

 ねぇ、誰か教えてよ。 
どうすれば良かった? 
オレは、もう佳織とつきあえないのか? 
なんで? 
なんでだよ??? 
  

 悲しすぎると涙は出ないと聞いた事がある。 
嘘だよ、そんなの。 
だって、オレは涙が止まらない。 
男のくせに、失恋くらいで涙が止まらないんだ。 
もう、何もどうでもいいよ…。 
好きにしてくれよ。 
勝手にしてくれよ。 
オレは、何もしたくない。 

……………。 
……………。 
……………。 




2004-2006©白雪姫-hime-