開店準備を終えてから、オレはすぐに営業メール&営業電話をしまくった。
そんな中、店内がザワザワと騒がしくなって来た。
「うそ?!アレって隆史じゃないの?」
「マジで?」
「うわぁっ!本物じゃん!!」
「なんで、あんな有名な人がうちの店に?」
待機部屋にいるホストたちが浮き足だって、ガラス越しに見える、フロアに釘
付けになっている。
隆史って誰だ?
「勇哉!オレのヘルプついてくれる?
他の店のホストなんだけど、オレの幼なじみだから、緊張しなくて平気だよ」
今回はボーイじゃなくて、京介さん自らにヘルプを頼まれた。
「え?あ、はい。」
京介さんの後についてテーブルに着くと、和服を着た水商売風の女性と、も
う一人。
くっきりと描いたような程整えられた眉毛の下からつり上がり気味の三白眼、ス
ラリと通った鼻に、薄いくらいの唇。
パーツのどれを取っても綺麗なのに、その配置のバランスまで最高で、芸能人顔
負けな美形の男性と連れ添っていた。
この人が隆史?
京介さんよりも、もちろん直樹さんなんかはるかに凌ぐ存在感。
誰なんだ、この人?
「久しぶり、京介」
京介さんは、鼻で隆史さんを笑い飛ばした。
「いずれ来るとは思っていたけど、こんなに早いとは思わなかったよ」
「で、彼が勇哉くん?」
いきなり、自分の話題になった。
なんで、この人がオレの名前を知ってるんだ?
「勇哉です!初めまして」
「あら、新人でしょ? かっわいい!!」
和服女性が、ニッコリと微笑んでくれる。
推定年齢は24歳くらいなのに、ルージュに来ているお客さんより、貫禄がある。
この女性も誰なんだろう?
「さくらさん、あんまいじめないであげてね」
京介さんは彼女に一言だけ注意をすると、席を離れた。
「いらっしゃいませ」
代わりに現れたのは、直樹さんだった。
「最近調子はどう?」
「ん?絶不調!」
隆史さんは、苦笑いをした。
「さくらちゃんは?」
「私は、ぼちぼちって感じだよね」
直樹さんが水割りを作って乾杯をした矢先に、さくらさんの携帯が鳴った。
「あ、ちょっとごめん! すぐ戻るから」
携帯モニタを見て、彼女は席を立って店を出た。
その途端に隆史さんは、直樹さんを軽く睨んだ。
「お前がグズグズしてる間に取られてやがんの」
「別にぃ、関係ないし」
直樹さんもいつもの優しい雰囲気をまったく消して、険のある言い方をしている。
「へぇ、余裕じゃん?
もう興味もないって?」
「オレの事より、隆史はどうなんだよ?」
隆史さんは、その綺麗な顔を無表情に微笑ませた。
「オレはもちろん愛してるよ。
なのに、誰も信じてくれない」
目の下に手を当てて、泣き真似までしている。
話しに全くついていけないオレは、綺麗な顔をマジマジと見てしまった。
綺麗な顔なのに、そんなに崩した表情を作ったらもったいなくねぇとか、思わな
いのかな?
なんて、のんきにもそんな事を考えてるオレの頭上から声がした。
「信じて欲しいなら、泣かすなよ。
どうせ、今回の事もさんざん泣かしたんだろ?」
京介さんが、席に帰ってきた。
「あいつ、泣き虫なんだもん、仕方ないじゃん!
なぁ?」
悪びれた様子もなく、隆史さんはオレに同意を求めてきた。
え?
もしかして、今までの話題って、佳織の事?
じゃあ、隆史さんの思ってる相手って、佳織?
「こいつ、佳織ちゃんの彼氏を偵察するために、わざわざさくらちゃん使って、
来店したんだぜ」
ソレって、オレの事だよな………。
こんなすごい存在感を放つ人に、こんなに思われている佳織って一体?
それとも、これは一流ホストの営業方法なのか?
真意がわからない。
この人は、ホントに何をしに来たのだろうか?
佳織との関係は?
「あ!さくらちゃんが帰って来た。」
入り口にさくらちゃんの姿を見つけると、隆史さんは彼女に笑顔を向けながら、
小さい声で、だけどはっきりと一言言った。
「オレが佳織を迎えに行くまで、アイツをよろしく」
佳織を迎えに行くって、何だよ?
「出た!隆史の余裕の発言!
佳織ちゃんが、いつまでも自分を待ってるって思いこんでいるナルシストだもん
なぁ」
京介さんはおしぼりをボーイから受け取り、ソレを冷ましながら、直樹さんをチ
ラリと見た。
直樹さんは苦笑いをしながら、オレに耳打ちをくれる。
「後で、ちゃんと話そうな」
ただ、それにうなずきながらも、オレの心中はかなり複雑だった。
直樹さんだけでも大変だと思っているのに、なんで、こんなとんでもない大
物まで現れるんだよ!!
オレは、ただ佳織と普通の恋愛をしたいだけなのに………。
「ごめん、隆史!
ちょっと女の子たちがトラブッってるみたいだから、一度店に戻らなきゃ…。
収まったら、行くから!」
さくらちゃんはテーブルに来るなり、せわしなく店を出て行った。
「ココって、男性のみの客はお断りだよな?
オレ、どこで時間を潰せば??」
ホストラウンジってくらいだから当たり前だけど、男性だけのお客様はお断り!
しかも、さっきから違うテーブルの客がチラチラと隆史さんを見ているのがわかる。
うわぁ、店の客全部、この人に取られそうだよな。
「どうにかなるだろ?
適当に誰か呼び出して、同伴してもらえば?」
隆史さんはその瞳を意地悪に輝かせながら、悪魔みたいな表情でニッコリと微
笑んだ。
「例えば佳織とか?」
うわぁ、いい性格してるよ、この人。
オレが佳織とつき合ってるの知っていて、それでこんなセリフだもんなぁ。
「お前、ホントに佳織ちゃんに嫌われるよ?
あんまり調子に乗って………」
呆れたように京介さんが言いかけた言葉は途中でかき消されてしまった。
「いっらしゃいませ!!」
ウエルカムコールで、みんなの視線が入り口に向かう。
その視線の先にいたのは、噂の本人、佳織だった。
オレは思わず、隆史さんに振り返った。
「あなたが呼んだんですか?」
隆史さんは、静かに首を左右に振った。
「まっさか!そんな時間ないだろ?
でも、運命なんだって!オレと佳織って」
運命って!!
そんな非現実的な事あるわけないじゃないか!!
第一、それなら、なんで佳織はオレや直樹さんとつき合ったりしてるんだよ?
この、異常なまでの自信家に、オレはたいがいイライラしていた。
「直樹さん、勇哉さんお願いします」
ボーイが、二人を呼びに来た。
指名をもらうと、その席の伝票に自分の名前を書いて、それからテーブルへ挨拶
に行くシステムなんだけど、そんな事をしている間に隆史さんは、佳織の席に
いた。
「なんで隆史がココにいるの?」
すごく不機嫌な態度で佳織は、図々しくも隣に座っている隆史を睨んでいた。
「だって、佳織の彼氏ってどんなヤツかと思ったんだもん♪」
悪びれた様子もなく、佳織の態度にも全く動じないで、マイペース。
「勇哉くんに何もしてないでしょうね?
お願いだから、私の恋愛の邪魔をしないで」
佳織はいつも営業病なのか、にこやかな態度で、少し機嫌が悪くなっても、す
ぐにその態度を改めるんだけど、今日はめずらしく、冷たく隆史をあしらって
いた。
「どうせすぐ別れるって!」
さっきから思っていたけど、コイツ、オレにケンカでも売っているのだろうか?
「あのね、ココはルージュなの!
EDENのホストが、なんでいるの?
私は楽しむために、居るの!
あなたがいるんだったら、私は帰る!」
え?
なんなんだよ!!
思い切り営業妨害じゃん!
せっかく、めずらしく佳織が早い時間に来たってのに。
あれ?
そう言えば…………。
「佳織、仕事は?」
佳織は、いつもの笑顔に戻った。
「イライラして、仕事にならないから休んだの」
佳織の目は、少し腫れているように見える。
「そりゃそうだよな、あんなに泣いちゃ、メイクのノリも悪いって!」
「誰のせいよ?」
佳織は、声を荒げた。
隆史さんは、そんな佳織を嬉しそうに見つめながら、まるで告白でもするかの
ように色ぽい表情になった。
「オレのせいだろ?
オレが好きだから、泣いたんだよな?」
何なんだよ!さっきから!!
「佳っっ………………」
佳織はオレとつき合ってんだよ!ってセリフは、佳織の叫びでかき消されてしま
った。
「そんなわけないでしょ!!
私は勇哉くんとつき合ってるの!
勇哉くんが好きなの!」
叫んだ途端、佳織はアッと口を押さえて辺りを見回した。
「今、他に勇哉くんのお客様来てない、よね?」
ああ、こんな時にまでオレの心配をしてくれてるんだ。
確かに、他の客がいたら、彼女の存在がバレるのはかなりやばい。
「大丈夫、来てないよ」
オレはうれしかった。
恋人だと、ちゃんと宣言してくれる彼女の気持ちが。
なのに、隆史はこりもせず、佳織を怒らせた。イヤ、オレを怒らせたのだろう
か?
「へぇ、すごい営業上手なんだな、コイツ。
オレや直樹がどれだけ伝えても、まったく信用しないくせに、新人ホストの営業
には騙されるんだ」
「なっ………」
佳織は、呆然と隆史さんを見つめた。
「営業なんかじゃない!
オレはホントに佳織が好きなんだ!」
「……………」
佳織は黙ったまま、オレを見ている。
その表情は、少し、悲しそうだった。
なんで??
なんで、そんな顔してるんだ?
「へぇ、そう?
でも、オレより佳織を愛していないよ。」
隆史は元々つり上がり気味の目に、力を入れて睨むように、挑むようにオレ
に言い切った。
「そんなことわからないだろ?」
「わかるよ、誰もオレ以上に佳織を愛せるヤツなんているわけないじゃん!
なぁ、佳織?」
佳織は、大きくため息をついた。
「隆史、ホントに私の事を愛しているなら、帰って!
私の恋愛を邪魔しないでって何度も言わせないで、お願いだから」
佳織は今にも泣きそうな声で、目を伏せた。
なぜ、そんなに悲しそうなんだ?
言い返したいことはたくさんあるのに、それなのに、何も言えなくなってしま
うじゃないか。
これ以上、会話を続ければ、佳織が泣き出してしまいそうだから。
直樹さんも同じ気持ちなんだろうか?
さっきからずっと黙ったまま、佳織を見つめている。
「後で、EDENで待ってる。 絶対来いよ?」
これ以上、話しても無駄だと思ったのだろう、隆史さんが、席を立った。
「……………」
佳織は無言のまま、グラスに入った水割りを飲んだ。
「ありがとうございました!」
心にもない事を言いながら、エレベーター前まで隆史さんを見送った後、テーブ
ルに戻ると、佳織は自分で水割りを作っていた。
かなり濃度の高そうな色をしている。
戻ってきた俺たちに視線を移すと、軽く京介さんを睨んだ。
「隆史と仲良しなのは知ってるけど、私を話題のネタにしないで!」
京介さんは謝りながら、佳織の隣に座った。
さっきまで、隆史さんが座っていた位置に。
「ごめん、まさか隆史があんな行動に出ると思わなかったんだ。
これからは気を付けるよ」
「うん!
じゃあ、しきり直しの乾杯でもする?」
疑問系なのに、その手はしっかりとみんなの水割りを作り始める佳織の表情は、
もう何のかげりもなかった。
さっき、あんなにつらそうだったのにもかかわらず………。
直樹さんも京介さんも、そして佳織もグラスを空けながら、無理にはしゃいで
いるように見える。
なんで?
どうして笑えるんだ?
オレはまだ、さっきの隆史さんのセリフが、佳織のあの意味深な表情が、忘れら
れない。
ずっと、そこから脳が先に進めない。
どうして、あんなにも佳織を愛してる自信があるんだ?
いや、その事自体は別にいいんだけど、佳織が自分のモノだと思っているのは、
なぜ?
佳織はアイツの事をどう思っているんだ?
あんな男前に愛していると言われて、うれしくないわけないよな、それなのに、
すごくつらそうだった。
でも、嫌っているようにも感じない。
一体、どういう関係なんだ?
いまだに、直樹さんと佳織の関係もはっきりしていないのに、ゴチャゴチャじゃ
んか。
そりゃ、結婚するとかそんな問題じゃないけど、身辺整理ってのは多少必要なん
じゃないのか?
佳織は、アイツが好きなのか?
二人の関係は、進行形でつながっているのだろうか?
だから、あんなに自信満々に言い切ったのだろうか?
「佳織ちゃん、オレもうダメ!
こんな時間からこのピッチで飲んでいたら、仕事になんないって!」
京介さんは、グラスに残っている水割りを一気に飲み干して、席を立った。
え?
8分目まであったボトルが、もうすぐ空きそうな勢いで、減っている。
「ダメ!
京介が悪いんだからね!
責任取って、このボトルくらいは空けなさい!」
佳織は、立ち上がった京介さんを無理に座らせて、さらに水割りを作る。
「直樹も飲んでる?」
直樹さんはうなずいて、優しく佳織に微笑んだ。
「今日はとことん飲もうぜ!」
「うん!」
佳織も満足そうに微笑みを返しながら、チラリとオレを見た。
「………勇哉くんはあんまり飲まなくていいからね!
酔ったら、大変だもんね」
「うわ!勇哉だけ特別扱い?
むかつくから、オレがスペシャルに作ってあげよう」
京介さんに、かなり濃いめの水割りを手渡された。
「………。」
オレは無言でそのグラスを空けた。
何を喋ればいいのかわからない。
口を開けば、佳織を問いただしそうで怖い。
直樹さんはなんで、何もなかったように飲んでいられるんだ?
結局その日は、ラストまで佳織はルージュで飲みまくっていた。
妙なハイテンションで、やたらと楽しそうに。
ほとんどオープンラスト(オープン時間からラストの時間まで)状態で、ボトル
を4本もおろして、足下もおぼつかない状態になっていた。
「閉店時間かぁ、そろそろ帰るわ」
心ここにあらずって感じで腕時計を見て、佳織は会計を済ませ、さっさとエレ
ベーターに向かった。
慌ててオレと直樹さんが追いかけたモノの、佳織の姿はもう見えなくなってい
た。
どこに消えたんだ?
まさかEDENに?
「よく頑張ったな、お疲れさん」
直樹さんはオレの頭をナデナデしながら、疲れ切った表情でため息をついた。
「佳織は、どこに?」
「多分、今日は帰ってるよ。
こんな時間までEDENは営業してないからな」
そうなんだ。
ルージュは基本的に朝5時までで、お客さんの盛り上がり方によっては9時まで
とかもあるから、どこの店もそうなのかと思っていた。
「聞きたい事たくさんあるんだろ?
今から家来る?」
直樹さんは自分も疲れているだろうに、オレを誘ってくれた。
オレは大きくうなずいた。
「隆史と佳織は学生時代につき合ってたみたいなんだ、でも別れて、再会して、
またつき合って、そして、また別れた。
でも、佳織は隆史をすごく好きだったんだろうな。
オレとつき合ってる時も、よく隆史に泣かされていたみたいだし…」
直樹さんはマンションに戻ると、ビールを飲みながら話しだしてくれた。
「直樹さんとつき合いながら、なんでアイツに泣かされるわけ?」
「隆史は、佳織がやっと忘れかけた頃だとか、佳織が新しい彼氏とケンカしてる
時とかに、実にタイミング良く電話やメールをくれるんだってさ。
それで、フラフラしそうな気持ちを抑えたり、あるいは隆史にグラリと行ってし
まった事もあったんだろうな、きっと。
どうやって、佳織を泣かしているかしらないけど、隆史は佳織の気持ちが誰かに
行ってるのを許すようなヤツじゃないよ」
じゃあ彼氏がいても、佳織はアイツと会ってたって事?
「アイツにとって佳織が大切な存在なのはわかったけど、佳織にとって、アイツ
は?
直樹さんが佳織と別れたのは、アイツが原因だからなの?」
直樹さんは、缶ビールを喉を鳴らしながら、浴びるように飲み込んだ。
「………オレが別れたのは、佳織が隆史を好きだとわかったからだよ。
隆史が好きなのに、オレとつき合ってるから、逢いたくても会わないようにして
いる。
なのに、隆史はそんな佳織の気持ちにおかいまいなく会いたいと言う。
好きな相手に誘われて、ソレを断るのって、かなりキツイだろ?
最初は、それでもいつか佳織が隆史を忘れて、オレを好きになってくれる日がく
ると信じていたけど、無理だったんだ。
もう、疲れたってのもあったんだけど、佳織のつらそうな顔も見たくなかった。
結局は逃げたんだけどな。
ただ、今でも佳織が隆史を好きかどうか、わからない。
オレと別れて、佳織は隆史とつき合うものだと思っていたのに、佳織はいつまで
たっても隆史とつき合う素振りはなかったしさ。
結局、佳織はホントに隆史を忘れたいのかもしれない。
オレには、わからないよ」
佳織が隆史を忘れたい?
忘れたいってのは、まだ覚えてるって意味だよな。
まだ、好きって意味…だよな?
直樹さんは、佳織に隆史を忘れさせる事ができなかった。
ソレをオレができるのだろうか?
じゃあ、オレは?
オレは佳織の何なんだろうか?
アイツを忘れてるわけじゃないよな?
だったら………。
「佳織はオレを好きだったわけじゃないんだ…。ただ、アイツを忘れたいだ
けだったんだ」
直樹さんは、大きく首をふった。
「それは違うよ。
佳織は、勇哉の事が好きだからつき合ったんだ。昔のアイツは知らないけど、今
の佳織は中途半端な気持ちで男とつき合ったりしないよ。
だから、佳織は勇哉をちゃんと好きだし、もっと好きになろうと思ってたはずだ。
だけど、隆史がそんな事を許さない。
佳織の心の中に、自分が住み着いている事をわかってるから、ドンドン揺さぶり
をかけて、佳織の気持ちを最大限、自分に向ける努力をすると思うよ。」
直樹さんが言いたい事がわからない!
佳織は、ホントにオレが好きなのか?
だったら、なぜ、アイツと連絡を取るんだ?
アイツを忘れられないのに、オレとのつき合いを始めたのか?
佳織は今でも、アイツが忘れられなくて、その思いは、オレに対するモノより大
きいのだろうか?
そんな事はない!
そう信じたいのに、言い切れない自分がいる。
あんなに男前で、あんなに自信家の男に惚れられて、それでもオレの方がいいと
言えるのだろうか?
直樹さんですら敵わなかったような人に、オレが勝てるのか?
佳織は、どうしてオレとつき合ったんだろうか?直樹さんや、アイツみたいにい
い男から思われているのに、なんでオレなんかと?
わからない。
佳織の気持ちが………。
「直接佳織に聞いてくる!」
直樹さんと話していても、佳織の気持ちなんてわからない。
本人とちゃんと話さなきゃ、オレの気持ちのモヤモヤは晴れる事はないだろう。
「今日はやめた方がいいよ。
きっと、佳織も落ち込んでるだろうから」
直樹さんは、常に佳織の気持ちを優先させている。
いつも、そうだったんだろう。
でも、オレにはそんな愛し方できない。
逢ってみなくちゃ落ち込んでいるかすら、わからないじゃないか!
それに、オレは心に霧がかかったみたいな、今の状態にそんなに長く耐えられや
しない。
また、わけもわからず眠れない夜を過ごすのはイヤだ。
「それでも、行きます」
直樹さんは小さなため息をついた。
「それが、勇哉とオレの違いなのかな?
逢ってどうなるのかわからないけど、佳織が傷つかなければそれで、いいと思う」
どうして、そんなに相手の事を思いやれるんだろうか?
自分だって、つらいはずなのに。
今日だってそうだ、隆史さんの来店でオレと同じくらいに、キツイ思いをした
だろうに、オレを落ち着かせるためにこうやって時間を割いてくれる。
仕事が終わって、眠たいだろうに………。
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