〜直樹編〜
去年のクリスマスに引き続き、今年も一人キリのイブ。
生まれてこのかた、イベントには必ず彼氏がいない。
誕生日にバレンタイン、そしてクリスマス。
それ以外になら彼氏がいた事だってあるけど、イベントになると、なぜか
毎年一人なんだよね…。
第一、クリスマスなんてキリスト生誕のお祝いなんだし、実家に仏壇をま
つっている私がお祝いするいわれなんてまったくないんだけど、赤と緑の
イルミネーションに彩られた街や、テレビはクリスマスメニューな番組ば
かりで、視覚的にもどうも華やいだ雰囲気を醸し出している。
しかも、近所のお店なんか12月入った頃から、クリスマスソングをかけ
て、小さい頃、親に買ってもらっていた中にお菓子の入ったブーツを売っ
ている。
こんな所で日々過ごしていたら、そりゃ坊主だってお祝いしたくな
るって!!
なのに、淋しいかな一人ぼっち。
知子は一人でも決して広いとは言えないワンルームで、テレビを見ながら
、一人きりのイブを呪っていた。
昼間から、どの番組もクリスマス!クリスマス!クリスマス!!
かなり昔に「シングルベル」や「クリスマス、クルシミマス」なんてダジ
ャレが流行った事があったけど、まるでそんな感じ。
当時は、それが流行でもあったから良かったけど、今時そんなの流行って
ないし、虚しさは募るばかり…。
お腹空いたし、そろそろコンビニに買い出しでも行こうかな?
テレビの電源を切って、知子は近所のコンビニまで出かけた。
コンビニ近くに来ると、クリスマスソングが流れている。
おまけに、サンタのコスプレをしたバイトの子が店の前に特設された売り
場で真冬だと言うのに、汗すら滲ませながらケーキを売っていた。
「お姉さん!まだケーキ残ってますよ!!
どうですか?彼氏と一緒にイブを!!」
営業トークが、とてつもなく嫌味に聞こえるのは私だけだろうか?
「いらないわよ」
聞こえないだろう小さな声で、知子はボソリと言った。
そしてそのまま中に入ろうとドアを開けた時、
またまたサンタの格好をした男性とすれ違った。
そのサンタさんは、たくさんの小包プレゼントを抱えていて、今にも落と
してしまいそうな程だった。
大丈夫だろうか?
サンタさんがプレゼントを落とさないか、見守るように、視線で追いかけ
ると、やっぱり、一つ、落としてしまった。
それをきっかけに、また一つ。
あぁ、かわいそうに、あんなにたくさん抱えてるから拾おうとすれば、他
のプレゼントまで落としてしまっている。
なんだか、その哀れなサンタさんが、知子には自分と重なってしまい、代
わりにプレゼントを拾っては、両手いっぱいに抱えられているプレゼント
の上にポンと置いた。
「ありがとうございます。
御礼に、その一つ差し上げます、て言っても落としたモノで悪いんですが
…」
全体は真っ赤で、縁取りだけ白い綿で飾られた、チープな帽子の下か
ら、誠実そうな柔和な目が、知子に優しく微笑んだ。
「そんなにたくさん抱えてるから落としちゃうのよ。何回かに分ければい
いのに」
「そうだよね…」
素直に人の意見にうなずいたりするから、彼はまたプレゼントを落として
しまった。
「ああ、どこまで持っていくの?
半分持っていてあげるから!」
あまりにも間の抜けたサンタさんが気の毒で、知子は彼を手伝ってあげよ
うと思った。
「すぐ近くだからいいです。そこまで迷惑かけるわけには…」
「こうやって、あなた一人で抱えて歩いてるのを、心配しながら見送る方が
ずっと迷惑なのよ!!
わかったらサッサと半分かしなさい」
強引に、彼の荷物の負担を減らしてあげると、彼はすごく嬉しそうに、だ
けどすまなさそうにお礼を言った。
「お言葉に甘えさせて頂きます」
どこにでもいるんだよね、こういう要領の悪い人って…。
こうやって、たくさんの荷物を取りに来たのだって、きっと使いぱしりに
されてるんだよ…仕事先でも。
10分ほど歩いたのだろうか?
ほどよく繁華街に出てしまった…。
ま、居酒屋でのイベントでもやってるんだろうなと、軽く考えていた知子
の前で、サンタさんはすぐ近くのビルの前で止まった。
「このビル?」
看板を見ると地下にチェーン展開されてる居酒屋の名前を発見。
そのままエレベータに乗り、B1のボタンを押してあげた。
「ち、違うんです。
8階なんです…」
サンタさんは慌てて。8のボタンを押したけど、エレベーターは下に降り
て行く…。
「そうなの?ごめん」
階を表すランプの上に、ビル内それぞれの店舗のミニミニプレートがつい
ている。
8階……ルージュとだけ書かれてあった。
スナックかなんかのボーイさんなのかしら?
エレベーターを降りて、店の前に到着すると、知子は自分の勘違いに気が
付いた。
あきらかに男性が女性を接客している店だ。
入り口付近にいる女性客に、スーツを着たホスト。
「ありがとう、おわびに一杯おごりたいんだけど、時間は大丈夫かな?」
サンタはニッコリと笑いながらそのドアを開けた。
いや、ホストって高いんじゃ??
いっぱいで済むのかしら?
まぁ、どうせ持っていても使い道のほとんどないお金をココで使っても誰
に文句言われるわけでもないけど…。
店に入ると、キラキラとクリスマスらしい電飾に、ボリューム大きめのクリスマスソング。
壁のあちこちには白いパウダーでトナカイやサンタなんかが描かれていた。
「いらっしゃいませ!!」
一斉に店の中からウエルカムコールが響きわたる…。
「ああ、お客さんじゃないのにね。ごめん、ビックリしたでしょ?
そこのカウンターで座ってて…」
入り口すぐはバーカウンターになっていて、その奥に入るとボックス席が
いくつか見えた。
どこの席からも笑い声や、楽しそうな顔が見える。
へぇ、もっと静かな雰囲気かと思ってたのに、意外と楽しそうなんだ…。
「何か好きなカクテルある?
バーじゃないからオーソドックスなのしか作れないけど…」
「あはは、別にビールでいいよ」
知子は彼が注いでくれた生ビールに口をつけた。
「いい飲みっぷりだね」
彼は知子の空いたグラスに驚きながら、またさっきのお礼を言った。
「今日はほんとありがとうございました。
じゃあ、オレ仕事あるから、下まで送るよ…」
………。
彼に送られるように、エレベーターに乗って、1階に辿りついたとき、私
は何を思ったのか、不意に再び8階ボタンを押していた。
「あれ、忘れ物 ?」
さっきのサンタさんは、まだ入り口付近にいて、知子に気が付いた。
「ううん、遊びに来たの。
楽しそうだったから」
自分でもなんで、こんな事をしたのかわからない…。
ただ、気が付いたら店の前にいた………。
「そっか、じゃあ楽しもう!!」
今までの穏やかな笑顔じゃなくて、少年みたいにくったくのない笑顔で彼
は再びウエルカムコールをしてくれた。
一人で来ているお客さんの方が多いらしく、4人がけのボックス席に通さ
れた。
対面するように、一人のホストが座り、隣にはサンタの格好をした彼がい
る。
「今更って気もするけど、名前、教えてくれる?」
「知子」
「知子ちゃんって呼んでもいいかな?
オレは直樹でいいから」
遠慮がちにそう聞く直樹の顔がとてもかわいらしく見えた。
「それでいいよ」
要領の悪いサンタの直樹くん。
きっと使いパシリさせられる程、人気ないんだろうなって、予測していた
ら、驚く事にかなりの人気があった。
「ごめん、他のお客さんにプレゼント配って来なくちゃいけないから、離
れちゃうけど他のホストが来るから楽しんでてよ」
そう言ったきり、もう30分以上も戻って来ない。
ヘルプって言うのか、直樹くんの代わりについてくれていたホストが、彼
の人気を教えてくれた。
色々と楽しく会話しながら、お酒を飲んでいると、時間なんてアッという
間に過ぎてしまって、結局3時間もいてしまった。
「ごめん、お待たせ!」
何度目かの出張(?)から戻って来た直樹くんは少し酔っているのか、顔
が赤い。
「せっかくのイブなのに、お仕事って大変だね」
知子の同情的な言葉に、直樹くんは大きく首を振った。
「そんな事ないよ!
そりゃ、恋人同士で過ごすイブも楽しいかもしれないけど、こうやってみ
んなで集まってパーティするのって、もっと楽しいと思わない?
色々な事をみんな思ってるかもしれないけど、でも、ココにいる間はみん
な笑ってくれたらいいなって…」
ニコニコと笑顔を崩さないままの直樹くん。
「でも、仕事で飲むお酒と、プライベートで飲むお酒って違うでしょ?」
仕事関係の人間と一緒に飲み会に行くだけで、ドッと疲れを感じてしまう
知子には、直樹の仕事がすごく大変に思えた。
「ん〜、基本的にオレ仕事って意識があんまりないんだよね。
みんなで楽しく飲もうよ!って感覚だからさ、
もちろん、お客様には失礼かもしれないんだけど、ホストとしての接客を
求めて来店する人は、最初からオレなんて指名しないし」
ああ、そうか。
だから、最初彼に会った時にホストだなんて思わなかったんだ…。
なんか、ホストとしてのオーラがないって言うか、一緒にいてほのぼのと
した雰囲気を醸し出しちゃうんだよね。
まるで昔からの知り合いと一緒にいるみたいな感覚で、凄く落ち着く。
「直樹くんが人気あるの、少しわかるかもしれない…」
みんな、仕事や恋愛に疲れていて、癒されたくて彼に会いに来るのだと思
う。
きっと、水商売や風俗関係の女性が多いんだろうけど、過酷な世界で働い
ている分、ストレスって想像できないくらいだと思う。
そんな中で、彼の存在って貴重かもしれない。
「人気があるかどうかわかんないけど、オレが楽しくなければ、人を楽し
ませる事なんてできないだろうって自論なだけなんだよな、ホントは」
褒められて、テレているのだろう。
直樹くんは、しきりにサンタさんの帽子からチョロチョロと出ている前髪
を触っている。
こんな風に、素直に感情を表す直樹くんが、すごくかわいいと思えるのは
私が年だからかしら?
………。
「でも、ちゃんと考えを持って仕事するのってステキだと思うよ」
そう。
私みたいに、言われたことをこなすだけの仕事なんかより、よっぽどやり
がいのある仕事だと思う。
普段、お茶くみやコピーとり、その他の雑用係みたいな職場に辟易してい
た知子は、直樹の仕事に対する姿勢がうらやましくて仕方がなかった。
「知子ちゃんだって、角度を変えれば楽しめるかもしれないよ。
さっきさ、コンビニで会った時より今の方が、いい顔してるし」
それは、このお店のおかげかもしれない…。
みんながみんな、楽しそうにしているから、その雰囲気が私にも伝わって
来るんだ。
そして、直樹くんがホストって感覚じゃなくて、まるで友達みたいに接し
てくれてるせいもあるかもしれない。
全然気取った所もなく、口説いたりもしない変わったホスト。
「だとしたら、直樹くんのおかげだね」
知子がそう言うと、直樹はすごく嬉しそうに笑った。
「うれしいな!
でも、オレのおかげじゃないよ。
知子ちゃんが心のどこかで『つまんなぁい』って思ってたら、どこにいて
も、誰といても楽しくはならないもん」
う〜ん。
見事にきれい事だ。
わかってる。
だけど、直樹くんが言うと本心に聞こえるのはなぜかしら?
彼の放つほんわかしたムードからなのか、知子は直樹のホストとしては
異質の人情味に触れながら、次第に心をほぐしていった。
「今日はありがとう」
帰り際、知子が御礼を言うと、直樹はニッコリと優しい笑顔でうなずいた。
「こちらこそありがとう!
楽しいイブになった?」
「うん」
それは偽りなんかじゃなく、知子の本心。
一人で淋しく部屋で過ごしているより、こういうお店に来て、楽しく飲ん
で騒いでる方が絶対に楽しい!
また、退屈な夜には是非、直樹くんとお喋りしに来たいな………。
明日からまた仕事だけど、なんかやる気をもらったような気分だわ。
何事も、楽しんでやるのが一番なんだよね!
前向きに考えるようにしなくちゃ。
日々、ただ無駄に時間を過ごすなんてもったいないもの…。
どうせなら、すべてが自分の為になるように過ごす方がいいに決まってる。
ちょっとだけ、ポジティブになれた知子ちゃんだったのでした。
あとがき
クリスマス企画第二弾!お気に召していただけましたでしょうか?
直樹への伝言やメッセージなんかはキャラ掲示板でうけつけてます♪
直樹もよろこぶのでどんどんカキコして下さいね。
実は、直樹の主役作品「コットンボーイ」の連載予定はまだ先だったんですが、
あまりにも人気がないために、少し早めに更新する事になっちゃいました。
それでも、全然隆史や勇哉の人気には追いつかなかったのですが…。
明日も貴方をルージュのパーティへと誘います。
またドリーム小説になってますが、お嫌いな方はそのまま無記名で
お願いします。
それでは、ステキなイブを!!
ホスティシリーズ
ホスティボーイもよろしく♪
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