夢の中しか
夢の中しか

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1 プロローグ 2 テイクアウト 3 淋しいから 4 恋に恋して 5好きの定義 6 気付きたくない恋心
7 恋の悩み 8 9 10 11 12 エピローグ
■ お仕事


  里緒と一つになれた。
心も体も。
すごく幸せだと思った。
自分の好きな女を抱く。
その女もオレの事を思ってくれる。
そんなのって奇跡的な確率じゃね?
だってさ、日本には一億人って人がいて、年齢も違ったり住む地方だって
違ったりする。
その中でたった一人好きになった女と両思いだよ。
めっちゃ幸せじゃん、オレ。
里緒のためなら何だってできるよ。
仕事だって、里緒が応援してくれるなら頑張る。
オレは、里緒に苦しい好きを教えられたけれど、これからは二人で幸せな
楽しい好きを覚えていけたらいいな。

腕枕で、幸せそうに眠る里緒の額に口づけながら、オレは確かに温かい温
もりを感じていた。

「里緒、愛してる」

簡単に使っていた愛してるとは違う。
やっと、この言葉の重みを覚えたよ。
オレは、本気で里緒が愛しいんだ。
初めてだよ、こんなに誰かと一緒に過ごす時間が幸せだと思えるのは。
だからどうか、ずっとオレの腕の中で眠って?
目覚めて初めて見る男はオレだけであって欲しい。
これから先もずっと。


「ん?」
オレのキスが里緒の眠りを妨げてしまったのか、目をしばたかせながら、
彼女は目覚めた。
「おはよ」
年上なのに、寝起きで無防備な里緒はとてもかわいくて、ギュッと力一杯
抱きしめたい。
「あ、おはよ」
ゆっくりと眠りから覚醒していく里緒を、オレはずっと見つめていた。
そしたら、里緒は照れたように俯きながら一言。
「そんなに見られたら、恥ずかしいよ」
その仕草だって、オレからすればかわいいと思えるくらい、大好き。
「だって、少しでも多くの里緒を知りたいじゃん?
いつでも見てたいって思うよ」
オレの言葉に、さらに反応して顔を赤く染める里緒。
 初めて見る、照れた里緒がかわいくて、もっと見たくて、オレは言葉を
紡ぐ。
だって、今思っているセリフをそのまま言うだけで、君は照れるんだ。
かわいく、顔を染めるんだ。
楽しかった。
そんな些細な時間が、凄く幸せだと感じたんだ。
ホントだよ、もっと里緒と楽しい時間を過ごしたい。
それだけしか願っていないよ。



 今でも、里緒の笑顔を見たいとずっと―――――。



「里緒、今度さ、デートしよ?
ほら、今までずっと里緒の部屋でしか会ったことねぇじゃん。
なんかマジヤルだけって感じで里緒だってヤだろ?
ちゃんとしたデートしようぜ」
朝食を摂りながら、隣に座る里緒に話しかけたのに、里緒は今までの笑顔
を急に曇らせた。
「オレと、デートするのヤだ?」
何で、そんな険しい顔つきになるんだよ。
外で、メシ食ったり、酒飲んだりさ、遊園地なんかもいいよな。
あ、映画とかも?
そういう楽しいデートしたいと思わないの?
「……誰かに見つかるよ」
里緒のその言葉に、オレは笑えてしまった。
今まで軽いノリで付き合った女とだって平気で出歩いてたのに、本気の女
がそこまで遠慮してどうするんだよ?
「オレ、前にも言ったろ?
そういうの気にしないって」
「でも、、、やっぱりダメだよ。
だって、嵐はアイドルが仕事なんだよ?
若い人たちの夢を奪っちゃだめだよ」
節目がちに、スープの入ったスプーンを口に含みながら、ゆっくりと優し
い目でそういう里緒。
「でも、オレは普通にデートしたいよ?
オレは、そんな気持ちも犠牲にしなきゃいけないの?」
仕事に、オレはそんな些細な普通の自由すら奪われなきゃいけないのかよ
?
「………だってそれが、嵐の選んだ仕事なんだもん。
私は全然平気だよ。
ほら、不倫してたわけだしさ、外でデートできないのって、慣れてるから」
少し悲しい表情になった里緒。
それっておかしくね?
だって、普通の恋人たちは当たり前のようにデートして、プリクラ撮った
りしてんじゃねぇのかよ?
里緒の友達にだってオレは会いたいよ。
オレの友達にだって、里緒を紹介したい。
みんなで遊んだりするのって、ホントに普通の事じゃん。
それなのに、そんな普通が出来ない事に慣れるって、変だよ。
「そんなの慣れる必用ねぇよっっ!」
思わずオレは叫んでしまった。
だってさ、そんな悲しい顔させたいわけじゃない。
オレと一緒にいて、せっかく両思いになったのに、なんで泣きそうな顔し
てんだよ?
オレは、里緒に楽しい好きを教えてあげたいんだよっっ。
オレは二人で幸せな好きをいっぱい増やして行きたいんだよっっ。
「そうだね。
でも、ホントに私は別にデートを望んでないよ。
こうやって、二人で過ごせるだけで幸せなんだ」
ニッコリと優しい笑顔を向ける里緒。
怒鳴ったオレに、それでも穏やかに話しかけてくれる里緒。
やっぱり大人なんだよな、って思うよ。
でも、里緒が冷静な程、オレは冷静ではいられない。
「オレが里緒とデートしてぇんだよっ!」
前の男とじゃ出来なかったこと、里緒が望んでなくても、絶対楽しいデー
トにしてみせるよ。
里緒がたくさん笑顔でいられるように、ずっと幸せだと思えるような恋が
したいんだ。
誰かに見つかるとか、そんな窮屈なつき合いじゃなくて、みんなに認めて
もらえるような恋をしよう。
だって、オレら隠すような悪い事なんて何もしてねぇじゃん。
不倫してた時みたいに、コソコソする必用なんてないよ。
「……ん。わかった」
あんまり乗り気じゃない里緒の返事。
 それでも、実際デートすると楽しいと思うよ?
「じゃあ、今度は外で飲もうぜ♪
いっつも里緒の部屋ばっかだったんじゃん。
上手いモン食いに連れてってやるよ」
里緒は何が好き?
里緒が食べたいものを、食べに行こう。
里緒が望む場所に連れて行ってあげる。
オレは、里緒のためなら、何だってできるよ。
だからどうか、君は微笑んでいて欲しい。
オレの近くにいて欲しい。
それだけで、満足できるから。



  里緒と付き合いだして、オレの日常は変化した。
毎日、仕事現場と里緒の部屋の往復。
里緒が仕事でオレが暇な時なんかは、瞬と電話したり、メシ食ったりくら
いで、クラブ遊びは卒業した。
だって、その時間は里緒と一緒に過ごしてぇって思うから。
おかげで、仕事は順調そのもの。
今日だって雑誌の取材が入ってたけど、メイクさんに「肌が荒れてないね」
って褒められたくらいだぜ♪
夜更かしは里緒とのベッドか、仕事だけって生活がしばらく続いた。
 問題の里緒とのデートは、とりあえず近くの焼き鳥屋から始まって、
晩飯を食うくらいの軽いモノしかできてないけれど、お互いの休みが重な
ったら、ディズニーランドでも行きたいと思ってる事は里緒にはまだ秘密♪
たくさん、二人の場所を作ろう。
 そして、たくさんオレを里緒の心に入れて?
どこを見ても、何をしててもオレは里緒を思い出すから、里緒もオレを思
い出して?

片思いから始まった恋は、ドンドンと欲望が増して行く。
里緒に愛されたい。
もっと、里緒に溺れていたい。
里緒を独占したい。
誰にも渡したくねぇ。

「里緒、大好き」
キッチンで晩飯の後片づけをしている里緒にささやいてみた。
聞こえないくらいの声で。
なのに、里緒はオレを振り返って微笑んだだ。

「どうかした?」
「何でもねぇよ」

そ。と一言だけ告げると再び後片づけをして、その後ちょこんとオレの隣
に座る。
当たり前のように、二人の距離感が縮まってくのがわかる。
つき合いだしてから、オレたちは甘い日々を過ごしている。
喧嘩することもない。
だって、オレの我が儘を里緒は笑いながら受け止めてくれるんだ。
オレも、そんな大人な里緒に少しでも近づきたくて、愛されたくて、彼女
の我が儘を聞いあげる。
「ね、この番組見てるの?」
「見てない」
だって、テレビより、動いている里緒を見てる方が楽しいんだもん。
「じゃ、チャンネル変えてもいい?」
「何が見たいの?」
里緒はどんなテレビを見てるの?
里緒はどんな歌を聴いてるの?
そんな些細な事を知るたびに、オレの中の里緒って存在が大きくなってい
く。
その番組を目にするたびに、その曲を聴くたびに、オレは里緒を思い出す
だろう。
リモコンでコロコロとチャンネルを変えながら、見たいテレビがなかった
のか、元の番組に戻した里緒。
「見たいもの、なかったや」
そう言いながら、微笑んだ。
その小さな笑顔に幸せを感じて、オレは隣にいる里緒の肩を抱き寄せ、そ
の頬にキスをした。
「どうしたの?」
キョトンとした顔の里緒。
それがまたかわいらしくて、再びキスをする。
今度は唇に。
「好き」
「うん、私も」

そりゃ男だし、好きな女とイチャイチャしてたら、ヤりたくもなるよ。
でも、今日はしない。
だって、里緒は明日仕事で朝早いから。
二人で過ごしていると、時間が過ぎるのが早くて、気が付いたら夜中にな
っていた。
飯を食いながら酒を飲んで、二人でたくさんのお喋りをしていただけなの
に、凄く凄く幸せなんだよ、オレ。

 今、こうやって、里緒の体温を感じてるだけで、うれしいって思えるん
だ。


 「そろそろ寝ないと明日も朝早いんじゃね?」
「ん、でも、もうちょっとだけこうしてたい」
甘えるように、オレの肩に顔をのせて、目をつむる彼女を優しく抱きしめ
た。
「だめだよ、ベッド行こ?
ちゃんと寝なきゃ、明日きついよ。
こういう時間はこれからいくらでもあるんだしさ」
そう、それはオレの期待を込めた言葉でもあった。
いつまでも、こんな時間を二人で過ごしたい。
明日も、明後日も、こうやって里緒を感じてられる日々。

だからさ、急がなくていい。
がっつかなくてもいい。
明日も隣に、いてくれるだろ?
だったら、それだけでいいから。
「そうだね、明日も逢えるんだよね。
なんか、うれしい。
でも、嵐こそ大丈夫?
私と違って、時間が不規則な仕事してるから、毎日ココに来るのも大変じ
ゃない?」
少し心配そうな顔をしているオレの彼女。
「ばーか、里緒に逢えない方がオレにはつらいよ。
だからそんな心配してんじゃねーよ」
軽く頬をつねって、瞳をのぞき込むと、彼女は少し目を伏せて小さく微笑
んだ。
「嵐はさ、ホント素直だよね。
普通って、何が普通かわかんないけど、男の人って、そういう甘いセリフ、
あんまり言ってくれないよ」
普通が何かわからない。か。
 今、里緒は過去の男とオレを比べてる?
もしかして、不倫相手だった男はこんなセリフをくれなかったの?
小さな嫉妬が心に芽生えた。
でも、里緒に悪気があったわけじゃない。
そして、もう終わった事だ。
だから気にするな。
自分にそう言い聞かした。
「普通とかオレにもわかんねぇし、甘いかどうかも知らない。
でも、オレはホントにそう思ってるんだよ。
思ったことや、感じたことを言葉にしてるだけ」
 前の男が、どんなだったか知らない。
でも、オレは里緒に悲しい思いなんてさせたくないよ。
他の男で寂しさを紛らわせなきゃいけないような、そんな切ない恋をさせ
たくないんだ。
それに、オレ自体、時間があれば里緒に会いたいし。
だから、毎日里緒の部屋に通うのなんて、全然苦痛になんねぇ。
むしろ、楽しくて仕方がねぇよ。
「そういう素直な嵐が好き。
大好きだよ」
里緒は、つき合いだしてから、すぐに好きを言ってくれるようになった。
本人いわく、オレのがうつったらしいけど、オレ、そんなに好き好き言っ
てるのかな?
あんま自覚ねぇわ。
でも、こういうバカップルみたいなのもアリじぇね?
楽しくて、いいじゃん。
「超うれしいけど、残念でした!
オレの好きのがデカイからな!
覚悟しとけよ?
今日はゆっくり寝かせてやるけど、里緒が休みの夜はたっぷりと教えてや
るよ♪」
その身体にイヤと言う程オレを刻み込むよ。
何度も何度も、里緒がオレを受け入れてくれる限り、ずっとオレは里緒に
深く入り続けるよ。
だから、安心して?
淋しいなんて思わないで?
お願いだから、オレが仕事で逢えない時は、他の男の元へ走ったりしない
で―――――。
逢えない日も、不安にならないように、しっかりとたっぷりと愛を注ぐか
ら。
「なんかエロいよ」
クスクスと笑いながら、寝室へと行く里緒。
その後ろ姿を追いかけながら、オレはたくさんの不安を抱えていた。
 せっかく両思いになれたのに、消えない不安。
募る嫉妬。
前の男は、どうして、里緒を寂しがらせたんだろう?
そして、どうして手放したんだろう?
オレなら、里緒を手放したりできないよ。
たとえ、彼女が新しい恋をしたとしても、オレは里緒を手放したりできな
い。
だって、もう、彼女なしではオレの生活が成り立たないから。
オレの全てが成立しないから。

それくらい、里緒を愛してる。
こんなに、人を愛することってできんだな。
オレにも、誰かを愛するってできんだよな。
好きの意味さえ知らなかったけれど、それでも今は愛を知ったよ。
里緒を愛してる。
「誰より、愛してるよ」
腕に愛しい女を抱きしめながら、眠りにつこうとしている今が幸せだ。
だからどうか、この幸せがいつまでも続きますように。
そう願いを込めて、瞳を閉じた。




 里緒が出勤準備をする音で、目が覚めた。
オレの愛しい女は、鏡に向かって戦闘態勢に入るための準備をしている。
あどけない表情が、見る見る大人の女に変身してく。
最後の仕上げにスーツを纏って、彼女はオレとは違う世界に旅立つ。
「あ、嵐。
起こしちゃった?
ごめんね」
申し訳なさそうに、ピアスをつけながら鏡越しの謝罪。
「いや、化粧してる里緒を見てたから」
「スッピンなんて、あんまり見られたくないんだけどね」
そう言いながらも、もう玄関でハイヒールを履こうとしている。
忙しない朝。
仕事の時間が不規則なオレをベッドに残して、彼女は出て行こうとする。
「行ってきます」
慌ただしく出て行く彼女を見つめ、オレは急いで玄関へと行く。
「行ってらっしゃいのちゅう♪」
その頬に唇を当てて、笑顔でお見送り。
挨拶変わりのキスなんかで、彼女の一日が素敵な時間になればいいな、と
思う。
ホントはオレが休みの日は、一緒にいたいけど、里緒にだって仕事がある
んだ、仕方がない。
わかっているのに、笑顔で見送ったくせに、ホントは会社になんて行かせ
たくない。
だってさ、
だって、会社には里緒がずっと好きだった人がいるんだよ?
何年も不倫していた相手が、同じ空間にいるなんて、想像しただけで、オ
レの胸が苦しくなる。
でも、里緒は終わったと言うから、信じるしかない。
オレの前で、あんなに切なそうに彼の事を語った里緒。
好きが苦しいと、彼を思い描きながら説明してくれた里緒。
オレの惚れた里緒は、いつもオレじゃない彼を思っていた里緒だった。
だから、凄く恐いんだ。
やっと手に入れたのに、それでもまだ足りないくらいに不安なんだよ。
  彼女がどれだけ不倫相手を思っていたのかわかってるつもりだった。
だからこそ、オレは苦しくなったんだ。
でも、そんなに好きだった相手から、オレへと心変わりをした里緒。
ねぇ、またオレから違う男に変わったりするの?
そんな不安が心の底にあるんだ。
信じたい。
誰よりも、里緒を愛しいと思ってるし、里緒もまたそうだと思う。
でも、いつか来る未来が、このままだと限らない。
恐くてたまらない。
オレは里緒と一緒にいる幸せを知ってしまった。
もう、里緒のいない生活になんて戻れねぇよ。
里緒がいない世界なんて、生きていけねぇよ。

布団にうずくまりながら、オレは里緒が残した香りを胸に、うなされるよ
うに眠った。


 暗いことばかり考えていたからだろう、眠りが浅く、すぐに目が覚めた。
携帯が小さく震える音ですら、耳障りだ。
 液晶を見るとマネージャーから。
『嵐、もうすぐ取材始まるぞ?
起きてるか?』
起きてるから、電話に出たんだろうが。
そう思うのに、テキトーに返事をして、重い身体をベッドからひきずりだ
した。
シャワーを浴びて、ジーンズをはき外へと出る。
なま暖かい空気が、オレの心をさらに重たくさせる。

こんな湿気の多い日は、撮影なんてしたくねぇ。
家で里緒をひたすら待っていたい。
だけど、仕事はそんなオレの願いも無視して、淡々と組み込まれていく。
明日も、明後日も雑誌の取材。
もうすぐシングルが発売されるから、それの宣伝用の写真もいくつか撮る。
もちろん、プロモ撮影もあるし、レコーディングだってある。
だりぃよ。
仕事なんてしてる場合じゃないんだよ。
せっかく里緒とつき合えたんだぜ?
もっと、ずっと一緒にいてぇよ。
ホントに不規則な仕事だから、昼から夜中までとかだって、平気でスケジ
ュールにあったりする。
  里緒とのすれ違いの生活。
仕事が忙しくなればなるほどに、里緒との時間が確実に減っていく。
 なんで、世の中上手くいかないのかな?
そりゃ男だし、仕事しなきゃいけないのはわかってる。
でも、里緒が大切なんだ。
仕事も大事だけど、プライベートだって大事じゃね?
なんで、そんな窮屈にスケジュールを組むんだよ。
言いたいことは山ほどあるのに、どれもこれもスルーされるだけなのはわ
かってる。
イヤと言うほど、オレは事務所の人形だ。
マネージャーだけじゃなく、おれらCRASHにはたくさんの人が関
わっている。レコード会社の人、それにCMのスポンサー、数えだしたら
キリがない。
今が旬のアイドルだから、今使わないと意味がないって事なんだろうか?
先が見えない。
未来が見えない。
いつまで、この人気は続く?
いつになったら、落ち目になっちまう?
オレらは、すぐに流行り廃る世界に存在し続けるんだ。
誰もオレらを求めなくなったとしても、事務所がでかいだけに、仕事はあ
るだろう。
いわば、芸能界の公務員みたいな立場。
与えられた仕事さえこなせば、給料はもらえる。
売れなくなった時のために、今、頑張ってるのか?
将来のために、会社に貯金してるとでも思えって?
無理じゃん、そんなの。
確かに、事務所はでかいよ。
でも、周りがどう思っていようが、この世界そんなに甘くねぇんだよ。
いつ、首を切られるかわからない。
それだけ、厳しい世界だって、誰も知らない。ただBEENにいるだ
けで安泰だと思われてるだろう。
それも、むかつく。
そして、がむしゃらに働かせる事務所の人間にもむかつく。
なにもかもがオレをいらつかせる。
  仕事なんて速く終わらせて、里緒と一緒の時間を過ごしたい。
そんな気持ちで、オレは適当に仕事をした。
それを見抜いた瞬に、チクリと嫌味を言われたよ。
「お前、酷すぎじゃね?
いくらなんでも、もうちょっと真面目にやれよ。
今まではそんなんじゃなかったじゃん。
どうしちまったの?」
どうしたも、こうしたもねぇよ。
今までだって、仕事を好きでしてたわけじゃない。
でも、やるべきことはやってたつもりだ。
ただ、今は仕事がイヤなんだ。
やりたくないんだよ。
なんで、笑顔を作らなきゃいけないんだ?
なんで、おおっぴらにデートできないんだよ?
里緒は、今でも二人で外出するのを嫌う。
ファンに見つかるのを、酷く恐れている。
オレが守るって言ってるのに、そうじゃないと言う。
ファンが恐いんじゃなくて、オレの人気に影響するのがイヤなんだと。
でも、オレ別に平気だよ。
里緒と付き合うことで、ファンが減ったって、それでも里緒と一緒にいた
い。
むしろ、オレに彼女がいたくらいで、逃げるようなファンなんていらない。
そう思うオレに、里緒は小さく溜息をついたんだ。
「仕事でしょ?
そんなんじゃ、ダメだよ」と彼女は言った。
わかんねぇよ。
「なんで、アイドルしてるのか、わかんねぇんだよ」
瞬に、捨てぜりふをはいて、オレは現場を後にした。
だって、窮屈で仕方がないんだ。
自由がなくて、恋愛すらまともにできなくて、それなのにファンのために
笑わなきゃいけないのか?
なんで?
どうして?
誰も答えなんて教えてくれない。

オレだってわかってるよ。
金をもらってる以上、仕事しなきゃいけないって事くらい。
でも、イヤなんだよ。
たまらなく、アイドルって職業がイヤになっちまった。
里緒と普通のデートができるなら、どんな職業だっていいよ。
でも、里緒は「嵐はアイドルを止めちゃだめだよ。もうたくさんのファン
がいるんだから、その責任を受け止めなきゃ」と説教をする。
違うよ。里緒。
オレが聞きたいのは仕事に対することじゃなく、もっと甘い会話がしたい
んだ。
里緒、もっとオレを見て?
オレだけを。
もう、それしか望みなんてないんだから。
オレの存在理由は、アイドルなんかじゃない。
里緒、彼女がオレを受け止めてくれるから、オレは存在してるんだ。







2004-2009©白雪姫-hime-