まともな仕事なんてしてないのに、気持ちだけはクタクタに疲れたまま、
里緒の家に戻ると、彼女は夕食を作って待っていてくれた。
「今日は嵐の好きなパスタだよ」
上手そうなニンニクとベーコンの匂いがする。
ペペロンチーノだ。
「めっちゃ腹減った。
早く食いたい」
靴を脱ぎ捨てて、テーブルに着くと、湯気をたてたパスタが2皿登場した。
もう、夜の10時。
こんな時間まで、里緒はオレを待っていてくれた?
「先に食ってても良かったのに」
「だって嵐が仕事頑張ってるのに、なんか私だけ食べるのって、悪いでしょ?」
ああ、ちょっとだけ後悔。
もうちょっと、マシな仕事をしとけばよかったよ。
せめて、里緒に胸はれるくらいの仕事。
だって、この笑顔を曇らせたくないから。
「里緒はオレの仕事が好き?」
今まで軽く付き合ってきた女たちは、オレがアイドルだから付き合ったく
せに、だんだんと時間がたつにつれ、逢えなかったり、他の女と噂になっ
たりするのを嫌がった。
アイドルとしてのオレを好きなくせに、アイドルの仕事を否定するような
女ばかりだった。
でも里緒は違う。
「うん、頑張ってる嵐が好き」
大きく頷きながら、パスタを頬張る里緒。
オレは、そんなお前に応援されるような仕事なんてしてねぇんだよ。
ごめん、次からはちゃんとするから、今日は許してくれよな。
「里緒が応援してくれるなら、頑張るよ」
何を頑張ればいいのかわからない。
でも、里緒が望むなら、頑張れる。
仕事がイヤだと思っているけれど、でも里緒の笑顔が見れるなら、オレは
どんなことでも頑張れるよ。
「じゃあもっと応援しなきゃね♪」
ぎこちないウインクをしてくれた里緒に、オレはとっておきのアイドルウ
インクでお返しをした。
そしたら、里緒は目をパチクリとさせて驚いた。
「うわっっ☆」
「何だよ?」
「ホンモノだ〜〜〜、ね、ね、もう一回して?」
かわいい里緒のおねだり。
ちょっと恥ずかしかったけど、もう一度ウインクをする。
「やっぱり慣れてるんだね、様になってるよ!すごいよ嵐。
ウインクだけでも仕事になるんだねぇ。
さすがアイドルだ!」
何度もウインクした自分が恥ずかしくて、そして、本気で喜んでる里緒が
かわいくて、思わず彼女を腕の中へと引き寄せた。
カチャンと、フォークが皿に落ちる音がする。
「オレ、里緒だけのアイドルになら、いくらでもなるから」
いつでも、里緒だけのモノだから。
「ありがとう。
でも、仕事の時は私の事なんて忘れてね?
ファンの事をちゃんと考えてあげて。
ずっとずっと応援してくれてる人もいるだろうし、すっごいすっごい嵐を
本気で好きな人もいるんだろうから」
里緒はいつも仕事を優先させようとする。
「わーてるよ」
笑顔で答えながら、オレの心は複雑だった。
里緒の望む男は仕事が出来る男なの?
前の男はそうだったって意味?
オレと、誰を比べてるんだよ。
そう聞きたいのに聞けない情けない自分に嫌気がさす。
でも、彼女は微笑むんだ。
仕事の話をすると、とてもキレイな笑顔を見せてくれる。
だから、オレはその笑顔が見たくて、その笑顔をオレが作り出したくて、
仕事を頑張るんだ。
笑うよ。
いつでも、とんなときでもカメラの回ってる限り。
シャッターが切られる瞬間に、アイドル笑顔を見せ続けるよ。
だから里緒はオレにその笑顔を見せ続けてくれる?
「明日も仕事あるの?」
パスタを食べながら聞いてくる。
ホントは、オレプラベで仕事の話題嫌いなんだよ。
でも、言えない。
「うん」
仕事なんて行きたくないよ。
ずっと里緒と一緒にいたんだ。
でも、その言葉は君の聞きたい言葉じゃないんだね。
甘いセリフを望んではいないんだね。
「じゃ、がんばってね。私も頑張るから!って言っても事務仕事だから、
あんまりがんばりどころがないんだけどね」
小さく微笑みを見せるものの、その瞳は笑ってなかった。
「里緒?」
「んー?」
「どうかした?
仕事でイヤなことでもあった?」
もともと、不倫相手が上司にいる職場。
もし、いやなことがあるなら、辞めてしまえばいい。
「ないよ、別に。
ただ、男の人っていいなぁって思ったの。
頑張った分だけ責任もあるし、やりがいもあるでしょ?
男女平等って言うけど、やっぱりまだまだだし、事務職なんて結果になら
ないもん」
それなら、辞めればいい。
あれだけ里緒が愛していた人がいるんだ。
正直、複雑だよ、オレ。
「辞めたいの?」
そう聞くと、彼女は小さく左右に首を振った。
「違うよ、だた、時々むなしくなるだけ。
私にもなにかできないのかな?なんて思ったりもするの。でも、会社やめ
るわけにはいかないよ。
一部上場だし、親が悲しむし、、、いくら事務だって、言ってもいきなり
辞めるわけにはいかないもん」
えへへ、と悲しそうに笑う里緒を見て、オレは「辞めちまえば?」の一言
を飲み込んだ。
言えるわけがないんだ。
だって、仕事って人生だろ?
結婚しても、仕事を続ける女性が増えてるなか、簡単に言える言葉じゃな
いくらい、オレだってわかるよ。
それでも、望んでしまうんだ。
元彼との接点を全て奪ってしまいたいんだ。
恐くて恐くて仕方がない。
不安で不安で仕方がない。
いつか、誰かに里緒を奪われそうな不安。
お願いだから、ずっとそばにいて。
オレは君が居るだけで幸せだから。
隣に里緒がいるだけで、存在価値を見いだせるんだ。
里緒がいなくなってしまえば、オレの価値なんてなくなってしまう。
アイドルとしてでしか、存在できなくなっちまう。
だからどうか、いつまでも隣で笑っていて欲しい。
それだけが願いだから。
「里緒、ずっと一緒にいような」
「ん」
優しくうなずく彼女を抱きしめた。
愛してるって言葉を簡単に使っていたオレだけど、この思いは簡単なんか
じゃない。
もっと深くて重い。
彼女がいないと生きていけないくらいに、オレは里緒を愛してる。
何があっても手放したりしない。
彼女の髪をゆっくりと指で梳かしながら、このまま時が止まってしまえば
いいと思ったんだ。
彼女の体温をこんなんに近くに感じていて、心も近くに感じられる。
きっと、ホントに幸せなんだと思う。
体だけじゃなく、心も抱きしめている実感。
そして、オレの心も抱きしめられているという安心感。
里緒、ホントに愛しているよ。
だからゆっくり眠ろう?
このまま二人でベッドへ行こう。
抱きしめるようにして、胸に彼女の温もりを感じながら眠った。
夢の中ですら、里緒が離れていかないように。ずっと、二人でいられうよ
うにと。
キッチンから香ばしいコーヒーの香りで目覚めた。
「里緒、おはよ」
「あ、おはよ。
寝癖、すごいよ?」
クスクスと笑いながらカップにコーヒーを注ぐ。
おれはそんな彼女を背中から抱きしめた。
「大好きだよ」
「どうしたの?」
「思ったときに言いたいじゃん、そういうことって」
じゃないと、好きって思いが心にあふれて、どうしようもなくなるから。
「そっか、私も嵐が大好きだよ」
食パンをかじりながら、里緒とのたわいもない会話。
彼女はこれから仕事に行かなきゃならない。
時間に不規則な仕事をしてるオレは今日は夕方から。
もちろん、いつも遅くから始まるわけじゃない。
明け方からとかだってある。
でも里緒の仕事はいつも決まった時間に始まり、決まった時間に、、、終
わらないか。
残業もあるみたいだし、それはそれで大変なんだと思う。
普通のサラリーマンやOLがどんな仕事をしてるかなんて、オレにはわか
らない。
テレビや漫画、あるいはドラマの中でしか知らない。
だから、里緒の苦しみや悲しみがわからなかった。
上を目指すわけでもなく、何かを創作するわけでもない。
そんな生産性のない仕事が苦痛に感じるなんて知らなかったんだ。
オレらみたいな、人気商売よりかはずっと楽だと思っていた。
与えられた仕事をこなすのに精一杯で、何かを新しく作りたいとすら思わ
ない。
里緒の望むことが理解できない。
だけど、昨夜見せた彼女の切ない表情がうすく記憶に残っている。
彼女が何か大切なことを言ったのに、オレは今まる幸せに満足していて、
何も気付いてあげられなかったんだ。
里緒、それでもきみはオレの隣にいることを望んでくれたんだね。
こんなにも穏やかな朝を迎えられたのは、君が隣にいたからなんだ。
里緒が笑顔を見せてくれるからなんだ。
「里緒、今度仕事が休みの日にさ、二人で昼間にデートしようぜ。居酒屋
とかじゃなくて、朝から天気のいい日に太陽を浴びよう」
少しでも、穏やかな気持ちになれるように、誰にも邪魔されない休日を過
ごしたい。
「そうだね。
二人の休みが合えば、だけどね」
そう言いながら苦笑いをする里緒。
だけど、最初のデートの時と違って、不安な顔はしていない。
わかってるよ。
いつまでもコソコソしているつもりなんてない。
いっそこと、ファンにバレてしまばいいとすら、思っている。
里緒の望みとは違ったとしても、その方がいい。
「今日の嵐くんいい感じだね!
なんか昔に戻ったみたいにキラキラアイドルしてるよ」
デビュー前、ミニの頃からお世話になっているカメラマンが笑顔でシャッ
ターを切る。
昔と違った。
生意気になった。
態度がでかくなった。
仕事へのやる気が見えなくなった。
ずっと、そう言われ続けて来た。
オレ自身、何が違うのか、わからないまま。
いや、違いに気付かないフリをしていたんだ。
先日まで、ずっと。
作られた笑顔でも、自然とホントの笑顔みたいになることを知っていたの
に、あえて笑うことをやめた。
アイドルの仕事を放棄するかのように、オレはカメラを睨みつけていたん
だ。
シャッターが切られる瞬間、顔を強ばらせていた。
だって、力んでしまうんだよ。
顔の筋肉が無意識に固くなってくんだ。
笑いたくない、アイドルなんてやめたい。
そんな気持ちばかり膨らんで、オレは死んだような目をしながら、毎日を
過ごしてた。
里緒に会うまでは………。
テキトーな日々に、テキトーな仕事。
すべてが適当だと、人生そのものまでが適当になってしまう。
言われたことはやるけれど、そこに楽しみは見いだせなかった。
でも、事務所に入ったばかりのころは、何をするにも楽しかった。
雑誌撮影も、インタビューも、何もかもが楽しかったんだ。
人目に触れることすら、快感だった。
だけど、オレの歌いたい曲とは違う選曲。
思ってもいないフレーズを歌う日々。
だって、それが仕事だから。
気持ちのこもらない歌は、誰に届くのだろうか?
そんな疑問がよぎるたびに、仕事がイヤになっていった。
でも、これからは頑張るよ。
だって、里緒の笑顔を思い出せるから。
オレの頑張る先に里緒の笑顔が見えるんだ。
雑誌やら、CDやらを買ってきて、作られたアイドルのオレを見つめ、
「かっこいいね」と言ってくれる里緒。
ちゃんとアイドルって仕事を理解して、応援してくれる。
時にはオレなんかよりもシビアな意見を言う。
そんな彼女だから、オレは頑張るしかできないんだ。
歌うよ。
笑うよ。
きっちりとアイドルとしての仕事をこなすから、里緒はいつまでもオレを
応援して。
それだけで、オレはどんなイヤな事でも乗り越えられるから。
仕事の活力も、生きる気力も、全部が全部里緒から発生されているんだよ。
「嵐!
今日は気合い入ってんじゃん」
この前嫌味を言っていた、瞬が笑顔で親指をたてた。
だって、里緒がよろこぶんだもん。
オレが真面目にアイドルをすればするほど、彼女の笑顔が増えるんだ。
好きな女の笑顔が見たいから、頑張るしかねぇじゃん。
「じゃあ、その勢いで集合写真も行っちゃおうか!」
カメラマンメイクさんに囲まれる中、クラッシュは全員用意されたステー
ジに立った。
秀人がニヤリと意地悪そうに挑むような目を向けながら、隣で小さな言葉
をくれた。
「何、調子いいじゃん?」
そんなこと、言われなくてもわかってるよ。
好きな女とつき合えて、他に望むものなんてなくて、仕事を頑張れと応援
してもらえてるのに、頑張らない男なんていないだろ?
オレは、こんな風に日々を過ごしていた。
毎日里緒に会うために、彼女の部屋を訪れて、合い鍵なんかもらっちゃた
りして、夜中とかでも彼女の元へと急ぐ。
もちろん、里緒が眠っているときは、そのとなりに潜りこんで彼女を抱き
しめながら眠るんだ。
ホントに幸せだったんだよ。
毎日が幸せすぎて、仕事で会えない日すらも、電話やメールを頻繁にして、
心がこんなに近づいたつき合いをしたのは初めてだった。
やたらと調子良かったのか、早くに仕事が終わり、オレは知り合いがや
っているアクセショップに寄り道した。
別に何を買うって予定があったわけでもない。ただ、友達と喋ろうと思っ
ただけだったんだ。
でも、その新作を見た瞬間に頭の中身はすぐに里緒でいっぱいになった。
「これ、ペアになんね?」
里緒の細い指を飾るには丁度いいシンプルな指輪。
小さな小さな星形ダイヤが二つついてるだけのシンプルさ。
まるで、織り姫と彦星みたいじゃね?
なんか、オレと里緒みたく、二つだけでいい。
二人だけでいいって主張してるみたいなその指輪が、気に入った。
「嵐、彼女できたんだ?
わかりやすいヤツだな、お前って」
言いながら、ショーケースに並ぶリングを取り出してくれる友人。
「あれ?言ってなかったっけ?
大恋愛してんだよ、今」
一世一代の大恋愛♪
「ふーん」
まるで興味なさげなその返事にむかついて、オレは頼まれてもいないのに、
里緒の話しを始めた。
うんざりするくらいに、たくさんの里緒を語った。
オレの知ってる限りの里緒。
どんな表情で笑うのか、どんな切ない表情をするのとか、たくさんたくさ
ん喋っても、まだ話足りない気分だ。
「で、指輪をプレゼントしたいってわけ?」
もっとたくさん喋ってたいけれど、どうやらだいぶ営業妨害をしていたら
しい。
店にはサラリーマンやOLたちが集まっている。
もうそんな時間かよ?
「そ。
だからこの指輪ペアにしてくんね?
メンズも作ってよ、しかもテレビとかでもバレないようなペア加減」
ずっと、つけていられるように。
取材の時も、収録のときも外さなくていいように、ばれない程度のペアリ
ング。
「ペア加減って何だよ?
ま、言いたいことがわかったからいいけど、とりあえずデザインテーマは
このレディスと同じでいいんだよな?
コンセプトが決まってるから2週間くらいで製品になると思うよ」
「サンキュ、頼むわ」
早く仕上がらないかな?
どんなサプライズで彼女にプレゼントしようか?
考えただけでワクワクする。
注文を終えて、店を出てから里緒にメールした。
もう、里緒の会社も終わる頃だろう。
迎えに行こう。
車を里緒の会社近くに止めた時、彼女からの返事が届いた。
「え?
もう、電車乗っちゃったよ。
すごいラッシュの混雑だよ。熱い」
苦笑いの絵文字メール。
ラッシュ?
って、おおおおおおおっぉいっっ。
せっかく迎えに来たのに、意味ねぇじゃん。
てか、痴漢とかいないよな?
てか、里緒の周りにいるやつら、密着するんじゃねぇ。
オレの里緒だ!
なんか、すっげぇ心配になって来たんだけど。
あわてて心配メールを送ると里緒からは笑顔絵文字が届いた。
「大丈夫だよ、痴漢はいないみたい。
まぁ、確かに密着度はすごいけど、これは仕方ないよ。みんな好きでくっ
ついてるわけじゃないし」
ん?
っっん?
ん?
仕方なくなんかねぇよ!
降りろ!
今すぐに降りろ!
やっぱりオレが迎えに行く。
「次の駅で降りててよ、迎えに行くから」
本心からはかなり言葉をやわらかくしてメールを送信した。
「大丈夫だよ、そんな心配しなくても、ちゃんと家には帰れるから」
オレの心配を全然理解していない里緒からの返信。
ちげぇっって!
オレがヤなんだってば。
見ず知らずの男が里緒にくっついてるかと思うだけで、むかつくんだよ。
なのに彼女は楽しそうにメールをくれる。
絵文字や顔文字をたくさん。
ホントに年上だっけ?
と疑問になるようなメール。たまにデコメまで混じっている。
オレ、絵文字とか苦手だったけど、こうやってもらうの結構いいよな。
言葉だけじゃ伝わらない微妙な感情が表現されていて、読んでる方まで楽
しくなる。
てか、里緒からのメールなら何でもうれしんだけどな、オレ。
そうとう重傷だよな。
こんなに恋にはまるなんて、思ってもみなかったや。
テキトーにすごしていた毎日。
投げやりにしか描けなかった未来。
でも、今のオレは凄く充実した日々を過ごしているよ。
じゃねぇえぇえぇぇ。
ちげぇよ。
そうじゃなくて、ラッシュだよラッシュ。
神様!
どうか里緒の周りの乗客が女ばかりでありますように!!!
なんて神頼みしていると、里緒からまたもやメールが。
「買い物して帰るけど、今日は何が食べたい?」
単純なオレは里緒の手料理が食べれることによろこび、さっきまでの嫉妬
なんて吹き飛んだ。
「何でもいい。てか買い物一緒に行こ?
荷物とか大変だろ?」
彼女の家近くのスーパーまで車を発進させていると、今度はメールじゃな
くて電話がかかった。
「どした?
もうすぐ到着だよ」
「んー、迎えに来てくれるのうれしんだけど、駐車場で待っててくれたら
いいよ」
はぁあああああああぁあ?
オレは大きな溜息。
だって、里緒の考えがわかったから。
一緒にスーパー内をウロウロしてる所を誰かに目撃されたくないって。
なんで?
普通に買い物することすら、オレには許されないの?
恋人にここまで気を遣わせるオレの立場って一体何?
二人で食べるご飯だよ?
なのになんで二人で買い物できないわけ?
「じゃ、もういい」
オレは、多少いらつきながらそう返事した。
知らないよ?
二人分の買い物だから、荷物重いだろ?
「わかった」
なのに、予想通りの里緒の返事。
なんでそんなに物わかりいいんだよ?
男が居た方が楽じゃん。
荷物持ちが居る方が楽じゃん。
車なんだから、すぐなのに。
何を遠慮してるんだよ?
「……嘘だよ、駐車場で待ってるから」
結局里緒に弱いオレは、そう返事をして電話を切った。
だって、心配してるのはオレだもん。
里緒が心配で仕方ないんだもん。
ほんの少しの時間でも、一緒にいたいんだ。
里緒は違うの?
なんかオレばっかり好きなようで、ちょっと切ない。
でも、里緒は平気なんだよな?
例えばホントに俺が、駐車場で待ってなかったとしても、二人分の荷物を
抱えて、徒歩で帰宅して、笑いながら「ただいま」って。
もっと甘えてよ。
オレってそんなに頼りない?
ファンにバレても、かばってやれるよ。
嫌がらせからも守ってみせるよ?
だから、そんなに気を遣わないで。
言いたい言葉が溢れてるのに、里緒の笑顔を見ると言えなくなってしまう。
だって、彼女はそういう会話を嫌がるから。オレが里緒を大事にしようと
すればするほどに、仕事がおろそかになると思ってるのだろうか?
オレだって大人だぜ?
仕事と恋愛の両立くらいできるっつぅの!
結局車を駐車場に入れて、車内に身を潜める。
シートを倒して、人目を避ける。
里緒の言う通り、オレは堂々としていない。
ファンやその他一般の他人に見つかるのが面倒なんだ。
矛盾してるよな。
自分でも思うよ。
でも、里緒とのことがバレてもいいと、本気で考えてる。
こんな窮屈なデートしかできないんじゃ、里緒がかわいそうだし。
オレもつまらない。
里緒はオレのファンが減ることを恐れてるの?
それとも、オレと付き合ってるって、誰かに知られることを嫌がってる?
わかんねぇよ、もう。
すごく好きなんだよ。
みんなに祝福されて過ごしたいって思うのはオレのわがままなのか?
「お待たせ!」
笑顔で里緒が車に乗り込んだ。
助手席じゃなく、後部座席。
両手に大きな荷物を抱えて。
ねえ里緒、その笑顔はホンモノだよね?
オレ、ちゃんと里緒に楽しい好きを感じさせることできてるよね?
助手席に乗れよと、言えない情けないオレだけど、ちゃんと、愛せてるよ
ね―――――?
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