心がくるしくなるって、どういう意味なのかわかったのに、どうして逃げ
るの?
オレはそんなにお前を追いつめていた?
ねぇ、教えてよ。
今でも、心が苦しいんだ。
里緒を思うだけで、とっても苦しくなるんだよ。
これが、好きってことなんだろ?
だったら、ずっとオレの側にいてよ。
‘好き’にならせた責任を取ってよ――――。
このころのオレは、まだホントの恋を知らなかったんだと思う。
ただ、一緒にいて、少しドキドキしてキスをして、もっと近くにいたいと
思うから抱いた。
そのうち、女遊びを覚えて、嫉妬と束縛が増える恋人がうざくなってきた。
だから、恋を知らないままにSEXを覚えてしまったんだ。
でも、里緒は最初から恋を知っていた。
オレじゃない誰かに恋をしていたから、あんなにもキレイに見えたのかな?
恋をすると女の子はキレイになるんでしょ?
里緒の部屋を後にして、オレは少しだけ大人になった気分がした。
まだ、無知だったから恋が誰かを傷つけるとか、何かを犠牲にしないと成
立しないなんて知らなかったんだ。
だから、無邪気に瞬に昨日聞いたばかりの‘’好き’をエラソーに説明し
たりしてたんだ。
「やっぱ心が痛くなる恋しなきゃ、だよな」
うれしそうに。昨日得た知識
を喋るオレに、瞬は眠たそうに目をこすりながら耳を傾けている。
「何それ?」
「だぁから!苦しくなるくらい、誰かを好きになりたいって話」
「…恋したいって意味?」
「そう!」
「オレはねー、眠いの!嵐のくだらない話に付き合う余裕なし」
寂しいことを言う親友を無理矢理起こして、オレは喋り続けた。
それくらい、昨夜の里緒との出会いは有意義で、意味があったんだ。
今までの女とは違い、オレをCRASHの嵐としてじゃなく、ただ一人の
男嵐と扱ってくれた。
それがうれしくて、だけど少し悔しくて、こそばい感じがしたんだ。
そこそこ名前も顔も売れていると感じてたんだけど、まだまだだな……。
「んで、お前はどうしたいんだよ?」
「へ?」
「その女に恋でもしたわけ?」
「恋?」
「違うのかよ?」
「…」
恋は、心が苦しくなるような感じなんだよな、確か。
里緒を思い出すと苦しいってより、ワクワクするんだよ。だから、恋じゃ
ない。
「で、次は約束したの?」
瞬のこの発言で、オレはどでかい忘れ物を思い出した。
「聞いてねぇ」
電話番号どころかメルアドすら聞いてねぇよ。
何してんだ、オレ!
あークソッ!
もう里緒に会えない?
それはヤダ!
また、話がしたい。
もっと彼女の事を知りたい。
「家知ってんなら行けばいいじゃん」
「そっか!」
頭をかかえてうなだれていたオレに、瞬の助言はまるで神の声だった。
大きく頷いて、早速準備をした。
「今から行って来る!」
「はいよ」
瞬は再びベッドに戻り、夢の世界に入ろうとしながら、言葉だけでオレを
見送った。
オレも早く、一秒でも早くアイドルという現実を忘れさせてくれる里緒の
元へと急いだ。
数時間前歩いた道のりを、忙しい気分で小走りしながら到着した場所で、
荒い呼吸を落ち着かせるために肩で息をしながらチャイムを鳴らす。
ピンポン
「…」
ピンポン
「…」
ピンポン
……、もしかして留守?
あきらめかけた時、ゆっくりとそのドアは開かれた。
「……あれ?嵐だよね、もしかして忘れ物?」
寝てたのか、かなり不機嫌な声。
愛想笑いさえなかった。
「そう、忘れ物!」
大切な大切な忘れ物。
「じゃ、どうぞ。
勝手に探して」
部屋に招かれて、オレはとりあえずソファに腰掛けた。
「連絡先、聞くの、忘れてた」
そう言いながら得意のアイドルスマイルを見せた。
だって、断られたらヤじゃん?
「は?」
は?じゃねぇよ。
教えろよ!
そんな願いを込めて再び笑顔。ニコッと笑顔。
「ックス、それが忘れ物なの?」
里緒はクスクスと笑いながら携帯を手にした。
「そうだよ、すっげぇ忘れ物だろ?」
「そうだね」
笑顔のまま、彼女は番号とアドレスを交換してくれた。
「オレの携帯は24時間OKだから!」
勢いよくそう言うと、里緒は笑顔で小さくうなずいた。
「私は24じゃないからね?仕事中は無理だよ」
「仕事って何してんの?」
溢れ出る疑問。少しでもたくさん里緒の事を知りたいんだ。
「普通にOLだよ、嵐は?」
当たり前のように返された質問にオレは戸惑った。
「……」
嘘はつきたくない。
でも、普通の男として扱われてのが心地よかったから、言いたくない気持
ちがあった。
だけど里緒の一言で、そんな小さなことはどうでもよくなったんだ。
「言いたくないならいいよ?
お互い知り合ったばっかだし、別に仕事が何かなんてたいした問題じゃな
いからさ」
なんでだろ?
オレに興味がない。
そう言われた気分になった。
里緒の言う通り知り合ったばっかだけど、オレはもっとたくさん君を知り
たい。
もっと教えて欲しいんだ、だから
「嵐って、知ってる?」
「ん?」
「CRASHってBEENSのさ」
「ああ!わかった」
知ってたことに違いはないか。
「オレ」
「は?」
「嵐」
「…嵐て同じ名前だね」
わざとか?
「だから、その嵐がオレなんだってば」
「え?」
まだわかんねーのかよ?
「あー、もうっ」
財布に入れてある免許証を里緒に見せた。
彼女は、それとオレを交互に見比べながら、呆然としている。
その無防備な姿が、かわいいと思った。
「アイドル、なんだ」
ひとしきり免許証と顔を確認しおえた里緒の言葉に笑顔で頷いた。
「そ、オレってばアイドルなんだ」
「だからすっごいオーラ放ってたんだね」
オーラ?
てか、里緒はオレにオーラなんか感じてくれてたの?
なんかうれしんですけど。
ニマニマと変な笑いをしてるオレを里緒はうれしそうに凹ませてくれた。
「じゃあ流星くんと知り合いなんだ♪」
は?
なぜオレは知らなかったくせに流星は知ってる?
ちょっと、いや、かなりむかつくんですけど。
「そりゃ同じグループだし知ってて当たり前だろ。
じゃあ瞬も知ってるんだ」
「瞬?」
「瞬、オレの親友。
さっきまで一緒にいたんだ」
「あー、知ってる知ってる!
瞬くんは有名だよね」
瞬くんはのはって何?
オレはまだまだだって言いたいわけですか?
「オレも有名だもん!」
思わずふて腐れてそう言うと、里緒はクスクスと笑った。
「うん、有名だよ!」
なんか、あしらわれてる気がしなくもない。
「今度瞬と三人で飯でも行かない?」
「楽しそうだね」
そう言った里緒の表情は、他の女が見せた顔と違い、言葉の割りに、全然
楽しそうじゃなかった。
オレは単純だから、たたアイドルに興味がないんだと思ったんだ。
でも、違ったね。君はアイドルに興味がないんじゃなくて、年下の男に興
味がなかったんだね。
あ、それも違うな。
彼以外、誰にも興味がなかったんだ。。。
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