夢の中しか
夢の中しか

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1 プロローグ 2 テイクアウト 3 淋しいから 4 恋に恋して 5好きの定義 6 気付きたくない恋心
7 恋の悩み 8 9 10 11 12 エピローグ
■ 気付きたくない恋心
私がテイクアウトした男の子は、アイドルだった。
どおりでキレイな顔してるわけだよな。
そして、そのアイドルはなぜか私になついてくれて、よく連絡をくれる。
たわいもないメールだったり、電話だけどなんだか楽しい気分にさせてく
れる。
でもそれは一時凌ぎでしかなく、会社に行けば私はやっぱり部長にばかり
気持ちが動いて苦しくなった。
好きになればなるほど、家族の元へと帰る部長へ悲しみが増す。
抱かれるたびに、罪悪感だけが募った。 
 そして大嫌いな週末がまたやって来た。

「部長はまた家族サービスですか?」
恒例になりつつある週末の会社でのワンシーン。
不倫なんかしてるくせに、家族思いなパパとして有名な部長に、誰となく
からかいが飛ぶ。
「ああ」
苦笑いしながらも、幸せそうに渋い笑顔。
私を抱いた腕で、子供と遊ぶんですか?

奪いたい。
家族の幸せなんか壊してやりたい。

醜い感情が私の中に渦巻く。
ドロドロと、溢れ出る嫉妬でおかしくなりそうだ。
もがいても、もがいても、溺れるだけのこの恋から、逃げ出す術はありま
すか?
もしあっても、私は溺死を選ぶ。
確かな幸せよりも、不道徳で背徳的な部長との一時が、何よりも私を溶か
すから。
甘い甘い安定した幸せよりも、しびれるような快楽が欲しいの――――。


 週末の夜は嫌い。
私の男じゃなく、家族のパパになってしまう部長が憎い。
ね?
どんな顔して、家族と過ごしているの?
考えたくないのに、毎週想像してしまう。
だから、私はお酒に逃げた。

一人で飲んでいても、寂しさも虚しさもいっこうに埋まらない。
携帯のアドレスを開くと、ア行ですぐに手が止まった。
今、仕事してるのかな?
そんな疑問を抱えつつも、電話をしてみた。
コール数回で、元気な彼の声が耳に届く。
『もっしー、里緒から電話ってめずらしいね♪』
にぎやかな電話の向こう側。
そして楽しそうな嵐の声。
「んー、一人で淋しかったんだけど、嵐なんか急がしそうだからいいや、
またね」
別に、彼じゃなくてもいい。
『え?ちょ待って』
あわてる彼をよそに、私は電話を切って再びアドレスを開く。
 不倫を初めて5年。
淋しい時は他の男で紛らわす。
だから、アドレスにはたくさんの名前があった。
寂しさを紛らわすんだから、誰でもいいはずなのに、手が動かない。
思ったより、私の心に嵐は進入していた事に初めて気がついた。
出会ってから、まだそんなに時間は流れていない。
でも、彼の笑顔や、真っ直ぐさが私にはまぶしかった。
ただ、まぶしすぎて、目がくらんでしまっているだけだよね?

そう自分に言い聞かすように、何本目かのビールに手を伸ばした時、携帯
が鳴った。
 液晶を見ると【嵐】
「どうかした?」
『どうかって、さっきの電話、何?』
「あー、うん。ごめんね?
ちょっと淋しかっただけ、でも大丈夫だから嵐は嵐で楽しんでてね」
『……今から行くわ』
「あー、大丈夫、ホントに!」
誰でもいいはずなんだ。
だから、彼を遊びからココに来させるわけにはいかない。
嵐の都合だってある。
だけど、ホントは来て欲しい。
そして、抱きしめてもらいたい。
この寂しさから救われたかった。
『行くから』
強引にそう言って、電話を切った嵐に、やっぱりすごく嬉しく思う自分が
いた。
 私は、悲しみと立ち向かうことを忘れた。
いつの間にか覚えた、誰かに頼ることがあんまりにも楽で。

すでに酔いが回った頃、嵐が部屋に入って来た。
「淋しいから、オレに電話してくれたんだ?」
なぜだかニコニコ笑顔の嵐。
少し恥ずかしくて目をそらしながら私はうなづいた。
まぶしすぎて、目がくらむ。
「なんかすっげぇうれしー」
そう言いながら、私が差し出したビールを手に取る。
グビグビと豪快に飲みながら、私の寂しさを紛らわそうと、くだらないど
うでもいいお喋りをたくさんしてくれた。
 私は嵐の会話に笑い、お酒を飲みながらも寂しさが消えていない。
そして、嵐の会話が途切れた時、二人の視線が絡まる。
アルコールの勢いもある、それに淋しいと理由をつけて呼び出した女。そ
の呼び出しに答える男。
そりゃ、もういきつく先はソレしかない。
嵐の首に自分の腕を絡めて、濡れた瞳で彼の目を見つめる。
「……嵐」
早く、寂しさを埋めて?
そんな願いを込めて目を閉じると、優しいキスが頬に、唇に落ちてくる。
「ベッド、行こっか」
ニコリと場違いな笑顔の嵐。
なんで、こんな時に爽やかさを全面に押し出す?
多分、スマイルの使い方間違ってるよ。
そう思うと、なんだか自然と笑いがこみ上げて来た。
「何笑ってんだよ」
「クスクス、ごめん」
嵐に手を引かれてベッドに寝ると、自然と上に乗る嵐。
手慣れてる。
簡単に服を脱がされて、私は快楽へと導かれた。
もっと、激しく私を狂わして?
何もかも忘れるくらいの官能を頂戴。
思考回路が壊れるくらいの、しびれる衝動。

 嵐が動くたびに、私の体が揺れる。
もっと揺れて揺れて、乱されたい。
心の奥底まで、乱してよ。
願いは尽きることなく、何度も何度も私は嵐を欲しがった。
  膨れあがる欲情は、さらなる快感を求めて、私の体は何度も男を受け入
れる。
淋しかったはずの心が、快楽だけで満たされていく。


「何か今日の里緒ってすっげぇやらしぃのな」
もう、体力が限界になった頃、隣で腕枕をしながら嵐が含み笑い。
「そう?」
照れるなんてかわいいことはできなかった。
いつもいつも、私は寂しさを紛らわすために男と肌を重ねる。
そこに罪悪感が伴わないように、ちゃんと相手は選んであるよ?
テキトーに女遊びしてる男。
相手もテキトーだから、感情がなくて楽なんだ。
ただ、人肌に触れていたいだけ。
部長を忘れさせてくれるくらい、激しい男ならもう最高。
それだけの条件で男を選んでたはずなのに、どうして今日は嵐だったんだ
ろう?
嵐以外、他の男に連絡する気になれなかった。
それは、快楽の後の腕枕があまりにも心地よかったからかなあ?
 やることだけやったら、すぐに帰る男だってたくさんいるのに、嵐は翌
朝まで一緒に眠ってくれた。
その優しさが、また欲しくなったんだろう、きっと。

 自分の中でそう言い聞かした。

部長との恋を終わらせたくなかったし、もし次に恋をするにしてもアイド
ルだなんて、そんなめんどくさい相手はイヤだ。
だけど、気持ちって、理性とは関係なく成長するんだね。

「里緒ってさ、、」
なんだか歯切れ悪そうに、そして、ちょっと不機嫌を表した嵐の声に、私
は耳を傾ける。
「何?」
腕枕をしたまま、私を見つめる嵐。
「……Hの最中に、どっか遠くを見つめるの癖?」
え?
「そんな目、してる?」
「してる。
超しらけそうになるもん、てか一瞬萎える」
「……ごめん、今度があるなら気を付けるよ」
私と嵐の関係に、確かな約束なんてない。
だから、今度なんてあるかわからない。
「別にいいよ、無意識なら仕方ねぇし。
それより、なんだよ今度があるならって、オレともう会いたくないって意
味?」
………。
前から思っていた。
嵐って、直球ストレートど真ん中だよね。
普通、言葉に含まれた意味をくみ取って、わざわざ聞いたりしないよ。
「まさか!
嵐がイヤじゃなければ、また遊んで下さい」
その返事が気に入ったのか、満面の笑みでうなづく嵐に、私までつられて
微笑んでしまった。
なんだか心が温かい。
久しぶりだね、こんな気持ち。
「じゃあ、明日も来るね♪」
え?
「いきなり?」
「予定ある?」
「ない」
「じゃあいいじゃん、オレちょっと仕事あるから遅くなるけどメールする」
「…うん」
すっごい展開の読めない男の子です。
だけど、すんなりと心に入ってくる直球な言葉は、うれしくて。
明日を約束できたことがうれしくて。
私の顔は緩んでしまう。
誰かと未来を約束することが、こんなに幸せだなんて、もう忘れていたよ。
「じゃあ、次の約束もしたことだし、寝るべ?」
「そうだね」
激しく消耗した体力と、明日への安心感もあって、私は久しぶりにぐっす
りと眠った。
嵐が隣にいる。そして明日も来てくれる。
私は一人で過ごさなくていい。
それは、嵐だからできたことだった。
だけど、否定したい私は無理矢理に言い聞かす。
‘嵐じゃなくても、隣に誰かがいてくれるだけでいいんだ’と。


翌朝目覚めると、嵐はまだグッスリと寝息を立てている。
 私はゆっくりと体を起こし、朝食、、、いや昼食か?の準備をした。
コーヒーとスクランブルエッグ。クロワッサン。
内容からすれば、やっぱり朝食だ………。
「嵐、ご飯できたよ、起きて」
「んー」
テーブルの上で湯気をたてていたはずのご飯がすっかり冷め切った頃、や
っと嵐が寝癖をつけて起きた。


どんだけ寝起き悪いんだよっっっっ?

もちろん私はそんな嵐の寝起きを待つ程の優しさを持ち合わせていなくて、
一人で熱々の間にご飯を食べました。

「うわ、メシ♪」
「もう冷めてるけどね」
「やっぱ料理できる女っていいねー」
ニッコニコと褒めてるんだか、けなしてるんだかさっぱりわからない嵐語。
きっと、この顔だし、BEENだし、SEX上手いし、遊び慣れてるん
だと思う。
たまぁに女が喜びそうな言葉をくれることもある。
だけど、そこに策略が見えない。
下心なく、ただ何も考えずに文字にして相手にぶつける嵐。
素直に育ったんだなぁって思うよ。
よっぽと家族に愛されて、大切に育てられたんだろう。
「すっげーんまい♪
ね、里緒、晩飯も作ってよ?
今日はソレを楽しみに仕事頑張るからさ!」
食事をきれいに平らげて、かわいらしい嵐のおねだり。
こりゃ、甘え上手ですねー。
こんなキレイな顔で上目遣いされたら、若い女の子なら一発で落ちるな。



嵐が仕事してる間に買い物を済ませ、晩ご飯を用意する私。
結局、上手く彼に踊らせれている。
ま、別にいいんだけどね。
 そんな自分が少し、愛おしくさえも思えたから、鼻歌さえ出てきそうな
くらい、ワクワクした気持ちで夕飯を作り、嵐を待っていた。
9時過ぎ頃に嵐からのメール。
マンションの下にいるとのこと、すぐに私はロックを解除して、玄関の扉
を開けた。
「ただいま〜〜〜、なんちゃって」
香水と、タバコの匂いを振りまきながら登場した王子様は、部屋に入るな
りテーブルの上に目が釘付け。
「これ、食っていいの?」
「誰のタメに作ったと思ってるの?
久しぶりの料理だから、味には自信ないけど、どうぞ」
思い切りはりきって、作りすぎた料理。
いつもなら二日酔いでグダグダに過ごすはずの休日を、嵐はこんなにも楽
しい一日に変えてくれた。
隣にいなくても、今晩の会える約束をしただけで、私の週末はとても有意
義になったんだ。
買い物をしてる間も、料理をしてる時も、私は嵐を思い出して、楽しくて、
少し胸を弾ませながら、まるで初恋のような気分を味わっていた。
「いっただきまぁす」
「仕事お疲れ様でした」
「マジ疲れたー、癒してくれる?」
上目使いで嵐に言われると、妙に色気を感じてドキドキしてしまう。
「後でね」
そう答えるのが精一杯だ。まるで、初恋みたい。
嵐の眩しさ、まっすぐさが私を少女に変えて行く気がして、胸が高鳴る。
だけど、どれだけときめいても、私が不倫をしてる事実は消えない。
「明日も来ていい?」
「ダメ、仕事あるから」
毎日嵐に会うと、私が壊れてしまう。
不倫に疲れた私は、どんどん嵐を頼る。
だけど嵐は頼りにしちゃいけない。とりあえず今は私になついてるみたい
だけど。
いつ、飽きるかもわからない。
むなしい恋はしたくない。たがら、嵐に対して確実に芽生えつつある気持
ちを押し殺した。
「じゃあさ、仕事終わったら連絡してよ。電話くらいならいいだろ?」
「ん」
恋人なわけじゃない。
だけど、明日の約束をくれる嵐が好きだ。
部長とはまた違う感情。
弱って来たかな。
「なんかうれしそうじゃねーな。オレもしかして迷惑?」
少し不安そうな嵐の表情。そんな顔、見たくないよ。だからあわてて、否
定する。
「迷惑なんかじゃないよ、うれしいし」
「…じゃ、電話する」
「うん」




2004-2008©白雪姫-hime-