夢の中しか
夢の中しか

:: MENU ::  
1 プロローグ 2 テイクアウト 3 淋しいから 4 恋に恋して 5好きの定義 6 気付きたくない恋心
7 恋の悩み 8 9 10 11 12 エピローグ
■ 前兆

 アイドルはわからない。
嵐と言う人種がわからない。
私は、利用という形であなたを必用としているんだよ?
しかも、溺れる不倫から都合のいい浮き輪のように、あなたに癒されてる
私。
  それでもいいと言ってくれる気持ちは凄く凄くうれしいの。
でも、それじゃあ私はすごく最悪の女になってしまう。
「これ以上、自分を嫌いになりたくないから、嵐とはもう会わないよ」
誰かの気持ちを利用しようなんて思っていない。
慰めてくれるだけでいい。
一時だけ肌を温めてくれる相手が欲しいだけ。
そこに感情なんて必用ないんだ。
だって、私は愛される事に不慣れで、どうすればいいかわからない。



なんて、言い訳だね。
流されるのが恐いんだ。
どんどんと知らない間に嵐はすんなりと私の心に浸透していた。
これ以上私の心を占領されるのが恐くて仕方がない。
アイドルだよ?
不倫してる今よりも、きっと悲しい結末しか待っていないんだ。
そんな恋に踏み込む勇気が私にはない。
どこを探しても、ないんだよ。
「はぁ?
何でそうなんだよ?
オレの気持ちは完全シカトってわけ?
里緒が自分を嫌いになっても、オレが里緒を好きになるからそれでいいじ
ゃん」
ふて腐れて意味のわからない発言をする嵐くん。
いや、かなり意味不明なんですけど?
「嵐は、私のどこがいいの?」
「……さぁ?」
ほっっっっっんきで嵐を理解できません。
私はアホなんでしょうか?
それとも、この男がおかしいのでしょうか?
「私はね、さっきも言ったように不倫してるの!
だから彼に会えない日が淋しいだけ。
その寂しさを紛らわすのに、好きとか愛だとか、そういった甘ったるい感
情は必用ないの。
嵐が私を好きなら、なおさら私は嵐に会いたいと思わない」
いっそのこと、嵐が遊びで軽い気持ちだった方がうれしかった。
そしたらもっと、一緒にいられたから。
でも、彼が私を好きなら、もう会うことができなくなってしまう。
だって、これ以上彼に苦しい思いをさせるわけにはいかないから。
ホントは、惹かれ始めている自分に気づいているけど、それでも私はまだ
不倫を選ぶ。
  天秤にかけなくても、わかりきってる。
今の私は嵐より部長が欲しい。
優しくて、幸せになれる恋愛なんかよりも、部長との溺れるような不倫が
いい。
好きで好きで気が狂いそうだよ。
「私は部長が好きなの。
嵐は必用ない」
自分でも、すごく酷いことを言ってるのわかる。
でも、そうでもしなきゃ、嵐はまた会いに来てくれるでしょ?
そして、私はその優しさにひきずられてしまうの。
だから、拒絶する。
もう、私に関わらないで。
私にかまわないで。
優しくしないで。
じゃないと、泣きそうになる。
苦しくなる。
嵐をこれ以上傷つけてしまうのがイヤになる―――――。
「っっんだよ、それ?」
嵐はギュッと拳を握りしめて、目を伏せた。


ごめんなさい。


それしか、言葉が出てこない。
でも、謝る事もできない。
これ以上、優しくしたりするのは卑怯だよ。
私は、嵐より、部長を選ぶ。
「なぁ、聞いてんの?」
嵐がゆっくりと私に近づいて、肩を掴んだ。
だけど、その手は震えている。
もしかして、泣いて、る?
そんな罪悪感で彼の顔を見るために瞳を上に向かせたら、すぐに後悔して
しまった。
 すごく、傷ついた目と視線が交差したから。
涙を浮かべてるわけじゃない。
だからって、泣いてないわけじゃないんだ。
その心を傷つけたんだって、すぐにわかるくらい、嵐の瞳は深く深く影を
落としている。
「……」
言葉が出てこない。
なぐさめる文章も、謝罪の単語も、意味がないから。
私が部長を選ぶ事実は何も変わらない。
「なんで里緒がそんな顔するわけ?」
「……」
そう聞きながら、ゆっくりと顔を傾ける嵐に、私は拒絶なんてできなかっ
た。
体だけなら、いくらでも受け入れるよ?

優しく、唇が触れた。

「拒否、しないんだ?
なら、このままヤッちゃうよ」

 言うが早いか、手が早いか。
彼の手が、背中に回る。
滑り落ちるように、肩から腰へと動く指に、体は素直に反応してしまう。
「嵐」
名前を呼ぶと、ウエストに回った腕に力が入り、ギュッと抱きしめられた。
「好きだよ。
里緒が好き」
耳もとに顔をうずめて、何度もささやくような告白をくれる。
でも、私はその気持ちには答えられない。
「……ありがとう」
「凄く好き」
甘いささやきと一緒に、耳たぶをかじられた。湿った音と共に、温かい舌
先が耳の中に進入する。
「……んっっ」
「里緒が誰を好きでもいいよ……」
ブラのホックを外されて、簡単に服を脱がされた。
「嵐……」
切ない表情をさせてしまって、ごめんね?
謝るしかできなくて、ごめんね。
「今は、オレに感じてる?」
そんな質問をさせて、ごめん。
「うん」
露わになった胸を、一生懸命愛撫してくれる嵐。
指先で器用に転がしてみたり、唇に含んでみたり、私を感じさせてくれる。
  この瞬間、他の誰でもなく、嵐しか感じていない。
触れる指に、乱れた吐息に、ささやかれた言葉にも、全部の嵐を感じてい
る。
「じゃあ、名前呼んで…オレを求めて?」
そんな優しい切ない言葉とは裏腹に、手は容赦なく私の性感帯をついてく
る。
片方で胸を弄びながら、もう片方で足を開かせて中心部分を激しくなぞる。
ゆっくりなんて、できない?
次第に早くなる指先に、私の意識は朦朧とする。
「アッッ……嵐……」
1本、2本と増やされていく嵐の感覚。
このまま乱れてもいい?
本能のままに、嵐を求めるから―――――。

「嵐っっっ……アッッ…」
登り詰めそうになる。
関節を使って、指を曲げながら私の中を犯していく器用な指。
きっと、キレイな指が私の欲望に濡れているんだ。
そう思うと、さらに感じてしまう。
「まだ、イかないで?」
切ない表情で、嵐のお願い。
でも、そう思うならもっとゆっくりしてよ。
「無理っっ……はぁ」
感覚を手放さないように、シーツをギュッと掴んでみるものの、追いかけ
るように快楽の波が私を飲み込んでいく。
嵐の唇が、私の胸を。
嵐の指が、私の中を。
「欲しい?」
「……っん、、、来て」
もう、限界なの。
嵐が欲しくて欲しくて仕方がない。
  慌ただしく彼が自分の服を脱いで、大きくなったモノを私にあてがった。
先端だけ入れたり抜いたりして、またジラしてくる。
「んっっっ、」
それだけでも、充分に感じてしまう私。
「嵐っっっ」
もっと、もっと嵐を頂戴。
私の中の奥深くまで、嵐を感じさせて。
狂うくらい、乱れさせて。
密着している部分から、卑猥な水音が響く。
それとリンクして、体の触れる音。
嵐の腰が艶めかしく動くたびに、私の体も揺れる。
このまま揺れて揺れて、何も考えられなくなってしまいたい。
嵐に溺れて行く……。
「もっと欲しい?」
額にうっすらと汗を浮かべながら、嵐は見下ろすように聞いてきた。
「ん」
口を開くと喘ぎしか漏れてこないから、小さく返事を繰り返す。
早く頂戴。
「じゃあ、言ってよ」
「アッッ………嵐が欲しい」
欲しいよ。
今は何よりも、誰よりも嵐が欲しいよ。
このうずく体を何とかして!
「もっと、オレを求めろよっっ」
嵐の言葉に反応するかのように、私は何度も嵐の名前を呼んだ。
イく寸前まで、嵐の名前をひたすらあえぎながら、その広い背中に自分の
腕をからめる。
 何度も愛の言葉をくれた嵐。
何度も名前を呼ばせた嵐。
全部、覚えておくよ。
体の奥まできっちり覚えてるから、忘れないから……。
あなたをこれ以上傷つける前に、さよならしよう―――――。

 いつものように腕枕をしてくれる嵐の横顔を見つめながら、私は確かに
さよならを決意していた。


はずなのに、、、、


「里緒、明日は暇?」
「嵐?」
「秀人がさ、ってわかる?オレのメンバーね。
あいつが彼氏持ちと恋愛してた時に、応援したんだよね、”好きなら奪う
しかねーじゃん”って。
オレ、諦めないよ、里緒の事。
イヤなら拒めばいい。それでもオレは里緒を誘い続けるし、電話もする。
メールもする。
でも、ストーカーにはなりたくないから、イヤならちゃんと断ればいい」
………。
だから嵐くん、日本語滅茶苦茶ですから。
とか、思いつつも、顔がにやけてしまう私がいる。
拒んでも追いかける事を世間じゃストーカーと言うんだよ?
でも、うれしいんだよ単純に。
そう、単純によろこんでしまうんだよ。
部長がいる。
私は部長が好きで、不倫をしている。
その事実を知っても、それでもまだ私を必用としてくれる嵐が、うれしく
て仕方ないんだ。
身勝手だよね。
きっと、もっと嵐を苦しめるのが分かっているのに、それでもやっぱりう
れしいのは、確実に嵐が私の心に入って来てる証拠だね。
そろそろ、不倫に終わりを告げる時期が来たのかな?
「部長がね、キスマークつけたことなんて一度もなかった。
でも、嵐と知り合ってから、私の些細な変化を敏感に察知して彼は印をつ
けたんだ。
うれしかった。
でも、それって、嵐のおかげなんだよね。
嵐がいたから、私の淋しい週末は愉しい週末に変化していた。
部長に会えない日々も、嵐の電話やメールが私を穏やかな気持ちにさせて
くれた。
やっぱり、少しづつ嵐に傾いてるよ、私の気持ち」
こんなこと言うべきじゃないのに、なんだか嵐といると、素直にポロポロ
と心から言葉がこぼれてしまう。
きっと、彼が思ったまま表現するタイプだから、ソレが写ったんだね。

 腕枕してくれてたはずの嵐は、体を動かして私を抱きしめる体勢を整え
た。
ギュッと、息が詰まるほどの力で私を抱きしめて、耳元で愛の言葉をくれ
る。
「好きだよ、里緒」
何度も何度も、私が眠るまでずっとささやいてくれる嵐の愛に包まれた夜
は、今までで一番安眠できたと思う。

  結局、翌日も嵐は遊びに来た。
Hはしないで、ただずっとお喋りをしていた。
だけど、全然寂しさは感じなかったんだ。
なんでかな?
やっぱり、嵐がいたから―――――?


「最近さ、里緒明るくなったよね」
同僚のあすかがお茶くみをしている私に近づいて、耳打ち。
「そう?」
「ん、なんか雰囲気が柔らかくなったよ」
優しい笑顔でそう言うあすか。
「んー、自覚ないや。でもありがとう」
部署にいるみんなにお茶を配りながら、最後に部長のデスクに近づく。
他の人より、やっぱり鼓動が早くなってしまう。
部長の近くに行くだけで、ドキドキが止まらない。
嵐を受け入れるためには、部長との関係を清算しなきゃいけない。
わかっているけれど、やっぱり部長を見ると、その勇気が萎えてしまう。
「溝口、丁度よかった!
コレ、30部コピーお願いできるか?」
パソコンで作成された書類をクリップでまとめて、その一番上に付箋がつ
いてある。
「はい」
一つ返事でうなづいて、コピー機に向かいながら、やっぱり顔がゆるんで
いる。
だって、付箋には、『今日8時にホテルで』とのお誘いがあったから。
社内不倫はそんなに簡単にデートができるわけじゃない。
毎回こんな誘いじゃないけれど、こうやって堂々と秘密のラブレターをも
らうのはかなりうれしい。
 


仕事が終わり、ホテルへの道中に嵐から電話が来た。
「今日会える?行ってもいい?」
嵐は毎日のように電話をくれた。
お互いの都合が合えば、家まで会いにも来てくれる。でも、あれ以来抱か
れたことは一度もない。
我慢してるのかな?
だけど私はうれしい。部長との関係をはっきりさせてから、嵐とは向かい
合いたい。寂しさを紛らわすだけの関係じゃ物足りないから。
だからこそ、嘘ついちゃダメだと思ったんだ。
「ごめん、今日は部長と約束したから」
「…っ」
言ったすぐあとに後悔した。
電話の向こうで嵐が戸惑ってるのがわかった。
ごめんなさい。
でも、もう隠し事も嘘もあなたにはしたくないんだ。
「……っか、じゃまた電話する」

傷ついたような、悲しい声で切られた携帯をしばらく眺めているしかでき
なかった。

自分が思うよりももっと深く嵐が私を愛してることも、私の一言がどれほ
ど嵐を傷つけるかも知らないままに。。。





「里緒、食事は?」
どれだけぼーっとしてたのか、目の前には部長の顔。
「あれ、いつの間に?」
「さっき来たばかりだよ。で、食事はしたの?」
優しく微笑む部長。
「まだ。一緒に食べたいと思って待ってた」
その言葉に答えるように、ゆっくりうなずいてから、ルームサービスのメ
ニューから、適当に二人分オーダーしていく部長。
何をさせても、テキパキしてる。
嵐ならきっと、どれにしようか悩んで、それから私に聞いてくれるだろう。
って、何を考えてるんだよ私。
部長と嵐を比べるなんて間違ってるよ。
「最近里緒は変わったね。もちろんいい意味でだよ。いい女になってる」
ゆったりとした椅子に腰掛けながら、ベッドに座る私の髪を撫でる部長。
「そう、かな?」
大人の香水をつけてる彼からは、違う世界の匂いがする。
CHANELのアンテウス。
部長だからこそ、似合う香水だと思う。
「恋でもしてるのかな?」
ドキリとした。
恋。
って単語を聞いてすぐに思い浮かんだのは部長じゃなく嵐の笑顔。
にぃーっと口角を上げて笑う無邪気な嵐。

やばいなぁ。

部長といるのに、さっきから嵐ばかりだよ。
どんどん、嵐を好きになってる。
嵐より部長を好きなはずなのに、なぜ?
一緒にいた時間が長すぎるから?
共有時間と、心の占有率は比例しちゃうのかな。
ドンドンと私は嵐に魅了されていく。
それが、不快じゃない。
むしろうれしかったりするから、始末が悪いよ。
「部長、私を手放さないで?」
お願いにも似たわがままを言った。
無理なのは百も承知だったはずなのに、彼には家族がある。
私はどれだけ頑張っても1番にはなれない。
わがままなんて、聞いてもらえる立場じゃない。



だけど、今は不安でいっぱいだ。
部長より、嵐の事を考えてる自分が怖い。
この歳で、新しい恋に踏み出す勇気なんてないよ。

「里緒、この前から思ってたけど、ソロソロ終わりにしたいのは、里緒じゃ
ないのか?
いい男でもできたんだろ。
オレは、里緒の幸せを願ってるよ、オレといつまでも一緒にいるわけには
いかないってちゃんとわかってる。
だから、里緒に好きな人ができたらいつでも、オレはお前から離れるよ」
「やっっっ」
部長の言葉はちゃんとわかってる。
正しいと思う。
でも、こうやって部長本人から言われると、すごく胸が苦しいよ。
「里緒、落ちついて?」
私をのぞき込むように、目を見つめてゆっくりと喋り始めた。
「そんなこと、言わないで」
「別に今すぐさよならとかじゃないよ、里緒に好きな人ができたらって意
味だよ」
わかってる!
ちゃんとわかってるよ。
「……でも、聞きたくない」
涙で視界がにじむ。
嵐の前では、大人なフリだってできるけど、部長の前ではそうもいかない。
私はいつも部長に甘えてたのかもしれない。
子供のように、泣いて泣いて、泣きじゃくった。
それが、初めてみせた涙だった。
部長の前では、かわいい女の子でいたかった。
泣いたりしたくなかった。
いつか、さよならしなきゃいけないことはちゃんとわかってた。
でも、5年だよ。
5年もこうやって、二人の関係を築いてきたのに、こんな簡単に終わるな
んて切ないよ。
自分勝手だけど、私が一人で新しい恋を始めようとしてるから、仕方ない
んだけど。
それでもやっぱり部長と別れるのは淋しい。。
さっきまで、嵐との未来を想像したりしていたけれど、それでもやっぱり
部長がいい。
部長と離れたくないんだ。
悲しいまでに、部長は私の生活の一部になっていて、そんないきなり消え
たりしないよ。
私の心はそんなに簡単に割り切ったりできない。

「里緒……」
部長は優しくずっと頭を撫でてくれた。
私が泣きやむまでずっとずっと、私の名前を呼びながら。
「ごめんなさい、わがまま、、、だよね」
別れたくない。
でも、嵐に惹かれていく気持ちもある。
こんなんじゃダメだよ。
自分でも、嫌になるくらいわかっている。
部長が凄く好きなのに、それなのに気がついたら嵐が心に入って来るの。
どうしようもなく、自然に入って来るんだもん。
考えないようにしようとしても、嵐が勝手に頭の中に浮かんで消えなくな
ってしまうの。
ごめんなさい。
部長を裏切るつもりなんてなかった。
「里緒、たまにはわがままもいいんだよ」


私は優しい部長の腕の中で慰められていた頃、嵐がどんな思いをしている
のかなんて、知りもしなかったんだ。
ただ、ただ、部長とのさよならを確信して、悲しみに打ちひしがれていて、
悲劇のヒロインを装っていた。





2004-2008©白雪姫-hime-