夢の中しか
夢の中しか

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1 プロローグ 2 テイクアウト 3 淋しいから 4 恋に恋して 5好きの定義 6 気付きたくない恋心
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■ 据え膳食わぬは恥?!

 わかっていても、正直つらかった。
はっきりと里緒の口からオレより他の男がいいと言われたのはグサリと心
に刺さったよ。
でも、そんな傷よりも、オレに会わないと言い切った言葉の方がつらかっ
たんだ。
オレと会わなくても、里緒は平気?
オレがいなくても、里緒は平気なんだよね。
だから、簡単にオレを切ろうとするんだ。
そのくせ、たまに喜ばせるようなセリフを言う。
本人は気づいてないんだろうけど、思い切りそのギャップにはまってしま
うんだ。
オレにはまりかけてる。
その言葉で、深くえぐられた傷跡もキレイに癒えるくらいにうれしかった。
里緒が、どれだけオレを避けようとしても、オレは里緒から離れない。
そう決心したのに、したはずなんだけど―――――…。


 今日も会えるかな?
ほんの少しの時間でもオレは里緒に会いたくて、仕事が終わると必ず里緒
に連絡を入れた。
だけど、今日の答えはあまりにも残酷だったよ。
好きな人と会うから、って断られてしまった。
そんなの聞きたくなかった。
里緒の口から、他の男の名前が出るだけでも嫌なんだ。
里緒が他の男に抱かれるかと思うと、もう、それだけでオレはおかしくな
りそうだよ。
里緒は、今、どんな目でその男を見つめているの?
どんな声で、お喋りしてるの?

オレだけを見つめて欲しい。
オレだけに、言葉をつむいで欲しい。

どれだけ願っても叶わないのかな?
里緒の心に、今以上、オレが踏み込むことはできないの?

オレにはまりそうって、言ってたじゃん。
なら、そのままオレを好きになってよ。
そして、その男と別れてよ。
不倫なんて、悲しいだけの恋愛より、オレと楽しい恋をしようよ。
いっぱい、幸せをあげる。
里緒を幸せにするためなら、どんな努力だってするから、オレを見て?
そんな願い、叶わないのかな。
里緒、今君は他の男の腕の中にいるんだね。
オレは、それでも里緒を諦められない。
苦しいよ。
切ないよ。
それでも、会いたい。




 仕事が終わって、フリーな時間。
せっかく里緒と会おうと思って急いで帰宅したけれど、そんな気分も脆く
崩れ去った。
オレ、今までどうやって時間を過ごして来たんだだろう?
一人だと、里緒の事ばかり考えて心が痛くなる。
 誰かを好きになるって、こんなにも苦しいばっかりなのかな。
里緒の恋も、苦しいばっかりなの?
オレ、今ならちゃんと”好き”の意味がわかるよ。
一番に里緒に伝えたいよ。
”誰かを好きになるのは、苦しい”と教えてくれた里緒に、オレの好きを
伝えたい。
 すごく苦しいけど、それでも諦められないくらいに大好きだと。
だから、早くオレの元に来て?

そんな虚しい願いを思ってると、携帯のバイブが揺れる。
液晶を見ると、瞬からだった。

『お前に会いたいって女がいるんだけどさ、どうする?
結構かわいいし、スタイルもいいよ?』
………。
電話の向こうからは賑やかな音楽。
オレの気分とは対照的な雰囲気で、何だか誘われるように、おれはうなず
いてた。

 クラブに到着すると、すぐに瞬を見つけた。
相変わらずプチパニック状態。
クラブのVIPとは名前ばかりのVIPに過ぎない。
どんな女でも入れる。
結局、ケツの軽いバカ女共が、BEENと喋りたくて、近づきたくて寄
ってくる。
瞬や誠ちゃん、ついこの前まではオレもいたんだけど、3人もいりゃそれ
なりの人数は集まるんだ。
だから、適当にそこでつまみ食いなんかしちゃったりする。
でも、最近は里緒以外の女に興味なんてなかった。
抱きたいとも思わなかったし、どちらかとういうとウザイでしかない。
なのに、なぜ今日は来たんだろう?
以前と変わりのない風景。
オレたちに群がる多数の女。
それを愛想と下心で答える俺たち。
簡単な組織図が描ける関係。
 そこに飽き飽きしたはずなのに、ホントの恋に出会えたはずなのに、な
ぜ簡単に瞬の誘いに乗ったんだろう?
自答自問するのに、答えが見つからない。
 簡単に手に入る女なんて、好きになれないのに、なのにまた、クラブに
来てしまった。
「よっ、嵐。やっぱり来た」
ニコニコと笑顔の瞬の隣で、呆れた顔の誠ちゃん。
「お前、好きな女できたんちゃうんか?」
「だから?」
関係ないじゃん、そんなの。
好きな女がいちゃ、クラブ立入禁止なのかよ?
だったら誠ちゃんだって、ちゃんと本命いるくせに、来てんじゃねぇよ。
「好きな女に嫌われたくなかったら、他の女食うなや」
「うるせーよ」
誠ちゃんに捨てぜりふを吐いて早速瞬の隣にいる女を見た。
オレと目が会うと、顔をほころばせて近づこうとしている。
「オレに会いたがってた女って、お前?」
「うん!すっごい会いたかった。
だって、嵐くんかっこいいんだもん」
ニコニコ笑顔の女。
そうだよ、コレが普通の反応だと思っていた。
だけど、里緒はオレのこと知らなかった。
アイドルだから、テレビや雑誌に出てる。
インタビューで、それなにり中身もばれてる。
だから、勘違いした女共はオレの全てを知ってるつもりなんだ。
ホントの事なんて何も知りもしないくせに。
雑誌のインタビューなんて、アイドルらしく答えるに決まってる。
テレビの取材だって、あらかじめ用意されたものを自分の言葉で伝えるだ
け。
ホントのオレなんて、マスコミのどこにも存在しない。
オレがオレらしくある場所は、親友の瞬や誠ちゃん、家族の前くらいだけ
だった。
女抱いてる時ですら、オレは嵐を演じてるんだ。
だけど、里緒の前ではそんなことしなくても良かった。
何も考えずに、素の自分をさらけ出せた。
オレにとって、里緒は居心地のいい場所だったんだ。
例え叶わない恋であっても―――――…。



 キツイ香水の匂いがする、名前も知らない女は、オレの腕に自分の腕を
絡める。
「ね、嵐くんって呼んでいい?」
「好きにすればー?」
別に、嵐と呼び捨てにされようが、何でもいい。
どうでもいい。
「じゃあさ、嵐くん。まだ飲み足りない?」
飲み足りない?
って、オレ、まだ来たばっかで全然飲んでないんすけど?
「何、どっか行きたいの?」
オレの問いかけに、女は妖しい笑顔を向けた。
はいはい。
そうですね、ホテル直行コース!ご指名ありがとうございます。
てか?
確かに瞬の言った通り、顔はかわいいし、ミニスカートからのぞくすらり
とした足。
くびれた腰に、けっこうでかそうな胸。
スタイルも抜群だ。
「読モでもやってるの?」
「まっさかー」
読者モデルって言葉がうれしいのか、笑顔でブンブンと顔を左右にふって
いる女を見て、かわいい仕草もちゃんとできんじゃん。
なんて思ってしまった。
男に媚びるような態度じゃなく、ちゃんとかわいらしい仕草だってできる
なら、計算しないでそのままの自分でいたらいいのに。
オレらみたいに、自分を着飾って、虚像を作らなくていいのに。
なんでこういう女はすぐに、自分を作ろうとするんだろうか?
そのくせ、すぐに素が出てバレてしまう。
どうせ作るならさ、完璧にしろよ。
オレは、いつでもどこでもCRASHの嵐を演じてみせるよ。
その時そのときの相手が望むような芸能人になりきってやるよ?
だからさ、女にソレを求めたりはしない。
  ただ、普通にいるだけで、オレを求めてくれるだけでよかったんだ。
なのに、オレは里緒に自分が素でいられる事の喜びを教えてもらった。
  CRASHの嵐であるオレ以外に存在理由なんてなかったから、その
ままのオレでもいいんだと、うれしかった。
でもやっぱり、ダメなんだな。
オレはオレであるまえに、アイドルとしてじゃなきゃ、誰も求めてくれな
い。
嵐じゃなきゃ、誰もオレなんて求めてくれないんだ。
オレがBEENを辞めたら、数年でみんな忘れてしまうよ。
 わかってる。
オレはアイドルで有り続ける事でしか、存在価値がないんだ。
それならいっそ、開き直ってアイドルとしてのオレを求めてるこんな女で
いいじゃね?
別に里緒じゃなくても、誰でもいいんじゃね?
オレを求めるなら、それでいいんだよ。
前みたいに、相手が求める嵐を演じ続ければいいだけなんだから。


  据え膳食わぬは男の恥。

誰が言ったか知らねーけど、いい言葉だよな。
今、オレの置かれてる状況を考えるとまさにピッタリな言葉。


 誘惑に簡単に負けたオレは、里緒に連絡する勇気を失った。


他の女抱いたこの手で、里緒に触れるのが恐くて。
里緒にバレるのが恐くて。
別に付き合ってるわけじゃない。
なのに、悪いことしたような罪悪感にかられる。
 軽い気持ちでSEXを繰り返していたオレだったのに、このざまだ。
恋って、人間変えるよな。
  名前も知らない、会ったばかりの女を簡単に抱いたオレが、里緒にだけ
は会うのが恐い。
軽い男だと思われるのが恐いんだ。
誰でも簡単に抱いてしまう男だと思われたくない。
はっ。
今さらだよな。
もともと里緒との出会いだって、ナンパみたいなものだし、初対面で即日
Hなわけだった。
でも、だけど……。
好きだと気づいてからは、なるべく手を出さないようにしてきたよ?
オレなりに、里緒に誠意を見せたかったし、何よりもオレの”好き”って
思いを証明したかったんだ。
なのに、また、振り出しに戻ってしまった。
もう、里緒に会えないのかな?
里緒はオレを軽蔑するのかな?
騙そうとも思わない。
隠そうとも思わない。
もしも、里緒に会えるなら、ちゃんと言うよ。
他の女を抱いたって。
でもさ、恐いんだよ。
ダセーけど、ホントに恐いんだ。
里緒にどういう風に思われるかを考えただけで、電話もできない。
だけど、虚しさだけが募ってきて、イライラするし、一人で過ごすには淋
しすぎるくらいに心がスカスカしてる。
それを誤魔化すように、またクラブ通いを復活したオレ。
毎日のように、ルックスだけはいい女を抱いて、その場の欲望を満たして
いるのに、なんでだろ?
ドンドンと理性がむしばまれていくんだ。
ドンドンと、虚しさが増していくんだ。
  オレの心は何処?
ホントのオレは何処に存在しているの?
ホントのオレって、一体何?
テキトーに仕事して、テキトーに女食って、日々それなりに過ごしている
今のオレは、ホントのオレじゃない?
里緒を好きになって、確実にオレの中の何かが変化していく。
 その変化に、心がついていかない。
オレは、何がしたいんだろう?
オレは、どこにたどりつきたいんだろうか?
わからないのに、今日もテキトーに時間をやり過ごす。
 無性に里緒に会いたい。
今すぐにでも、里緒を抱きしめたい。
彼女に触れたい。
彼女を感じたい。
なのに、会うのが恐い。
 他の女を抱いたオレを、どんな目で見るのだろうか?
軽蔑されないだろうか?
そう思う反面、軽蔑される方がまだマシだと思う自分もいるんだ。
里緒にとって、オレが誰を抱こうが、どんな女とくっつこうが、関係ない
のかもしれない。
彼女が言ったオレにはまりそうって、言葉だけが、唯一オレの支えなのに、
それすらも里緒の気まぐれだったのかもしれない。
 彼女にとって、大切なのは不倫相手で、オレなんて興味もない。
そんな現実を突きつけられるのが、ホントは一番恐いんだ。
彼女の心には、オレなんて存在してない?
少しでも、ほんの少しでもいいから、オレを見て欲しいと願って、願って
願い続けているのに、おれの行動は反比例して、里緒から逃げ回っている。
ねぇ、できるなら、オレを軽蔑して、オレを止めて。
こんな暴走してるオレを、止めて。
そして、オレを受けとめて―――――?
  





2004-2008©白雪姫-hime-